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全身麻酔の看護

全身麻酔の看護について

急性期病院で勤めている方や実習に行っている看護学生は必ず勉強しなくてはならないのが、”全身麻酔”だと思います

全身麻酔は簡単に言うと”薬剤を使用し眠らせて手術をすること”

今回は手術室看護師の視点から、全身麻酔についての知識を共有していきたいと思います

この記事で分かることは以下の通りです

全身麻酔について

全身麻酔で使用する薬剤について

  1. 吸入麻酔薬

  2. 静脈麻酔薬

  3. 筋弛緩

  4. 筋弛緩拮抗薬・リバース薬

全身麻酔導入後の観察項目について


Ⅰ.全身麻酔について

全身麻酔とは?
→ 薬剤を使い、痛み刺激によって覚醒せず意識消失させること

全身麻酔の大事な3つの要素として、”鎮痛””鎮静””筋弛緩”がある

この3つの要素を意識しながら読み進めてみてください

鎮痛
鎮痛とは?
→ 痛みを鎮めること

鎮痛薬の種類は?
→ 麻薬性鎮痛薬であるオピオイドには、フェンタニル、レミフェンタニル、モルヒネ

鎮静
鎮静とは?
→ 薬剤を使用して眠った状態にすること

鎮静薬の種類は?
→ 吸入麻酔薬、静脈麻酔薬の大きく2つ

筋弛緩
筋弛緩とは?
→ 筋弛緩は薬剤作用によって全身の筋肉を緩める

筋弛緩の種類は?
→ ロクロニウム


ここから先はそれぞれの薬剤について詳しく解説していきます

Ⅱ.吸入麻酔薬について

吸入麻酔薬の代謝は?
肺から吸入し肺から排泄される

吸入麻酔薬の種類は?
”亜酸化窒素(笑気)” ”セボフルラン”  ”デスフルラン”がある

薬剤の適応、用法・用量、禁忌、副作用は以下の通り


笑気®︎  亜酸化窒素 N2O
【適応】
点滴が取れない患者での導入(主に小児)、術中鎮痛の補助

【用法・用量】
酸素と同時に70%以下の濃度で使用

【禁忌】
・体内に閉鎖腔がある患者
 1.耳管閉塞、気胸、イレウス、気脳症
 2.眼内ガス注入手術中と術後 眼内ガス使用後、笑気は3ヶ月間は使用禁止
 3.鼓室形成術
※注意
・麻酔導入時には、一時的に興奮期が存在する
→体動が激しくなる患者もいるため、転落に注意
・低換気の状態が続くと、覚醒後でも再入眠の可能性がある

【副作用】
・嘔気・嘔吐を起こしやすい


セボフレン®︎  セボフルラン
【適応】
禁忌がなければ比較的誰でも使用できる

【用法・用量】
笑気・酸素または空気・酸素とともに気化器で0〜4%の吸入濃度として使用。導入時の吸入濃度:気化器で0.5〜5%

【禁忌】
悪性高熱症の患者

【相対的禁忌】
腎機能障害

【副作用】
呼吸抑制・循環抑制
痙攣や不随運動
悪心


スープレン®︎   デスフルラン
【適応】
禁忌がなければ比較的誰でも使用できる

【用法・用量】
 3.0%で開始し適宜調節(最高7.6%まで)

【禁忌】
 ・ハロゲン化麻酔剤に過敏症、気道過敏性がある患者、悪性高熱症(既往および疑い)
※注意
 投与数分程度で覚醒するため、鎮痛を十分にする必要がある

【副作用】
・頻脈・血圧上昇
・呼吸抑制
・循環抑制 
・悪心


Ⅱ.静脈麻酔について

静脈麻酔薬とは?
静脈路を介して全身的に麻酔効果を得る

静脈麻酔薬の種類は?
”プロポフォール””ミタゾラム””ジアゼパム”


ディプリバン®︎ プロポフォール
【適応】
禁忌がなければ使用できる。特に吸入麻酔薬を使用できない患者や、吸入麻酔薬に比べて術後悪心・嘔吐(PONV)のリスクが低いため、PONVnoリスクが高い患者に適応がある。

