英語4つの基本文法構造(その3)・・・連鎖構造Catenary Construct
はじめに
「その先の英文法:英語の4つの基本的文法構造」シリーズ(その3)です。本シリーズでは等位構造Coordinate Construct、内心構造Endocentric Construct、外心構造Exocentric Construct、連鎖構造 Catenary Constructの4つの文法構造 grammatical constructs(or constructions)を取り上げています。(その1)では、それぞれの定義を述べ、等位構造Coordinate Constructに触れました。(その2)では、内心構造Endocentric Constructと外心構造Exocentric Constructに焦点を当てました。今回(その3)では、最後の4つ目の連鎖構造Catenary Constructを取り上げます。(その1)で述べた通り、これら4つのgrammatical constructsは、筆者の恩師R. Ross Macdonald先生によるEnglish Syntax and Morphologyでの筆者の授業ノートを基に再現したものです。Macdonald先生については「アメリカ留学を振り返って---Memorable Teachers」シリーズ(その1)〜(その10)のGeorgetown Universityの言語学博士課程で出会ったmemorable teachersのお一人として紹介しています。尚、これらの記事はTOEFL Web Magazine(現在休刊中)のTOEFL iBTテスト,GRE, GMAT, LSAT, MCATなどの準備をしている読者に向けて書いたものです。
Catenary Constructの定義、おさらい
連鎖構造Catenary Construct(以降英語表記)の定義は以下の通りです。
Catenary Constructは、同じクラスの項目が鎖のように繋がり、その際に前の項目が次に来る項目の形態を規制する。出来上がった項目はこれらの項目と同じfunction classを有す。
自制、相、完了、態を表す動詞句の構造に見られる。例えば、”will have been finishing it.”における下線部のそれぞれの項目は動詞であり、前の項目が次の項目の形態を限定しながら鎖状に繋がり、出来上がった構造はverbal functionを有す。
手っ取り早く言えば、いわゆる、時制(tense)、法(mood)、相(aspect)と称される部分です。時制(tense)には、現在時制(present tense)、未来時制(future tense)、過去時制(past tense)があり、法(mood)には直説法(indicative mood)、命令法(imperative mood)、仮定法(subjunctive mood)があります。相(aspect)には完了相(perfective aspect)と進行相(progressive aspect)があり、態には能動態(active voice)と受動態(passive voice)があります。
いずれも中学英語で勉強する馴染みの項目
これら、時制(tense)、法(mood)、相(aspect)、態(voice)は統語上の(syntactic)概念であり、意味上の(semantic)概念ではありません。例えば、統語概念の時制(tense)に対する意味概念としては時(time)があり、統語概念の法(mood)に対する意味概念としては法性(modality)があります。
法(mood)と法性(modality)は同一ではありません。英語の現在時制(present tense)は現在時間(present time)を指示しますが、必ずしもそうと限りません。”She arrives here tomorrow.”という文の動詞は現在時制形ですが、未来(future)の行為を指します。また、”I get up at 7 a.m. everyday.”という文は、過去、現在、そして未来に続く習慣を表します。
さらに厄介なことには、英語文化圏では過去、現在、未来の時間概念はありますが、英語には現在時制形と過去時制形はあるものの、同じインドヨーロッパ語族のフランス語のような未来時制形(Elle arrivera ici domain.= She arrives here tomorrow.)はありません。よって、上例のように現在時制形を使うか、法助動詞の”will”と”shall”(She will arrive here tomorrow.)を使うか、その迂言(peripheral)表現である”be going to”や”be about to”や”be to”(She is going to arrive here tomorrow.)を使って表現せざるを得ません。(*1)これら法助動詞will、shallも現在時制形で、未来時制形ではありません。即ち、英語には未来時制を指す屈折語尾(inflectional suffix)が無いのです。
このように、Catenary Constructは、統語論的に言うと、時制(tense)、法(mood)、相(aspect)、態(voice)を扱う部分で、これらが動詞に鎖連して述部を形成します。文はこの構造無くして成立しません。(*2)全ての文で、現在時制か、過去時制か、直説法か、命令法か、仮定法か、進行形か、完了形か、能動態か、受動態のいずれかが選択されます。但し、これらの項目のどれが、どの程度、どのように具現化されるかは言語によって異なります。英語はインドヨーロッパ語族に属する言語ですから、古代英語(Old English)には複雑な語形変化(declension)、活用(conjugation)がありました。しかし、中世から近世にかけて大きく変化し、そうでなければフランス語やドイツ語に匹敵するくらい複雑であったものが、現代英語ではかなり簡素化されてしまいました。(*3)
