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ビルメンテナンス業界の障がい者雇用のパイオニア 株式会社美交工業 

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

ここでは、大阪版ソーシャル事業所認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。

今回はビルメンテナンスの分野で障害者雇用を積極的に行っている美交工業さんをご紹介します。専務の福田久美子さんにお話を伺いました。

株式会社美交工業

主な事業はビルメンテナンスと公園管理で、ビルメンテナンス業では公共施設の清掃業を中心に、就職困難者や障がい者が活躍できる環境を整備し、積極的に雇用している。障がい者雇用率は22.22%(2021年6月)、このような取り組みの結果、2005年ハートフル企業大賞を受賞、2020年には障がい者雇用に関する優良な中小企業に対する「もにす認定」を大阪で初めて取得した。

「はたらく応援室」を設け障がい者雇用を後押し


――美交工業さんが障がい者雇用をはじめたきっかけについて教えてください。

弊社はもともと障がい者雇用は0パーセントで、従業員規模も小さく法定雇用率が義務付けされる会社ではありませんでした。設立は昭和55年(1980)で、公共事業をメインに、役所や大阪市営地下鉄の清掃業務を請け負っていました。これら公共事業は入札により価格が最も低いものが落札されるため、価格競争にさらされていました。

障がい者雇用を始めたきっかけはエル・チャレンジさんとの出会いです。

エル・チャレンジの構成メンバーは手をつなぐ育成会が入っていることから、ご家族や支援機関との連携、ノウハウを得られるなどの安心感を抱いたことから、平成15年(2003年)から開始しました。

ー-実際に障がい者雇用を始めてからどんな変化がありましたか。

最初の面接ではエル・チャレンジさんやご家族も参加されて、ひとりの人生がこれで変わるのだという緊張感がありました。実際現場に入ってもらうと、驚くことの連続でした。例えば一生懸命掃き掃除をしすぎて、土を掘ってしまうような方もいました。しかし、そうやって働く姿を見て、ビルメンテナンス業界は最低賃金の上、3Kの職場と言われますが、障がい者雇用を通じて社会に役立っているという実感を得ることができました

ー-障がい者雇用をする上で、障がいのある人と障がいを持たない人がうまく働くコツのようなものはあるのでしょうか。

弊社では現場の支援のために「はたらく応援室」を設けています。ビルメンテナンス業界は、本社と現場が離れているという特徴があります。はたらく応援室には企業内ジョブコーチがいますが、現場に常駐している専任支援者が日常的に当事者をサポートし相談に応じる体制を作っています。ケース会議を行い、トラブルがあった場合はケースカンファレンスを行っています。清掃現場を2年以上経験した現場責任者が大阪ビルメンテナンス協会が開催している障がい者雇用支援スタッフ養成講座を受講して知識を深めた専任支援者を配置しています。

ー-マッチングはどのようにしていますか。

支援機関とも相談し、その人の特性に合う現場に配置するようにしています。例えば以前、人が行き来するようなロビーや廊下を掃除するのが苦手だという方がいました。そこで、人の行き来が少ない階段の清掃をまかせました。また、作業の進捗を把握するために、ケース会議でビルの所有者の許可を得て階段の案内板に色のついた小さなシールをつけさせてもらいました。そうすることで、休憩時等に場所を移動する際、どこまで作業したか自己管理できるようになり、結果的には利用する人にとっても一目で階段の色によって方角がわかるようになりました。

苦手なことをやっても成果は出ません。その方の特性に合わせた現場に配置することが大事だと思います。また、支援機関と連携して就労面と生活面の相互関係を大切にし、必要に応じて障がい者の方が入れるグループホームを探すといったこともしています。

ホームレス状態の人の雇用、生活困窮者の雇用へ

ー-障がい者雇用からホームレス状態の人の雇用も始めたのはどんなきっかけがありましたか。

大阪では1990年代の建設不況でホームレス状態の人が増え、公園では野宿生活をするテントが点在していました。公園清掃でホームレス問題に直面しました。特に当時は西成区、生野区はテントだらけでしたし、大阪城にはシェルターがありました。

公園を清掃するうちに、ホームレス状態の人を減らすためにできることはないかと考えるようになりました。ホームレス状態の人の中には自分が住んでいるところだからと自主的に公園を清掃している人もいました。そういった方たちを雇えば仕事になるのではないかと思いつきました。そこで、ホームレス状態の人の支援機関である株式会社ナイスのくらし応援室さんと連携して、働く意欲のあるホームレス状態の人の雇用を始めました。

ー-ホームレス状態の人の雇用で難しかったことはありますか。

いちばん大変だったのはお金の管理です。貯金や現金を持っていない人が多かったため、日払いで給料を払っていましたが、それをすぐにアルコールやギャンブルに使ってしまう人が多く、なかなか貯金ができない方が多かったです。こちらとしては正社員を目指してほしかったので、金銭感覚を身に着け少しでもお金を貯めてもらうため、支援者と三者で面談し、一日の生活費を計算して、一日に必要な金額だけを仮払いし、残りを給料日にお支払いするなど工夫してお給料を渡していました

ー-一企業でそれを続けていくのは大変だと思いますが、何か継続できるコツのようなものはありましたか。

やはり、ホームレス支援はいろんな団体とつながることが大切です。一つの支援機関や団体だけで、働くことや生活することの両面を支援するのは難しいので、弁護士や医療機関等と連携することでより大きな支援ができると考えています。
久宝寺緑地では、おひとりおひとりと話し合って、本人の希望を聞いて支援につなげ、30世帯ほどのホームレス状態の人がゼロになって、大阪府から表彰されたことがありました。私たちのホームレス対策は、誰一人排除しません。支援につなげられるのは弊社独自のネットワークやノウハウがあってできることだと思います。

ー-そこから現在は生活困窮者の方の雇用を進めているそうですね。

大阪のホームレス状態の人は2000年代の終わりにはシェルターに入ったり生活保護を受けるなどして少なくなりました。現在は発達障がいのある方や引きこもりといった生活困窮者の方の雇用も進めています。ホームレス支援との違いは経験の差です。ホームレス状態の方の多くはそれまで働いた経験もあったし、就労意欲もありました。しかし、生活困窮者の場合はそういった経験のない方が多く、どちらかというとその方の特性を見極めて合った環境を整備していくという障がい者支援の経験が生きました。例えば弊社では、一度やめた方が出戻りできるようにするなど、工夫をしたりしていました。

中間支援組織と協力しながら支援体制を構築


ー-支援対象により、やり方や問題が変わるんですね。最後に大阪版ソーシャル事業者認証への期待をお願いします。

まずはエル・チャレンジさんのような中間支援組織が、行政や支援機関とつながり、民間企業ともしっかり連携していけることが大切だと思います。
現在さまざまな支援制度がありますが、生活困窮者や障がい者を十分支えているかというとそうではない部分もあります。中間支援組織が、社会資源や各団体の力を調整し、支援体制を整えてほしいです。

行政に対しては、どうしても企業と行政は対等ではないので、行政との対等な関係を作り協議できる仕組みを公民連携で作ってほしいです。また、企業側としては、障がいのある方等の雇用の紹介窓口を一本化してほしいです。障がいのある方が働き続けるための連携(支援)についていろんなところからお声があるのですが、企業としてはすべての依頼に対応できません。また、働き続けるための伴走型支援や企業の相談にも応じてほしいです。そのためにも、中間支援組織の存在が大切ではないでしょうか。


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