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社会福祉法人大阪ボランティア協会  ボランティア支援を通じて市民活動を活性化する 

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

ここでは、大阪版ソーシャル事業者認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。

今回は大阪でボランティアの育成やボランティアコーディネートを通じて市民活動の活性化に取り組んでいる社会福祉法人大阪ボランティア協会の活動についてご紹介します。

常務理事であり事務局長の永井美佳さんにお答えいただきました。

社会福祉法人大阪ボランティア協会

市民活動スクエアCANVAS谷町

公正で多様性を認め合う市民主体の社会をつくるため、多彩な市民活動を支援するとともに、他セクターとも協働して、市民セクターの拡充をめざすことをミッションとし、1965年に設立。現在、ボランティアしたい人と企業や団体をつなぐコーディネーション、出版事業、調査研究活動を通じて、市民活動のための場作り(プラットフォームづくり)、参加の促進(人材育成)、理論化(仮説の創出と理論の生成)について取り組んでいる。

市民活動をコーディネートし、支援する


――社会福祉法人大阪ボランティア協会さんの役割について教えてください。
おおまかに言いますと、個人やNPOや企業がやっているボランティア活動や市民活動をコーディネートしたり支援したりしています。

他にもボランティアしたい人や団体を立ち上げたい人、企業でCSRを推進したい人の相談にものっています。ほかには『ウォロ』という情報誌の発行や出版事業、NPOや企業との協業などをやっています。あらゆる立場の人たちがいろんなつながりをもって社会に関わることを推し進める団体です。

――設立は1965年ということですが、現在までの活動の経過をざっくり教えていただけますか。

現在は社会福祉法人ですが、最初は任意団体から始まりました。1963年に大阪で活動していたボランティア・グループが、大阪市社協を会場に月1回の月例連絡会を開催していました。そこでいろんなグループの方が活動上の悩みなどをグループ間で共同して解決しようと話していました。
そこから、1965年にボランティア協会を設立し、まず“人づくり”のためのボランティア・スクールを開催しました。1985年に終了しましたが、これは日本で最初と言われています。

当時は高度経済成長期でもあり、暮らしに余裕が出てきた方が増えてきて、特に専業主婦の方たちが何かできることを探したり、学生たちがボランティアとして障がい者施設を訪問していたりとボランティア熱が高まりました。当時はそんな機運もあって、主婦の方や高校生などに向けてボランティア・スクールを開講し、人育てをしていました。

だんだんボランティアが増えていくと、ボランティアする人が活動先で悩んだり、逆にボランティアに来てもらっている施設側がボランティアの扱いやどう活動してもらうかについて悩んだりするようになってきたので、それを調整することも求められるようになりました。今で言うボランティアコーディネーションですね。やがてボランティアコーディネーターを養成する役割も担うようになりました。

ーー1995年の阪神大震災がボランティア元年と言われていますが、そこで何か変化はありましたか。

地域貢献や社会貢献をやりたい企業が増え、1991年に企業の市民活動を推進する相談窓口を作りました(現「企業市民活動推進センター」)。阪神・淡路大震災でボランティアの活躍が広く伝わったことから、ボランティア団体がもっと法人格を取りやすくしたいという運動が起こりました。
1998年に特定非営利活動促進法(通称「NPO法」)ができて、NPOという言葉が社会の中で認知されるようになってきました。1996年から各地でNPO支援センターが生まれ、大阪でもNPOの活動を推進しようということで、1999年に組織内に「NPO推進センター」を作りました(現「ボランティア・NPO推進センター」)。

2013年に谷町地域に移り、“民”の手による市民活動推進拠点として「市民活動スクエアCANVAS(キャンバス)谷町」を開設し、多くの市民や団体の方に利用していただいています。

――財源はどういったものがありますか。

個人や団体の会費や寄付が多いですね。また、自主事業として貸し会議室の利用料収入、出版物や情報誌『ウォロ』の収入、講演などに呼ばれた際の講師料収入などで賄っています。
『ウォロ』は有料の情報誌ですが、現場の動きを届けることがミッションの雑誌なので、営利目的ではありません。編集委員はボランティアですし、ライターには執筆料を支払いますがボランタリーに関わっていただいています。ほかには、大阪市の福祉ボランティアコーディネーションの委託事業や民間助成金などですね。

ウォロ

ボランティアする人の変化

――最近のボランティアの動向についてはどんなものがありますか。

かつては主婦層と定年後のシニア層、学生が主流でしたが、働き続ける人が増えて専業主婦・主夫が減っていたり、定年の引き揚げによりシニア層の参加年齢が上がっていたり、学生も授業の出席率や課題が厳しいことやインターンシップやアルバイトで忙しくなっていたりするため、継続してボランティア活動に参加する人数は減っています。5年に1度行っている総務省の「令和3年社会生活基本調査」の結果が8月31日に出たのですが、ボランティア活動の行動者率はポイントが下がっていました。

