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ep.8 思い出の場所を上書きしていく話


元恋人たちのことを他人に話す際、地名で呼ぶクセがあります。東京ならその人が住んでいた駅名、他県なら県名で(例えば秋葉原 や 栃木 のように)。


昔からの友人たちは、私の惚れた腫れた云々をリアルタイムで近くで見てきた人たちなので、元恋人たちのことも知っていて。友人と遊んだ時に話の流れでお互いの過去の恋愛について話す、なんてことも当たり前にあります。きっとなかには、過去のことは一切忘れる!というスタイルの人もいると思うけれど、私は良くも悪くも今の私を構成する一部だし、未練とかではなく、"一種の思い出"としてとっておきたいな、というスタイルです。





とはいえ、私は現在(いま)を生きているわけで、毎日のように誰かのことを思い出す、なんてことはなく、むしろ普段の生活に過去が絡んでくることはほとんどないです。

ただ、時々その人が住んでいた街に用事があって降り立ったりした際、その人に纏わる色んな過去の記憶が蘇ってくる感覚があります。




そういえばこの道何度も一緒に歩いたな〜とか、いつも改札出たところでニコニコして待ってたな〜とか。
そして、今どこで何しているんだろうな〜と思い出します。ep.4『音楽は呪いだと思う話』で、元彼に教えてもらった歌の話をしましたが、地名も同等に私の中では呪いです。というか、多分地名で結びつけて勝手に呪いにしているのは私です。

あんなに毎週のように会いに行っていた場所でも別れてしまったら、その土地に足を運ぶ理由がなくなる。人同様に街にも愛着は湧くもので、理由がないと行けないわけでないけれど、"会いに行く"理由がなくなるなんて、ちょっと寂しいものですよね。



そして、皮肉にも、私はお別れした3年後に元恋人と過ごした街に異動が決まったり、会いに行くために乗っていた電車を使って通勤することになったりして、その街に訪れる理由が時間の経過と共にどんどん変わっていく感覚を味わうことになります。




スキップとローファーという漫画の中の主人公のセリフで

「土地の記憶は人の記憶だと思います。」

高松美咲『スキップとローファー』1巻より



というものがあるのですが、言い得ているな、と思いました。この漫画は、あらすじをざっくり言うと、石川県の小さな町で育った主人公が、官僚になり自分の街の過疎化問題を解決することを夢見て都会の進学校を受験。高校進学を機に東京へ上京し、慣れない都会生活の中で様々な人に出会って成長していく、といった物語なのですが、上記のセリフはその中で主人公が高校で出来た友達たちと初めて休日に渋谷にお出かけした際のセリフです。(ちなみに漫画の中では「なので私はきっとこの場所を好きになります」が続きます)




この漫画の中での意味合いとはちょっと私の場合は違うけれど、元恋人の本名とか誕生日などの個人情報は正直時間が経つと共にパッと瞬時には思い出せなくなってきているのに、住んでいた場所だけは今でもハッキリ覚えている。これは私にとっても "土地の記憶は人の記憶" なんだと思います。他の街とは思い入れが少し違う、この感覚は多分ずっと残ります。




ただ、どの記憶が蘇っても、今の私は立ち止まってはいません。住まいが京浜東北線沿線だった元恋人と別れた時は、その後しばらくは京浜東北線を見る度にホームでメソメソ泣いていたくらい弱っちかった私が、今では全く気にせず京浜東北線に乗れるようになっています。



産まれてから27年、東京で生きてきて、老若男女問わず沢山の人に出会ってきて、色んな人と関わって、その中で何人かとは恋をしたりしなかったりなんかしてここまできました。
色んな場所に住んでいる人のことを好きになって、一緒に過ごして、やがて離れて、を何回か繰り返して、色んな場所に過去に好きだった人達との思い出がある状態でこれからも私は東京で生きていくんだと思います。
でもいつまでも思い出に浸って前に進まなかったら京浜東北線に一生乗れないし、どこにも行けなくなってしまう、私はそんなヤワじゃないわ。



ちょっと思い出して、懐かしくなって、そして今度は今隣にいてくれる人と新しい思い出の場所を沢山作れたら、それで良いんじゃないかな。なんて思います。元恋人との思い入れがある街が、職場の最寄り駅として上書きされたように、思い出の地名の中のいくつかはもしかしたらまだ私も知らない何かの理由に上書きされて、こんなことも思わなくなる日がいつか来るのかもしれないですね。




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