見出し画像

英語語彙を増やそう。語形成について(その2)・・・接頭辞

拙稿「その先の英文法:英語語彙を増やそう。語形成について(その1)接尾辞Suffixes」の続きです。

(その1) では、derivational affix[es]について、どの品詞からどの品詞に派生させるかを中心に説明しました。概して、prefix[es]は、品詞を変えずに意味を変え、他方、suffix[es]は品詞を変えます。(*1)よって(その1))では必然的にsuffix[es]の説明が中心になりました。本稿(その2)はprefix[es]に焦点を当て、品詞の変換ではなく意味の変換をもたらす派生が中心になります。主要なprefix[es]を見てみましょう。英語学の権威書A Comprehensive Grammar of the English Language(1985, Randolph Quirk, et al. (*2) Pearson Education)の“Affixation(pp.1539-1567): Prefixes”の意味による分類を基軸に、筆者の補足修正を加え、さらに、Longman Advanced American English Dictionaryから拾った例を交えて以下のリストを作成してみました。


―Prefix[es] = 大部分は品詞を変更せず意味のみを変更する(*3)―

1. 反対の意味をもたらすもの

*a-  「非」「反」という意味 (例:a- + sexual [形] = asexual [形],
atypical [形])

*dis- (例:dis- + obey [動] = disobey [動]); dishonest [形], disorder [名]) 

*non- (例:non- + smoker [名] = non- smoker [名]):nonsense [名], nonexistent [形])

*de-  「取る」「減らす」という意味(例:de- + grade [動] = degrade [動],devalue [動]

2. 否定的な意味をもたらすprefix[es]

*mal- 「ひどく」という意味(例:mal- + treat [動] = maltreat [動], malfunction [名])

*pseudo- 「似非」という意味(例:pseudo- + science [名] = pseudoscience [名], pseudoscientific [形] )

3. 程度や度合いを示すprefix[es]

*arch- 「極度に」という意味(例:arch- + enemy [名] = archenemy [名]), archrival [名])

*arch- 「最も高い」という意味(例:arch- + bishop [名] = archbishop [名])

*hyper- 「極度に」という意味(例:hyper- + active [形] = hyperactive [形], hyperbole [名])

*hyper- 「越えて」という意味(例:hyper- + text [名] = hypertext [名], hyperlink [名])

*over- 「限度を越えて」という意味(例:over- + eat [動] = overeat [動], overdose [名], overdue [形])

*mini-/midi-/maxi- 「小さい」/「中位の」/「大きい」という意味(例:mini-/midi-/maxi- + market [名] = mini-/midi-/maxi-market [名], minimum [名], minimal [形])

*out- 「範囲を越えて」という意味(例:out- + grow [動] = outgrow [動], outspoken[形], outbreak [名])

*sub- 「以下」という意味(例:sub- + conscious [形] = subconscious [形], subculture [名])

*sur- 「上に」という意味(例:sur- + charge [名] = surcharge [名], surpass [動],surreal [形], surrealism [名])

*ultra- 「極端に」という意味(例:ultra- + violet [形] = ultraviolet [形])
     ほか:ultramodern [形]

*under- 「低く」という意味(例:under- + estimate [動] = underestimate [動], underpay [動]; cf.(*4) underestimated [形], underpaid [形])
 

4. スタンスを示す[prefix[es]

*anti- (例:anti- + war [名] = anti-war [名], anticlimax [名], antibiotic [名],antisocial [形])

*contra- 「反して」という意味(例:contra- + factual [形] = contra-factual [形], contradiction [名])

*counter- 「逆らって」という意味(例:counter- + act [動] = counteract [動], counterculture [名], counterrevolutionary [形]

*pro- 「賛同して」という意味(例:pro- + liberalism [名] = pro-liberalism [名」, pro-active [形])

5. 空間の位置を示すprefix[es]

*fore- 「前の」という意味(例:fore- + arm [名] = forearm [名], foreleg [名])

*inter- 「間の」という意味(例:inter- + net [名] = internet , interchange [動])

*sub- 「下の」という意味(例:sub- + way [名] = subway [名], subtitle [名])

*super- 「上の」という意味(例:super- + structure [名] superstructure [名], superscript [名])

*trans-「横切って」という意味(例:trans- + port [動] = transport [動], transmission [名], transpacific [形])

*under- 「下に」という意味(例:under- + wear [名] = underwear [名], underline [動], underlie [動])

6. 時間の順序を指すprefix[es]

*ex- 「元」という意味(例:ex- + wife/husband [名] = ex- wife/husband [名], ex- student/teacher, ex-President)

*fore- 「前もって」という意味(例:fore- + tell [動] = foretell [動], forethought [名])

*post- 「後の」という意味(例:post- + war [名] = postwar [名], postmodern [形])

*pre-「前の」「前に」という意味。(例:pre- + war [名] = prewar [名], preregister[動])

7. 数や量を示すprefix[es]

*uni-/mono-  oneという意味(例:uni- + lateral [形] = unilateral [形], monorail [名])

*bi-/di-  twoという意味(例:bi- + cycle [名] = bicycle [名], dichotomy [名],bilingual [形])

*tri- threeという意味(例:tri- + angle [名] = triangle [名], triennial[形])

*poly-/multi-  manyという意味(例:poly- + technic [名] = polytechnic [名], multimedia [名],polysyllabic [形])

*semi-  「半分」という意味(例:semi- + circle [名] = semicircle [名], semiprecious [形])

