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【ご報告】放課後現場 編(後編):自治体担当者向け勉強会『こどもまんなか社会』をSDGs×公民連携×放課後でつくろう!

■実践事例紹介:福島県楢葉町「全町避難による地域コミュニティ崩壊から再生へ」地域づくり推進のための放課後の多様な地域住民の参画事例


楢葉町地域学校協働センター長 兼 楢葉町教育委員会指導主事 猿渡智衛さん

猿渡智衛さん:楢葉町地域学校協働センター長、楢葉町教育委員会指導主事。大学院では横浜市や名古屋市などの政令市の放課後事業を研究し、博士号を取得。文部科学省などの委員を務め、青森県や横浜市の子ども教室を立ち上げる。12年間の小学校教員を経て文科省に出向、復興教育担当として、被災地での放課後事業を推進。鎌倉市の放課後かまくらっ子推進参与も務めている。

次に登壇いただいた猿渡智衛さんは20年前から、放課後事業に関わってきた経験を活かし、東日本大震災の被災地となった福島県楢葉町で日本初となる地域学校協働センターを立ち上げました。現在、センター長であり教育委員会指導主事でもあるお立場から、そのプロセスや現状を語っていただきました。

2011年3月11日に東日本大震災が発生。総面積の約8割が福島第一原発から半径20km圏内となった楢葉町は、全町域が避難指示区域に指定されます。翌日から町民の避難が始まり、住民が自分の町に戻ってこられるまで4年半の歳月がかかりました。

以前、文部科学省で被災地復興を担当していた猿渡さんは、町民がいなくなった楢葉町を目にして、涙したと言います。その時、心を動かされたのはある住民のこんな言葉でした。

「町に子どもが1人でも戻ってきたら、私たちは戻ります」

猿渡さん「全町民が避難して、コミュニティが全部失われてしまったんです。町民は戻りつつあるんですが、まだ人口の3分の1は町外。そこで戻ってきた方たちと新しくまちづくりを始めよう、と。そのアプローチの一つが放課後事業、地域学校協働活動でした」

福島県で教員採用試験を受けなおし、地元の学校教育に携わりながら、「教育を拠点とした地域づくり」を目的とした、地域学校協働センターの仕組みをゼロから考えました。

・設置場所は子どもたちが必ず集まれる楢葉小学校の敷地内。
・多種多様な地域住民に参加してもらえるよう、体験プログラムの実施方法を工夫する。
・放課後体験活動(ならはっ子こども教室)と留守家庭児を預かる放課後児童クラブを一体的に運営する。
・学校で実現が難しいことは放課後に実施できるよう、学校との連携を強める。

2022年4月、そうした事業設計が形となって、地域学校協働センターはスタート。猿渡さんはスクリーンに自ら撮影した動画を映し、どの教室でどんなプログラムを行っているか、地域の協働スペースをどう利用しているかなど、現状を説明してくださいました。

現在、放課後児童クラブには1日に15~25人、ならはっ子こども教室には60~70人が通い、一体型の放課後事業として子どもたちが自分で放課後の過ごし方を選択できるようにしています。

猿渡さん「参加してくださる住民の方には『きっちり教えなくてもいいので、子どもと一緒に楽しんでください』って言っています。関わってもらうことに意味があるんですよって」

地域学校協働センターは子どもの育成・教育だけでなく、地域づくりを進めていく場所です。大切なのは、地域のオーダーやニーズに応えながら「Win-Win」のスタンスで活動を続けること。施設内には住民の声が気軽に拾えるよう「リクエストボックス」を設置し、2年目を迎えた今年、活動にも広がりが出てきました。

例えば「地域のカーブミラーを清掃したい」という依頼があり、それを体験プログラムとして実施したら、子どもたちと一緒にたくさんの大人も清掃に参加してくれたそうです。

また、避難生活で楢葉町の海や川、山に行ったことがない子たちに「地元の自然を知ってほしい」との思いを受け、漁協のサポートで釣り体験、牛農家で仕事体験など、自然を肌で学ぶ「ネイチャーサタデー」プログラムも始まりました。