現代英語のCatenary Constructには、tense、mood、aspect、voiceの項目がある
語形変化では、三人称単数用の現在時制の屈折語尾(inflectional suffix)の-s(He leaves.)、規則動詞の過去形や過去分詞形を示す屈折語尾-ed(move-moved -moved)、不規則動詞の過去形や過去分詞形(take-took–taken)、進行形を示す屈折語尾の-ing(walk-walking)等々があり、フランス語やドイツ語と比べるとかなり簡素です。それに、法(mood)を示す”will” “shall” “may” “must” “can” “should” ,”ought” “need”などの法助動詞と、完了相の場合はhave/had+動詞の過去分詞形、進行相の場合はbe動詞+動詞の進行形、受動態の場合はbe動詞+過去分詞形を組み合わせるといったルールが組み込まれています。これら全4項目を含む文“He might have been being recruited by that company.”を分析すると、tense = past tense、mood = may、aspect = perfect aspect(have been)and progressive aspect(been being)、voice = passive voice(been being recruited)になります。
英語のCatenary Constructは簡素、文法理論の多くが受け流す
例えば、アメリカ構造主義文法(structural grammar)を代表するW. N. Francis著The Structure of American English(1958)での”He asked John to come at ten and Bill to come at noon.”と”The house was painted white and the barn(was painted)red.”という2文の分析図をみると、斜線部の当該構造は一括りで処理されています。
(N. Francis’s The Structure of American English 1958)
続く変形文法(transformational grammar)(*4)でも同じです。Macdonald先生が授業でこの構造を取り上げた1973年当時の言語学界では変形文法(transformational-grammar)が席巻し、創始者Chomsky著のAspects of the Theory of Syntax(1965, MIT以後Aspects)は言語学専攻の必読書でした。その著作においてもこの部分の扱いは非常に簡素です。伝説的な例文、“Sincerity may frighten the boy.”の分析tree(*5)を見るとAux → M → mayとなっています。ChomskyはCatenary Constructではなく、Aux(iliary)(*6)という用語を使用しています。
Aspectのpp.106-107に基本ルールがあり、「Aux → Tense(M)(Aspect)」と記されています。言語学では()内の項目はoptionalという意味です。1974年に筆者が履修した変形文法(Transformational Grammar)の授業では、「AUX → c +(M) + (have + en) + (be+ ing)」が使われました。これは、Chomskyの元のルールを、c=時制tense、have + en=完了相、be+ing=進行相で置き換えたもので、いわゆる深層構造ルール(deep structure rule)と称される一つです。ここに態(voice)を示すbe + enが無いのは、深層構造を表層構造(surface structure)にする変形ルールで扱われるからです。この深層構造ルールによると上記の例文のAuxは、tense(ここではPresent)とoptional M(ここではmay)だけということになり、至極簡単です。(*7)その後1981年に出版されたChomskyの著書Lecture on Government and Binding(Foris Publications)では、以下のtree図を見ると、もはやこの部分は見当たりません。
変形文法だけではありません。本コラムで何度も紹介した英語学の名著R. QuirkらのA Comprehensive Grammar of the English Languageでは、膨大なcorpusから取り出した豊富なデータを基に、時制、法助動詞、相に関する詳細な説明はあるものの、以下のtree図を見ると、Auxiliaryの部分は変形文法の表層構造ルールをなぞらえる程度のものでしかありません。