8. その他のprefix[es]

*auto-  selfという意味(例:auto- + biography [名] = autobiography [名], autoimmune [名])

*ex-「外れて」「外に」という意味(ex- + communicate [動] = excommunicate) [動], exhale [動])

*extra- 「越えて」という意味(例:extra- + curricular [形] = extracurricular [形])

*neo-「新」という意味(例:neo- + classicism [名] = neoclassicism [名], neophyte [名])

*over- 「ざっと」という意味(例:over- + look [動] = overlook [動], overview [動])

*paleo- 「古代」とい意味(例:paleo- + ontology [名] = paleontology [名], paleobotany [名])

*pan- 「汎」という意味(例:pan- + Africa [名] = pan- Africa [名]), Pan-Arabism [名])

*proto-「祖の」という意味(例:proto- + type [名] = prototype [名], protolanguage [名])

*re-「再び」という意味(例:re- + turn [動] = return [動], review [動], recover [動])

*tele-「遠く離れた」という意味(例:tele- + phone [名] = telephone [名], telecommunication [名])

9. 品詞変換をするprefix[es]

*a-  動詞を形容詞に(例:a- + sleep [動] = asleep [形], alive[形])
cf. 形容詞を副詞に(例:a- + loud [形] = aloud [副])

*be- 名詞を動詞に(例:be- + witch [名] = bewitch [動])cf. bewitched [形] )

*en- 名詞を動詞に en- + danger [名] = endanger [動], enforce [動], empower [動])(*5) 

以上、英語のprefix[es]の大部分をカバーできました。それぞれの意味的機能を覚えれば語彙数を増やすのに役立ちます。但し、各項目の例示は余白の関係で2、3例に限定しましたが、他にも例があります。また、over- などはovereatのように動詞だけではなくoversensitiveのように形容詞にもつきます。これを機に他にどんな例があるか調べてみてください。(*6)

なお、上記のprefix[es]の中には、ハイフン(—)を伴うものがあります。概して、使用頻度と関係するようで、例えばaloudなど長く使われたものはハイフンなしですが、歴史が浅くて使用頻度が少ないものの中には、ハイフンが付くものがあります。non-smokerまたはnonsmokerのように、その中間にあるものには両方の表記があります。

(その1)ではsuffix[es]を扱ったものの、余白が限られていたので、上記のprefix[es]ほど網羅されていません。suffix[es]についてはまた機会を改め、Quirkらの研究を参考にお話したいと思っています。

最後に、多くの科学専門用語は、ギリシャ語やラテン語からの借用したものが多く、affix[es]も語幹(stem/base)もギリシャ・ラテンからのものです。例えばhypothalamus(視床下部)は古代ギリシャ語から借用されたもので、hypo-(「下部」)というprefixとthalamus(視床)という語で成り立ちます。多くは特殊な学術用語(academic jargons)です。読者の中で科学分野を専攻する人はできるだけ早くこうした語句に慣れる必要があります。

筆者が探しただけでも“Scientific Root Words, Prefixes, and Suffixes” と称する無料サイトがあり、科学分野で頻出するaffix[es]をリストしています。特に医学や薬学に関心をもつ読者はチェックしてみましょう。

語彙力をつけるには語形成(word formation)を知ると効果的です。“simple”という語は、simply, simplify, simplified, simplifier, simplicity, *simplicial, simplex, *simpling, *simplicist, *simplism, simplistic, simpleton, oversimplified, oversimplificationに派生します。これにinflectional suffix[es]の比較級形simplerと最上級形simplestを加えれば16個になります。

これらをバラバラに覚えようとしたら大変ですが、affix[es]の機能と意味を押さえておけば楽に覚えられます。affix[es]は他の語にも使われており、ルールとして学習すれば語彙力はどんどん伸びます。simpleという1語だけとっても16倍になる訳です。小学校や中学校で習う語彙は限られていますが、それらの語彙はその何倍の数の派生語があり、affix[es]を押さえておけば、数千語をなんなく覚えられるということです。

これらsimpleの派生例を見ても分かる通り、使われているaffix[es]は圧倒的にsuffix[es]のようですから、上述した通り、やはり、この2回で紹介できなかったsuffix[es]について近々(その3)としてお話ししたいと思います。


(*1)例えば、re- + turn= returnでは、派生前後の品詞は変わらず動詞のままで「再び」という意味が付加されるだけ。他方、slow + -ly=slowlyでは、元の形容詞を副詞に変える。
(*2)et al. 著者が複数居る場合に最初の著者のみ記入し、et al.と表記して他の著者を省くときに使います。ラテン語のand others を意味するet alii/aliaの略です。
(*3)詳細についてはQuirk, et al.(1985)を参照されたい。分類項目の加筆修正および日本語訳は筆者によるもの。
(*4)cf.はラテン語のconfer ( = compare=比較する)の略語で、論文などでよく使われる。
(*5)empowerのem-は、en-の/n/が次に続く/p/が両唇音の為に同じく両唇音/m/に変わる。
(*6)関心がある読者は、Quirk et al.(1985)以外にも辞書も参考になります。特にOxford English Dictionaryには、各affixの語源、歴史、意味・機能、例が豊富にあります。
(*7)Webster Third International Dictionaryに記載されている語で、*が付いているものはあまり使われていません。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。

サポートいただけるととても嬉しいです。幼稚園児から社会人まで英語が好きになるよう相談を受けています。いただいたサポートはその為に使わせていただきます。