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【レポート➂】~南あわじ市・放課後NPOアフタースクールの事例から学ぶ~こどもの意見を反映した放課後の居場所づくり

放課後NPOアフタースクールでは、5月30日(木)に「自治体のこども計画策定とこどもの意見反映~放課後の居場所づくりはどう変わる?~」と題し、行政の方々をお招きしてオンラインフォーラムを開催しました。
 
開催レポートとして、3部に分けて講演内容をお伝えしていきます。
本記事では、放課後の居場所づくりの先行事例である南あわじ市の取り組み内容と、放課後NPOアフタースクールの実践事例について紹介します。
 
▼登壇者のプロフィール等はこちらから



【南あわじ市の事例】 「学ぶ楽しさ日本一」を目指して、地域とともに育てる放課後の居場所づくり

(兵庫県南あわじ市長 守本 憲弘 氏)

南あわじ市長の守本様からは、市の教育方針である「学ぶ楽しさ日本一」を目指して、アフタースクール事業にどのように取り組まれてきたのかについて講演いただきました。

南あわじ市における放課後事業の位置付け

南あわじ市では「子育ての喜びが見えるまち」の実現を目指して、南あわじ市総合計画として5つの行動を推進しています。

南あわじ市の放課後事業は、市の総合計画における「②子育て環境の向上と教育の充実」の中に位置付けており、福祉施策としての預かりの場だけではなく教育環境づくりの一環として取り組んでいます。

市が教育や子育て環境の向上に取り組む理由は、➀子どもたちの将来の幸せにつなげる、➁社会を支える人材育成と持続可能な地域づくりへつなげる、③魅力的な教育で人を引き付け、地域のさらなる発展につなげるという3つの観点からです。

南あわじ市では、放課後事業として3事業を実施しています。
現在、市内の小学校15校のうち、11校はアフタースクール、2校は学童保育、残り2校は放課後子ども教室として運営していますが、今後はすべてアフタースクールに統一していきたいと思っています。

アフタースクール事業とは?

アフタースクール事業は、放課後児童健全育成事業(学童保育)と放課後子ども教室の2つの異なる事業を融合して、教育委員会の所管として一体的に実施しています。

アフタースクールは就労家庭の子どもに限らず、すべての子どもが参加できます。また、安心安全な環境を確保するとともに、遊びの中に学習・体験・スポーツ等のプログラムを取り入れることで、地域とともに子どもたちの積極性や自立性、社会性、コミュニケーション力を育み、市の教育方針である「学ぶ楽しさ日本一」の実現を目指しています。

「学ぶ楽しさ日本一」とは次の8つの楽しさを意識した取り組みです。

アフタースクール事業のねらいは「学ぶ楽しさを知り、なりたい自分を見つける」。
事業の特徴は➀放課後の時間に多種多様な体験プログラムを提供していること、➁「まちの先生」といった地域人材を活用していることの2点です。

アフタースクール事業が始まった経緯

アフタースクールを始める前の学童保育事業では、とにかく「子どもにけがをさせないこと」に集中する方針で運営しており、もちろん安全は大事ですが、もっと子どもたちが生き生きと楽しく過ごせる放課後の場を作れないかと考えたのがスタートでした。

実際に当時の学童のあり方に疑問を持っていた現場のスタッフもいましたので、その方たちが中心になって市と協力して「こんな取り組みもできるんじゃないか」などのアイデアを膨らませてくれました。

当初はアクティビティの数もかなり限られていて、子どもたちから体育館で「サッカーをやりたい」などの声があると、大人側は「どうぞどうぞ」という形で子どもたちがやりたい遊びをやっていました。

ある時「ダンスをやりたい」という子どもの声があり、思い切ってプロのダンススクールの講師に来てもらうことにしました。すると子どもたちの反応がとてもよく、ブレイクするようにどんどん広がっていき、今では大人気のプログラムです。子どもたちはこうしたダンスや音楽といった文化的な活動にも興味があるのだと、この時初めてスタッフも気づきました。それならばと、地域で色々な人に声をかけていき、徐々にまちの先生の輪を広げていきました。

さらに、プログラムを拡充していく中で地域の企業や団体からも「プログラミングをやってみませんか」という提案をいただきました。早速子どもたちに声をかけて実施してみると、すっかり子どもたちもはまって今や定番のプログラムです。こうしてアフタースクールの流れが地域に広がっていき、他にも多種多様なプログラムが生まれていきました。

