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清掃訓練を通じて重度知的障がい者の就職支援に取り組む エル・チャレンジ

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NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

ここでは、大阪版ソーシャル事業所認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。

今回は知的障がい者の就労支援に取り組んでいるエル・チャレンジの活動についてご紹介します。理事兼事務局長の丸尾亮好(まるお・あきよし)さんにお答えいただきました。

理事兼事務局長の丸尾亮好(まるお・あきよし)さん

エル・チャレンジ
(正式名称:大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業共同組合)

大阪府の庁舎や公共施設など、公共の建物を使って知的障がい者の清掃訓練を行い、就職につなげるための中間支援組織。大阪府の障がい者や就職困難者の就職支援について定めたハートフル条例の「職場環境整備等支援組織」にあたる。1999年に設立。当時進んでいなかった知的障がい者の雇用を進めるために、4つの社会福祉法人や企業により設立された。

設立までの経緯

ーーエル・チャレンジ設立の経緯について簡単に教えてください。

 エル・チャレンジは大阪知的障害者育成会、大阪市知的障害者育成会、株式会社ナイス、株式会社グッドウィルさかいの四つの団体や企業によって作られました。知的障がい者が法定雇用率に算定されるようになったのが1997年でしたが、知的障がい者の雇用はまだまだ進んでいませんでした。当時府の行政は財政難で、新たな職業訓練施設を作る予算はありませんでした。そこで提案されたのが、今ある公共の建物を清掃業務を職業訓練現場にすることができないかというでした。そこからエル・チャレンジはスタートしました。

ーー清掃という仕事が障がい者の訓練のための仕事として選ばれたのはどうしてですか。

 私はもともとビルの管理・清掃業務を行うビルメンテナンス業界に勤めていましたが、この業界では比較的障がい者雇用が働きやすく、多くの知的障がい者の方が働いていました。私が働いていた会社も当時、雇用率が5%以上あったので、多い方だったと思います。


ーー今はパン屋さんやファーストフード店や農業現場で知的障がい者の方が働いてる姿をよく見かけますが、当時はどうして進んでいなかったのでしょうか。


 いろいろありますが、社会に出るイメージを社会の側も家族の側も、なかなかもてていなかったのが大きな原因ではないでしょうか。知的障がいのある人は、何ができるかわからなかったのが理由だと思います。もちろん偏見もあったでしょうし、本人やご家族の不安もあったと思います。
 だから、まずは知的障がいのある人が何ができるかを探るところからチャレンジしていかないといけませんでした。また、公共の建物の中で訓練することで、知的障がいのある人もやればできるということをいろんな方に見ていただけたのはメリットがあったと思います。

ーー確かに公共施設ですといろんな方の目に留まりますよね。

 そうですね。それに、掃除はトイレ清掃から事務所、廊下などの掃き、拭きや、屋外の落ち葉拾いといろんな仕事があるんです。だから、その人にあった得意な仕事を選んで見つけやすいというメリットもあります。それに来場者の方もいるので挨拶をしたりすることもあり励みにもなります。

訓練〜就職後の支援について

ーーどんな方が訓練にいらっしゃるのでしょうか。

 まず、支援学校の卒業生が直接来ることは少ないです。支援学校の卒業生の就職率は25%ぐらいで、残りの70%ぐらいの人は、ほとんど障がい福祉サービス事業所に行きます。エル・チャレンジでは支援学校から就職できなかった、もう少し重度の人の支援をしっかりやることを目的にしています。
 知的障がいのある人の発達や成長はゆっくりなんです。18歳の時点ですぐに就職というところまでたどり着いてるかというと、そうではありません。実際に訓練に来る方も20代半ば~後半ぐらいの方が多いです。そのようなゆっくり成長してきた人に対して、成長に合わせた支援をする場としてエル・チャレンジがあります。