R. Z. Zandvort著A Handbook of English Grammarもほぼ同じです。結局、どの分析を見てもCatenary Constructは通り一遍の記述があるのみで、Aspectsの深層構造ルールAux(iliary)→tense(M)aspectに集約されます。特に(M)が気になります。この(M)は、mayとかwillとかshallなどの法助動詞(modals)の頭文字を指すものなのでしょうか?全ての文に法助動詞(modal)が有る訳ではないから括弧付き(M)としたのでしょうか?それなら(M)に含まれるのは法助動詞(modals)のみということになります。あるいは、上記で述べた直説法(indicative)とか仮定法(subjunctive)とか命令法(imperative)などの法(mood)も含まれるのでしょうか?そうであるとしたら、括弧を取りMとすべきで、括弧付き(M)のままでは、英語の法(mood)がoptionalになってしまいます。
古英語Old Englishではとても重要な必須項目
英語の歴史をOld Englishに遡ると、筆者がGeorgetownで履修したOld Englishの使用テキストThe Elements of Old English(1955, G Moore and T. Knott, Wahr)や、ネット上にあるOld English/Verbなどのサイトを見れば分かるように、indicative、subjunctive、imperativeの3つの法(mood)は、非常にpriorityが高い必須(mandatory)項目でした。
現代英語でも法(mood)など簡素化されながらも残っている
フランス語の動詞の活用は先ず法(mood)を問います。英語のbe動詞に当たるêtreはindicativeかsubjunctiveで全く形態が違います。現代英語では古代英語にあった法(mood)が消えたか、optionalになってしまったのでしょうか?もちろん違います。命令法は“Do it!”などの命令形に使われていますし、仮定法も“If I had a lot of money, I would spend it on something meaningful.”とか、“The mayor requested the fire department that the wildfire be extinguished in a day or two.”などの文が示すように頻繁に使われています。古代・中世英語の法(mood)が、簡素化されながらも近世英語や現代英語に残っている証拠です。上述した通り、法(mood)の意味するところを法性(modality)と言います。法性(modality)とは言説に表される話者の姿勢・態度のことです。
以前紹介したG. Leech著のMeaning and the English Verbの7章”Theoretical and Hypothetical Meaning”によれば、直説法(indicative mood)の言説は、話者が真実と確信している(factual)ことを想定します。”I saw him yesterday.”という直説法過去形の文では、話者”I”は彼を見たことがfactであると信じて言っているわけです。それに対して、仮定法(subjunctive mood)は、仮定法現在形(subjunctive present)が理論的に可能である(theoretical)ことを想定し、仮定法過去形(および過去完了)は仮説的に可能である(hypothetical)ことを想定します。前者は、真実かどうかは中立的(neutral)で、後者は真実とは真逆(counterfactual)です。従って、”If Johnny come, will you tell him …?”では、Johnnyが実際来るかどうかは分かりません。しかし、”If Johnny came, would you tell him ..?”では、実際にJohnnyが来ることはまず無いという想定があります。(*8)確かに、アメリカ英語において仮定法現在形は古めかしく聞こえ、今では”If Johnny comes, will you tell him …”のように直説法現在形が代用されますが、仮定法過去形(*9)・過去完了形は現在でもよく使われます。
Leechの研究は現代英語における法(mood)の重要性を動詞との関係で述べています。筆者は、今から40年前に「生成意味論による仮定法の一分析―英語の場合」(*10)と題し、現代英語における法(mood)の重要性を説き、Aux(iliary)に、tenseと同じく必須(mandatory)項目として、moodを入れるべきだと主張したことがあります。“I wish I had a lot of money now.”のhadが直説法過去形であったら、話者が実際には今現在お金を持っていないという意味にはなりませんし、副詞nowと矛盾し、非文になってしまいます。
よって、変形文法におけるAux(iliary)の(M)の括弧は不要で、M = moodとしてindicativeかsubjunctiveのどちらかを選択させるようルールを書き直すべきだと感じたのです。括弧付きの(M)としたのは、このスポットに法助動詞(modals)、will、shall、can、may、must、would、should、mightなどが、(*11)いつもではないが時々入る、即ち、optionalであるからでしょう。筆者は、前述の変形文法の授業でそのようなことを質問したことがありますが、答えは非常に曖昧なものでした。(*12)
