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【報告レポート】インクルーシブ運動会

Twitterでチラ見せをしていた新しい試みの報告レポートです!

深田耕一郎さん(社会学者・女子栄養大学准教授)と、当団体の理事であった海老原宏美が川崎市立東橘中学校で行っていた「インクルーシブ運動会」という活動。

当法人の現在のカリプロ(『地域生活の視点で学ぶ重度身体障がい者の暮らし~地域で暮らすを覗いてみよう~』)は、保健・医療・福祉を目指す学生向けに実施しておりますが、他の学部はもちろん、ゆくゆくは高校・中学校・小学校・保育園や幼稚園でも知る・出会う・考える機会をつくりたいと考えています。私たちが暮らす地域には重度障がいのある人もあたりまえにいると感じられる機会が子どものころからあったらなって感じます。

今回は、深田さん&海老原企画のインクルーシブ運動会に、伊藤弾さん(SMA当事者:深田さんの友人で初回より参加)、髙野元さん・杉田省吾さん(ALS当事者:当法人と連携協力を結ぶ川崎つながろ会)、当法人事務局が参加させていただきました! ぜひご覧ください☆


インクルーシブ運動会って何?

■深田耕一郎(ふかだ・こういちろう)さん
社会学者で、著書に『福祉と贈与』(生活書院,2013)があります。
社会学を教える准教授でありながら、NPO法人学生支援ハウスようこその事務局次長もやられています。
深田さんは学生時代、新田勲さん(日本の障害福祉のパイオニアで重度脳性麻痺者)の介助をやっていました。現在は、当法人理事・天畠の介助も行っています。

■きっかけ
2018~19年に、深田耕一郎さんが、東橘中学校の先生からの依頼で「地域ふれあい体験学習」のひとコマを担当したことがきっかけでした。
2020年からは「総合的な学習の時間」のなかで「福祉」をテーマにした授業を担当することになりました。
川崎市の中学校ということで、同市出身の海老原と相談したところ、中学生たちに、車いすの人でも参加できる運動会を企画させて、当事者も呼んで実践しちゃおうというアイデアが生まれました。
というのは、海老原も、中学校のころは運動会の競技には参加できず、放送係をまかされていたといいます。だから、あまり楽しい思い出はないのだと。
それは、車いすの人を排除するルールがまちがっているのであって、みんなが参加できる新しいルールを考えればいいんじゃないか
そうした考えのもと、インクルーシブな運動会を企画しよう!という取り組みが始まりました。


概要

開催校:川崎市立東橘中学校
対 象:1年生320名(8クラス)
科 目:総合的な学習の時間(月曜日6限目)
日 数:全体学習+5日間(内1日は生徒のみの話し合い)
※運動会の中で、騎馬戦にスポットを当てて考えていきます!

境を越えてからは、当事者3名が参加し3クラス担当しました。

★深田さんとのつながりで、井上宇大さんと北川春介さんがそれぞれ1クラス参加されていました。
★自立ステーションつばさの皆さんは3クラス担当されていました。つばさ独自の交流プログラムを行っているため、インクルーシブ運動会ではないプログラムになります。


内容

-全体学習-

深田さんと伊藤さんで、インクルーシブ運動会を行うにあたり趣旨説明を行い、「インクルーシブ」「合理的配慮」「社会モデル」の考え方について紹介をしました。

-1週目-

いよいよスタート!まずは自己紹介の日。
※事前に担任の先生とオンライン顔合わせをし、この日の予定を話し合いました。

髙野さん(上段)と杉田さん(下段)はそれぞれご自分で自己紹介の資料を用意し、髙野さんは自身で発表用ソフトを操作、杉田さんは介助者とともに自己紹介をしました。
その後は、生徒から質問攻めに合うお二人でした♪
自立ステーションつばさの皆さんはオンラインにて自己紹介を行っていました(右上)。
井上さん(左上)は、自分で用意してきたボードを使って自己紹介をした後、先生や生徒からの質問に答えていました。北川さん(下段)は廊下からクラスの様子を見ていると、生徒たちが集まってきて好きなゴジラの話で盛り上がっていました。その後教室にて生徒たちからの質問に答えていました。折り紙名人の生徒が、事前にゴジラ好きと聞いて折ってきてくれたそうです!