【用法・用量】
・麻酔導入:2〜2.5mg/kg 静注 (投与速度 0.05mL/kg/10秒)
・麻酔維持:4〜10mg/kg/時間
 麻酔維持は酸素ー笑気、鎮痛薬(硬膜外麻酔などの局所麻酔、麻薬性鎮痛薬)を併用して人工呼吸、循環管理を行う
・フェンタニル併用時、麻酔導入はさらに少ない量で可能

【禁忌】
・大豆・卵黄に過敏症のある患者
・本剤の成分に過敏症
・妊産婦

【副作用】
・脂肪乳剤のため血管痛がある←結構な割合で痛みを訴える患者が多いです
・循環抑制:徐脈・低血圧


ドルミカム®︎ ミタゾラム
【適応】
導入時の血圧変動(低血圧など)が少ないため、心機能が悪い患者には選択肢の1つとなる

【用法・用量】
・全身麻酔の導入および維持:0.15〜0.30mg/kg 静注
 必要に応じて初回量の半量から同量追加
・局所麻酔時の鎮静:(10mgを10mLに希釈後)1〜2mLずつ呼吸状態を観察しながら投与

【禁忌】
・緑内障患者
・重症筋無力症
・HIVプロテアーゼ阻害剤投与中の患者
・ショック、昏睡、急性アルコール中毒

【副作用】
量により呼吸抑制、舌根沈下


ホリゾン®︎   ジアゼパム
【適応】
麻酔導入のほか、痙攣時に使用します

【用法・用量】
・局所麻酔時の鎮静:10mLに希釈し1mL(1mg)ずつ緩徐静注
・抗痙攣薬として:0.2mg /kg緩徐静注

【禁忌】
・急性狭偶角緑内障、重症筋無力症、ショック患者
※注意
・高齢者、肝硬変(過剰投与で覚醒遅延が起こる)


Ⅱ.筋弛緩について


筋弛緩の目的には
・気管挿管時の咽頭反射の除去
・術中の調節呼吸を容易にする
・体動の抑制
・腹筋弛緩による術野の確保

などがあります


エスラックス®︎  ロクロニウム
【用法・用量】
・初回量(通常):0.6mg/kg(上限量:0.9mg/kg)
・追加投与:0.1〜0.2mg/kg
・持続注入時:7μg/kg/分

【禁忌】
・重症筋無力症、筋無力症候群
・チオペンタールナトリウム、重炭酸加輸液製剤などのアルカリ性薬剤との混合
※注意
 挿管不能換気不能状態に陥った時はスガマデクスナトリウ(16mg/kg)の準備

【副作用】
・肝不全患者では作用の遷延、回復の延長
・挿管不能換気不能状態(危険)
・静注時血管痛

【効果発現/持続時間】
2分/20〜30分
麻酔導入後の呼吸(換気)


Ⅱ.筋弛緩薬拮抗薬・リバース薬について

手術中に筋弛緩を使用したが、まだ患者の体の中には筋弛緩が残っていることがあります

筋弛緩の代謝するまで、時間がかかりそう…
そんな時に使用するのが
筋弛緩薬拮抗薬・リバース薬です


ブリディオン®︎ スガマデクス
【適応】
ロクロニウムまたはべクロニウムによる筋弛緩状態からの回復

【用法・用量】
①浅い筋弛緩状態〔筋弛緩モニターにおいてTOF刺激による2回目の収縮反応(T2)の再出現を確認した後〕:1回2mg/kg  静注
②深い筋弛緩状態〔筋弛緩モニターにおいてPTC刺激による1〜2回の単収縮反応の出現を確認した後〕:1回4mg/kg  静注
③ロクロニウムの挿管用量投与直後に緊急に筋弛緩状態から回復を必要とする場合:1回16mg/kg  静注(ロクロニウム投与3分後に使用)

【禁忌】
過敏症の既往
※注意
・自発呼吸が回復するまで必ず調節呼吸を行うこと
・状況によっては、筋弛緩再発の恐れがあり、呼吸状態の観察が必要

【効果発現/持続時間】
1〜2分/120分


アトワゴリバース®︎ ネオスチグミンとアトロピン混合液
【適応】
非脱分極性筋弛緩剤の作用の拮抗

【用法・用量】
・成人には1回1.5〜6mlを(ネオスチグミンとして0.5〜20mg,アトロピン0.25〜1.0mg)緩徐に静注

【禁忌】
消化管・尿路の器質的閉塞(運動を亢進させ、排尿筋を収縮させる作用があるため)、迷走神経緊張症(迷走神経興奮作用があるため)、脱分極性筋弛緩薬投与中(作用を増強させるため)

