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鉄分マシマシ!ディズニーシー・エレクトリックレールウェイの濃い話

広い敷地内を走る3つの鉄道

東京近郊を代表する観光地、東京ディズニーリゾート。東京旅行や修学旅行、卒業遠足などで訪れた方も多いであろう。公式ウェブサイトによれば東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを合わせた来場者数は年間3000万人近くにものぼり、間違いなく日本一のテーマパークといえよう。

さて、ここには3つの鉄道が走っている。広大な敷地をぐるりと回ってゲストを運ぶモノレール「ディズニーリゾートライン」、蒸気機関車が走るディズニーランドの環状鉄道「ウエスタンリバー鉄道」、パーク内の二箇所を結ぶ東京ディズニーシーの高架鉄道「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」の3つである。

ここでは、この中のディズニーシー・エレクトリックレールウェイについて、鉄道好き:テツ目線で濃い話をしてみようと思う。

ノスタルジックなトロリー式電車で、時空を超えて20世紀初頭のアメリカンウォーターフロントへ。ゆっくりと走る高架鉄道の中から美しい景観をお楽しみください。
東京ディズニーリゾート公式ウェブサイトより
喧噪の街並を抜けると、見えてくるのは初めてなのに懐かしい華やかな港。ここは時空を超えた未来のマリーナ、ポートディスカバリー。
東京ディズニーリゾート公式ウェブサイトより
この電車は2つの駅を往復していますが、アメリカンウォーターフロントエリアは主に1912年頃が舞台。対してポートディスカバリーは明確な年代や場所の設定はありませんが、「100年前の人が想像した未来の港」となっています。そのため、この電車は「時空を超えてタイムスリップ」しているという事になるのです。
ウレぴあ総研より
20世紀初頭のニューヨークは急速な発展により手狭な状態になっていた。この問題を解決すべく、それまで路面鉄道として活躍していた車両を利用して高架鉄道化した。すると、不思議なことにこの高架鉄道は時空を超える鉄道になったのです。
ニコニコ大百科より

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アメリカンウォーターフロント駅の高架下にさりげなく掲げられている看板。これが「未来の港の想像図」だという噂だ。

変わった設備、変わった車両

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイという名の通り、走っているのは電気で走る電車ではあるものの、線路の上に架線は張られておらず、パンタグラフやトロリーポールによる集電はしていない。代わりに2本のレールの横には第三軌条(サードレール)が敷設してあり、この上側に車体の台車側面にある集電靴を擦り付けることによって受電している。これは東京メトロ銀座線などの地下鉄でよくみられる方式である。

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車両にはパンタグラフがなく線路上に架線も張られていない。

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枕木の上に載っている2本のレール、内側にあるのが脱線防止ガード。緑色の欄干のようなものが感電防止カバーで、下にあるのが第三軌条である。

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手前の緑色のものが感電防止カバー、その下のレールが第三軌条である。台車に取り付けられた集電靴が第三軌条を擦っているのが分かるだろうか。この集電靴は各車両に2つ、アメリカンウォーターフロント方山側、ポートディスカバリー方海側に千鳥配置で搭載されている。

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイの線路は、アメリカンウォーターフロントを出るとS字カーブをして、ポンテ・ベッキオ橋に沿う。路線で一番のハイライトとなる運河のアーチ橋を通過して、ゆるいS字カーブを経てさらにS字カーブし、ポートディスカバリー駅へと至る。
このうち最も急なアメリカンウォーターフロント駅付近のS字カーブでは、車輪通過時のきしみ音を軽減するために散水装置による水撒きが実施されている。

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散水装置(画面中央)が作動しているところ。高頻度運転のため、一定間隔で散水しているようだ。

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ディズニーシー・エレクトリックレールウェイの高架下には不自然に植木が置かれているが、これは散水装置から水がポタポタ落ちてくるためである。写真では落ちてきた水が地面を濡らしている様子が分かる。

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイの軌間(レール幅)はナローゲージとも呼ばれる762 mmとなっている。これは黒部峡谷鉄道などで採用されているものと同じ幅で、JRの在来線などで使用されている1067 mmよりも狭く、新幹線などで使用される標準軌:1435 mmの約半分の幅である。この軌間の狭さに合わせて車両の車体幅も狭くなっている。

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイはアメリカンウォーターフロント駅とポートディスカバリー駅の2駅間を結んでいるが、この間で途中駅はなく、駅間は複線、駅構内はどちらも単線である。そのため、ホームで乗降が行われている際に電車が接近した場合は構内手前で待機のため一旦停車することになる。
単純な線路構成ではあるものの、列車通過時に車輪のフランジとばねの蓄圧で自動的に線路を切り替えるスプリングポイントではなく、通常のポイントが設備されているようだ。
アメリカンウォーターフロント側の終端は車庫に、ポートディスカバリー側の終端は可動式車止めが設置されている。運用によっては、ポートディスカバリー側終端の余長を利用して電車を一本留置することもあるようだ。