ボランティアする人が減った理由のひとつに、全世代で働いてる時間が長くなったことが挙げられます。一方で、行動した人数は減ったけど行動時間はあまり減っておらずむしろ増えているので、やっている人が頑張っていると言えます。

また、以前と比べてボランティア以外の関わり方が広がりました。ソーシャルビジネスを起業するとか、インターンシップなどの選択肢ができ、問題解決の手段、社会参加の手段が増えました。ボランティア協会が誕生してから60年近く経っているため、従来の仕組みやスキームも変わってきていますね。

その一方で、災害ボランティアやオリンピックなどの大型イベントに参加するボランティアは増えています。やはり、災害支援はほっとかれへんという気持ちが働くし、大型イベントは晴の場に関われるという気持ちが働くのでしょうね。そういう方たちは週末や1週間休みを取ってボランティアに行ってまた普段の生活に戻るのですが、普段の生活で日常的にボランティアを続けるという形にはなりにくいのかもしれません。普段の生活においても何か関心をもって、ちょっと関わっていただけたらうれしいですね。

ーーどうやったらボランティア人口が増えると思いますか。

自分の時間を人たのめに割くには、「そうしたい」と思える出来事や知り合いがいないと難しいですよね。そういう時間を割きたくなるような出会いがあるかどうかが結構大きいですよね。

現場の団体にしてみれば、趣旨を理解してくれて会費を払ってメンバーになって長く定期的に活動してくれる人に参加してほしいと思ってしまうのですが、先にお話ししたように市民がボランティア活動に割ける時間や金銭負担が減ってきています。家族や自分の時間も取りつつ、定期的な活動時間を取らなければならないとなると、参加率が上がりにくいわけです。現場では人がほしいけれど、活動のやり方は変えられなかったりすると、活動への参加を躊躇している人とのギャップは埋まらないですよね。

ボランティアマネジメントの観点では、現役世代の生活スタイルや現状にあったボランティアの関わり方やボランティアプログラムの構築など、モデルチェンジや発想の切り替えは必要だと感じています。

ーーどうしても参加しようとする側としては、片手間にはできないという思いがあるので、ボランティアすることにハードルを感じてしまいますよね。

そうですね。特に地域に根差した活動の場合は、離脱したときに気まずくなるのではという懸念もありますよね。
だけど地域の側も変わらなければ子育て世代や現役世代は入ってきにくいでしょう。奮闘してる大阪の地域の方たちももちろんいらっしゃいます。ボランティアコーディネートはボランティアをつなぐだけではなくて、どうやったらそのギャップを埋められるかということを考えつつ、提案するような仕事です。そういうことをしながら、何か起こってほしいと思いながら日々活動していますね。
あとは現場の声や姿を伝え、政策提言などもやって制度を変えていくようなこともしています。虫の眼だけでなく鳥の眼で見ていくことも必要だと思います。

大阪版ソーシャル事業者認証がボランティアや市民活動に役立ってほしい

――最後に大阪版ソーシャル事業者認証へ期待していることはありますか。

大阪版ソーシャル事業者認証では、企業が自分たちで大事にしていることや他社より整備してる点を評価しますが、消費者や受け手の側のリテラシーはまだそれほど高くないのではと思うので、それを懸念しています。
例えば、メリットとして認証を受けた企業の就職志望者が増えるという点が挙げられたりしていますが、市民の感覚としては、消費行動においてはまだコマーシャル力が高いところや名前の通っているところ、価格が低いことなどを重視してしまいがちですよね。そうなると、どうしても資本のあるところが1人勝ちとなります。
現在、その流れが少し変わってきており、ESG投資(企業活動において、環境、社会、企業統治といった観点を重視する投資の考え方)などが増えてきています。ですからそういう潮流を日本の市民に対してもっと周知するための仕組みが必要だと思います。その手段の一つとして、大阪版ソーシャル企業認証のような制度ができたらなあと思っています。

私自身はボランティアや市民活動を熱心にやってる人たちが評価される社会を作りたいと思っています。人権を大切にするとかインクルーシブを重視するとか、そういう部分で市民に選ばれて愛される企業が増えていってほしいですね。
また行政にとっても、大阪で商売するなら大阪のちゃんとした企業から調達をする商慣習が生み出せれば、大阪の企業の元気をつけることにもつながります。ですから大阪版ソーシャル事業者認証が市民や行政にとって、企業やサービスを選ぶ基準になっていけば嬉しいなと思います。


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