他にも、子どもたちは地元の商店を手伝ったり、地域のイベントの企画づくりに参加したりと、教室から様々な地域の現場へ飛び出して活動を楽しんでいます。

猿渡さん「指導してくださる住民の方には基本的に謝金をお支払いしていません。それでも皆さん、子どもたちとの関わりを求めて参加してくださいます。商店や団体とのタイアップでも謝金をお支払いしない代わりに、自由に宣伝してもらっています。子どもたちが『楽しかった』と家に帰って話せば、次は家族と一緒にお店に来てくれる。出会いの場として利用してもらえればいいんです」

ならはっ子こども教室は、多くの人を巻き込み、地域の課題解決やネットワークづくりに利用できる一つの“枠組み”です。

「教えるとか教室に縛られず、地域の人と子どもが交流する場があって、そこでいろんな話をする中でコミュニティはつくられていくのかなと考えています」

そんな猿渡さんのお話に各自治体の皆さんは頷き、真剣に聞き入っていました。


■ゲストと参加者のグループディスカッション~交流会

講演の後は、ゲストお二人を囲む形で椅子を丸く並べ、参加者全員でグループディスカッション。最初に各自治体の代表者それぞれに1分間ずつ自己紹介をしていただきました。

今回ご参加いただいたのは、名古屋市、滋賀県、芦屋市、東近江市、豊中市、京都市、泉大津市、神戸市、柏原市、能勢町、宝塚市、西宮市、大阪狭山市、近江八幡市の自治体で青少年の育成、放課後事業に携わっている方々です。

バックグラウンドや参加された目的は様々でしたが、皆さん、放課後の子どもたちをより良い環境で見守り、育んでいきたいという同じ思いを持っておられました。

どんなテーマで意見が交わされたのか、主な内容をご紹介します。

【担い手の確保について】

猿渡さん「放課後の現場を担う人の確保ってどうされていますか? いい人がいても、数年経過すると、どう引き継いでいくかという問題もありますよね」

A市の方「時間帯的に若い人が来れないので、やっぱり高齢化していますね。担い手もどんどん少なくなってきているので、いろいろ手は打っていますが、地域の中だけで確保するのは難しいです」

柏木さん「都市部ならアルバイトで学生さんに来ていただくパターンもありますけど、南あわじ市ではスタッフの年齢が高齢であることから、高齢者が子どもたちと関わることで生きがいにつながりいいことなんですけど、若い人をなかなか引き込めない。夏休みは朝から夕方まで学童保育も開設するので、人員確保やシフトの調整は大変です」

B市の方「市内に結構大学があるので、キャンパスでチラシを配布させてもらって、教育学部とか将来教師を目指している学生に来ていただいています。本人にとってもプラスになると思いますので。一方でご高齢の方も多くて、80歳とか90歳の方もおられます」

柏木さん「南あわじには高校が1校しかないんですが、ボランティア部の子たちにここ数年、ずっと来てもらっています。子どもを見てもらっている間、スタッフは他のことができますし、高校生が来てくれることで刺激があって、子どもたちも喜んでくれています」

C市の方「もと『学童っ子』だった子が、高校生、大学生になって夏休みにアルバイトしてくれたり、社会人になって就職先として選んでくれたり。楽しかったから帰ってきてくれる。それはいい人材の循環になってるなって思いますね」

猿渡さん「僕、鎌倉でも放課後事業をやっていて、大学生が多いので人材を育てようと思うんですけど、20代、30代になって仕事として考えると一生続けていけるのかな、となって結局辞めてしまう。そうならないためには、まちづくり、教育という広い分野で取り組んで効果を認知してもらう必要があるのかなと思います。国がしっかり補助金を出して、教員並みの待遇にしないと根本的な解決にはならないのかもしれませんね」

【地域の方との関わり方について】

司会「事前に参加者の皆様からいただいていたご意見・ご質問から、放課後事業は地域の理解がなくては進まないと思うのですが、最初はどうやって関わりを始めていったのかをお聞きしたいです、というご意見がありましたのでお願いします。」

