映画試写会&オンライントークイベント 参加レポート
こんにちは!kokoroインターン3期生のチカです。2022年6月8日(水)にドイツ文化会館ホールで行われた「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」の試写会とオンライントークイベントに参加させていただきましたので、さっそく様子をお伝えしていこうと思います。
本作は、「飛ぶ教室」などの児童文学の大家として知られるエーリヒ・ケストナーが、唯一大人向け長編小説として書いた「ファビアン あるモラリストの物語」を原作に、ドミニク・グラフ監督が手がけた作品だそうです。『ある画家の数奇な運命』でも共演したドイツ映画界のトップスター、トム・シリングとザスキア・ローゼンダールを主演として、刺激的で混沌とした、そしてどこか悲しいような1931年のベルリンが描かれていました。
では、ここから下は少し映画の内容を含みますので、ネタバレなしで楽しみたい方は、ぜひ劇場へ足を運んでみてください!
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映画の感想
まず、この映画は、ファビアンの日常を追っていく形で物語が展開します。全体的に恋愛的な要素が多いのですが、そんな中でもふとした瞬間にラジオから戦争のニュースがちらほら聞こえてきます。そして、徐々に周りの人々の思考や判断基準にナチ・ドイツの影が見えてくるようになるのです。先程ご紹介した通り、映画の時代設定はちょうどナチ・ドイツが政権を取る2年前だったため、どこか社会の動きに異変が出てくる頃でした。こうして振り返ってみると、映画の中にナチ・ドイツの要素が自然に散りばめられていたことに気付かされ、政府やメディアのメッセージが自分の気付かないうちに刷り込まれている可能性があることに恐ろしくなりました。
途中、常識があることは、幸せなのだろうか?という問いがあるのですが、これは非常に考えさせられました。物語終盤、論文が通らなかったことが影響して、ファビアンの友達が破滅を選択してしまいます。では、なぜ論文が通らなかったのかというと、過去に政治運動に参加していたからだったのです。この時代の「常識」は、徐々にナチ・ドイツを前提にしたものへ移り変わっていこうとしていました。よって、教授も周りの人もその常識に従い、「政治運動なんてした人は危険である!」と判断したまでです。しかし、教授たちが信じた「ナチ・ドイツ」という「常識」それ自体が間違った方向に向かっていたとしたら…?そう考えると、常識に従うことが必ずしも良いことで、幸せを運んでくるとは限らないのだと思わされました。
振り返ると、私の中の常識は、大人の意見と、「みんなやっている」という意識の中で構成されてきたように感じます。ここで言う「大人」は、偉い人や人生経験が豊富な人と言い換えられるかもしれません。一定の地位を持っていたり、自分より社会を見てきた人々が語ってくれるルールなら、信用出来るという思い込みがあるのだと思います。また、常識とは、ある文化の中でみんなが共有している行動規範ではないかと考えているので、「みんなからはずれないこと」が常識の大きな優先事項であると感じます。しかし、信頼できて、みんながやっていさえすれば、中身はどうでもよいのか…?そんな ”問い” を得ることができた映画だったなと思います。
この作品を現代に翻って考えてみると、「戦争」という切り口から様々なことが考えられるのではないでしょうか。
主人公のファビアンは、激しい恋をしたり、遊び場を渡り歩いたりと、刺激的で不安定な、少し現実離れしている世界を生きていたので、ある意味世間の「常識」とは離れたところにいたのだと思います。しかし、働いて得たお金をこっそり母のバックに忍ばせたりと、彼の中にある優しさや人のことを思う心からくる「常識」は消えずにいました。だからこそ、政治運動に参加した人の論文は、たとえ素晴らしくても認めることが出来ないという世間の「常識」に怒りや疑問を持つことが出来ました。
悲しいことに、現代でも戦争は繰り広げられています。私は今、「〇〇が悪い」という絶対的な善悪が、「常識」めいたものとして存在しているのではないかと感じます。この「常識」は、国によっても個人によっても全く違うと思います。しかし、なぜそれが常識となったのかの背景を知ったり、その意味を深堀して読み取らないと、盲目的に常識を信じるだけでは本質が分からなくなってしまうと思います。そのためには、どんなことにも「なぜ?」という意識を持つことを大切にすべきではないでしょうか。
主演トム・シリングとのオンライントークイベント
今回の試写会では、なんとリアルタイムで主演のトム・シリングさんにお話を伺えるオンライントークイベントもありました!非常に貴重な経験だったと思います。私も、画面越しからでも伝わってしまうトム・シリングさんのオーラに圧倒されてしまいました…。その中でも、2つピックアップして、質問とトム・シリングさんの回答をご紹介します!
※トークイベントの内容と写真の掲載許可を頂いています。
・ファビアンをどのような青年だと捉えている?
「トム・シリングがこの役を演じたくないと言ったなら、僕はこの映画を撮らなかったでしょう。」と監督が言っていたということで、主人公は自分と少なからず近しいものがあるのではないかと思っている。それが何かは分からないけど、世界と距離感がある、憧れをもっている、人や物に対する厳しい意見をもっていることかもしれない。
・なぜ俳優に?今後どんな仕事をしたい?
実は、自分から俳優になりたいと思ったことはないんです。昔に子役として、外側から見つけてもらった形です。今は、音楽に興味があります。
今回のトークイベントを通じて、トム・シリングさんの気さくな人柄が伝わってきて、ぜひ他の作品も見てみたいと思いました。
キャストさんの魅力も溢れていて、内容もとても考えさせられる映画なので、みなさんもぜひご覧下さい!
以上、試写会&オンライントークイベントのレポートでした!
文:インターン3期生 チカ
写真:インターン2期生 みーずん