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疲れた体に鞭打って働くことはかっこいいことじゃない

クリニックで患者さんに接していると、どうしてこんなになるまで無理したの……と思える患者さんがたくさんいらっしゃいます。

働き者の日本人は、労働時間も長く、労働の強度も強め。体に鞭打つ患者さんたちを診て感じたことをつづります。


事例1:手に注射を打ちながら働く高齢男性

70代の男性は、奥さんとともに床屋さんを経営。ハサミを毎日使うため、腱鞘炎になり、痛みをこらえて床屋に立つ日々。湿布もあまり効かないらしい。

腱鞘炎は、手の使い過ぎが原因でり患し、手の筋が炎症を起こします。動かしたときや、押したときに痛む。安静にすることが一番の治療ですが、手を動かさないと、収入が得られない。なので、毎週のように手に注射を打ってハサミを持つ。

注射は、キシロカイン(痛み止め)にステロイド(消炎効果を期待)を混ぜたもので、長期的に注射をしていると手の筋を弱めてしまいます。なので、手の外科専門医は短いスパンで腱鞘炎への注射をすることを嫌います。

働くことが好きなのかもしれない。けど、痛みに耐えながら注射を打ってそれでも手を動かし続けなくちゃいけないなんて、なんて切ないのだろうと思うのです。自分の親だったら、もう仕事辞めなよ。年なんだから、ゆっくりしてなよと言いたくなると思います。

この患者さんが、どんなに長く待っていてもいつもニコニコしていて、私たちのことさえねぎらってくれるいい人。いい人だと、患者さんの持つ辛さが、ますます切なく感じてしまうんですよね。

事例2:腰に注射を打ちながら畑に立つ患者さん

60代の男性は、先祖から受け継ぐ広大な畑を持つ。一人で世話するには広すぎる畑で野菜を育て、その野菜を無人販売なので売っているそうなのです。が、半分趣味。実は、土地をたくさん持っていて駐車場として貸したりしているので働かなくても食べていけるそう。

腰痛もちで腰が治ることはないため、医師も「もう畑止めたら…」というのですが、「先祖からもらった土地を自分の代でダメにはできない。」と、腰椎に硬膜外ブロック注射(キシロカインとステロイドが混ざったもの)をして畑仕事を続けるのです。

先祖への責任感で、体に鞭打って畑に立つ。


無理する患者さんを見て思うこと

みんな責任感が強くてすごいなって思うけど、体を壊してまで仕事や土地を守ることを先祖や家族は望んでいるのでしょうか。仕事よりも、亡くなった人よりも、今生きている人のほうが大事なんじゃないのかな。

と、言いかけて余計なことかと思い、言葉を飲み込みました。まじめすぎて、責任を果たそうと思って無理をする人が多すぎます。

みんな、無理しないで。今この瞬間を生きている自分を大事にしてよ。重い状態になる前に。と、患者さんに接するときはいつも思っています。



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