【効果発現/持続時間】
7分/55〜75分

【特徴】
アトロピン:ワゴスチグミン=1:2の割合で配合されたプレフィルドシリンジ


以上で全身麻酔で使用する薬剤の紹介でした。


次は全身麻酔を導入した時の呼吸(換気)の観察項目について解説していきます


Ⅲ.麻酔導入後の呼吸(換気)の観察項目

呼吸音(気道狭窄音)
→ 挿管されたチューブが正しい位置に入っているか確認する

カプノメータの波形
カプノメーターの波形を変化させる因子
〈生体側〉
・末梢組織におけるCO2産生(代謝)
・ガス交換による肺でのCO2の換気能(呼吸)
・末梢から肺へのCO2の運搬(循環)
〈機器側〉
・人工呼吸器設定や気管チューブの閉塞

EtCO2の値
→ 呼吸中にEtCO2を認めない場合
・食道挿管
・呼吸回路のディスコネクション
・心停止による肺血流の途絶
→ 呼気中のEtCO2が低下している場合
・低体温
・肺胞換気量の増加
・心停止
・循環血液量の減少
・肺塞栓症
・気管チューブの部分的屈折
・人工呼吸回路の部分的なリーク、故障

💁‍♀️看護ポイント
 モニタの値、患者の観察を行い、カプノメトリの値、パルスオキシメータの値の異常が起こっているのが”見かけの低酸素血症”なのか”真の低酸素血症”なのかを判断する

・真の低酸素血症と判断された場合
→ 換気不全が伴っているか、伴っていないのかのアセスメントを行い、麻酔科医とともに対処する準備を行う

・確実に気管挿管ができているか確認
→できていなければ(食道挿管や片肺挿管など)、即座に再挿管の準備を行う

・麻酔器の人工換気の切り替えができているか確認
→呼吸回路から、挿管チューブまで注意深く確認を行う

SpO2の値、波形の異常の有無
・麻酔導入時は、鎮痛、鎮静薬、筋弛緩薬の影響により、上気道閉塞、呼吸停止が発生する

・挿管直後であれば、気管チューブの位置異常、呼吸回路の接続の外れ、用手換気と人工換気の切り替えの不備などで、低酸素血症となる場合が多い、肺には機能的残気量があり、多少の無呼吸ではSpO2の低下は起きない

・血圧低下や、体温低下では末梢血管収縮を起こし波形は小さくなる

💁‍♀️看護ポイント
・モニタの観察、呼吸回路から挿管チューブまで、胸郭の動きの確認を行い、患者が呼吸していることを確認する
・正しく波形が出るプローブを装着をするとともに、装着部位、種類を適切に選ぶ

気道内圧
気道内圧が”高い”→麻酔回路やチューブの閉塞、気管支喘息発作や気管支痙攣の発作
気道内圧が”低い”→麻酔回路の漏れ・外れ、チューブの位置異常(食道挿管)、カフ漏れ
※麻酔導入時の気道内圧の異常では、麻酔回路・チューブのトラブルが多い
 
麻酔導入時は、導入薬の投与から気管挿管まで無呼吸の状態である
気管挿管後に、気道内圧の異常があると、呼吸できない時間が長く、酸素化が保てなくなる。また、人工呼吸中に高い気道内圧(正常値10cmH2O〜30cmH2O)が続くと、肺を損傷してしまう可能性がある

💁‍♀️看護ポイント
・気道内圧の異常の原因を早期に発見し、原因を取り除くことが重要
・麻酔器から麻酔回路、挿管チューブまで異常がないか観察
・麻酔科医が原因に対してすぐ対応できるよう準備を整える(気管吸引の準備、カフ圧測定器、再挿管の準備、新しい蛇管の準備など)

また、更新していきますね
ご精読ありがとうございました

お仕事、実習Fight!!


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