ユニット就労で農業就労促進を目指す 泉州アグリ 加藤秀樹さんインタビュー(前編)
NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など、職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。
このnoteでは、「行政の福祉化」に関わるさまざまな情報をお届けしていきます。
今回は農福連携でユニークな試みをしている株式会社泉州アグリの取り組みのご紹介です。
ユニット型就労で農福連携を推進
人手不足や耕作放棄地の増加が問題となっている農業分野で、障がい者など社会的困難を抱えている人が働き手となる農福連携が注目されています。
一方で、農業は作物によっては土地にあった育て方や勘やコツが必要なため後進が育てにくい、農閑期があって年間通じた仕事を作りにくいといった難しさもあります。
大阪の泉佐野にある株式会社泉州アグリは「ユニット型就労」というユニークな取り組みにより、農業分野でユニバーサルな働き方を提案しています。
代表取締役の加藤秀樹さんにこの取り組みについてお話をお伺いしました。前編と後編の二回に分けてお届けします。
株式会社泉州アグリについて
2001年に設立された若年無業者の就労支援を行う「NPO法人おおさか若者就労支援機構」で職場体験として農業見学や体験を開始しました。その後2005年の合宿型就労支援を行う若者自立塾で園芸と福祉を混ぜた園芸福祉に取り組むようになりました。
2010年に本格的に農業で就労支援を行うために「アグリ事業部」を設立しました。さらに補助金等がなくても運営できるように2015年2月に株式会社化し、「泉州アグリ」として独立。現在は水なすのぬか漬けなどの6次産業、ネットショップ販売、近隣のスーパーへの卸売り、たい肥づくりと販売などさまざまな事業を手掛けています。
また、大阪で農業の基本をまなび、地方の現場で実際に収穫や農作業を体験できる「泉佐野アグリカレッジ」では、現場を通じてさまざまな地方や作物の農業に触れることができます。農繁期の違う現場が全国にあるため、農閑期でも時間をもてあますことなく、年間を通じて就労できる仕組みです。
4人一組で農業現場で働く仕組み
ーーユニット型就労というのはどんな仕組みなんでしょうか。
泉州アグリでは農家さんで就労体験をするときは4人一組で現場に行きます。それを「ユニット」と呼んでいます。これまでですと農家さんはアルバイトに来た人それぞれに指示をしていました。来る人の能力や経験もバラバラな中で一人一人に作業を教えたり、見守ったりしながら自分も作業しなければいけないのは、労力も時間もかかります。本来農繁期の人手不足を解消するためのアルバイトなのに、それでは時間も手間もかかってしまいます。
その問題を解消するのが、この「ユニット」という仕組みです。ユニットの中には「ユニットリーダー」が1人いて、その人が農家さんからの指示を受け、ほかの3人に伝えたり、教えたりします。農家さん側はユニットリーダーに指示を出したり、相談すればいいので、1人1人に対応するときよりも時間も手間も省くことができます。また、ユニットリーダーはほかの3人の特性をよく知っているので、どのような指示を出せばいいかがよくわかっています。そのため、作業を効率的に早く終わらせることができるんです。
スキルがない人でも働けるよう作業を分解
ーーそれは確かにとても効率的なやり方に思えますね。作業内容などはどうしているんですか。
農家さんにユニットに作業を依頼する場合は、農業スキルがなくてもできるものをとお願いしています。というのも、農業スキルのいる作業はできる人とできない人の差が激しく、こちらもすべての要求にお応えすることができません。
それよりも農業スキルはなくてもいいから人手が必要な仕事に特化することで、ユニットの労働力供給力を上げようという判断をしました。
ーーもう少し具体的に伺えますか。
例えば羽曳野でブドウの摘果(実が大きく甘くなるように、成長前の果実を間引く作業)の仕事が入ったとします。通常の農家さんのやり方ですと、一つ一つの実を確認して、この実を取る、取らないを判断します。でも、農家さんと感覚が違っていて判断が難しい場合があります。だから、うちで受けるときは、上から5センチ取るといったような基準を決めます。
あとの細かい部分やこだわりのある部分は農家さんご自身に任せます。それで納得してもらえる農家さんの作業を請け負います。
ーーそうやって農業スキルのいらない作業を中心に請け負うのはどうしてなんですか。
やはり、農業スキルの要る作業を請け負ってしまうと全然スピードが上がらないからですね。スピードが上がらないと、農家さんも頼んだ意味がないから、結局お互いにとってメリットがありません。農家さんにとっては、農繁期に必要な作業が終わることが目的なので、その目的をいかに達成するかを念頭においています。
農家さん目線のモデル
ーー農家さんの視点に立ったからこそ生まれたモデルなんですね。
農業で就労支援というと、効率よりもまずは体験となってしまって、成果が出なくても就労支援だからしょうがないみたいな言い訳が通用してしまうことに疑問をもっていました。だって、農家さんにとってはそんなこと関係ない話じゃないですか。
僕たちは就労体験先を求めていても、農家さんは人手を求めているので、需要と供給が乖離しすぎて噛み合ってないんですよ。
正直言うと僕たちは農家さんには就労支援ですとか、障がいのある人も働いていますといったことは話していません。農家さんからすると、お願いした作業さえやってくれれば問題ないからです。
ーー泉州アグリが福祉事業所やNPOではなく、株式会社としてやってきたことも影響するんでしょうか。
そうですね。泉州アグリとしてビジネスシーンで野菜を出荷していますが、就労体験や農業体験も受け入れています。体験を受け入れると手間暇がこんなにかかるんやと自分たちでやってみて驚きました。こんな手間を自分たちが今までほかの企業さんや農家さんに押し付けてたんだなと反省したんです。
そうやって自分たちが体験を受け入れてきた結果わかったのは、農家さんにとって使いやすいモデルを提案しないと、就労体験は波及しないということでした。
後編は実際にユニット型就労を導入してからのお話についてです。
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