見出し画像

〜私は何者かになるのか〜<5>

RoboCup世界大会参戦記3日目〜フランス・ボルドー〜


 今日は明日から始まる競技のための準備日でした。宿からバスと路面電車を乗り継いで、会場へ向かいます。大会からはバスと路面電車が乗り放題の電子チケットが配布されていました。バスはどの国も変わらないなと感じましたが、路面電車は僕にとっては目新しく、車両の美しさに感動しました。ボルドーはフランス南西部のヌーヴェル=アキテーヌ地域圏の首府です。街全体が世界遺産に登録されていて、中心都市ではありますが高層ビルが立ち並んでいる訳ではなく、まさに私の妄想の中にあった歴史あるヨーロッパの街並みそのものです。風情ある建物と近未来を感じるデザインの路面電車の対比がいいなぁと感じました。

 ボルドーは日本の高校で習う世界史にもよく登場する場所で、調べると「あ〜あの場所なんだ!」と発見があります。世界大戦時には一時的に政府機能がパリから移されていました。フランス革命期に登場する穏健共和派が”ジロンド派”と呼ばれるのは、拠点をボルドー(ジロンド県の県庁所在地)に置いてたことに由来します。アキテーヌ公領に含まれたこの地は、12世紀からはイギリスのプランタジネット朝の領地でしたが、百年戦争の末フランスのヴァロワ朝に占領されました。百年戦争の要因の一つには、葡萄酒の生産地であったギエンヌ地方(ボルドーを含む)をフランス王が奪回しようとしたことが挙げられ、戦争はボルドーがフランス軍により陥落したことで終結しています。
 ボルドーワインは有名ですが、中世から続く中心的な生産地で、それが戦争の原因にもなったともいうので、やはり歴史は面白いなと思います。


ボルドーの路面電車。田舎者には乗り換えが難しかった。


 これまでで一番遠い場所での”現地集合”だったため、チームメイトに会えるとほっとしました。会場となるボルドーエキシビションセンターは、”大きくしすぎた倉庫”のような場所で、大会の部門ごとに区画が分けられています。
 私たちが出場するレスキューシミュレーション部門は、実物のロボットを使わない競技で、全てシミュレーターの中で完結します。実物のロボットを作る前に、挙動をシミュレートすることが目的で、特に災害現場を想定したフィールドを、壁や障害物、落とし穴を避けながら自動探索することを想定しています。
 シミュレーション競技では大会が用意したコンピュータで公平に実行されるため、準備日の今日は動作環境の確認や接続のチェックなどを行いました。この動作チェックで、大会が用意した実行環境のスペックが想定より低いことが発覚。よかった…と胸を撫で下ろしました。というのも、直前で画像認識を簡単な配列の条件分岐で行う戦略に切り替えていたからです。当初は画像認識に機械学習で生成した物体検出モデルを使おうという戦略で開発を進めていましたが、自分たちのパソコンでも動作の遅さが問題になりました。競技上の制約で並列処理ができなかったことが原因でしたが、本番環境のスペックが自分たちのパソコンより低い可能性もあると考えて、直前で方針を転換していました。あのまま物体検出モデルを使っていたらカックカクで競技どころではなかったかもしれないと考えると、あな恐ろしやです。
 なんにせよ、動作確認では想定通りの挙動をロボットがしてくれたため、一安心でした。

お隣の産業用ロボット部門の準備の様子。


 大会には様々な国からの参加者が集まっています。今日のキャプテン会議では13チームの代表が集まって連絡事項を伝えられました。オンライン会議で日本人以外と話す経験は何度もしてきましたし、英語や外国人に過度に反応する自分ではありません。しかしふと自分を俯瞰して、世界中からこの倉庫に集まった多種多様なロボットオタクたちの中に自分がいる、本当に自分たちは日本代表のチームとしてここに来たんだということを再認識すると、しみじみと感慨深いものを感じ、また身が引き締まる思いです。明日から4日間の大会でベストを尽くせるように、最後まで調整を進めます。

<2023/07/05>