Catenary Constructの諸項目それぞれが意味するところは非常に深淵です。関心ある読者には上記Leechの著書を薦めます。上述した法(mood)だけではなく、時制(tense)もいく通りかの意味があることを豊富なデータ集からの例文を基に詳しく解き明かしています。是非読んでみてください。例えば、現在時制(present tense)については、スポーツ実況での“Napir passes to Attwar, who heads it into the goal!”(Leech 1971, p 2)のような現在時制形の瞬間的用法(instantaneous use)があります。他にも習慣を示すhabitual use(He walks to work.)、未来の出来事を示すfuture use(He starts work next week.)、過去の出来事をリアルに再現するpast use(John tells me you’re getting a new car.)などがあります。本コラム第143回では1967年の名曲“What a Wonderful World”の筆者なりの歌詞の分析をしました。この歌詞にある現在時制形の動詞や現在進行相の動詞がもたらすニュアンスについて触れました。
その他、過去時制(past tense)や、aspectsの進行相(progressive aspects)、完了相(perfect aspect)、態(voice)も、それに匹敵する複雑な意味が隠されています。ここでは割愛します。Leechの著書に目を通してみてください。
特に統語論的概念のmood(法)は意味論的概念のmodality (法性)に連動し非常に重要な項目
筆者は、言語学(英語学)に専攻を変える前に英文学を専攻し文学に関心があったことから、様々なスタイルの言説に秘められる発信者側(作者・話者)そして受信者側(読み手・聞き手)の社会心理的姿勢・態度(socio-psychological attitude)、言い換えれば、言説に隠された意図に関心を持ち、英語と日本語の法(mood)に注意を払ってきました。両言語の法(mood)には共通点がある一方で根本的な違いがあります。先ず、膠着語である日本語は、法(mood)も含め、Catenary Constructの諸項目はみな屈折語尾(inflectional suffixes)として本動詞に付けます。(*13)その点では英語で過去形や過去分詞形の場合の-edや進行形の場合の-ingを屈折語尾として動詞につけるのと同じですが、英語では完了相においては助動詞have(He has eaten it.)を使うのに対し、日本語では屈折語尾-tesimattaを本動詞に付けます(Karewa tabetesimatta)。また、英語では進行相や態に助動詞beの助けを仰ぎますが(He is running./He is sent to a different brunch.)、日本語では屈折語尾-teiruまたは-areruを本動詞に付けます(Karewa hasitteiru/ Karewa sitenni okurareru.)。更に、英語のCatenary Constructの法(mood)のスロットに入るwill/shall、can、may、mustなどの法助動詞(modals)も、日本語では屈折語尾として本動詞に付けることになります(This will/ can/ may/ must be it!(*14) → Kore dearou/ dearuhazuda/ dearukamosirenai/ dearunichigainai.)。(*15)
この違いは、日本語の母語話者の英語学習、英語母語話者の日本語学習にとって高いハードルになります。また、英文和訳・通訳、和文英訳・通訳でも悩ましい部分です。上述の例文”He might have been being recruited by that company.”を日本語に訳してみてください。英語では日常会話で遭遇する表現ですが、日本語に訳すとなると、might have been beingの4語に該当する屈折語尾を、英語から借入した動詞recruutosuru(=recruit)に順序よく装着しなければなりません。ここで、英語法助動詞(modals)の複雑さが立ちはだかります。それぞれ、推量(epistemic)と非推量(non-epeistemic)(*16)という2つの用法を有します。例えば、mayの推量はpossibility(可能性〜かもしれない:He may be right.=It is possible that he is right.)で、非推量は(許可~してよい:You may come in. = You are allowed to come in.)です。(*17)日本語では、英語の法助動詞の推量に当たる屈折語尾(上例の~かもしれない、-kamosirenai)と非推量に当たる屈折語尾(上例の~してよい、-teyoi)は全く別の語尾です。厄介なことには、これら法助動詞は意味的にどちらか分からない曖昧な部分が多く一筋縄では行きません。(*18)これらを念頭に入れながら訳すと、Karewa ano kaishani rekuruutosaretsutsuattanokamosirenai.みたいな本動詞に複数の屈折語尾が付いた文になります。英語では語であるものを日本語では屈折語尾にするのでこのように長くなる訳です。(*19)
各言語の法(mood)と法性(modality)は共通の部分を残しつつ特有
こうしてみると、各言語の法(mood)と法性(modality)は、それぞれの歴史の中で培われ、他言語と共通の部分はあるものの、根本的に特有なものであることが見て取れます。英語の法(mood)は、Leechの述べていることを総合すると、言説がfact(事実)か、factとまでは言えない理論(theory)か、factには程遠い単なる仮定(hypothesis)かを問うていますが、アメリカ大陸の先住民族の言語の法(mood)は、実際に体験したのか、見ただけ聞いただけ(hearsay)なのかを厳しく問うようです。また、両文化は時間に関する概念が全く違うのです。Hopi語には西欧社会の過去、現在、未来と流れる時間の概念はないので、彼らの言語には西欧語の現在時制、未来時制、過去時制は存在しないのです。
