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地域とアートがつなぐ時 #2|松川村で11年継続したワークショップ

長野県 安曇野 松川村での「アートプロジェクト」をご紹介するシリーズ「地域とアートがつなぐ時」。

今回は、2002年から11年継続したワークショップ「安曇野まつかわサマースクール」についてお話しします。

第1回の記事で、「アートプロジェクト」とは、地域資源にアートを掛け合わせ、地域を活性化させる取り組みだと言えると書きました。
(参考:経済産業省|地域の活性化に向けたアートプロジェクトの手引きとなる「×ART(かけるアート)スタートアップガイドライン」を公表します

私自身、大学時代に「アートプロジェクト」に参加して、「アートは、地域の方々の取り組みを少し後押しする」ものだと感じました。

こちらの記事では、松川村の方々と長期間プロジェクトを続けたことで、地域に密着した活動を作るお手伝いができた経験について、お伝えします。

「アートプロジェクトって何?」と疑問に思った方は、第1回の記事をご覧いただけましたら幸いです。

▼第1回の記事はこちら

「安曇野まつかわサマースクール」について

松川村での農業体験の様子。アートプロジェクトに参加する武蔵野美術大学の学生が、りんご農家さんにお邪魔しました。(2012年)|撮影者:「安曇野まつかわサマースクール」メンバー

松川村での「アートプロジェクト」は、私が所属していた武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科の授業の一環として行われました。

私が参加した松川村の「アートプロジェクト」は、

  • 「安曇野まつかわサマースクール」(2011・2012年)

  • 「松川村 絵本プロジェクト」(2012〜2014年)

の2つです。

松川村でのプロジェクトを立ち上げられたのは、芸術文化学科の教授を務められた今井良朗先生です。(現在は同大学名誉教授になられています)

毎年6人以上の学生がメンバーとして加わり、今井先生にご指導いただきました。

「安曇野まつかわサマースクール」では、松川村安曇野ちひろ美術館武蔵野美術大学の3者が協働し、松川村の小学生を対象として、毎年夏に1〜2日間のワークショップを行っていました。

このプロジェクトの特徴は、以下の3つです。

・松川村の文化や歴史を楽しく伝える企画
・ワークショップをきっかけに、松川村の食文化を伝える活動に発展
・2002〜2012年まで11年間も継続

今回は、
「なぜワークショップを長い間続けるのか?」
「松川村の方々と武蔵野美術大学の学生で、どんな企画を作ったのか?」

をご紹介します。

「安曇野まつかわサマースクール」は、11年間たくさんの方々にご協力いただきました。
その変遷は、今井先生がご著書『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』にて詳しく執筆されています。

そもそも「ワークショップ」って何?

「そもそも、ワークショップって何をするの?」と疑問に思う方がいらっしゃると思います。

Googleで「ワークショップ」と検索したところ、分かりやすく解説しているWebサイトを見つけました。

ワークショップ(workshop)とは、本来は「作業場」「仕事場」を意味する言葉ですが、 現代では参加者の主体性を重視した体験型の講座、グループ学習、研究集会などを指す言葉として浸透しています。

日本にワークショップが入ってきた1980年前後は、自己啓発系とエコロジー系のワークショップが多く、 その後、ワークショップは言葉の意味を大きく変え、アート系の分野で浸透していきます。 「演劇ワークショップ」「映画ワークショップ」「ダンスワークショップ」などがその一例です。 演劇や映画のワークショップであれば、監督や俳優が直接指導するケースもあります。

引用元:TKP貸会議室ネット「ワークショップの意味・メリットとは

私は幼い頃から絵や工作が好きで、美術館のワークショップに何度も参加してきました。

たとえば、版画の展覧会を訪れて、「この作品、どうやって作っているんだろう?」と疑問がわいても、解説文を読むだけではあまりピンと来ないですよね。

そんな時、版画作りのワークショップに参加すると、体験しながら制作のプロセスを学べます。
理科の実験と同じで実際に試したほうが分かりやすいですし、簡単な工作なら自宅でも再現可能です。

私は、知識や体験を持ち帰れるのがワークショップの魅力だと感じています。

ワークショップを長期間続けるのはなぜ?

黄金色の稲穂が美しい秋の松川村(2012年)|撮影者:浜田夏実

単発で行うワークショップもありますが、「安曇野まつかわサマースクール」では11年もの間ワークショップが続いていました。

学生が参加できるのは最大で4年間と限られていますが、「長い時間をかけて地域の方々と丁寧に向き合う」姿勢は、学生メンバーの間で引き継がれていました。

私が「安曇野まつかわサマースクール」に参加した当初は、松川村の方々とどのように企画を作っていけば良いか、なかなかイメージがわかず…。

そんな時、今井先生や参加した学生メンバーから、以下の2つを教えてもらいました。

・地域の方々が活動を継続するお手伝いをする
→松川村の方々の思いを最優先にプロジェクトに取り組む。
村の方々が主体となって活動を続けるお手伝いするのが、学生メンバーの役割。

・地域の方々と丁寧にコミュニケーションを重ねる
→現地を何度も訪れてお話しを伺い、松川村の文化を体感する。
丁寧にコミュニケーションを重ねることで、地域に密着したプロジェクトを作る。

長い時間をかけ、松川村の方々と武蔵野美術大学でプロジェクトに取り組んだ結果、「安曇野まつかわサマースクール」が終了した後も、新たな展開が待っていました。

ワークショップを共同で企画した「松川村生活改善グループ連絡協議会」のみなさんと、村の食文化を伝える絵本を作ることになったのです!