一方で、アフタースクールが始まる以前は安全に集中する方針で学童保育を運営してきたので、やはり現場のスタッフの考え方を転換することには苦労しました。

まず始めたのはスタッフ教育でした。最初は市の小学校全15校のうちの1校からモデル校として始め、「これはいける」という見通しが立ってきたため徐々に他の学校にも広げていったという流れです。

体験プログラムの意義

体験プログラムを通じて、子どもたちは自分が何に興味・関心があるのか、自分はどんなことをやりたいのかなどを知ることができ、チャレンジ精神を育むことができています。

また、子どもたちはまちの先生との交流などから、積極性や自立性、コミュニケーション力、そしてふるさとに素晴らしいものがあるということを感じ、ふるさとを誇りに思う心も育まれていると感じます。

さらに、子どもだけでなく大人へのインパクトも感じています。大人も子どもと一緒に体験プログラムを通して学んでおり、また、大人の喜びにもつながっています。こうした相互作用が地域活性化、ひいては、学び続ける地域の創生につながると考えています。

アフタースクール事業を利用する保護者に向けたアンケート結果では、プログラム参加前と参加後での子どもたちの変化について、「知的好奇心や視野が広がった」「自分で考えて行動するようになった」「豊かな人間性が育まれた」などの回答がありました。これは市の教育方針として目指しているところに合致していると考えられます。
また、子どもたちの声としては次のようなものがありました。

・自由なことができるし、プログラムも自分で考えたりもできるから、むっちゃ楽しい
・将棋プログラムが好きで、他の学校の子とオンラインで勝負するのが楽しい

アフタースクール事業の課題

一方で課題もあります。大きな課題は人材確保、人材育成、場所の確保、財源確保の4つです。

人材確保については、アフタースクールの数が増えるにしたがって次第に難しくなってきていると感じます。地元の大学生や高校生のボランティアなど地域の方にもご協力いただくことで、地域人材の確保を進めています。

また、人材育成については、スタッフ間の共通認識やスキルアップがアフタースクール事業を運営していく中で非常に重要ですので、様々な研修の場を設けています。

例えば、スタッフが全員参加する全体研修の場では、子どもたちが体験するプログラミングや工作をスタッフ自身が体験する、子どもたちの発達段階に合わせた支援の仕方を学ぶなどの研修を実施しています。他にも、各拠点のスタッフ等が集まり、定期的にミーティングを実施して情報共有することで横のつながりを重視しています。

場所についても、子どもたちの人気が出るにつれて、「これをやりたい」という体験を十分に実現するための環境が整えられていないというのが現状です。そのため、なるべく学校施設や公民館等を活用できるように調整しています。

財源に関しても、現在は国や県の補助金を活用しつつ、ふるさと納税にかなり依存しながらなんとか運営していますが、本来であれば国の補助金の増額を望みたいところです。

このように1つ1つの課題と向き合いながら、「学ぶ楽しさ日本一」を目指して、地域と共に放課後の居場所を作っています。
まだまだ成長途上ではありますが、一定の成果も出ていますのでこれからもこの方向性を大切にしていきたいと思います。


【放課後NPOアフタースクールの事例】 子どもの声から始める居場所づくり~放課後を通じて子どもの幸せ貢献する~

(放課後NPOアフタースクール 代表理事 平岩 国泰)

放課後NPOアフタースクールの平岩からは、放課後の居場所づくりの実践事例と、取り組みを進めていく中で見えてきたことについて紹介がありました。

子どもの声が聴かれない社会

そもそもの問題意識は、日本財団が実施している「18歳意識調査」で、「自分は責任がある社会の一員だと思う」「自分で国や社会を変えられると思う」などの質問に対し、日本の若者たちの回答が他国と比べて非常に低い結果となっていることが発端でした。

これまで大人が子どもたちのためと思って「この通りにしなさい」とあらかじめ用意したり決めたりしていたことが、結果的に子どもの主体性を奪い続けているのではないか?
そんな疑問が生じ、これまで子どもの声を聴く取り組みの実践を続けてきています。

日本財団「18歳意識調査」第20回テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)

放課後における子どもの声を聴く事例

それでは、実際に放課後での子どもの声を聴く実践について紹介します。私たちが放課後でよく使うキーワードは自分で「えらぶ・きめる」です。

例えば、ある放課後子供教室では「今日、何をやるのか」という1日の全体像が分かるボードが部屋の壁に貼ってあります。みんなで何かをやるという強制的な集団行動はありません。

