猫が死んだ日

猫が死んだ。

私が子どもの時に、庭に迷い込んできた子猫。それから21年。
そろそろかと予期してはいた。

母から知らせがあり、すぐに実家に行った。

小さな獣は、敷物の上に寝かされていた。
目玉が、ガラスのように透きとおっていた。開いた口から、血の気の引いた白っぽい歯茎が見えた。
「目は閉じんのやわ」
母が言った。

なにをするでもなく、5才の息子と、裏の川原に行った。
岸に鴨がたくさんいた。50羽はいただろうか。
息子が近づくと、鴨は一斉に羽ばたき、水音を立てて川に逃げた。
ふと足元を見ると、ピンクのカタバミの花が咲いていた。傾いた日差しの中、風にゆれている。
こんなところにも命があるのが、急に不思議に思われた。
陽はあたたかいのに、川面から吹き上げる風が冷たかった。

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