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グロース期のスタートアップ企業が知っておくべき、ソートリーダーシップ戦略

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、「挑戦」と「変化」を目指す企業の「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。
 
2022年は、ロシアのウクライナ侵攻や原料高などによるインフレ傾向、各国で政策金利引き上げが行わるなど市場環境が大きく変化しました。そうした状況に呼応して、スタートアップ企業の調達件数や調達金額、IPO社数も大きく減少しており、投資家のスタートアップ企業を見る目が厳しくなっていると考えられます。このような中、IPOも見据えたスタートアップ企業は、成長社会に求められる企業としての存在感をより一層高めていく必要があります。

そこで、Sansanでマーケティングおよび広報機能の立ち上げに従事し、現在は有名スタートアップ企業や上場企業の広報支援を行うkipples代表の日比谷尚武氏をお招きし、社会に求められる企業として認知されるためのソートリーダーシップ戦略についてヒントを伺いました。

ソートリーダーシップとは

ソートリーダーシップとは、一言でいうと、『××といえば○○』という特定の分野の第一人者のポジションを獲得するためのマーケティング活動である。
顧客に「この人の話は聞いておいた方がいい」という共感や評判が形成できれば、問い合わせの件数も増加し、リードタイムも短縮される。あるいは、講演をするならあの人に登壇してもらおうという露出機会が増えるという効果が得られる。

『名刺といえばSansan』、『キャッシュレスといえば…』『電動キックボードといえば…』など、新しいサービス・事業が生まれるタイミングは、ソートリーダーシップを獲得するチャンスとも言える。

肝心なことは、ただ第一想起を獲得するだけではなく、将来を先取りした解決策を提示することだと考えている。現在あることを解説するだけではなく、「将来はこうなるだろう」「だから今からこういった準備をすべきだ」と語れることが、ソートリーダーシップ戦略に取り組むうえでは重要だ。

押さえておきたい、ブランド浸透のメカニズム

では、どうやって人々が情報を捉えているのか。ソートリーダーシップ戦略を進める上で、そのメカニズムを押さえておくことが大事であると日比谷氏は語る。

人が行動を起こす際、まず「~しよう」「~したい」というきっかけ「発想」がある。その裏には「価値観」があり、その価値観は蓄積された「知見」や「記憶」から生まれている。
当たり前のことだが、最初に正しい情報を的確に相手の頭に残しておくことが非常に重要である。

ソートリーダーシップ戦略でも同様で、企業がモノを買うという判断をする時に、例えば『名刺管理はSansan』という記憶が日々刷り込まれていれば、展示会やテレビCMで目にするきっかけがあった際に「そうだ、名刺管理したかった」「Sansanに問い合わせよう」となる。
このメカニズムを把握できた後に「どうやって情報を蓄積してもらうか(HOW)」、を考えていくこととなる。

どうやって情報を蓄積してもらうか(蓄積とモメンタム)

下の図は、情報を発信した時に相手の記憶にどれだけ残るかを表している。

左)3か月に1回記事化して露出する場合 → 相手の印象に残りにくい
中)1か月以内に4回露出する場合    → 勢いがあると認知されやすいが、その先がないと風化する
右)始めに山を作り、その後コツコツ露出する場合 → 一番印象に残りやすい

ソートリーダーシップ戦略においても、ベストな方法は、右図のようにヤマを設けつつ並行してコツコツと情報を発信していくこと。意識して取り組んでみてほしいと日比谷氏。

ソートリーダーとして活動する際の、6つのポイント

1)セグメントを定義する
まずは、何に関する専門家かを決める。ただし、定義が広すぎると足元が弱く、逆に狭すぎると自社のことばかりと受け取られてしまうため、自社を含めた少し広い市場で抑えるのがポイント。

2)業界を語る
自社や自社サービスのことだけを語るのではなく、自分たちが属する業界全体の動きを語る。
特に、メディアや外部の方と話をする上では重要なポイント。

3)データで語る、4)フェアに語る
主観や感想ではなく、きちんと正しいデータ・ファクトをもってフェアに語ることを意識。そうでなければ発信する情報自体への信頼が得られず、「胡散臭い」「思いつき」「引用するのは危ない」「結局自社のことだけ」と避けられてしまう。

5)タレント化する、6)ストーリーで語る
業界の外にいる人にも認知されるよう、積極的に表に出て発信をしていく。
その際、ファクトの分析をただ語るだけではなく、「世の中がこう変わってほしい」「社会課題をどう解決していこうとしているのか」など、パッションと共に語ることができるとより共感を集めやすくなるだろう。

(※参考:日比谷氏がMarkeZineで過去にまとめられた記事があるので、詳細はこちらもご参考ください。なお記事の閲覧には会員登録が必要です)

