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【続編⑧】第四章〜第一節 「1.歩行の3つのポイント-③ウォーキングは量と質」 これならできる!運動指導初心者の指南書〜特定保健指導、介護予防指導などで必ず役立つ!

③ウォーキングは量と質

 歩数につきましては先述の通りで、「1万歩」というこれまでの常識は変わってきたなということをご理解いただけましたでしょうか。

 さて、この歩数は「量」になりますが、それ以上にウォーキングにとって大切なのが「質」なんですね。ウォーキングにおいて「質」とは何か?

 それは「歩行速度」と「歩幅」のことなのです。

 自分の普段の歩く速さを意識することはあまりないと思いますが、ご夫婦や仲間でウォーキングした時などに、自分がちょっと急足にしないと遅れてしまうという体験はあるかもですね。そんな経験がある方は一度、ご自身の歩くスピードと歩幅を調べてみましょう。

 この歩行速度、歩幅を客観的に測る方法としてお勧めは「活動量計」です。数千円で購入できますので是非ご利用いただきたいですね。

 この活動量計なるものが世に出るまでは、いわゆる「万歩計」が一般的でしたね。正式には「歩数計」と言いますが、この歩数計は腰に取り付けるものが一般的ですが、活動量計も腰に取り付けるか、最近は腕時計形をよく見るようになりましたね。腰につけるタイプはつけ忘れが多いので、腕時計型をお勧めします。

 この活動量計は歩数はもちろんですが、歩行速度や早歩きの時間、消費カロリー、また歩幅を測定するものも出てきています。こうした自分の歩きの質(歩行パターン)を知ることができます。また記録もできますので、時系列的に自分の歩きの状況を把握することもできます。

 こうして測定を3ヶ月から半年記録してみて、歩行速度が落ちてきている、あるいは歩幅が小さくなっているとしたら、要注意!その原因が明らかであれば(関節の痛みなどの外科的疾患または、心臓、肺臓など循環器トラブルの内科的疾患など)、おそらく医療機関で診察を受けているであろうかと思いますので、ドクターの指示のもとリハビリ、またはコンディショニングに努めることになりますね。

 問題は自覚症状がない場合です。全身持久力、筋力、柔軟性・バランスなどの調整力、いわゆるこうした「体力」の低下は、「あ〜、今日から全身持久力、落ちてきたわ・・・」とわかるものではありませんね。筋力然り、バランス能力然りですね。自覚症状がない、つまり気づいていないというのは怖いことです。

 フィジカルの低下以外で、同様に自覚症状がなく歩行速度、歩幅低下に関与しているのが脳機能の低下です。

 日本においても海外においても脳の認知機能と歩数、歩行速度の低下、歩幅などとの関係性が研究されてきていて、認知症のリスク判定に歩行状態を観ることが重要であると指摘されています。

 認知症も色々と研究が進んで、優れたお薬も開発されているようですが、残念ながら根本治療となるものはまだないようです。長いトンネルから脱出することはまだできていませんが、わずかな光を見出しつつあることも事実であり、運動がその一筋の光となってきていると私は確信しています。

 国立環境研究所主任研究員の谷口優さんは、認知機能と歩幅の関係の研究において、歩幅が狭い人は広い人と比べて認知機能が衰えやすいというエビデンスを世に発表(*参考3)しています。

 こうした多くの研究で分かった認知機能と歩行の関係で参考になる数字を二つご紹介しておきましょう。

 一つ目は「歩行速度」に関するもので『秒速1m』という数値。歩行速度が秒速1m未満の場合は軽度認知症の疑いがあるというもの。ちなみに、日本の横断歩道は秒速1m以上の歩速であれば渡り切れるようになっているとのことです。

 二つ目は「歩幅」に関する数値で『65cm』というもの。歩幅は性別、体格、栄養状態に関わらず、一歩幅が65cm以上維持できた場合の認知症発症リスクが低い、というものです。歩幅チェックの簡単な方法は横断歩道を利用します。つま先を横断歩道の白線(45cm)手前に合わせてその白線を踏まずに跨ぎ越せていればその一歩幅(つま先からつま先の間:歩幅)は、白線の幅45cm+足のサイズとなりますから、サイズが20cm以上であれば65cm以上となりますね。

 『秒速1m』とか『65cm』という数値を示しましたが、日本人、特に年配の皆様方は大変真面目にこの数値を捉えられて、その数値を最初からクリアーしなくてはならないとしてしまう方が案外多いようにお見受けいたしますが、それはNGです。

 学術論文として世に出ているわけですから信用に足るものですね。でも、だからといって皆さんそれぞれの体をお持ちなわけですから、一律にこの数字に合わせることは無理ですし、運動は諸刃の剣ですから、それぞれの個体にあっていないやり方で運動すれば怪我、事故、最悪は死に至ることもあります。

 ですので、参考値として目安程度にこれらの数値は押さえておいて、歩く速さであれば今よりは少し早く歩いてみるとか、歩幅であれば1cm、いや1mmで良いから広めに歩いてみようと心掛けてみるところからのスタートにしていきましょう。

 ところで、この歩く速さ(歩行速度)と歩幅は下記の式からその関係性がわかります。

 歩行速度 = 歩幅 × 歩調(歩くテンポ)

 ですので、歩幅、あるいは歩調が上がれば歩速は上がります。

 先ほどご紹介しました国立環境研究所主任研究員の谷口優さんは、認知機能により強く関係しているのは歩幅と指摘されているところから、歩幅の低下は脳機能の低下と関係あることが窺い知れます。

 今よりも歩幅を広げ、結果、歩行スピードが上がった歩き方にすれば認知機能の低下予防にもなり、当然ながら、心肺機能を高め、また下肢筋力向上にも繋が理、一石二鳥三鳥になります!

※参考3 「認知症の始まりは歩幅でわかる」 谷口優 著・主婦の友社 出版

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