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量子生命科学~量子力学はどこまで生命の神秘を解き明かせるのか⁈~

 1953年にジェームス・ワトソンとフランシス・クリックにより発見されたDNAの二重螺旋構造。これにより、生命の複雑な機構を分子レベルで解明しようとする分子生物学が飛躍的に発展しました。
 分子生物学により、遺伝子の役割解明が進み生物学に革命的な進展をもたらすと共に遺伝病の解明や治療、さらに遺伝子組み換えゲノム編集など画期的な技術も登場・実用化するに至りました。
 
 一方、近年分子・原子よりもさらに小さい物質の最小単位である量子のふるまいや働きを産業応用しようとする研究が盛んです。
 生物学の分野でも量子の単位で生命を科学しようとする機運が高まってきました。わが国では、昨年世界に先駆けて国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構の中に量子生命科学研究所が設立され、今後この分野での突出した研究成果が期待されます。
 
 但し、量子のふるまい、働きは我々が知っている通常の物理世界とはかけ離れた摩訶不思議な世界です。波と粒子の二重性、重ね合わせ、量子もつれなど簡単には理解できません。
 かつて「トンデモ科学はいずれ常識になる!~量子力学は意識の謎を解き明かすか?~」という記事で量子の世界の思議さの一端を披露しました。

 

 渡り鳥や鮭、ウナギなど長距離かつ困難な工程の旅をする動物が世界中にたくさんいることは昔から知られています。
 スカンジナヴィアなど寒冷地に棲むヨーロッパコマドリは、厳しい冬の寒さから逃れるために毎年フランスからイベリア半島、さらに地中海を超えて3000Km離れた北アフリカまで渡りを繰り返します。
 また、北アメリカに生息するオオカバマダラとう蝶は、カナダから米国を縦断してメキシコまで4000Kmを超える旅する渡り蝶です。悪天候や都会の大気汚染、山脈などの過酷環境を潜り抜け毎年渡りを繰り返します。しかもメキシコからカナダに戻って来た時には世代が変わり、孫の代になっているとは驚きです。
 これ等渡りを繰り返す動物達が正確に場所を特定して移動出来るのかは永年謎でした。しかしこれら困難な旅を成し遂げる上で量子力学に基づく磁気受容能力が重要な役割を果たしていることが近年分かってきました。目のタンパク質を使って地磁気を感じ取り、正確な方角に到達できると推測されます。
 

 
 また、植物が水と空気中の二酸化炭素を使って太陽エネルギーを科学エネルギーに変換する光合成の働きにも量子のメカニズムが深く関わっていることも分かってきました。
 光合成は、我々動物にとって不可欠な炭水化物、酸素を提供してくれます。光合成無くして我々は生きてゆくことができない、まさに地球生命の維持システムです。光合成の詳しいメカニズムは未だ分かっていないことがありますが、量子メカニズムが重要な働きをしていることが分かってきました。光合成の働きにシュレディンガーの波動方程式を使ったシミュレーションの研究も進んでいます。
 
 その他量子メカニズムは、視覚、呼吸、代謝、神経伝達など生命活動に深く関わっていることが分かってきています。物理学者のペンローズによる量子脳理論クオンタム・マインドもいずれ証明される日が来るかも知れません。
 
 科学が進展しいる現在でもビッグ・クエスチョンとして解明が難しい3つの謎が揚げられています。
1.  宇宙創生の謎
2.  生命誕生の謎
3.  意識発生の謎
 これ等3つのビッグ・クエスチョンの‟何故”に対する答えは人類の天才達の叡智をもってしても永遠に分からない気がします。しかし‟何故”を‟如何にして”に変えると最先端科学はある程度説明可能なレベルに達していると思われます。

 特に1.については量子真空からインフレーション理論、ビッグバンにより急膨張し、現在も膨張が続いていることが分かっています。
 2.についてはもう少し大変です。約40億年前に真正細菌、古細菌、真核生物の共通の祖先が発生したと考えられていますが、どのように発生したかは深い謎のままです。原始地球の材料に雷等の電磁刺激が加わるとアミノ酸が生成されることは確認されています。しかしアミノ酸からタンパク質が偶然生成される確率はほぼ0です。アミノ酸からタンパク質を合成するためにはRNAが不可欠ですが、RNAにはタンパク質が不可欠です。地球の最初の生命は地球外生命(アストロバイオロジー)の研究から進展するかも知れません。
 3.については最も解明が難しいかも知れません。脳内の神経活動は、微視的に観ればナトリウムイオンと化学物質の分子運動のみです。物質の運動と電子(イオン)の変化から意識発生までたどり着くには相当大変そうです。
 
 いずれにせよビッグ・クエスチョン2と3については量子生命科学が解明の鍵を握っていると思われます。わが国では国を揚げて量子生命科学に力を入れています。
 何年か後にノーベル賞級のビッグな発見があると期待して研究の動向に注目したいと思います。
 

                                                  <2024. 5.19>
                   

           (概要)量子生命科学ハンドブック (nts-book.co.jp)