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大学改革に向けて:アメリカの大学のセメスター制と日本の大学のセメスター制の根本的な違い(1)

表紙写真The Center of Berkeley (Wikipedia)より


はじめに


本稿は2017年6月に執筆し2017年7月に掲載された記事を(1)(2)の2回に分けてお届けします。2017年6月時点の情報に基づき執筆しましたが、2014年9月現在大筋変わりません。

最近、日本人の海外留学が極端に減少しています。日本の将来にとって深刻な状況です。拙稿「アメリカ理系Ph.D.取得者、日本人は大激減、中国人、インド人、韓国人、台湾人は大激増 ・・・Survey Earned Doctrates調査」をご覧ください。また海外からの留学生の数も他の先進国と比べるとそれほど多くはありません。その理由の一つとして4月入学が挙げられますが、最近比較的増えてきたとは言え、日本独自のセメスター制が世界トップ大学の座を独占するアメリカの諸大学のセメスター制とあまりにも違うことも一因としてあるものと考えます。日米の大学で学び、教鞭を執った経験から率直に申し上げると、アメリカの大学の効率が良いセメスター制とは似て非なる日本のセメスター制は至急考えるべき事案であると思います。

以下、2017年掲載時そのままお届けします。



アメリカの大学のセメスター制

アメリカの大学は、セメスター制かクオーター制のどちらかを採用しています。セメスター制は学年を2つに、クオーター制は4つに分けます。(*1)セメスター(semester)は6か月を意味するラテン語に由来し、クオーター(quarter)は4分の1を表すラテン語に由来します。実質の長さは、6か月(セメスター)または3か月(クオーター)ではなく大学により多少異なります。(*2)おおむね8割の大学がセメスター制を、2割がクオーター制を採用しています。

日本でもセメスター制を導入する大学が増えてきましたが、アメリカのセメスター制とはフォーマット上で大きな違いがあります。学生として、また教員として日米のセメスター制を体験した筆者の正直な印象は「似て非なるもの」です。留学前に是非とも知っておくべき情報の一つでしょう。知らずに留学するとかなり戸惑うことになるでしょう。

日本のセメスター制

日本の大学は長く通年制を採用してきました。学年度開始時(4月初頭)に登録した授業の履修は学年度終了まで続きます。前期と後期がありますが、1学年続く授業の前半と後半という意味です。前半に中間試験(またはレポート)、後半に年度末試験(またはレポート)で最終成績を出します。

筆者が学んだ1960年代の慶應義塾大学文学部では、講義科目は通年4単位、外国語などの演習科目は通年2単位で、1学年に履修できる卒業単位数の上限は決まっていましたが、1年次と2年次にその上限ギリギリの10科目以上の授業を履修していたと記憶しています。通年制で各授業は90分で週1回、休日や休講で授業がつぶれ、2週間ないしそれ以上も空くことがありました。

それに夏季と冬季の2回の長期休暇が入り、10科目以上も履修していたにもかかわらず、年度末試験期間の1月末は多少忙しくなったものの、学年を通して時間的に余裕がありました。途中、中だるみする時期もあり、休講や休日が重なると履修者のほんの一部しか出席していない大教室の授業は珍しくありませんでした。古き良き時代と懐かしく思う反面、何もしなくても学生が集まった時代であったからこそあり得たものと述懐せざるを得ません。少子化で学生の数が減り競争が激しくなってきた昨今、大学教育改革が叫ばれるや、そうした通年制からセメスター制に切り替える動きが主流になりつつあります。

通年性を2分割しただけのセメスター制

そんな背景で導入したセメスター制ですが、通年制を2分割しただけでは、という印象が拭えません。学年を2期に分け、1期ごとに最終成績を出して閉めるという点まではアメリカのセメスター制と同じです。しかし、それ以外はアメリカのセメスター制とはフォーマット上大きな差異があります。日本の大学におけるセメスター制のフォーマットを見ると、その成り立ちにおいて、大方、以下のような方法が取られたのでは、と推察されます。

(1)通年制の授業を2分割して、前期と後期に分けて2つの半期制の授業にする。
(2)通年で教えていた授業の内容を2分割し、前半部を前期の授業で、後半部を後期の授業で教える。
(3)それに伴い、講義科目は通年の4単位から2単位に、演習科目は2単位から1単位に調整する。

確かに、通年制に欠けていた緊張感があり中だるみ感が解消されましたが、通年制を2分割しただけで通年制のフォーマットが維持され、授業は1コマ90分で週1回という原則は踏襲されてしまいました。セメスター制にもかかわらず学生は10コマ近くもの授業を取るケースが多々あります。(*3)これがアメリカにおけるセメスター制と根本的に違う点で、教育の質に影響を及ぼしかねず、早急に対策すべき重大事であると感じます。