絵本は2014年に完成し、10年以上経った今も、絵本を活用したイベントが行われています。

村の方々が主体となって活動を継続できる環境が生まれていると言えるでしょう。

「安曇野まつかわサマースクール」ワークショップの紹介(2011・2012年)

武蔵野美術大学の学生が松川村を訪れた時の写真(2012年)|撮影者:浜田夏実

「安曇野まつかわサマースクール」でどんなワークショップが行われたのか、私が参加した2011・2012年の企画をご紹介します。

「めぐるぐるぐるおいしい記憶」(2011年 / 会場:すずの音ホール

松川村のお正月の行事食(2012年)|撮影者:浜田夏実

松川村の郷土食や農作物を入り口として「食の始まり」を知り、「松川村のおいしい記憶」に触れる企画。

村の行事食や伝統的な食文化の継承に注力する「生活改善グループ」のみなさんに多大なお力添えをいただき実現した、共同ワークショップです。

《ワークショップの内容》

  1. 10人ほどのグループに分かれて、昭和30年代の食生活についてお話しを聞く

  2. 公民館内に設置されたスポットを巡り、お米や野菜に関するクイズに挑戦。正解すると食材のカードがもらえる

  3. 食材のカードをもとに、各グループで郷土食の絵を描いて、オリジナルの食卓を作る

《昭和30年代に設定した背景》
「生活改善グループ」の方々にお話しを伺い年代を設定しました。
昭和30年代は高度経済成長期に差し掛かる前で、ご近所で協力して田植えをするなど、昔ながらの生活が残っていたそうです。
また、この年代に「子ども時代を過ごした」という方もいらっしゃいました。
小学生が参加するワークショップなので、子どもの頃のお話しもお聞きできると想像しやすいのではと話し合いました。

「食」をテーマにしたことで、松川村の歴史や文化を分かりやすく伝える機会となりました。

「めくるめく!安曇野カルタであ・い・う・え・お」(2012年 / 会場:すずの音ホール、村内の田んぼや畑)

読み札カルタを着たカカシ(2012年)|撮影者:浜田夏実

「食」にまつわる言葉をカルタで伝える企画。

2011年は公民館内で擬似的に農業を体験しましたが、2012年は子どもたちと一緒に田んぼや畑を巡りました。

楽しむしかけとして、「読み札カルタを着たカカシ」を何体も用意し、村内に設置。

読み札はこんな内容です。
「相談しよう 種まきじいさん 今年の田植え いつにする?」

読んだだけでは何のことか分かりませんね…。

そこで、「生活改善グループ」のお母さんに登場いただき、
「種まきじいさんは、山の表面に現れる雪解けの形から連想したものなんだよ」
「種まきじいさんが現れたら、種籾(種にするお米)を蒔く時期なんだよ」

と教えてもらいました。

春先の松川村の風景(2013年)|撮影者:「松川村 絵本プロジェクト」メンバー

公民館に戻ると、子どもたちに好きな読み札を選んでもらい、1人1枚オリジナルの絵札作りがスタート。
最後は、完成したカルタを使ってみんなで遊びました。

大きな読み札と絵札は写真を撮り、小さなカルタセットに仕上げて、後日子どもたちにプレゼントしました。

「生活改善グループ」の方々との2年間の共同ワークショップを通して、私自身、松川村の食文化への理解が深まったと感じます。


今回は、松川村で毎年夏に開催していた「安曇野まつかわサマースクール」を紹介しました。

プロジェクトに参加する学生メンバーが変わっても、「長い時間をかけて地域の方々と丁寧に向き合う」大切さが引き継がれていたのは、重要な点だと感じます。

松川村の方々とプロジェクトを続けたことで、地域に密着した活動を作るお手伝いができたのは、かけがえのない経験です。

次回の記事では、「松川村 絵本プロジェクト」についてご紹介しますので、またお読みいただけましたら嬉しいです!

こちらの記事は、今井良朗先生のご著書『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』を参考文献として執筆しました。
ご興味のある方は、下記リンクからぜひ詳細をご覧ください。

『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』
著者:今井良朗
発行日:2016年2月10日
発行所:株式会社武蔵野美術大学出版局

▼シリーズ「地域とアートがつなぐ時」


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