宝塚月組公演『今夜、ロマンス劇場で』感想
お正月早々に、幸運にも宝塚月組公演『今夜、ロマンス劇場で』を観劇することができた。お正月にふさわしいハッピーで素敵な公演だったので感想を書いてみたい。
『今夜、ロマンス劇場で』は、映画原作の舞台化作品で、映画監督を目指す青年健司と、モノクロ映画作品から飛び出してきた王女美雪とのロマンスを描いている。観劇の予習に原作映画も視聴したが、王道ロマンス、コミカルなシーン、舞踏会など宝塚にぴったりの要素が目白押しで、この作品を宝塚で舞台化したいという小柳先生の想いに共感できた。ここ最近の宝塚の原作ものは『シティーハンター』、『柳生忍法帖』と、宝塚歌劇に一見するとそぐわなそうな挑戦的な作品が続いていた。マンネリズムからの脱却という意味で挑戦もまた大事ではあるが、本作を観るとベタで夢々しい世界がやはり宝塚の魅力だなと再確認した。
一方の公演を演じる側の月組側は、新トップコンビ、月城かなと&海乃美月の大劇場お披露目公演。トップスター月城かなとは実直な青年助監督と舞踏会の王子様の両方を見事に演じ、近年のトップ娘役としては上級生でトップとなった海乃美月は、映画の世界から飛び出した大人の女性でありながら世間知らずのやんちゃな王女にぴったりだ。脇を固めるメンバーも、番手スターの鳳月 杏、暁 千星、風間 柚乃、それぞれが全く異なる魅力を放ち、雪組から組替えしたばかりの彩 みちるが芝居に彩を与えている。月組らしく芝居で魅せる作品に仕上がっている。
宝塚版の『今夜、ロマンス劇場で』という作品が原作映画版と比べて優れていると思ったポイントがいくつかある。そのひとつが原作の設定をよりうまく活かせていること。『今夜、ロマンス劇場で』ではモノクロ映画のスクリーンから飛び出してきた王女との恋が物語の核である。映画版では、スクリーンから飛び出してきた王女をスクリーン上で観ることになるのに対して、舞台版では生身の人間を舞台上に観ることができる。物語の核心に関わる部分であるだけにこの違いは結構大きい。また宝塚版では、スクリーン映像を効果的に使う演出がいくつかあり見所の1つとなっている。特に、スクリーンの中の舞踏会の場面から舞台上の舞踏会にシームレスに移行する場面は、本当にスクリーンから飛び出してきたようで魔法のような素敵な演出だ。
もう一つ、宝塚版で追加された要素で、ヒロインが抜け出したあとの映画の世界についても描かれているのもよかった。映画版ではこの点にほとんど説明がなくちょっと気になっていた。また大蛇丸という悪役が、ヒロインの重大な秘密を主人公に告げる役割を担っている。この物語展開の変更は賛否あるかもしれないが、個人的には宝塚版の方が自然だと思う。全体通して、原作ものにありがちな変更点や追加要素が蛇足でしかないという落とし穴に陥っていない点はとても良い。
上記ツイートのように映画版の原作のときから、月をモチーフとしたポスターもあり、「月」城 かなとと海乃 美「月」が率いる新生「月」組の大劇場お披露目公演に相応しい公演と言える。原作を見つけて脚本した小柳先生に拍手を送りたい。
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