1990年慶応義塾大学SFCセメスター制を最初に導入

セメスター制にして授業が改善されたことは確かです。ただし、良い授業が多ければ多いほど、学生のワークロードは増えます。それが3コマや4コマならまだしも10コマ近くにもなると過剰になります。1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が開設され、日本の大学としてはまだ珍しいとされたセメスター制が導入されました。筆者も同大学経済学部から当キャンパスに移籍し、講義科目(学部・大学院の言語コミュニケーション論、プロジェクト)と演習科目(英語)を担当しました。

開設当初からユニークで発信型の活気ある授業が多く展開されました。しかし、各セメスターに7コマ以上10コマ近くの授業を履修する学生側から、それらの授業すべてに全力を注ぐことは物理的に無理だとの感想が寄せられました。どんなに活気あって良い授業でも、発信型の授業は必然的にワークロードが多くなる傾向があり、かえって敬遠されてしまうという危惧が生まれました。一見アメリカのセメスター制と似ているようで異質なものとの印象を持ったのは筆者だけではありません。

対策は簡単です。セメスター制やクオーター制は、短期間集中して勉学することに効果を発します。通年制はその逆に長期間かけてゆっくり勉学することに効果を発揮します。前者では1学期の履修科目数を絞らなければ効果は半減します。そのためには各授業を週2回(180分)にして、講義科目4単位そして演習科目2単位にすれば、今まで通年で教えていた内容をカバーできますし、履修コマ数も半減します。

しかしながら、そのためにはプログラム全体を考え直さなければならず、通年制に長く慣れ親しんできた大学や学部にとって簡単なことではありません。例えば、それぞれの学部で序論とする授業一つ取っても、提供するプログラムにとって何が基盤知識であるかを議論して合意しなければなりません。様々な思惑が交差し合意点に達するのは至難の技です。

そこで、通年制科目を単純に2分割して、例えば、通年で行なっていた「〜学序論」を「〜学序論I」を前期に、「〜学序論II」を後期に開設するといった当たり障りのない方法で対処してきたように思えてなりません。これでは、科目数は多いままでセメスター制にした意義が半減します。

アメリカの大学のセメスター制は大違いカリフォルニア大学バークレーキャンパス(UCB)を例に

アメリカの大学のセメスター制はそれとは大分趣が違います。筆者自身、約50年前にアメリカの大学の授業を受けてその違いと効率の良さに驚き、1年で帰国して日本の大学院に戻る当初の計画を撤回し、アメリカに残ることを決断させた要因の一つとなりました。

University of California at Berkeley(UCB/カリフォルニア大学バークレイ校)を例に比べてみましょう。University of California System(UCSカリフォルニア大学システム)は、カリフォルニア州全域に10キャンパスがあり、その一つがUCBで、University of California at Los Angeles(UCLA)と共にWorld Top Universitiesにランクされ、本コラム(第105回 アメリカ留学の大学選び―多様性の認識、リサーチ・マインド、Critical thinkingをベースに)で紹介した通り、アメリカの州立大学を代表するエリート校です。カリフォルニア州の財政が危機的状況にあるため、日本の多くの国公私立大学と同様に財政難を抱えていることや、日本の主要大学が設立されたのとほぼ同時期に設立されていることから、良い比較対象として選びました。(*4)

(*3)筆者が1980年代に教鞭をとった慶應義塾大学経済学部も半期制を導入しているようです。卒業単位は126単位です。1980年代の学生の多くは、1、2年生時に約40単位近くの授業を履修していました。通年制では講義科目と外国語などの演習科目を入れ、10コマ以上の授業を履修していたと記憶しています。恐らく、現行の半期制になっても1学期に10コマ程度の授業を履修しているものと考えられます。

(*4)カリフォルニアにはCalifornia State University(CSU)システムがあり、全州に23のキャンパスがあります。元々は教員養成を目的にカリフォリニア各地に設立されました。筆者はCalifornia State University at Hayward(現Eastbay)で英文学の授業を取りながら、日本語を教えた経験があります。ちなみにクオーター制を採用していました。

(2017年6月8日記)

「大学改革に向けて:アメリカの大学のセメスター制と日本の大学のセメスター制の根本的な違い()」に続く


(*1)その他に、ごく少数ですが、1年を3つに分けるtrimesterという制度を採用する大学もあります。
(*2)各大学はAcademic Calendarにてセメスターないしクオーターの開始日と終了日を含む詳しい日程を明記しています。

本文中の情報はすべて執筆時2017年6月のものです。



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