ーーみなさんどれくらいの期間訓練して就職していくんですか。

 平均で1年ですが、短い方は3カ月から半年。長い方で2年くらいいます。
 今は制度が整ってきたので就労移行支援事業所を利用されている人が、自分たちの事業所の中で訓練をやって、社会に出ていく前に最後の仕上げとして使う場合もあります。
 通われるうちに、外へ出て働くって面白い、楽しいといった変化が出てきます。そういった働く喜びが見えると、企業さんも本人さんも親御さんもやっていけると安心できます。この三方向の安心を作ることを目指しています。

ーー難しい点はありますか。

 訓練といえども公共施設の営業している清掃現場を請け負っているので、プロとしての清掃をしなければいけない点です。それに、就労支援もしていかないといけない部分です。また、本部としては、就職先の開拓から就職してからの定着支援に至るまで様々な調整をすることかな。就労支援としての予算はゼロなので、すべて清掃業務の受託費の中から捻出しないといけないので。

ーー現場の人が清掃しつつ就労支援をやるとなると、具体的にどんな部分が大変ですか。

 時間内に仕事を仕上げないといけないということですね。何時までにどこの清掃をしないといけないということが決まっているので、現場のスタッフはそれが一番大変です。
 
ーー今どれくらいの訓練生がいるんですか。

 150人くらいです。その中で就職していくのが年間40人から50人程度です。全ての現場で、毎年1人の就職者は、出せるように組み立てています。今まで20年間でざっと1000人就職しています。訓練生は半年から2年の間で入れ替わっていきます。ある現場では、通常ビルメンテナンスの仕事は2人で現場に行くのですが、エル・チャレンジの場合は、1人のスタッフと2人の訓練生の3人で行きます。そうすると、2人の訓練生が2人とも同時に訓練に入ったり就職してしまったら現場は回らなくなるので、2人が訓練に入るタイミングと訓練が終わるタイミングがずれるようにしています。

ーー終了のタイミングはどう見極めるんですか。

 人によって成長の度合いは違いますので、その人が所属している福祉サービス事業所と相談して決めています。その際に使っているのが、「訓練分析シート」です。これによって成長度合いをはかります。
 これまで1000人あまりを訓練してきた結果、半年から1年ぐらいで訓練を終了する人が多いのですが、比較的職業的重度の人は2年ぐらいかかることがわかってきました。
 どのタイミングで終了するかどうかを見極めるため、しっかりとアセスメントをしています。また、延長するならどこをサポートしていくか、どんな支援をするかを明確にして、残り1年で何をするかを明確にしていきます。

ーー「成長分析シート」で能力を評価をするということですか。

 できるできないを評価するというより、スタッフや福祉サービス事業所の人や保護者とのコミュニケーションツールに近いです。一概に成長を測ると言っても、訓練生の得意なところと不得意なところを分析して、不得意なところを伸ばせばいいというものではありません。挨拶ができるかどうかと掃き拭きという関係のない部分も仕事の出来具合に相関があったりします。単に一つのことだけを伸ばすのではなく、いろんなことをやりながら成長していくので、その人には何があっているか見きわめるために作っているものです。

ーー能力を測ることだけが目的というわけではないんですね。


 重度の障がいのある人にとって、必ずしも成長することがいいわけではない場合もあります。だからといって全く成長しないわけではありません。なにかのきっかけで成長することもあります。このシートがあることで、その人の特徴が明確になります。その人の能力や得意不得意を可視化して理解し、関係者と共有するために使っています。その人のことをわかっている人が周りにいるということが大事なんです。

ーー就職のサポートはどうしているんですか。
 その人にあった就職先を探すのが理想としてはあります。エル・チャレンジの訓練現場でできることはたくさんあるので、それをもとに一緒に面談をさせてもらったり、うちに来た求人を提供させてもらったりします。訓練生であると同時に事業所さんの利用者でもあるので、うちの意見を事業所さんに提供した上で、事業所さんでその人にあった就職先を見つけていただくこともあります。なるべく事業者さんと一緒に情報共有して決めてます。

ーーエル・チャレンジさんが就職先を探すわけではなくて、エル・チャレンジさんは訓練生に訓練の場を与えたり、事業所さんに訓練生のアセスメントをしたりすることで、訓練生の就職をサポートしているということなんですね。