-2週目-

この日は作戦会議1日目!ゲストのことを知って、どうしたら騎馬戦が一緒に楽しめるかを考えます。

【髙野さんのクラス】
一緒に騎馬戦をやるために必要な情報を書き出して、透明文字盤を使って直接聞いていきました!最後は髙野さんからの提案で「持ち上げてみて」と。持ちたい持ちたい!と集まってきた生徒さんが力を合わせて15㎝くらい浮いていました☆持ってくれたメンバーと記念撮影(隠してしまったけど…みんなすっごく良い顔!!)
【杉田さんのクラス】
コロナ禍で騎馬戦を経験していなかった生徒に、まずは先生が実演にて説明。その後、アイディアを出し合ったり、介助者が読み上げる杉田さんの言葉を生徒がメモしたりして、どういうものがいいかを考えました。最後は、車椅子を押して校内を案内してくれました!「車椅子きまーす」と誘導してくれる子やスピードを調整してくれる子がいたり、男子トイレに一緒に入れるかを挑戦したり、大盛り上がりでした☆
【伊藤さんのクラス】
こちらもまずは騎馬戦のやり方から!その後、意見を出し合ったり電動車椅子を操作する伊藤さんと廊下を歩いてみたりしました。
井上さんのクラス(左上)では、グループごとに内容とルール作りをしていました。北川さんのクラス(右上)では、北川さんのできることやできないこと、好きなことや嫌なことを北川さんに聞きながら出し合いました。
つばさの皆さんのクラスでは、車椅子体験!こんな少しの段差でも車椅子のタイヤは引っかかります。水道は前から行ったら手が届きません。さあ、どうしたらいいんだろう?実際に経験してみていました。また、「介助者募集チラシを作ってみよう」というクラスもありました。

-3週目-

この日は作戦会議2日目ですが、生徒だけで考える日でした!
どんなことを考えてくれたのでしょう?

-4週目-

さあ、いよいよインクルーシブ騎馬戦に挑戦!
髙野さん・杉田さん・伊藤さんの3クラスが合同で行いました。
各クラスが考えてくれた企画書です!生徒の想いや工夫が込められています。

【伊藤さんクラスのルールで騎馬戦】
カブトをかぶる人とそれを守る&相手のカブトを取る4人という、5人一組で戦います!生徒たちは白熱し、離れてみていた介助者はハラハラしていたかもしれませんが、当事者の皆さんは子どもたちに揉まれてにこにこ☆
騎馬戦により近い形で、入り乱れる雰囲気もあり、とても面白そうでした!
【髙野さんクラスのルールで騎馬戦】
お手製の透明ジャンケンボードで、先鋒・次鋒・大将を順に倒していきます!透明文字盤でコミュニケーションをとる髙野さんからインスピレーションを得たのでしょうか。大将まで勝ち抜けた人が多いクラスが勝ちです。普段使わない杉田さんや、使ったことのない伊藤さんも挑戦!「うわー負けたー」と先鋒に戻っていく生徒たち…こちらも白熱していました!
小学生や幼児でも楽しめるルールですね☆
【杉田さんクラスのルールで騎馬戦】
同じくジャンケンをしますが、杉田さんの口文字でのコミュニケーションからインスピレーションを得て、顔の表情などを使ったジャンケンです。ぎゅーっと目をつぶったらグー、ぱーっと目を開いたらパー、目を横にキョロキョロさせたらチョキとのこと。生徒たちは二人三脚で騎馬を作っていました。
時間があったら、並び順などを作戦会議できたらさらに面白いかも!と思いました☆

井上さん・北川さんのクラスが合同で行い、井上さんの好きな電車、北川さんの好きなバスケを取り入れて内容を作ったとのことでした。
自立ステーションつばさの皆さんは、「介助者募集チラシ作り」や「とろみ食事を作って食べてみよう」を教室で行ったそうです。

-5週目-

最後は、クラスごとに振り返りです。

  • よかった点は?

  • どんな思いを込めた?

  • こうすればよかったなと思う点は?

  • 気づいたことや感じたことは? など

自分で考えたり、グループで話し合ったり、ゲストの皆さんも感想やメッセ―ジを伝えたりしていました。
もう一回やってみよう!と内容を変えてチャレンジするクラスもありました。


全体を終えて

  • 髙野元さんより

素晴らしい企画に誘っていただき、ありがとうございました。
以前から、子供は障害者に対しての偏見がないことに注目していて、いつかは小学校や中学校で生徒と交流したいと考えていました。夢が一つかないました。
私を知るために、好奇心を持ってさまざまな質問をしてくれました。その中で、透明文字盤での会話に着目してくれて、透明なシートにグー・チョキ・パーの絵を書いて、目線でじゃんけんができるように工夫してくれました。騎馬のぶつかり合いではなく、じゃんけんで勝敗を決めるので、体が動かない私でもとても楽しむことができました。私のじゃんけんが弱すぎて、クラスの勝利に結び付けられなかったのは残念でしたが(笑)
障害者を怖れず、違いを正しく認識することで、対等な関係を築くことができることをわかってもらえたのではないかと思います。

