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預金封鎖に関する質問が絶えないことについて

2024年説のウソ

基本的には陰謀論的な与太話

 YouTube等で何度否定しても、預金封鎖の可能性についての質問が寄せられる。あまりにも数も多いので、ここで一度きちんと整理しておきたいと思う。
 結論としては、今の時点で、預金封鎖の可能性を議論しても、ほとんど意味がないということだが、なぜそう考えられるのかを説明したい。

日本における預金封鎖の経験

 世界の歴史をさかのぼっていけば、預金封鎖は実際に起こっている。日本でも1946年に実質的な預金封鎖が実行され、財産税の徴収もあって、国民の財産の一部を、事実上国家が没収したケースは存在している。戦前の富裕層の大半は、一連の政策によって没落し、社会構造が再構築されていった。
 もちろん、日本政府が国民の財産を収奪することだけを目的に実施したものではない。結果的には、私有財産の一部が収奪されているが、それには相応の背景があった。

敗戦による占領下で抵抗できなかった

 まず、1946年の時代背景である。前年、1945年に、日本は敗戦を経験し、1946年時点においては、連合国軍の占領下にあった。日本の国家主権は停止されており、法体系も通常とは異なる運用を余儀なくされていた。実質的な日本の支配者は、GHQであり、GHQの命令であれば、どのような超法規的措置もとれる体制であった。敗戦国の悲しさで、戦勝国側のGHQが強権発動しても、誰も文句を言えない状況であったと言える。

ハイパーインフレ状況下であった

 もう一つ重要なポイントがある。当時の経済状況は、いわゆるハイパーインフレ状態であった。1945年から1950年までの5年間に物価水準は、70倍になったと言われている。しかもこの数字は、政府によって統制されていた公式統計ベースのものであり、ヤミ市場における実勢価格は、その数倍以上だったと推定されている。ヤミでなければ、必要な物資が手に入らないため、人々は、公定価格よりもはるかに高い価格で生きるための物資を購入せざるを得なかった。
 戦費の捻出のために、戦時国債を大量発行した結果、通貨供給量が増大し、戦争終結後、自由な経済活動ができるようになると同時に、物価が急上昇してしまった。戦災によって、国内の製品・商品供給能力は、極めて限定的となり、モノ不足と過剰な通貨供給量によって、強烈なインフレが起こることは、自然なことでもあった。
戦時体制においては、無理やりにでも抑え込んでいた部分があったが、その枷が外れた結果、インフレに歯止めがかからなくなってしまったわけである。
 経済は混乱し、国民生活は、文字通り貧窮を余儀なくされた。その解消には、ハイパーインフレを終息させ、経済を平常化するしかないという判断の下、強制的な資金回収が行われたわけである。同時に財産税の収入によって、税収が増えたため、財政面で余裕が生じたのも事実である。
 しかし、ハイパーインフレは、この時、即座に終息できたわけではない。1950年までに、生産設備等の整備が進み、国全体としての供給能力が高まった結果、インフレは徐々に鎮静化していった。

現代の日本は民主主義制の法治国家である

 占領下においては、強権発動によって、私有財産を国家が没収するような暴挙もまかり通ってしまったが、現代の日本において、同じようなことをできるかといえば、ほぼ不可能であろう。
 少なくとも、日本が現在のような民主主義国家である限り、そのような措置は取りようがない。法治国家において、法的根拠のない政策実行は不可能であり、超法規的措置など許されるものではない。預金封鎖や財産税に類する私有財産の没収など、法制化できるはずもないだろう。
 日本が独裁的な政治体制を採る国家に侵略されて、占領下にでもなれば、話は別だが、それは、全く違った意味のリスクである。そのような状態では、預金封鎖とか財産税のような経済的損害を防止する以前に、生命の危機からどうやって逃れるのかということが、一番優先されるはずである。
そもそも、他国から侵略されるような事態に陥らないように、抑止力を高めるような安全保障の枠組みを強化するしかない。それは、それで重要な課題であり、今まさに防衛費の増額といった形で、政策実行されようとしていることでもある。

国際的に預金封鎖を強要されることもない

 他国における預金封鎖のケースの中には、国際的な圧力によって、実行を余儀なくされものもある。ただ、そのような国際的な圧力や要求を受けるからには、何等かの根拠があるはずである。例えば、莫大な金額の対外純債務が存在していて、デフォルト寸前かあるいは既にデフォルト状態に陥っているといったような事情でもなければ、国際的な圧力自体が生じようもない。
 それでは、日本はどうかというと、世界最大の対外純資産つまり、世界最大のマイナスの対外純債務の状態であり、どの国際機関や国からも、預金封鎖を要求されるような状態とは程遠いのが実態である。2021年末時点における日本の対外純資産額は、過去最大の411兆円余りとなっており、31年連続で世界一であった。なお、逆に対外純債務が一番大きかったのは、アメリカで、2067兆円もの巨額の純債務額となっている。ただ、アメリカは、基軸通貨国であり、純債務額が大きいからといって、何ら支障はないのも事実である。

2024年の新紙幣への切り替え

 2024年から新紙幣に切り替わる理由について、概説しておく。そもそも、紙幣の切り替えは、しばしば行われるものである。その最大の理由は、偽造防止にある。特に、1万円札のような高額紙幣は、偽造されるケースがあり、常に防止策を講じる必要がある。
 また、今回の刷新に際しては、ユニバーサルデザインの考え方が、従来以上に強く意識されており、視覚障碍者への配慮がなされている。まとめると、安全性と利便性を高めることが目的だと言える。
 決して昔の新円切り替えと預金封鎖をセットにしたものではない。そもそも、新円切り替えなどではなく、単純にデザインの変更であり、旧紙幣についても、併用することができる。紙幣は、長く流通している間に傷むものなので、徐々に古いデザインのものは回収されていくが、タンス預金等で保管されていれば、そのままになってしまうものもある。新紙幣だろうと旧紙幣だろうと、法的には全く変わりなく使用できる。
 つまり、2024年の新紙幣導入は、通常のリニューアルに過ぎない。そこに特別な意味はないし、預金封鎖と関連付けるのは、全く根拠がない話である。悪質なデマと断言しても良いだろう。

預金封鎖論者の目的は?

 預金封鎖論者というのは、日本円に対する信頼性を損なうことで、何らかのビジネスをしようとでもしているのだろうと推察される。例えば、売名行為や、自著を売るというのもあるだろうし、不安になった人の心理をついて、金融商品を売るとか、投資を勧誘するとかいうことが目的なのかもしれない。
 そのような悪質な煽り行為に乗せられないように、自分自身で良く考えて行動することが肝要である。

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