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りんご

軽井沢で買ってきたりんご食べた。特別思い入れがあるわけでも好物でもない食物であり果物。でもちょっとした思い出ってのもあるんだ。小学生低学年の時の話。おばあちゃんちは農家だった。お米はもちろんなんだけど。りんごも作ってた。ああ、だからりんごなんだねって。すぐに話し終わっちゃうか。それじゃあんまりなんで話伸ばします。昔はね。農業って機械にあんまり頼ってなくて。というか機械って物自体普及してない世界。人海戦術で事にあたってた。近所に展開する親戚一同が収穫の時期に集合。稲刈りやらりんごの収穫。そういう中に自分も放り込まれていた。子供なんて戦力外なんだけど。逆に足引っ張ってるんだけど。親に引っ張られていった。大人たちが仕事してる現場に子供一人。超居心地悪い。本当に嫌だったから行きたくなかった。けど有無を言わさず親に連れてかれた。収穫の繁忙期は週末ごとにそういう事になってた。そして大体の目処が立った頃合い。収穫祭のごときジンギスカンパーティーなんてものが開催された。りんご畑。まだ収穫されていないりんごがたわわに実った木の下で。ワイワイざわざわガヤガヤ。マトンの肉が焼ける音。肉の匂いをどんどん放出する煙の軌跡。酌み交わされるお酒。聞いても何も理解できない田植え唄みたいのを酔っ払った父親が歌い始める。手拍子手拍子。肉をつけるタレにはすりおろされたりんごがふんだんに投入されてる。おかわりしても尽きることがない肉や野菜。宴は延々と続く。ねえ、こんな風景童話の世界みたいだと思わない?。美しい昔話。人様にとってはなんてこともない些細な記憶。でもこういう些細なワンシーンが死ぬまで自分を縛ってくんだろうなと思う。今じゃ、そのりんご畑もないし。親戚一同は二つの派閥に分かれて何十年も半目を続けてるし。おばあちゃんも父親も死んじゃって。人海戦術が希求される農業自体空中分解してる。涙腺揺るがすようなリアルなんてもう記憶の中にしかない。その記憶だって自分に都合がいいように捏造されたものなのかもしれない。でも、どんなに変貌遂げたのか知らんけど、やっぱりその土地は現実に存在してて。今を生きてる人は延々とそこに生き続けるんだし。だからさそこに放射能とかばら撒かれると怒りしかないんだよ。りんごからそこに話持ってちゃうのも強引?違和感なんだけど。記憶だけで今そこにいない人間が怒りばらまいてもなんなんだけど。自分は今ここに存在してて。でもまた別の自分はパラレルに違うとこに存在してる。その自分は肉纏ってないのかもしれないけど。曖昧で儚い情報とか記憶みたいなくくりで多分そこにいる。「夢は今も巡りて忘れ難き故郷」ってこういうことなんだ。りんごがスイッチになって自分を違う世界に送り込んだって話でした。おしまい。

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