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「ここが変だよテレビ局!」坪田信貴×土屋敏男 対談連載vol.1

『電波少年』T部長こと日本テレビ・土屋敏男が、会いたい人と本音を語るnote連載シリーズ。第一弾は、ラジオでの共演以来じっくり話を聞いてみたいと思っていた『ビリギャル』著者・坪田信貴さんをお招きし、テレビをよく知る2人がテレビ局のおかしなところに切り込みます!


■出会って2時間で社外取締役

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土屋
わざわざ来ていただきありがとうございます!

坪田
いえいえ! とんでもないです。

土屋
今日は「ここが変だよテレビ局」というテーマでお話を聞いて、坪田さんがおっしゃったことに僕がかぶせて好き放題言うということになっています(笑)

坪田
ぜひそっちをメインでお願いします(笑) 僕にとってテレビは、一視聴者としてずっと見ているものであり、コメンテーターとして出演者しているものでもあり、本を映画化していただいたり、さらに芸能事務所の社外取締役として関わらせていただいたり、色々な立場から見ている感じですね。

土屋
坪田さん、今は吉本の社外取締役でいらっしゃるんですよね。

坪田
そうですね、吉本興業ホールディングス社外取締役になって3年経ちます。

土屋
会ったその日に言われたんでしょ? 取締役にならないかって。

坪田
そうなんです。大崎さん(注:吉本興業ホールディングス代表取締役会長・大崎 洋さん)とお会いして2時間後に「役員にならないか?」って言われて。「えっ!?」って思ったんですけど、2時間話す間に大崎さんの魅力というか、この人すごいなーというのがわかって、思わず「大崎さんのためになるんだったら何でもやります!」と。

そしたら大崎さんに「月1回とかでいいから!」と言われたんですけど、今は週8くらいで、なんやかんや入れられているという(笑)

土屋
非常に吉本的な流れ(笑) しかしあまりに即決ですね。

坪田
大崎さんも、話終わって車に乗りに行く時に「初対面の人に役員になってくれって言ったの生まれて初めてだわ」っておっしゃっていて、「でしょうね!」みたいな(笑)

土屋
もともと大崎さんと会うきっかけは、西野君(注:キングコング・西野亮廣さん)だったんでしょ?

坪田
そうなんですよ。4年前に、CBC『ゴゴスマ』でコーナーが撮影あったんです。それが終わった時、CBCの方が「坪田さんめっちゃおもろい!」って言ってくださって。「事務所所属してるんですか? 吉本興味ないですか? もし興味があれば、岡本社長に言うべきだと思うから電話していいですか?」って言われたんです。そのあと実は吉本から、文化人タレントとして所属しませんかっていう話が来たんですよ。

土屋
その人、名古屋吉本の人かと思うくらいだな(笑) マネジメントをどこかでした方がいいと言ってくれたんですね。

坪田
そうなんです。僕は慎重派なので、そこから40人くらいに「吉本に誘われているんだけどどう思う?」って聞いたんですね。それこそ宮迫さんとか、加藤さんとか、友近さんにも聞きました。そしたら全員が「やめろ」って言うんですよ(笑)

土屋
すごいな(笑)

坪田
ただその時に面白いと思ったのが、4年前なので色々なことが表面的にはなっていないものの、たぶんみんな不満を持っている時期だったと思うんです。それは感じていたので、皆さん吉本に対するネガティブなことを言うのかと思ったら、違っていたんです。

要は「事務所っていうのは何でもない人がスターになるためには必要だけど、今もうすでに自分でメディアに出ているんだから、事務所の機能は自分のスタッフでやればいいんじゃないですか」と冷静におっしゃるんですよ。なるほどなと思って、それならやめておこうかと思っていたんです。

なんですけど、最後にキングコングの西野さんに同じことを聞いたら、即答で「絶対入った方がいい!」って言うんですよ。「だって、坪田先生って世界を取りたい人ですよね」って、また西野さんっぽいことを言ってくるんですよね(笑)

土屋
なるほど(笑)

坪田
「吉本って百年企業で、歴史も色々なパイプもある。一人でここから世界に出ていこうと思った時、すでに土台としてあるものを使い倒した方がいい。だから坪田先生は吉本に入るべきだと思います」っておっしゃったんです。この人は見てる目線がちょっと違うんだなって、その時に思いました。

そうしたら、1週間後ぐらいに西野さんが大崎さんと会食したそうで、その時に「君が今一番おもろいと思う人は誰?」って聞かれた西野さんが僕の名前を出してくださって、会うという流れになったんですよね。

土屋
それで会って2時間後に社外取締役に(笑) 


■手のひらに「窓」がある時代

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坪田
これまで塾や会社を経営していた僕から見ると、テレビって本当にすごいというか、僕にはもう未来しか見えないんですよ。だけど、テレビ局員の人はどこの局の人もみんなつらそうなんです(笑) 未来がない斜陽産業みたいな感じで。そのあたりってどうなんですか?