関心がある読者はインターネットでLanguage Relativity, Sapir-Wharf Hypothesisで検索してみてください。19世紀から20世紀初頭にかけてアメリカ大陸の先住民とアメリカ合衆国政府の間で様々な条約が交わされましたが、先住民が英語で書かれた条約文書中の法(mood)や時制(tense)を十分に理解して調印したのか気になるところです。これは世界中の国々で交わされる条約にも当てはまります。筆者自身は「日米の政治言説と誤解のメカニズム」(*20)と題する論文で、1990年の宮沢―ブッシュ会談での言説から生じた誤解が、両者の間で交わされた日英両語の声明文における法(mood)とそれが意味する法性(modality)の違いによる齟齬と捉えて論じました。
Catenary Constructはclosed classに属し数は限定的で頻度数は高い
Catenary Constructを構成する項目は、open classとclosed classの区分けで言うと、closed class(*21)に属し、従って、前置詞などの他のclosedクラスの項目と同様に数は限定されます。しかし、いかなる文もCatenary Construct無しでは機能しないので、その構成項目の使用頻度は高くなる訳です。Coordinate Construct、Endocentric Construct、Exocentric Constructで使用されるclosed classの接続詞、前置詞、関係代名詞などもそれなりに使用頻度は高いと言えますが、すべての文に出てくるわけではありません。もっとも、これら4つのConstructs自体closedですが、概して、closed classの項目は、母語習得の過程において使いながら無意識に習得され、手続きメモリー(procedural memory)に蓄えられます。即ち、closed classに属する文法機能が高い項目は、これらの統語構造と共に無意識に習得されることになります。Catenary Constructの構成項目は全てclosed classであり、母語習得の過程で無意識に習得されてprocedural memoryに蓄えられます。
それに対して、他の3構造のスロットを埋める語句の大部分が名詞、形容詞、動詞、副詞に属するopen classの内容語(content words)で占められます。Open classの語句は、意識的な学習を通して習得され、宣言的記憶(declarative memory)に蓄えられます。英語話者が日常使う語数は20,000語と言われていますが、それらの大部分はopen classの内容語(content words)で、Coordinate Construct、Endo-centric Construct、Exocentric Constructに使われます。Catenary Constructには使われません。
このように、Catenary Constructは、closed classの項目で成る構造で、何度も繰り返えされながら無意識に習得されます。意識的に学習し、宣言記憶に蓄えられる項目と違い、自ずと学習し自ずと使い、意識に上ったこともない項目を改めて説明するのは至難の技です。人工知能の草分け的存在Marvin Minskyはその著The Society of Mindで、(*22)私たちが日常無意識に繰り返す常識的な行為を説明し、AI化する難しさを語っています。裏を返せば、研究しがい有りということです。Catenary Constructもそうです。
2020年によく聞く「密接、密着、密集の3密にならないよう気をつけている」という文です。恐らく、内容語である、「密接」、「密着」、「密集」、は説明できますが、「~ている」の「て」を説明してくれと言われると、「そんな説明を求められるのは初めて」という人が多いと思います。Catenary Constructに属する項目を説明するのは簡単ではないのです。以前の回で取り上げましたが、筆者が留学中に日本語を教えていた時に、Nikuwo katteiru、 Nikuwo katteiru、Nikuwo kattesimatta、Nikuwo kattetaberuなどの屈折語尾の-teの説明を求められたことがあります。初習クラスでしたから英語で説明しなければなりません。英語で説明しようすると、屈折語尾の-ing(*23)や-ed、そして、接続詞andの意味の迷路に迷い込み、日英両語を正確に翻訳することなどできないのでは?との疑問に襲われました。Sapir-Wharf Hypothesisを地で行く体験です。(*24)
卑近な例からCatenary Constructを確認
筆者が毎朝インターネットでチェックするABC News-Breaking News, Latest News, Headlines, and Videosからです。文中のmood(法)/法性(modality)に当たる部分に架線を引いてみてください。