スケジュールに余白を作り、子どもが「何を誰といつからやるか」を自ら決められるようにすることで、子ども自身によるタイムマネジメント力を育んでいます。こうした取り組みが子どもの主体性を育てる第一歩となります。

また、空間づくりでも子どもの「やりたい」を引き出す仕掛けができます。子どもたちが選んだり、決めたり、自分でつくっていくことができる空間づくりそのものが声を引き出すきっかけにもなります。

一方で、写真にあるようにぬりえを自由に持っていくことができる環境にしてしまったら、1人で全部のぬりえを持っていってしまう子もいるのではないかという懸念の声も出てくるかと思います。しかし逆にそれは、子どもとの対話のチャンスです。

全部持って行こうとしている子どもに対して、「ぬりえを全部持っていっちゃったら他の子が使えないよね。じゃあどうすればいいと思う?」と問いかけることで対話が始まり、この対話が子どもにとって学びの一歩となります。これは、大人が最初から「ぬりえは1人何枚まで」と決めてしまっていては生まれないものです。

放課後NPOのスタッフからは、「学校では問題視されていた子どもが放課後で好きなことに取り組むとき、信じられないくらいキラキラしている」「学校で友達ができず自分に自信がなかった子どもが、放課後で主体的に過ごし成長することで友達ができて学校も楽しめるようになった」などの声が集まっています。

「やらなければならない」から解放され、「やりたい」「好き」「ワクワク」を動力にできる放課後という自由な時間だからこそ、子どもたちの学校・家庭では見えない良いところが見つかり、彼らの幸せに貢献できるのだと思います。逆に大人が色々決めてしまうことが子どもたちは苦しいのではないかと思います。

実践の中で見えてきたこと

今までの実践の中で見えてきたことを3つ紹介します。

子どもの「言う力」と大人の「聴く力」は徐々についてくるもの
最初からこれらの力があるわけではなく、練習していくことでついてくるものですので、まずは「言う」「聴く」を始めてみるのがいいのではないかと思います。

子どもが「言う側」だけではなく「聴く側」に回ると成長する
子どもは言う側でもあるのですが、年齢を重ねるごとに聴く側に回ってきます。聴く力がついてくると言う力も自然とついてくるため、聴く側に回る体験は重要です。異学年がいる放課後はそうした聴く側に回る体験が起きやすいと思います。

声は必ず叶うものではない。常にうまくいくものでもない。共に試行錯誤する回り道すべてに意味がある
声は必ず叶うわけではなく、声が叶っても必ずうまくいくとは限りません。もしかしたら子どもの声を聴いたら必ず叶えなければいけないのではないかと心配される方もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。
できないならその理由を子どもたちにフィードバックすればいいですし、やってみたけどできなかった場合はどうすればいいかを試行錯誤しながら回り道する過程にこそ意味があるのです。

子どもの声を聴くようになると、今までは「やってあげる」側、「される」側だった関係性が変化していきます。
「聴く」、「叶える」という関係から「共に創る」関係へ進化していくことが重要です。

放課後の居場所の質を測る評価の仕組みづくり

最後に、もう1つ視点の提示をさせていただきます。そういった居場所の質をどう測るのかという点です。こども家庭庁が発表した「こどもの居場所づくりに関する指針」の中でも「ふりかえって質を評価する」という段階がありますが、まだ具体的な指標が定まっていないことが記載されています。

私たちは現在、海外の「学童期の居場所の環境や関わりを観察し客観評価するためのスケール/SACERS(School Age Environment Rating Scale)」を活用して、「子どもたちにとって本当は何がいいのか」を可視化し、居場所の質の向上につなげるための評価の仕組みを子どもたちの声を活かして開発中です。

以上のように、大人だけで考えるのではなく、子どもの声を聴く仕組み自体も子どもと一緒につくっていくことが重要です。私たちの取り組みも子どもたちの声を聴いて、常に磨き続けていきたいと思っています。


▼自治体向けオリジナル情報誌「放課後マガジン」note版より

【南あわじ市取材記事】


▼開催レポート①「~こども家庭庁が解説~自治体こども計画」と「こどもの意見反映」自治体に求められることとは?」こちら

▼開催レポート➁「~滋賀県と川崎市の事例から学ぶ~自治体のこども計画策定とこどもの意見反映」こちら