具体的な10の打ち手

最後に日比谷氏から、自身がSansanで実際に取り組んだ経験を基に、HOWの具体例を紹介する。

① 第一人者を名乗る
『名刺総研』という研究所を設立して、名刺に関するコラムや調査を量産した。
当時ふと目にした記事で、とある企業が10年前に行った名刺調査が未だに引用されていた。そこで、そのポジションの獲得を狙っていった。

② 業界全体を語る(ポジションマップ)、幅広いスコープで語る
既に世に出ている調査結果や、グローバルでの市場トレンド、周辺業界の歴史・動向を語れるようにしておくことが大事。
経営者ならアナリストや投資家と話す機会が多いが、広報の方だと自社の話だけになりがちなことも少なくない。広い情報を語れるようにしておくのが望ましい。

③  調査レポート(ユーザー調査、市場調査)
有効な武器としてよく使われるのは調査レポート。
・メディア掲載(記事になりやすい、あとから引用される)
・コンテンツ流用(営業資料、セミナーのネタ・引用される)
・専門家ブランディング(講演・コメント・寄稿などで声をかけられる)
などの成果として挙げられる。特に長期的に使える施策として私は愛用していた。

④ ラウンドテーブル、勉強会、メディアレク
メディアリレーションの一環でもあるが、メディアの方を呼んで業界のことを説明する勉強会を設けた。ポイントは、この会でも自社のレクチャーだけをするのではない、という点である。
時には競合企業も呼んで業界を語ることで、専門家としてのブランディングを図っていくという作戦もある。副次的な効果としては、横のつながりを持てることで、他社が掴んだ機会で声がかかるなどの貸し借りも生まれる。

⑤ 調査レポート×記者発表 + エンドース
「働き方といえばSansan」というポジションを狙って行った施策。
当時は「働き方」をテーマにすることは新しく、経産省の方にもヒアリングしたり調査内容を相談して盛り込んだりした。発表会にも経産省の方に登壇いただくことで、記者の方を呼ぶことができて更に記事にもなっていく、という成果につながった。
ポイントは、国の政策やそれを仕掛ける側が注力しているテーマに寄り添うことで、世の中の潮流に適合させることが出来、その流れで自社のことも取り上げられる、となっている点である。

⑥ カオスマップ
今ではだいぶ一般化されたが、カオスマップも市場を語るうえで有効な手段。
この業界を語ると決めた場合は、カオスマップを自身で作るか、最近作られたものが既にあれば語れるようにしておくことが大事。

⑦ 白書
業界をリサーチして、国内外の動向や課題、有識者の意見、あるべき姿等をまとめる手法。作成した白書をカンファレンスで紹介する、ということも次の打ち手として可能。

⑧ 総研、有識者との対談
誰か1人の存在感が立っている方が記憶に残りやすいケースがある。決してスター的な人物でなくても、誰か広報の顔となる人を立てることをオススメする。専門家を立てるとメディアがコメントを求めやすくなる。

⑨  コンソーシアム設立や参画
日本能率協会が「BtoBマーケティング懇親会」を設立した際に、Sansanは当時まだ弱小だったこともあり飛びついた。このコンソーシアム内で積極的に発信することで、BtoBマーケティング業界で一角の存在を勝ち取りに行った。自分たちだけで業界を語るにはパワーやフェアネスがまだ足りないという場合は、横並びの業界と一緒に方針を決めたり提言をまとめたりすることで、説得力/発信力を強くするという例。

⑩ カンファレンス開催
自分たちの業界の存在感やテーマを、業界内の関係者や行政、有識者とともに、イベントを通じて広く世の中に打ち出していくことは、ソートリーダーシップ戦略としても広報としても、知っておきたい手法の一つ。

大事なのは、これらの手法をもって、一発花火をあげるのではなく、ヤマを作りながらもコツコツと情報発信していくことと日比谷氏は語る。
1種類の手法だけ、1度の発信だけで終わりということではなく、複合的に組み合わせて発信を続けていくことで「××といえば○○」というソートリーダーシップの形成につながるのだ。

本日は、「ソートリーダーシップ戦略」について、概論から具体的な打ち手まで網羅的にご紹介した。グロース期にあるスタートアップ企業の経営者や広報の方にとって、参考になれば嬉しいと日比谷氏は語った。

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https://inquiry.nks.co.jp/webapp/form/22286_ezgb_86/index.do

日比谷氏の過去登壇いただいたイベントレポートはこちら▼
「成長期における企業広報の取り組み方」を中心にお話いただいております。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。
#イベントレポート 「ゼロイチをつくる!事業成長を加速する企業広報のススメ」


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