Lincoln Center announced the lineup for its summer Mostly Mozart Festival, featur ing a timely opera, “Blue,” on March 12. Within hours, the organization made another announcement: it would be closing its door at least until the end of March, due to coronavirus. The end of March stretched on to April, May, June, and it soon became obvious that Mostly Mozart — an annual festival in the spirit of Mozart, albeit featuring less of his works over the years — would not be happening as scheduled in July. “I‘m thinking of the audiences who are missing out on an opportunity of an opera that is extraordinarily relevant for our times,” Tazewell Thompson told ABC News about his feelings at the time. Thompson wrote the libretto (script) for “Blue,” which premiered in 2019, and was composed by Jeanine Tesori, a white woman. It tells the story of the teenage son of a Black police officer who is killed by police at a protest.(“With Theatre- doors Closed for Coronavirus, Diversity of Opera Finds New Paths” By Alexandra Svokos. August ABC News.より一部抜粋)
正解はannounced, made, would be closing, became, furthering, would not be happening, 'm not be thinking, are missing, is extraordinarily relevant, told, wrote, premiered, was composed of, tells, is killedです。すなわち文の述部動詞句です。 この構造無しに文が成立しないのがお分かりでしょう。(*25)
アメリカのトップ・ジャーナリストは特に(法)moodとその意味する法性(modality)にこだわっているのがお分かりになるでしょう。十分なデータを基に実証できる事実なのか、データあるものの事実としては確証できない理論的可能性なのか、データは不十分で単なる仮説・仮定の域を出ないのか、明言しなければなりません。(2020年9月10日記)
(*1)それぞれ意味の違いがあります。
(*2)”A pair of shoes now!” “Not to me!” “Too expensive!”のように、述部が無いと思える文があります。これらは、例えば、“I need a pair of shoes now!” “Don’t you do that to me!” “That’s too expensive!“の省略形です。
(*3)英語がa global mega languageになった要因の一つはCatenary Constructの簡素化にあると考えます。
(*4)変形生成文法(transformational generative grammar)とも言われます。
(*5)変形文法では、treeと称する文構造の図式で解析します。
(*6)Auxiliaryまたはauxiliary verbs(助動詞)は、疑問形や否定形で使われるdo、進行形、能動態に使われるbe動詞、完了形で使われるhave、あるいは、法助動詞を総称する文法用語です。
(*7)少々専門的になるので割愛しましたが、Aux → tense(M)aspectは深層構造ルールですから、実際の文ではこの順ではありません。表層構造ルールで変えられます。注14を参照してください。関心ある読者は、R. A. Jacobs and P.S. Rosenbaum著English Transformational Grammar(1968. Xerox)やA. AkmajanとF. Heny著The Principles of Transformational Syntax(1975)を参照してください。後者は絶版になっているかもしれませんが、多くの大学図書館に所蔵されている筈です。
(*8)高橋真梨子氏のヒット曲「ジョニィへの伝言」の歌詞で、「ジョニィが来たなら伝えてよ、2時間待ってたとわりに元気よく、、、」という仮定法過去形の文言があります。この部分を「ジョニィが来るなら伝えてよ、、、」と仮定法現在形にしてしまうと、「実際には来ないだろうが」という意味が無くなり、この歌の切なさが伝わりません。
(*9)特にbe-動詞の仮定法過去形は、informalな会話では直説法で代用されることもあります。”If it were…”も”If it was…”但し、少なくともformal英語(筆者の知る限り論文)では仮定法過去形が使われると思います。音楽の好きな読者はBreadの”If“を聞いてみてください。法(mood)が重要な役割を果たしていることを示す良例です
(*10)慶應義塾大学言語文化研究所紀要 第13号 1981年12月号 pp. 207-226.