  • 杉田省吾さんより

「障害を持つ・持たないの区別なく誰にも優しい社会が来るとしたら、そこには教育の力が不可欠だ。」
そんなことを思いながらも、どう行動を起こせばいいのかわからず、近所の学校の周辺で不審者として注目されるところから始めるしかないなと思っていたところ、こちらにお誘いいただいて不審者にならずに済みました。ありがとうございました。
子供たちはホントにキラキラしていて毎回元気をもらった。騎馬戦も楽しかったし、私でも楽しめるルール作りでは私のことを観察することでアイディアが生まれていてとても嬉しかった。
彼らにとってこの経験が印象深いものであってほしいし、このような授業が継続された結果、障害者と健常者の区別せずに済む世の中に繋がっていってくれればいいなぁと、妄想しております。
貴重な経験をさせていただきありがとうございました!

杉田さんは東橘中学校の近所在住で、お散歩コースにしていたそうです。
  • 伊藤弾さんより

私が一緒に取り組んだ中1の生徒たちはシャイだけど、とても素直で思いやりがあったなーと感じます。私が教室に入ると急に皆さん人見知りが始まり大人しくなるのですが、こちらから話しかけると車椅子のことで気になることを聞いたり、障害のことで質問をしたりしてくれました。
こちらからバリアを外していくことの大事さを改めて感じました。
インクルーシブ運動会も、皆さんがルールを熱心に考えてくれたこと、私をよく観察していたんだなということを感じました。
こちらも中1の皆さんからは素直さだったり好奇心だったりから良い影響を吸収出来たと思うので、とても良い経験でした。

  • 深田耕一郎さんより

インクルーシブ運動会は、障がいのある人にやさしくしようや、介助の技術を身につけようという趣旨とはちょっと違って、同じフラットな地平から経験をともにして、直接に感じ方や考え方に触れよう、ということが出発点です。
今年も、何もわからない「はじめまして」のところから、お互いに言葉をかわし、身体に触れたり一緒に歩いたりしながら、互いの「理解」を深めて行きました。
東橘中学校の1年生たちは、一緒に運動会を楽しむにはどうしたらいいかと熱心に考え、想像力をフル動員して、新しいルールを発明しました。
そうしたプロセスから、多様なひととの出会い方を広げて行く、そのきっかけをつかんでもらえていたらうれしいと思っています。

  • 北川春介さんより

「もっとお話がしたかった バスケがしたかったみんなで」
「ゴジラをみんなで見たのがたのしかった」

帰宅後、クラスの振り返りプリントに北川さんも感じたことを記入したそうです。
  • 井上宇大さんより

電車クイズ、良かったです。
ウエスタンリバー鉄道の楽しかったよ。

支援者より:
井上さんの楽しめる内容を考え運動会を行っていただき、嬉しく思っています。電車のクイズ出しを楽しめたようです。
次の機会があるならば、ゲストでは無く、一緒に運動会を行う仲間として、全ての場面に生徒さんと共に関わらせていただけたらと思います。
井上さん共々、良い経験をさせていただきありがとうございました。


来年度に向けて

生前、海老原は「インクルーシブとか合理的配慮って言葉だけじゃ絶対わかんないんだよ。実際に一緒に考えたり、体験することが大事なんだよな~」と言っておりました。そんな想いが実現したのがこのインクルーシブ運動会です。
最終日の振り返りで、生徒たちから「騎馬戦ができたんだから、他の競技も工夫すればできると思った」という発言がありました。体験から新しい視点に繋がった瞬間だと感じます。
今年度はこれまでの活動に参加させてもらい、子供たちの変化を体感しました。来年度は、インクルーシブ運動会を総合学習の時間に取り入れるための課題整理をしながらモデル開催を行って行けたらと考えております!

面白そう~!一緒にやってみたい~!当事者の方を随時募集しております。是非是非、ご一報ください。


参考

  • 深田さんが事務局次長を務める、NPO法人学生支援ハウスようこそ

  • 深田さんの著書『福祉と贈与』生活書院,2013

  • 自立ステーションつばさ

  • 社会福祉法人なごみ福祉会 (参加協力をしていらっしゃいます)


お問い合わせ

info@sakaiwokoete.jp

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