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コラム「境を越えた瞬間」2023年9月号-安齋敬太さん‐

プロフィール

安齋 敬太(あんざい けいた)

2011年,特定非営利活動法人せんだいアビリティネットワークが運営する仙台市重度障害者コミュニケーション支援センター(以下,センター)の非常勤職員として従事。
2012年,東北福祉大学総合マネジメント学部情報福祉マネジメント学科卒業後,特定非営利活動法人せんだいアビリティネットワークに正職員として入職,以降センターの常勤職員として従事し現在に至る。

笑顔で患者さんの相談に応じる安齋さん



「患者さんのニーズに応えたいから、自分も成長していたい」


 私は,仙台市内の進行性神経難病をはじめとする発声困難な方たちのコミュニケーションを継続的且つ専門に支援するセンターに勤めています。

センターの存在は全国的には珍しく,仙台市では2011年に,市の委託事業を特定非営利活動法人せんだいアビリティネットワークが請け負う格好で発足しました。
センター宛てに最も多い相談は,意思伝達装置(以下,意思伝)に関する訪問要請です。
特に,ALS(筋萎縮性側索硬化症)等の発声困難な意思伝ユーザーにとって,使いやすいスイッチを探すことは,コミュニケーションの生命線の探求ともいえます。

 私がセンターに入職した当初,どのような機器がユーザーニーズにマッチングしやすいのか,ICTのコーディネーターとして継続的な訪問支援に尽力していました。
ですが,ある日,一つの壁に直面しました。

ALSの意思伝ユーザーAさんに
「私のセールスポイントは顔なの。病気が進行しても手のスイッチで意思伝を使い続けたい。私に合うモノが無いなら作って欲しい。」
と依頼されたのです。

当時のAさんに対する私の評価は,
「病気の進行により手のスイッチが困難になってきたことから,今後は,運動機能が維持できている表情筋を活用してスイッチを使用して欲しい。」
という具合でした。
Aさんのニーズは独創的で市販されていないスイッチを期待されていることは明白でした。
しかし,このままではAさんのニーズを本当の意味では実現できないだろうと感じました。

私は,Aさんをはじめ,関係者の皆さんがWin-Winの関係になることを条件とし,有識者等の協力を得ながら新たなスイッチの可能性を探りました。
無いものを作れないだろうか?」という発想のもと,はんだごての握り方やアプリケーション制作の考え方といったモノづくりのノウハウやスキル習得に専念し,試行錯誤のうえ,Aさん用のスイッチを完成させました。

完成したそれは,素人さながらの粗末なモノでしたが,Aさんは「ありがとう。これで前みたいにコミュニケーションがとれる。」と喜んでくれたのです。訪問する度,毎回のように嬉しい声をかけてくれたのです。

自分の中で世界観が大きく広がったような,境を越えた瞬間でした。

それ以降,さらにスイッチが使いやすくならないか,工夫の余地はないか,無駄はないか…と,患者さんのニーズの実現のために探求し続けています。

微細な調整を重ねたスイッチ

 10年以上,訪問支援を実践してきた現在では,患者さんの「個性」や「こだわり」が「真のニーズ」として感じられるようになりました。

自分の成長を実感する一方で,昨今の目覚ましい技術の進歩に自分がついていけるか不安になります。
日々の訪問支援の中で感じられる患者さんの期待にきちんと応えられるのか,いつもハラハラドキドキです。

それでも自分を成長させ続けることが,患者さんのニーズの実現に繋がると信じて,今日も訪問支援に励みます。


境は至るところにあります。目に見える境もあれば目に見えない境もあります。境がないと壊れてしまうものもあれば、境があるから困ってしまうことがあるのかもしれません。
毎月、障がい・福祉・医療に関わる方に「境を越えた瞬間」というテーマでコラムを書いていただいています。
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