(*11)勿論、助動詞として否定形(I don’t..)や疑問形(Do you..?)に使われる”do”もこの範疇に入ります。
(*12)以来、法助動詞に関心を持ち、Ph.D.論文(1978)では、A Generative Semantic Analysis of the English Modalsと題し、英語法助動詞を分析しました。2002年の、The Semantics of the English Modalsと題する拙著では、デジタル時代における英語法助動詞の意味論を扱いました。
(*13)日本語の活用(未然形、連用形、終止形、連体形、命令形)もその一部です。「国語の文法」などのサイトを見て比べてください。
(*14)故Michael JacksonのLondon Live用ポスターには”This Is It!”と大きく書かれていました。日本語では、「これだ!」です。ファンお待ちかねのLiveは「これだ!」という意味でしょう。
(*15)上記で掲げたChomskyらの変形文法の深層構造ルールAux→tense(M)aspectは深層構造上の順であって、表層構造に変える表層構造ルールで、tenseの三単現の-sとか過去形や過去分詞形の-ed、進行形の-ingは、日本語と同じように本動詞に屈折語尾として付けられます。しかし、英語の助動詞(法助動詞、完了形用のhave、進行形や受動態用のbeなど)は自立語ですから、日本語に訳すにはそれに該当する屈折語尾に直して本動詞に付けなければなりません。
(*16)伝統文法(traditional grammar)では、”non-epistemic”に代わり”root”または”deontic”という用語を使っています。
(*17)英語の法助動詞をそれぞれの推量(epistemic)の用法のみに限定する英文法学者がいます。筆者は英語法助動詞の分類、定義について、”Modality: Traditional Modals”(In A User’s Grammar of English:R. Dirven ed.1989 Peter Lang,. pp. 276-353)と称する章で書きました。英語圏の英語学専攻の大学生用に書いたものです。
(*18)筆者は、英語と日本語の法助動詞の比較対照し、”Can, May, Must in American English and their Japanese Counterparts”Problems in the Modality of Natural Language(P. Kaliotek, ed. 1991. Opolepp.115-136)と題する論文を書きました。
(*19)文法的には正しくても母語話者のacceptanceが低い表現のことを、syntactically correct, but not well-formed(=awkward)と言います。この日本語の訳はawkwardに近いです。
(*20)『現代日本のコミュニケーション環境2』(1999年、鈴木佑治、田中茂範ほか、大修館書店)の第4章です。
(*21)”Ling 131:Language and Style”より。
(*22)留学を考えている人には専攻に関わらず必須です。分かり易く書いてありますので、原書で読みましょう。
(*23)筆者がジャズ・ボーカルのレッスンで習った曲に1938年にリリースされた”I’ll Be Seeing You.”という曲があります。未来進行形が使われています。日本語には訳しようがないのか、邦題は「アイル・ビーシーイングユー」となっています。よく使われる表現で、単に”I’ll see you soon.”とは違い、「近い将来、きっと」というようなニュアンスがありますが、それだけでは片付けられないセンチメントがあります。2004年リリースの映画The Notebookでこの曲が流れますが、映画のシーンとピッタリです。
(*24)筆者は、Georgetown大学で1970年代中頃に行なわれた、E. G. Seidenstickerによる川端康成の『雪国』(Snow Country)の英訳についての講演を聞いたことがあります。英訳に相当苦労したと述べていました。
(*25)将来留学を考えている読者は毎日チェックするようお勧めします。他にもCBS News Breaking News、NBC News、PBS News Hourがあります。アメリカ社会の最新情報をキャッチでき、留学前の準備として役立ちます。通勤、通学中のバスや電車の中で視聴してみましょう。無料です。
サポートいただけるととても嬉しいです。幼稚園児から社会人まで英語が好きになるよう相談を受けています。いただいたサポートはその為に使わせていただきます。