土屋
テレビって70年右肩上がりでずっときたし、すごい順調なビジネスモデルなんですよ。外から攻められたことがほとんどなかった。ところがインターネットが出てきてちょっと右肩下がりの状態になって、やっぱり攻められることに弱いというか、初めて下がってきて正直みんなあわあわしちゃった(笑) 試行錯誤をしているけどなかなかうまくいってないっていう感じですかね。

坪田
そこが僕は面白いなと思う。 以前、川上さん(注:株式会社ドワンゴ創業者・川上 量生さん)とテレビのすごさって何だろうねという話をした時に、各家庭に端末があることだと。一番すごいのは、リビングの最も重要なところを占めていること。むしろテレビの配置で、ソファーとかテーブルとか全部の配置が決まる。これってすごいことだよねって話してたんですよ。リビングの真ん中にパソコンって絶対ないですから。スマホも端っこなんですよね。

僕は『ビリギャル』のあとに講演で全国を回ったんですけど、その時によく出る質問が「ウチの子はテレビばっかり見てるんですけど、どうしたらいいですか?」なんです。テレビの人はみんな、スマホとかYouTubeとかネットだと思っているけれど、親御さんたちはテレビを見過ぎだと思っている。

親御さんたちにいつも言うのは「テレビってどこに置いてます?」と。ほとんどがリビングで、目の前にソファがある。テレビを見るように家が作られているわけです。テレビ局の人には申し訳ないですけど、どうしても見せたくないんだったらキッチンの端っこに置けばテレビ見なくなりますよって(笑) でもそうはしないですよね。テレビっていうのは、家族をつなぐお茶の間という場所を何十年も作ってきているっていうのが、本当に一番の強みだなと思います。

土屋
その状態も今ある程度残っているけど、やっぱり下がってきてるのは事実。長いこと、社会に対する「窓」というのはテレビしかなかったから、ほとんどの人たちは家に帰ってきた時になんとなくテレビをつけたんですよね。自分と関わりのある世界は何が起こってるんだろうっていう「窓」はテレビだけだったんですよ。それが今、手のひらにある。

坪田
そうですね。

土屋
帰りの電車の中で手のひらの「窓」が開いてるから、帰ってきてなんとなくテレビつけて、窓を開ける必要はないんですよね。このことは確実だし、テレビ局の人間はそこを認識しなきゃいけないと思うんです。

子供たちは言葉を覚える前にスマホの操作を覚えるっていう時代なのに、スマホの中にテレビが入ってないんですよ。 これはやっぱり、やり損なっていることなんですよね。

坪田
同時配信ですね。

土屋
ぶっちゃけて言うと、僕はすべてのテレビコンテンツがスマホに入ったら、まだYouTubeにもNetflixにも勝てる思うんです。それだけテレビのクリエイティブは強い。

坪田
本当にその通りだと思います。結構有名な話で、1900年のニューヨークの写真って馬車だらけなんですよ。でも1913年の同じ場所はT型フォードで自動車だらけ。たった13年間でこれだけ変わる。

じゃあなんでこんなに変わったのかというと、大衆を「マス」と捉えて、そこに対するマーケティングやメディアが生まれたから、大衆が一気に動いた。T型フォードはマスマーケティングをやったので、急激に広まったと。

2007年にiPhoneという革命が生まれた時、今度は「マス」ではなく、SNSをはじめとする「個人」になったんだと思うんですね。1900年から1913年と同じように、2007年から2021年というのは急速に変わっていってるんです。

土屋
うんうん。

坪田
僕ね、テレビ局の人にぜひ知っておいてほしいことがあって。講演に行くと、都会と地方で明らかに違うことがあるんですよ。講演後に質問タイムがあるんですけど、都会だと基本的に講演内容ベースの質問なんです。でも地方だと、いつも最初に芸能界の話を聞かれます。例えば「有村架純ちゃんってかわいかったですか?」とか、「今まで会った芸能人で一番、テレビと実際が違う人って誰ですか?」とか(笑) 質問タイムになったらいきなりテレビの話になるのはなんで?って。

日本って99パーセントは田舎なんですよね。都会の人はスマホを見ながら行く先を決めたりできるけれど、田舎の人たちはテレビで銀座のステーキ屋さんを見たり、ディズニーランドの特集を見たりっていうのがまだまだ最高のエンタメなんだって。だから、東京の人の思っていることと地方の人が思っていることは、ずいぶん違うんじゃないかなって感じます。


■日本のテレビはなぜできない?