柏木さん「アフタースクール体験プログラムの講師について、専門の資格がなくてもいいので、敷居を低くして、趣味・特技を活かした体験活動をお願いと「まちの先生」を募集しました。いろんなところでPRをしたんですが、すぐには広まらなくって。アフタースクールって学童保育や子ども教室と何が違うの?って。など、事業内容の周知が難しかったです。

今5年目になり、ようやく認知されてきて、「私、行きたいわ」事業に参画してくれるようになったので、やっぱり時間は必要かなと思います」

猿渡さん「うちは仕掛けづくりを意図的にやりました。町内会の人と一緒に給食を食べたり、地域の核になる名士の方5人くらいにお願いして、それぞれにグループを引っ張ってもらったり。人から人へ少しずつファンを増やしていく、みたいなことをしました」

D町の方「うちの町は過疎化が進んだことで、6校あった小学校と2校あった中学校が一つになって、今年度から義務教育学校になりました。それで地域の交流がなくなったことを嘆いておられる方々がたくさんいらっしゃって、協働本部を立ち上げました。その協働本部さんを通じて、地域の方々に声をかけさせていただいています。予算はそんなにないので、来ていただく方の敷居を低くするのは大切だなと思います」

【学校との連携について】

E市の方「小学校の教室をお借りして活動しているんですけど、子どもの数が多くて教室が足りていない中で、放課後の体験プログラムを実施する場所がなくて苦労しています。放課後の活動で子どもがケガをしても保健室を使えない。学校とうまく連携できていない状況をどうしたら解消できるのかなと思います」

猿渡さん「僕も同じような経験をしたのですが、これは時間が解決すると思っています。放課後の活動は教員が子どもの頃になかったから違和感を持たれるんですけど、当たり前になってくると教員の意識も変わります。

例えば、子ども教室でこの子はこんな顔してましたよ、ってエピソードを教えてあげると、子どもを一緒に見守ってくれてるんだなって理解してもらえる。教員にとって『Win-Win』の存在であることを認識してもらうのが大切だと思います」

20分という短い時間でしたが、ゲストを交えたディスカッションは、他の自治体の放課後の現場をなかなか知ることのない皆さんにとって、貴重な機会となったのではないかと思います。

続いて始まった交流会では、柏木さん、猿渡さん、参加者の方々が名刺を交換しながら、和やかに懇談。会場内にはいくつも人の輪ができ、どのグループもお話がいつまでも尽きない様子でした。


■参加者にお話を聞きました!

東近江市 こども未来部 こども政策課 主査谷 佑一郎さん

今年4月から放課後児童クラブ(学童保育)の担当になり、1日目の勉強会に続いて今回も参加させていただきました。子どもたちの放課後の時間の質を高めることは教育にとってすごく重要ですし、子どもが育っていくことは地域の将来にも繋がりますので、そのノウハウや事例を学びたいと思ったからです。

1日目は企業が子どもに関わっている事例でしたが、それが企業にとってもプラスになるというお話で、放課後の時間を工夫することに大きな可能性を感じました。

また、今日のゲストのお二人は、いろいろ課題もある中で信念を持って形を作っていかれているのがすごいな、と。家庭環境に関係なく誰でも学べる、体験できる機会を作っていくことが大切だとあらためて確信しました。

東近江市には小学校が22校あります。学童保育と放課後子ども教室は管轄する部署が違うのですが、そこを調整して、各事業の特徴をうまく取り入れながら、参加したい方が誰でも参加できる場所を1校ずつ、作っていきたいですね。

そのためにも、2つの事業を同じ部署が担当されている南あわじ市の現場を、私だけでなく、放課後子ども教室担当の方や学童保育の指導員さんと一緒にぜひ訪れてみたいです。


ゲストのお二人(中央)と14の自治体の方々で記念撮影

暑い中、勉強会にご参加いただいた皆さん、本当にありがとうございました!