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感覚を鍛える

「進化と退化」

人の進化は直立歩行からと言われています。それは4足歩行に比べ前足、つまり手が自由に使えるようになったからです。「創造する手」としての発達は、指先に集中する神経群からも理解出来ます。しかし、近年、手先指先を使うことが次第に減少し始めています。不器用な人の増加はそれを物語っています。男の子で流行っていたプラモデルは、面倒くさい、難しいと敬遠されるようになり、はめ込み式の形態が多くなりました。昨日も、手先指先に関する動詞を35種類ほどあげましたが、これから幾つのことばが「死語」となるか心配です。これは、人としての退化を表しています。

子ども達が35種類の動詞を日常生活で使えないとしたら、たぶん、子ども達の保護者もその大多数が出来ないでしょう。それは、料理をしない家庭が増えているという報告からも推察できます。「剥く」という動詞は料理で多く使われます。野菜の皮を剥く、これを包丁で剥くか、皮むき器で剥くかでも手の器用さが違います。モノによっては皮むき器を使うでしょう。では、リンゴではどうでしょう。大人が、皮むき器でリンゴを剥く、昔では考えられないことです。生活の中で、便利になったことは数多くあるのですが、手先や指先の器用さは、日頃から数多く使うことで得られる貴重な人としての技能です。また、人は、便利だからという考え方から失った能力は数多くあります。それが、思考も伴う「工夫」という能力です。子ども達を取り巻く環境は、大人と同じものです。「便利な世の中」ということばに隠された悪しき環境の創造は如何なものでしょうか。便利ということばの反対は「怠惰」です。子ども達の環境は「怠惰な生活」へと導かれているのではないでしょうか。

生活の中で養われることは数多くあり、そこから生まれる創意工夫が思考力という形に置き換えられ、さらに、仮説・想像・イメージへと知的に変化していきます。子ども達に必要なのは、何事にも便利な環境ではありません。不便な生活こそ最高の学びの場となります。動物を見ても、手先指先を器用に使うものほど知能が高いことがわかります。私たちは、次第に進化から退化への道を歩んでいるのではないでしょうか。

子どもは、母国語という言語の獲得をする時期が3歳ころまでです。この間、子ども達は自由にことばを使えません。すると、子ども達の感情表現はとても感覚的な動作に集中されます。五感をフル動員し、臭い、音、味、感触、見た目であらゆるモノを記憶していきます。右脳が活発に動いていると言っても良いでしょう。3歳ころから次第に左脳が活発化してきます。言語性が高まり疑問や思考という今までとは違い、知的成長へと歩み始めます。つまむ・掴む・握る・叩くなどの指先の基本動作を繰り返し行ってきた子ども達は、更なる模倣を始めます。それが、線を書いたり、絵を書いたり、数字や文字を書くという動作です。

殴り書きと呼ばれる知的発達の証である動作です。この頃から、モノを使うようになります。指先手先を鍛えるチャンスの時を迎えるわけです。ことばを添えて「粘土をよくこねましょうね」「ひもをチョウチョのように結びましょうね」動作とことばの一致を心がけます。親子で向き合う学習が始まります。お母さんやお父さんと、料理をしたり、日曜大工をしたり、ことばが添えられた動作の経験が、指先だけでなく、語彙数の獲得をも可能にしてくれます。

このように、ことばが添えられた経験、体験は次第に手先指先の感覚教育と共に「概念形成」へと導いてくれます。概念形成には、生活概念、社会的概念、動物概念、四季の概念、数の概念へと広がっていきます。夏休みは、子ども達にとって大きな飛躍のチャンスです。ことばを添えた経験、これを、経験・体験・行動の言語化と言われています。どうぞ、夏休みにはお子さんとたっぷり関わってあげて下さい。

PS 
皆様にはこの間、激励やお見舞いのコメント、メールを多数頂き感謝申し上げます。今暫くは通院致しますが、順調に回復しております。2週間ほど満足に仕事が出来ませんでしたが、たっぷり充電が出来ました。
これからも宜しくお願いいたします。
石川

2013/7/29


著:石川教育研究所 代表 石川 幸夫

石川教育研究所 代表 石川 幸夫

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