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チャイ屋でチャイを飲まない人【カルカッタ#4】

チャイ屋と言っても、やかん一つを持って売り歩くチャイ屋もいれば、小屋みたいなチャイ屋もあれば、ちゃんと店舗を構えたチャイ屋もある。写真のチャイ屋はカルカッタのいつも賑わっていた店。
壁は煤だらけ、神様の絵やカレンダーが貼られ、天井で埃をかぶった扇風機がキコキコ回っていた。どれだけたくさんの人達がここでチャイを飲んできたんだろう、長い長い時間を感じさせる店。

ある時ここでチャイを飲んでボーッとしていると、あるおじいさんが隣のテーブルに座って、何か注文した。店員が運んできたのはステンレスのコップに入ったただの水。おじいさんはおもむろに弁当を取り出し、蓋を開ける。
入っているのはただの白ごはん。彼は、コップの水をご飯にかけ、ワシワシと混ぜてうまそうに手で食べ始めた。
ご飯に水?しかもここは喫茶店なのに、持参したごはんと無料の水をもらって堂々と食べるおじいさん、店の人に注意されないかと、勝手に気を揉む。
しかし誰も気にしなかった。店のだれにとっても日常の光景のようだ。
自分が当たり前だと思っていることが崩れる面白さを、インドで何度となく味わうことになっていくのだった。

それにしてもおじいさん、美味しそうに食べるよなあ。
日本でも昔冷たい水をかけて食べる水飯って聞いたことがあるような。
今度私もやってみようかな、と思うくらいだ。
おじいさんは水をもう一杯頼んで、ぐびっと飲み干して、店員とお互いに見つめ合い首をクネクネふりあって颯爽と去っていった。

この首をクネクネを揺らすインド人の仕草は、YESの意味で。
私の読み解きでは、こんなニュアンス。
「OK」「了解」「どういたしまして」「お安い御用だ」「任せておけ」「あったりめえよ」「いいってことよ」「もちろんだ」「わかってる」

インドは広く多様な文化を持つ州が集まって成り立っていて、州の公用語だけでも18言語ある。初めは日本のように各地特有の訛りはあっても意味はわかるという程度かと思っていたが、インドでは州が変われば違う国というくらい言葉が違うらしい。違う州の人とはインド人同士も英語で会話しているのをよく見かけた。

私は片言の英語しか話せないけど、インドで言葉で困ったことはあまりない。
それは、彼らが自分と違う文化を持つ人とのコミュニケーションの達人だからではないかと思う。
野菜を買うのでも、リクシャーに乗るのでも常に人ととっくり話さなければ始まらない。初めは気を使ったり遠慮したりする癖が抜けなかったが、それじゃあ太刀打ちできないことが分かり始め、自分が伝えたいことを素直にシンプルに伝えるといスパルタ特訓を受けていくうちに、新しい自分を発見していくのだった。

まっすぐ単刀直入でシンプル、「自分とは違う者」を違うままに受け取る懐の深さ。しっかり耳を澄まして聞く。諦めずに伝える。

そこに強力な目の光も加わって、首のクネクネは魅力を増す。
私もOKという時、この首のクネクネを真似てみるのだが似て非なる動き。
鏡の前で練習している自分は不二屋のペコちゃん人形みたいで笑った。

#インド #旅#随筆#多様性



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