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人間拡張 ~テクノロジーは人類を進化させる⁈

 ホモ・サピエンスがアフリカで誕生して以来、人類は30万年程で社会的・文化的に信じられないほどの勢いで進化を成し遂げました。そしてその勢いは現在も更にスピードを上げているように見えます。
 それに対し体格や身体等の形態的変化や認知・情報処理機能の変化はと言えば、身長が少し高くなったり、歯や顎が小さくなるなど、僅かに進化(変化)しているとは言われているもののそのスピードは非常にゆっくりです。

 最近のテクノロジーの伸展は目覚ましいものがありますが、テクノロジーは人類の形態や情報処理機能の進化も加速させるかも知れません。
 人間拡張(Augmented Human)技術がそれです。ロボット・AI・IoTなどのテクノロジーを駆使して人間の身体能力・知覚・知力などを拡張すると共に通信技術を駆使して時空を超えた分身の術のような人の存在そのものの拡張も可能にします。
 人は既に眼鏡・補聴器・義肢などにより、衰えたり失った能力・機能を補う器具を開発しています。しかし人間拡張はそれを遥かに超えています。視力4.0を実現する眼鏡、遠くの音を聞き分ける人工聴覚、筋力を倍増するパワースーツ、更に遠く離れた場所に能力や存在を移動する瞬間移動など、まさにそれは人と機械が一体となってSFの世界に登場する超人をも可能にします。


オーグメンテッド・ヒューマンの表紙

 この研究の第一人者である東京大学 暦本純一博士によると人間拡張は「身体」「知覚」「存在」「認知」の4つの方向性に分類されます。そしてそれぞれの方向で技術革新が進み、既に建設現場やエンターテインメント、リハビリテーションなどで社会実装も進みつつあります。
   暦本博士は著書『オーグメンテッド・ヒューマン』の中で、

「人間は技術を生み出すと同時に、生み出した技術によって人間のあり方が変化し、人間自身が再定義されていく。人間拡張は、まさにテクノロジーによって再定義される人間像を追究する学問領域といえるだろう。」

『オーグメンテッド・ヒューマン』 暦本純一 監修 2018.NTS
  

 と述べています。テクノロジーと人類が共進化していく様を実に上手く表現しています。

 さらに人間拡張に関わるデバイスの小型・高性能化は現在も目まぐるしく進歩しています。コンタクトレンズ型デバイスや人工内耳などインプラント型のデバイス開発も進化し、チップを人体に埋め込む技術も既に一部実用化しています。
 イーロン・マスク氏率いるニューラリンク社は、脳にチップを埋め込むBMI技術を用いて視覚障がい者の視覚支援と、脊髄損傷患者の歩行支援について研究を進めています。現状障がい者のQOL向上を目的に研究が進められていますが、将来的には健常者の脳にチップを埋め込んで記憶・認知や情報処理能力を拡張しようとする研究が世界のどこかで現れる可能性は高いと思われます。

 人類は科学技術を積極的に人体に取り入れ、身体能力・認知機能を高めて能動的に進化してゆくべきであるとするトランスヒューマニズムの思想も世界各地で根強く存在します。但し、この思想・運動は優生学に繋がるとして倫理的に問題ありとアンチも相当数存在します。

 更にさらに近年伸展著しいゲノム編集技術を使って遺伝子レベルでヒトの能力を拡張するという事も理論的には可能です。現状では重い遺伝病などの疾病予防(治療)目的以外でのヒトのゲノム編集は倫理・安全懸念から固く禁止されています。
 しかし医療技術が日々進化する中で予防とQOL向上、更に能力向上の線引きはどんどん難しくなることが予想されます。

 このように人間拡張は、障害や加齢で失った能力を補綴するのみならず、健常者においても今まで出来なかったことを可能にし、進化した能力を獲得する夢の技術であると共に扱いを間違えると難しい倫理問題を内包する技術でもあります。

 人類史を顧みれば技術の進歩は常に倫理の問題と隣り合わせでした。ナイフ・ダイナマイトは勿論、自動車やコンピュータですら使い方を間違えればそれは凶器です。しかし、人類は様々なルールを工夫しながら新技術を使いこなし、生活を豊かにしてきました。これは確かな実績です。
 人間拡張技術においても紆余曲折はあろうともルールを定めつつ適切に開発がなされ、社会実装が進んで行くと私は思います。
 
 レイ・カーツワイル博士は、2045年頃コンピュータが人間の能力を凌駕するシンギュラリティが起こると予想しました。
 人間拡張技術が進歩した未来では、2045年以前にも高性能コンピュータと拡張システムを内蔵・実装し、共進化したネオ・サピエンスまたはホモ・デウスが地球を闊歩しているかも知れません。

<2023.3.29>

(概要)オーグメンテッド・ヒューマン ~AIと人体科学の融合による人機一体、究極のIFが創る未来~ (nts-book.co.jp)


(概要)自在化身体論 ~超感覚・超身体・変身・分身・合体が織りなす人類の未来~ (nts-book.co.jp)

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