 事業所では問題を起こす人が現場では元気よく挨拶している場合もあるので、その人にどんな側面があるか、どんな力があるかを福祉的な視点から福祉事業所さんがアセスメントすることとが大事ではないかと思います。そういった現場での様子と事業所からのアセスメントをきちんと就職先に情報提供することが、本人さんにとってメリットになると思います。

ーー就職後の支援も続けておられるんですよね。

 就職後のフォローアップにはいろんなものがあります。ジョブコーチなど既存の制度を利用しながら継続しています。しかし、制度上の支援というのは期限があって、そのあとは雇用主責任になってきます。就職後10年20年経ってくるとだんだん疎遠になってくるので、「なかまの会“えーる”」という共済制度を作ったりして1人ぼっちにならないように支援をしています。

重度知的障がい者に光を当てるためにできること

ーーところで、知的障がい者の人が働き続けられるのはどんな職場ですか。

 簡単に言うと、周りの人が優しくする職場が一番働き続けられると思います。そのためにはその人自身のことをちゃんと周りに理解してもらうことが大事です。また、障がいのある人も成長しますので、5年後10年後たってから成長したときに、成長に合った職場環境をしっかり作っていけるかどうかも働き続けるために必要なことです。

 本人の障がい特性も変わってきますし、個性が変わるので延々と課題は出続けます。
その際に対応するのは職場の皆さんなので、職場の皆さんも力をつけていかないと、知的障がい者が働き続けるのは難しいです。
 職場の人が優しくというのは、簡単に聞こえますが、自分の仕事もしながらフォローしないといけないので、大変なことだと思います。なるべくフォローしないでいいようにその人たちを育てていければ、高い力になってくれます。
 あとは、就職していった人が働くことにどう楽しみを見つけられるかですね。仕事場と家との往復だけになりがちなので、休日や終業後に集まりや旅行などの楽しみを一緒に作っていけると働き続けやすい職場になるのではと思います。

ーー現場の努力だけではなく、会社の雰囲気や制度も大切だということですね。


 特にビルメンテナンス業界は、本社と清掃の現場が離れているので、本社の人に現場の状況を知らせていくことが必要です。そこで、トップへの働きかけが大事です。現場で働く障がい者に対する理解を会社に求めていくことが必要です。そうやって会社の理念や方針をしっかり現場のスタッフに伝えていきながら障がい者雇用を進めていかないとうまくいきません。一朝一夕で障がい者雇用はできません。

 特に、行政の物件は入札によって数年ごとに会社が変わってしまいます。しかしスタッフは会社が変わってもその現場で働き続けたい人が多いです。ところが安い金額で入札してしまうと、同じ人を雇い続けられなくなってしまいます。そうすると、一番先に切られてしまうのは障がい者です。せっかくエル・チャレンジで1年間訓練して、ジョブコーチを半年間つけて職場に定着してきたのに、会社が変わったらやめなければならなくなってしまいます。そうすると何のための定着支援だったのかわかりません。
 そこで、大阪府の行政物件においては、総合評価入札制度という、金額だけではなく障がい者雇用をやっているか、環境にいいことをやっているか、といったことも含めて評価する入札制度を取っているわけです。障がい者雇用をするには、現場にも本社にも力や思いが必要です。かつ、清掃の質も求められています。両者の質を保てるように、そのような入札制度が取られています。

ーー障がい者の就労訓練を行政の施設を使ってやる意味はどんなところだと思いますか。

 エル・チャレンジは単に障がい者雇用をやっているわけではなく、より重度の方の支援をしています。府はそれを推進しており、それを現場で支えているのがエル・チャレンジです。重度の知的障がい者にもチャンスがもてる仕組みです。大阪府はハートフル条例という条例で、障がい者や就職困難者の就職を後押しする団体を「職場環境整備等支援組織」と定めていますが、エル・チャレンジもその一つです。
 いずれはこの仕組みが民間に広がるといいなと思っています。やはり行政の仕事はよりしんどい人に光を当てること、弱者の機会をつくることです。施策として、それに取り組んでいる団体をサポートできる仕組みを作っていくことが大事だと思います。


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