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ポートディスカバリー駅の可動式車止め。

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイの最高速度は15 km/hで、駆動はローラチェーン方式で行われている。これは台車に搭載されたモータによりスプロケット(歯)を回し、噛み合うローラチェーンにより車輪を回転させているもので、構造的には自転車やバイクの後輪と似ている。乗車しているとビィーン…とスプロケットとチェーンの回転する音が聞こえる。機構の動作については下の動画が分かりやすかったので紹介する。

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台車に搭載されているスプロケットとローラチェーン。

運用と編成

保安装置は東急東横線などで実績のあるCS-ATC方式で、ATO:自動列車運転装置を使った自動運転が行われている。各編成には運転士が乗務しているものの、電車の出発については駅ホーム上に設置された操作盤から行っており、運転士は非常停止の取り扱いとドアの開閉・車内アナウンス・乗降時の誘導を担当している。

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運転台は乗務するときのみ開けるようになっており、不使用時には蓋がされている。

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ポートディスカバリー駅ホーム中央にある操作盤。緑色のボタン押下で発車となる。

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アメリカンウォーターフロント駅の2階にある駅事務所には運行司令室のようなものがあるが、もちろんこれはただのディスプレイである。

車内は外に座席が向いた背中合わせのロングシート。出入口は各車両の端部に片側2箇所、合計4箇所ずつ備えられている。ドアはキハ35系列などで使われている外吊り方式を採用。定員は2両編成合わせて42名で、つり革がなく外吊り式ドアのため立席の利用は行われていない。発車前・到着前には運行中は着席するよう注意喚起のアナウンスがされている。

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ロングシートの並ぶ車内。車端部は広めでベビーカーや車椅子にも対応している。

2両編成の電車が4本所属しているが、うち1本は予備編成としてアメリカンウォーターフロント駅奥の車庫に入っている。混雑状況により運用は変化し、利用者が少ない場合には2本、多客時には予備車含めた4本全てが運用に入ることもある。
車体に描かれている車両番号は5591+1111・1022+2842・1783+5593・0214+4824である。各編成は4番目の数字がそれぞれ1・2・3・4となっており、ここを見ることで何編成か識別ができる。1~3番目の数字には法則性がないことから形式名の法則は無さそうだ。
なお、車両同士は半永久連結器によってボルト締結されており、それぞれの組み合わせは固定されている。

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アメリカンウォーターフロント駅構内の終端を見たところ。奥に見える建屋は予備編成を入れておく車庫になっている。

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車両間の半永久連結器。棒状の連結器がボルトで締結されている。こちらは5591+1111なので1編成である。

電車を撮ってみる

ここからは実際に撮影した例を元に写真が撮れる場所について紹介してみたい。場所は東京ディズニーシーの案内図にあるゾーン分けに従い、アメリカンウォーターフロント、メディテレーニアンハーバー、ポートディスカバリーで分けている。

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイはアメリカンウォーターフロント駅からポートディスカバリー駅までほぼ東西に走っている。そのため、東側から撮影する場合は午前中が、西側から撮影する場合は午後が順光となる。
そして、太陽は春分から夏至を経て秋分までは北側に寄り、秋分から冬至を経て春分までは南側に寄る。このことから考えると、線路よりも北側(山側)で撮りたい場合は夏が、線路よりも南側(海側)で撮りたい場合は冬が撮影に適していることになる。

なお、以下ではカメラの細かい設定は載せず、どれくらいのズーム機能があればどういった写真が撮れるのかの参考として掲載する。

撮影例(アメリカンウォーターフロント編1)

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マクダックス・デパートメントストア前からアメリカンウォーターフロント駅に停車中の電車を撮影。ここからだとアメリカンウォーターフロントのニューヨークを模した街並みを入れることができる。背後にはパーク内で一番高い59 mの建造物、タワーオブテラー(ホテルハイタワー)がそびえている。
35 mm換算で30 mm。(顔にはぼかし加工をしています)
建物が多く影が落ちやすい。撮影は昼頃が良さそうだ。

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アメリカンウォーターフロント駅に止まる電車を終端側から。鉄骨のブレース(筋交い)の間から見える電車もカッコいい。
35 mm換算で35 mm。

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アメリカンウォーターフロント駅に止まる電車をポートディスカバリー駅側から。
35 mm換算で35 mm。

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アメリカンウォーターフロント駅の降車エリアから入線する電車を撮影。
35 mm換算で90 mm。

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マクダックス・デパートメントストアの裏から電車同士が離合するシーンを撮影。ここはきついS字カーブになっているので編成がうねるところを見ることができる。道から撮影してみたものの、電線が入ってしまった。
35 mm換算で35 mm。

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スチームボート・ミッキーズのレトロな看板を入れた例。もっと広角側で撮影しても良さそうだ。
35 mm換算で24 mm。

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スチームボート・ミッキーズの前で看板と電車を後追いで。電車は15 km/hで走っているため、後追いの撮影にも余裕がある。
35 mm換算で24 mm。

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望遠でポンテ・ベッキオ橋と東京ディズニーシーのシンボル・プロメテウス火山を入れて電車を撮影。こちらもスチームボート・ミッキーズの前から。
35 mm換算で135 mm。

