岡口基一元裁判官の罷免判決の整理

第1 はじめに

先日話題になった岡口元裁判官の罷免判決を整理したいと思います。

判決文全文です。
https://www.call4.jp/file/pdf/202404/eedf53d85c7eca9ecc33886b4728c6e3.pdf

こちらは、時系列をまとめたものです。

https://www.tokyo-np.co.jp/article_photo/list?article_id=163300&pid=928520

第2 問題となった投稿やその経緯

主に、以下の投稿が問題となりました。

1 江戸川区で発生した強盗殺人、強盗強姦未遂事件

決して許してはならない恐ろしい事件について、不適切な投稿(少なくとも遺族やご本人の気分を害する可能性はあり得る投稿)がされたのが一つ目です。

https://agora-web.jp/archives/240404024812.html

2 犬事件の投稿

これは、該当する投稿の画像等がすぐに見当たりませんでしたが、以下のような犬の事件についてされた投稿と思われます。
「公園に放置されていた犬を保護氏育てていたら、3ヶ月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて「返して下さい」え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3ヶ月も放置しておきながら」という投稿

第3 弾劾裁判所の論理

1 非行とは何か

裁判例や過去の事例の集積がないため、弾劾裁判所は、法令用語辞典を元に、非行は「その者の地位、その行為を行うに至った経緯、その行為が社会に及ぼす影響等すべての事情を考慮し、健全な常識に基づいて身長に判断すべきであり、抽象的に概括することはできない」と指摘します。
その上で、非行にあたるかの判断は、裁判官という地位に望まれる、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為であるかいなかによって決すべきであると明らかにしました。

2 刑事事件の投稿

投稿の文章そのものが遺族にとって「娘が汚されたように感じるというのは当然である」として、遺族の感情を深く傷つけた、とされています。また、岡口氏は謝罪等もしましたが、遺族が洗脳されている、であるとか、東京高裁から注意を受けても皮肉めいた(反省をうかがわせない)投稿をしたとか、様々な経緯を踏まえて、「積極的に遺族を傷つける意図を持って投稿したわけではないが、結果として何度も執拗に遺族を傷つけることになったと評価できる」とされています。そのため非行にあたるとしています。

3 犬事件の投稿

こちらについて、一つの意見として、また、社会に対する啓蒙の趣旨として意見発信をすることは否定されていませんが、投稿の中に貼られた「リンク先の内容の中には他人の人格を蹂躙するような不適切な表現を用いたものも散見される」「犬事件の原告による民事訴訟定期行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示していると受け止められたりするおそれのある表現行為を行ったと言わざるを得ない」として、最終的にはこれも非行であるとしています。

4 非行が著しいか

国民の信託に対する背反が認められる場合に限り非行が著しいと評価すべき旨が示されていますが、刑事事件については「遺族からの抗議等を受けても、真の反省や改善がなく長期に渡って断続的に同様の表現行為を繰り返してきたことは表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものと言わざるを得ない」として非行が著しいとしています。
他方、犬事件については、悪質性は低く、非行が国民の信託に背反する程度まではいたっておらず非行が著しいとは言えないとしています。

以上により、刑事事件の投稿について非行が著しいとして、裁判員の3分の2以上の多数意見により罷免する旨の判決が出されました。

第5 気になったこと

1 文言解釈に収まっていないこと

上記の記載から分かるとおり、投稿文そのもの自体は、完全な名誉毀損、侮辱にあたるかは怪しい部分があると思います。これが仮に民事の開示請求等の文脈で語られる場合は、請求が通らない可能性も大いにあるでしょう。

ただ、遺族の抗議等を受けた後の対応が強く重視された結果、非行が著しいとされたわけで、前後の文脈が大きく影響することは要注意です。

2 裁判官の表現の自由

裁判官という重要な職責にあることからすれば表現には一定の制約はあるのは否定できません。しかし、あまりにも強い締め付けは妥当とは言えないと思います。人間、自身の考えを述べて、それに対する反応を受けて考えを改めたり自身の意見に自信を持ったりすることがあると思います。裁判官はそうしたことができないと言うことになり結果的に裁判官と世論との認識の差を広げてしまうんじゃないかと危惧するところです。

3 ADHD等の弁解について

弁護人側からは、(これは弁護人の仕事ですから悪いとは言いませんが)岡口氏がADHD・発達障害であるため他人の気持ちを真に理解することができないから悪意はない等とした弁解がされていたようです。非常に悩ましいところですが、そんな人なら裁判官になるなよと突っ込まれることが予想されますし、ましてや今回のような社会の注目を集める事件でそのような弁解をすることは是非が問われるところだと思いました。

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