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箱庭のフェイク農民

春の花の季節も一段落。
重たい上着ともいよいよバイバイって心持ちになって。
外に出て緩い空気を思い切り吸いながら眩しい紫外線に照らされた輪郭線がこれでもかってぐらい際立った風景の中に立つ。
一年で一番美しい季節の到来だよね。
普段見飽きるほど見飽きてるここやそこもあっちも初めて見た?ってぐらい新鮮な感じがする。
たくさんのいろいろなとこに行きたくなるし、たくさんのいろいろをしたくなる。
世界が優しさのすべてを自分に降り注いでくれる。
そんな開放感。
さ!で?何しましょうかね?。
気持ちの良い日差しの下。
とりあえずは外に出てる。
それだけでも十分満足。
ガーデンチェアとかあったらそこでハーブティーでも飲んで。。。
夢想の世界。
でもやっぱりじっとしてはいられない。
太陽の光が身体の運動能力を刺激する。
ハーブティー?。
ハーブ?。
普段はハーブなんて言葉、頭の隅っこにも存在してないし、生活のどんなワンシーンにも登場することもないアイテム。
ハーブティー。。。飲むのもいいけど。
自作してみよっかな?。
なんとも唐突な発想湧き出すのも。
きっと太陽のせい??。
思い立ったら吉日ですよ。
近所のホームセンターに繰り出そう!!。
でも、何買い揃えていいかもわかんないんで、ともかくハーブティーをググってと。
ハーブの苗とプランターと土だね。
ネットでポチっちゃえば簡単なんだけど。
今は動きたいってことも優先順位の上の方に位置してるので、出かけるのです。
で、車を出して近くのホームセンターへ。
んん、なんだか混んでるねえ。
そして園芸コーナー。
わ。バーゲン会場みたいな混雑っぷり!!。
バーゲン会場なんて言っては見たけど、バーゲン会場なんて図、全然浮かびません。
そんな光景はサザエさんの中に現れる概念かもしれないね。
でも、混雑という言葉から浮かんだ表現。
心地よい季節にふわふわしていた感情が一気に反対側に振れてしまった。
もしかしたら、自分が感じていること、思っていること。。。みんなも同じなんだなってなって気持ちもスーッと引いていく。
ちなみにこの季節のホームセンターは年末と並んで一番の繁忙期。
でも、今さらどうした?。
この雑踏の向こうにはきっと夢想したパラダイスがあるはず。
気を取り直して園芸売り場に繰り出す。
目を奪う色鮮やかな夏の花苗は軽くパス。
こちらも十分魅力的なんだけど、今回は口に入るものってカテゴリー求めているので。
ハーブを探すことが一番の目的。
花苗に比すると地味目の草っぽい一帯の売り場発見。
野菜、ハーブ苗のコーナーやってきましたよ。
どれどれハーブはどこどこ?。
そこに行き着く前に、ミニトマト、トマト、なす、きゅうりの夏野菜の圧倒的な売り場にやられる。
トマト、きゅうり、スイカ、メロン。。。
なんともうやむやで抽象的な素敵系のハーブの疑念に黄色信号点灯。
なんとも具体的なイメージで迫ってくる野菜の魅力。
自分の手でこんな夏野菜作って収穫できるの?。
野生の本能???が不意に目覚める。
すっかり夢想の形もイメージできないハーブティーのことなんか忘れている。そもそもハーブティーを嗜むなんてことより、焼きナスやらトマトサラダの方が百倍嬉しい。
トマトの苗、なすの苗、野菜用のでかいプランター二つと土を買いました。
ー自分は実はこういうのを売る立場にいるのであっさりと書きましたが。野菜の苗を選んで、それに何が必要とか分量はどのぐらい?ってのはふと野生の本能が目覚めた人にはスラスラ判断して購入することは難しいかも、ですー
荷物を車に積み込み帰りましょう。
にわか農民になる準備は万端。
農民生活にも慣れたら、おいおい気分転換としてハーブでも片隅で育てようか?。
最初のふとした出来心からは相当膨らんだ妄想になっている。
家に戻ったら、モチベーション下がらないうちに速攻作業開始。
まずは買ってきたもの並べてみる。
二つのプランターにそれぞれ土をどさっと入れてトマトとなすの苗をそれぞれ植える。
植え終わったら水をやるんだったよな。
水?。
どうやって水やりする?。
しまった、ジョウロというものが必要なんだな。
ジョウロを用意するなんて思いもしなかった。
ホームセンターで一緒に買ってくればよかった。
ご近所さんのコンビニに売ってないかな?。
絶対売ってないな。
野菜を植えたでかいプランター持ってキッチンのシンクに行く?。
いやそれは無理!。
そうだ!。
ペットボトルをジョウロがわりにすればいいじゃん。
農民としての知恵が回り始めてきたよ。
さてと賽は投げられた。
ペットボトルの水が土に注がれる。
土の色が深い色に変わり、土の匂いが鼻を刺激する。