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こちらは少し引いて橋を入れたバージョン。ちょうど電車同士が離合している。
35 mm換算で50 mm。

撮影例(メディテレーニアンハーバー編)

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ディズニーシー・エレクトリックレールウェイと並行するポンテ・ベッキオ橋手前からだと、木と木の間から、タワーオブテラー(ホテルハイタワー)との2ショットを狙える。葉っぱをどうするか構図を考える必要がある。
35 mm換算で100 mm。

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ポンテ・ベッキオ橋のアメリカンウォーターフロント側から、電車がカーブに差し掛かるところを望遠で狙った写真。
35 mm換算で200 mm。

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さらに望遠側にすると、アメリカンウォーターフロントの建物や看板と撮影が可能。背景もりもりで雰囲気が出る。
35 mm換算で200 mm(トリミング済)。

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木に遮られるため、ここからはカーブ内側となるポートディスカバリー方面電車のほうがよく撮れそうだ。
35 mm換算で200 mm(トリミング済)。

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直線に入ったところで1枚。ポンテ・ベッキオ橋からの撮影は冬場だと逆光がちとなる。撮影は夏場の午後が良さそうだ。
35 mm換算で200 mm。

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引いてさらに1枚。
35 mm換算で100 mm。

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ここでカメラを右に振れば停泊するS.S.コロンビア号とも撮影ができる。アメリカンウォーターフロントを代表する2者を絡めた構図。
35 mm換算で30 mm。

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この橋では、鉄橋のポートディスカバリー側からも撮影ができる。
35 mm換算で40 mm。

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望遠だと圧縮で鉄橋全体を入れることも。不思議な形の電灯がいい味を出している。
35 mm換算で100 mm。

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鉄橋の下あたりには歩道があるため、ここからも撮影はできるが、アーチ橋の柱が多いため前面を抜くのは厳しいか。
35 mm換算で50 mm。

撮影例(アメリカンウォーターフロント編2)

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S.S.コロンビアの脇を通る道のハドソン・リバー・ブリッジ橋から、停泊している船群と電車を絡めて撮影。
35 mm換算で35 mm。

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アーチ橋を渡る電車を望遠で撮影。ポンテ・ベッキオ橋を背景に。
35 mm換算で90 mm。

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引いて撮れば、停泊しているディズニーシー・トランジット・スチーマーラインの船とも撮影ができる。このときはポンテ・ベッキオ橋が補修中で見栄えが悪かった。
35 mm換算で35 mm。

撮影例(ポートディスカバリー編)

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ポートディスカバリーのリバティ・ランディング・ダイナー前のポップコーン屋あたりから、カーブに差し掛かる電車をいい具合に撮影できる。ここからはアメリカンウォーターフロント方面の電車は線路に邪魔されて撮影できない。
35 mm換算で90 mm。

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後打ちだとインカーブでこのようになる。写真で分かる通り、アメリカンウォーターフロント側のカーブより曲線半径がゆるいので違った雰囲気になる。
35 mm換算で35 mm。

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カーブから直線に入ったところの電車を望遠で撮影したもの。
35 mm換算で55 mm。

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広角側にするとプロメテウス火山を背景にして撮影可能。
35 mm換算で40 mm。

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ポートディスカバリー駅手前のポイント部分からの1枚。電車が詰まっている場合はここで一旦停車するため撮影しやすいが、目立つ柵があるため処理には困る。撮影には不向きであろう。
35 mm換算で55 mm。

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ポートディスカバリー駅の下からトーチのような装飾と駅へ入る電車を撮影した。
35 mm換算で55 mm。

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ポートディスカバリーの駅に停車している電車を写したもの。レトロな電車はアメリカンウォーターフロントの街並みともポートディスカバリーの雰囲気ともよくマッチしている。
35 mm換算で70 mm。

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ポートディスカバリー駅横の階段から発車した直後の電車を撮影。運良く人が居ないときだけできる構図かもしれない。
35 mm換算で24 mm。

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シーサイドスナックのあたりから、アクアトピア越しに撮影したもの。謎オブジェが林立する中を行く電車はややシュール。
35 mm換算で24 mm。

アトラクションとしての鉄道

余談ながら、アメリカンウォーターフロント駅とポートディスカバリー駅の間の距離は480 mで、アトラクションの所要時間は2分30秒。ちなみに同じ距離を徒歩で移動すると6分程度(80 m/minとする)なので、待ち時間が10分だった場合は潔く歩いてしまったほうが早かったりする。単純な移動手段としては微妙な立ち位置だが、アトラクションを兼ねていると考えれば多少待って乗るのも悪くはないだろう。

おわりに

ディズニーシー・エレクトリックレールウェイについて、その線路・車両・運用・撮影地について紹介してきた。実は奥深いディズニーシー・エレクトリックレールウェイについて、この記事を通して少しでも興味を持って頂けたら幸いである。

東京ディズニーシー開園19周年おめでとうございます!

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