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坪田僕、堀江さん(注:実業家・堀江貴文さん)とよく食事するんですけど、「坪田さん、テレビで何が一番変だと思いますか?」と聞かれたんです。答えは「リモコンなんですよ」と。「だって、今の技術を考えたら、Siriに話すように『日本テレビ』『TBS』って言葉で言ったらチャンネルが合うようにできるはずでしょう。どうしてリモコンでやらないといけないんだと思います? 実は、あそこの12356789の数字部分に利権があるんです。つまり基本的にテレビをつけたらまず地上波が映って、地上波をザッピングしてる間にどれかを見たくなるようになってる」と言うんですね。

堀江さんは、テレビ局っていうのは当たり前だけどコンテンツ制作能力がハンパないから、局とか関係なくとにかく面白いコンテンツを作って、その中で選ばせるというプラットフォームを作りたかったと。つまりNetflixなんですよね。それ面白いなって思ったんですけど、どう思われますか?

土屋
そのリモコンにまさに、Netflixのボタンが付き、YouTubeのボタンが付きっていうのが今のスタンダードになってますよね。堀江さんも今はそう言ってるかもしれないけど、2005年にフジテレビを買収しようとした時は、例えば「ドラマの中で主役が持っているバックをいいなと思ったら、その場で買えるようにしたい」と言ってたんですよね。それってテレビ放送的に言うと広告になってしまうからできないのよっていうこともあって。あの時はテレビとネットの出会い方がものすごく不幸でね。あれでテレビ局側のネットアレルギーがものすごく高まった。

坪田
そうでしょうね、本当に。

土屋
2005年のちょうどその時、日本テレビが何をしていたかというと「第2日本テレビ」っていうのをやっていたんです。当時NBC.comで『サタデーナイト・ライブ』のインターネット版を配信してたんですよ。それで僕はアメリカに行って、当時のNBCのトップに「アメリカはタレントさんやユニオンがすごく強いのに、どうして配信がすぐにできたんですか?」と質問したんです。その時トップが言ったのが「そこにネットという新しいビジネスがあるんだから、やるに決まってるんだよ。やった後、これからハードネゴシエーションをするんだ」と言われた。なるほど、アメリカはそう考えるのかと思って。

そしたら2007年にアメリカで脚本家協会のストライキがあったんですよね。脚本家たちが、ネットでの配分をちゃんとよこせと言って、約100日間ストライキをやったんです。それで各テレビ局は新作が作れなくなって再放送だらけになった。でも結局交渉して妥結した。だから今、アメリカのテレビコンテンツは全部ネットに出てるよね。例えば1カ月50ドルで全部見られるみたいなことになってるじゃないですか。

日本はやっぱりなんとなくグズグズとしていて、ハードネゴシエーションじゃなく、みんな揃ったところじゃないと一歩出ない。だからずーっと一歩出ないまま20年きちゃってる感じがあって。アメリカはテレビって調子悪くないけど、日本のテレビはそれができなくてダメになってる。じゃあそれって一体何なんだろう、なぜなんだろうって思っています。

坪田
僕いつも不思議に思うんですが、テレビって、映り込んでいる一般人にモザイクかけてるじゃないですか。あれ、なぜですか?

土屋
ある時期から突然そうなったんです。不倫してるカップルが映り込んで、訴訟するとかしないとかいう話がきっかけだったと聞いたことがあります。

坪田
それは不倫してる方が悪いのでは(笑) おそらく全局全番組で積み上げたら何千万にもなるであろう編集費や労力を費やしてまで、全く問題なさそうな映像にまでモザイクをかけるなんて、意味がないと思います。訴訟に発展するケースなんてたかが知れてるでしょうし。

土屋
日本のテレビ局ってとにかくトラブルが起こることを徹底的に避けようとします。そこもアメリカと決定的に違うところです。「一般の方にはモザイクをかけるように」という上からの指示が現場に行き渡ることで、やはり現場は萎縮しますよね。そのことで失われるものも大きいと思います。


⇒ vol.2へ続く!


坪田 信貴(つぼた のぶたか)
累計120万部突破の書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称『ビリギャル』)の著者。これまでに1300人以上の子どもたちを個別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。大企業の人材育成コンサルタント等もつとめ、起業家・経営者としての顔も持つ。テレビ・ラジオ等でも活躍中。新著に『人に迷惑をかけるなと言ってはいけない 子どもの認知を歪ませる親の言葉と28の言い換え例』。


土屋 敏男(つちや としお)
日本テレビ放送網株式会社 社長室R&Dラボ シニアクリエイター。『電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』等の制作に携わり、長年テレビの制作現場で活躍。一般社団法人1964TOKYO VR代表理事。2019年ライブイベント『NO BORDER』企画演出。映画『We Love Television?』監督。2021年『電波少年W』企画演出。