コラム「境を越えた瞬間」2022年8月号-伊藤菜緒さん‐
プロフィール
伊藤 菜緒(いとう なお)
理学療法士、介助者、境を越えて事務局スタッフ
大学2年生より、仙台のALS当事者の学生ヘルパーを行う。大学卒業後、千葉県習志野市の東京湾岸リハビリテーション病院にて理学療法士(以下、PT)として勤務。脳血管障害や骨折、脊髄損傷等の方と関わる。
2019年より、ALサポート生成、訪問看護リハビリテーション「う・た・し」及びNPO法人境を越えて事務局にて勤務。
二つの視点で越えていく
大学2年生のある日の朝8時くらいの勉強会で
「ALSの人とコミュニケーション体験してみないか?」
という教員からの呼びかけにすぐに参加の旨を伝えた。
“好奇心と将来役に立つかも”という安易な理由である。
何回かコミュニケーション体験への訪問に伺った後、その教員から「学生ヘルパー」の誘いを受け、二つ返事でOKした。
月の訪問回数はそれほど多くなく、次のシフトに入った時にはケアの変更があることもよくあったので、一緒にシフトに入っていた学生とフォローし合いながらやっていたことや、夜勤中コミュニケーションが取れなくて、当事者や家族を起こしてしまったことに申し訳なくなりへこんでいたことを思い出す。
大学卒業後はリハビリテーション病院でPTとして働いていたが、その時もガンガンリハビリしながらも”その人との対話”を意識していた。回復期ということももちろんあるが、関係性の構築ができていた方は特に動作能力やADLが向上していたと思う。
リハビリだけでなく、コミュニケーションの大切さを意識できたのはやはり学生ヘルパーの経験があったからだと思う。同僚や患者さんから「伊藤さんはリハは攻めてるけど愛があるよね」とよく言われていたし、そのような現場で働けることにやりがいを感じていた。
しかし、PTだけでは物足りないと思い、連絡したのが冒頭に出てきた当時の教員である。この機会に当時のメールを探したところ以下のような連絡をしていた。
『私ごとで恐縮ですが、今月末で病院を退職することになりました!笑
PTだけじゃなくていろんな仕事したいなと思っております。
先生の周りで◯◯さんみたいに夜間の在宅介護してほしい方や非常勤でPT募集しているところ、難病コミュニケーション系のお仕事など何か私にもお手伝いできるお仕事あれば教えていただきたいです。』
振り返ると本当に失礼で他力本願すぎる連絡だが、まさに今私がやっていることそのものである。
現在は、PT兼介助者として働いている。PTも介助者もアプローチの仕方や関わる時間は違うが、その方の人生の一部に関わり、成したいことをサポートするという点では似ていると思う。
学生の頃よりも深く介助の現場に関わることで当時は気付けなかった当事者の考えや思い、在宅生活を送る困難さに日々触れている。自分自身もPTや介助者としての境や課題はこれからもたくさんあると思うが、PTと介助者の二つの視点を持って越えていければと思っている。
最後に、なんの抵抗感もなく好奇心だけで境を越えていた大学2年生当時の自分を褒めたいと思う。