眼前には鉢植えのトマトとなす。
路地裏みたいな箱庭の風景でしかないのだけれど、土の匂いはゆらゆらと風に踊る作物を育む大地そのものなんだ。
さっきまではハーブティーでも飲みながら素敵な午後でも過ごしたいな。
なんて、夢想していたチャラい自分はもう思い出すこともない。
収穫を待つ野菜畑に日に焼けてすっくと立つたくましい農夫になっている。
これからの自分は今までとは違うんだ。
日銭稼ぎにスーツ着て仕事に出るけど、日々、野菜の生育に目を配り心はここにある。
超思い込みも突き詰めれば大きく変化する未来がやってくるかもしれない。
本当の農民になる日が来るかもしれない。
いや、ないない。
どんな世界も同じようなものだけど、アマチュアとプロの違いってあるよね?。
農業だったら必要とされる一定量を収穫するっていうのが前提。
計画通りにできなければ収支のバランス崩して追い込まれる。
アマチュアってのはそうリスクから遠く離れたレベルでの投資で得られる楽しみにとどまっている。
土いじりとか大気の下で汗を流す。。。みたいな擬似農民の観念に酔うような。。。結局、趣味なんだよね。
さてさて季節も進み、野菜の苗にも変化が。
野菜の苗が育ち始めると、想像以上に伸びるんだなって気づく。
ほっとくと倒れちゃう。
どうしたらいい?。
はじめっからフェイク農民には先生といえばGOOGLE先生。
さっそく、教えてGOOGLE先生したら。
支柱ってものしなくちゃいけないと学んだ。
これもコンビニでは売られてなさそうだから。
休みの日を待ってホームセンターで購入した。
その後、トマトやナスに花が咲く。
劇的な変化に胸を熱くするのもつかの間、数日もすれば花も終わりそこから結実の兆しが見えて来る。
ただの草みたいものからスーパーで売られてるトマトやなすがほんとに出来て来るのか。
奇跡の現場に立ち会っているような感慨に耽るフェイク農民の図。
野菜と密接な時間を共有していると勘違いしている観念先行の農民もどき。
実は大して時間を共にしているわけではないので、結実していく野菜の変化の速さに驚くんだ。
りんごやみかんみたいに一斉に完成、収穫ってゴールがトマトやなすにはないんだ。
花が咲く>結実。
それが無数に繰り返される。
花が咲いてから一つの実ができるのにそれほど日数はかからない。
自然の奇跡の感慨に耽っている場合ではない。
早く収穫してくださいよ。
最初にもぎ取る瞬間はこれまた打ち震えることでしょう。
生産の過程の歯車の役割しか与えられたことのない自分。
今ここにいる自分はまさにものを生産する中心にいるのです。
一つの結果を創造する神の位置に初めて立ったわけ。
今までに経験したこともない充足感にもうここで死んでも本望!!。
そんなことはないだろうけど、ま、やった感は相当なものでしょう。
収穫を目前にしてここでも、ん?、トマトやなすどうやってとればいいんだ?。
ハサミ?、園芸用のハサミなんてないし、またホームセンターか?。
そんなのめんどくさい。
ハサミがないわけじゃないよ。
紙を切る普通のハサミでいいや。
四苦八苦しながら、数個のトマトとなすを収穫して器に盛る。
もうこれだけで美しい作品の完成としたいところなんですけどもねえ。
野菜は飾ることが目的ではないよね、食べてみないと。
水で洗って。
水気を帯びた野菜はさらに神々しく輝いて見えるし。
どこまで気分高揚してんだよと自分にツッコミ入れながら。
テレビ番組でありがちの農家の自家製野菜のレポみたいに、とりあえずトマトにかぶりつく。
「あっまー。この瑞々しさ。うまーっ!!。。。」ってなるはずだったんだけどちょっと違う。
皮硬くない?。
味も大味?。
スーパーでいつも買ってる一袋¥398のトマトとはちょっと違う。
でも、それが個性ってもので、工業製品のように企画どおりの形と味の野菜と自分が育てた野菜が同列にあるはずがない。
そう結論づけてトマトをかじるフェイク農民。
幸せである。
結果の責任は一切負わない。
過程が全て。
なんでもね、こういうんだったら警察はいらないってなるわけなんだけど、そういうフェイクな人々、アマチュアがいることで成り立つ業態とそこでおこぼれで食いつないでいる人っているわけです。
自分もその一人でね。
フェイクに寄生するパラサイト。
そんな寄生虫からフェイク農民に贈る言葉。
自己完結、自己満足で終わる農業生産、社会の経済サイクルからは離れているけど、その行為によって自分が楽しくなったり、心地よく生活できるようだったら、周りの人を幸せにするし、それはそれでいいんだよ。でも過剰に自然とか安全とか健康とか口に出さないでほしいな、ウザいから。

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