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【続編⑬】第五章〜第一節 「1.ロコモティブシンドロームのチェック方法」 これならできる!運動指導初心者の指南書〜特定保健指導、介護予防指導などで必ず役立つ!

1.ロコモティブシンドロームのチェック方法

 「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」は、今から15年ほど前の2007年に日本整形外科学会が提唱した言葉です。

 保健師さんや介護職の皆さんであれば普段よく耳にする言葉かと思いますし、一般の方にとってもメタボ並みに認識されているワードではないでしょうか。

 その意味としては、「加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気、骨粗しょう症などにより運動器の機能が衰えて、要介護や寝たきりになってしまったり、そのリスクの高い状態を表す」と日本整形外科学会が説明しています。

 メタボと同様に病名でありませんね。今の状態のままケアーしないと、将来寝たきりになるかも、という警告ですね。ですので一般の方に説明する時にはロコモを「寝たきり予備軍」と言っています。

 そのチェック方法は3つあって、体力面のチェックとしては「立ち上がりテスト」、「2ステップテスト」の2つ。もう一つは聞き取りで行うもので運動器の不調に関する25項目(ロコモ25)の質問です。

 このテスト方法は日本整形外科学会のホームページ(https://locomo-joa.jp/locomo)をご覧いただければお分かりいただけますので、ここでは、私が現場でこの2つの体力チェックでの失敗談を述べさせてもらって、皆さんの現場での参考にしていただければと思います。

 体力テストは基本一対一で行い、試験者によって異なる説明をすることがないように共通の言葉がけを用い、また事故、怪我にも十分配慮した上で実施し記録を残さないといけませんね。

 ただ、ポピュレーションアプローチでこのロコモ予防について集団指導するような場面においては個別面談の時とは異なる対応が必要になります。

 こうした場面ではそのテストは厳密性を求めることはせず、まずは自分がどの程度のロコモ度なのかを知っていただく。そして、知識を学ぶのではなく、まずは体感することの重要性を伝えることが大切です。

 さて、私の2つのロコモチェックの失敗談のお話です(汗)。

 まずは「立ち上がりテスト」です。このテストは40cmの高さの椅子に腰掛けて、片足で立ち上がるというテストです。

 このテストに限らず、被験者の皆さんは頑張られます。つまり、無理します。しかも、「片足で立ち上がる」なんてことは普段やらない動作です。

 ですから、特に高齢者の方が対象の場合には『転倒』に要注意となります。試験者は被験者が倒れそうになった時にすぐに抱き抱えられる位置に立たなくてはいけません。これは個別に実施する場面はこれでokですが、問題は集団の場面です。

 私が失敗したのは、60〜80歳代の皆さんが混在した20名ほどの講座で、このテストを実施した時に、70歳代くらいの女性が転倒してしまった事例です。大きな怪我にはなりませんでしたが、講師としては配慮が明らかに足りませんでした。

 事故が起きた原因は、悪い意味での「慣れ」からのリスクマネージメントの甘さです。

 その後は、必ずペアーで実施するようにしています。パートナーは被験者の後ろに立って、いつでも支えれるように準備してもらいます。被験者が倒れかけた時に抱き抱えたは良かったけど支えきれず一緒に転倒では二重事故になってしまいます。同性同士、なるべく体格、年齢が同じくらいの方とペアリングするようにします。

 また、実施上の注意点をいくつかご紹介しておきます。

 被験者の皆さんはどうしても「テスト」となると“良い結果を出そう!”というスイッチが入ってしまうようで・・・そうすると、腰掛けた位置で、腕を胸の前で交差させて(腕を振って反動で立つことをさせないための姿勢)、片足を軽く持ち上げた状態でスタートとなるのですが、その持ち上げた足を一瞬床に下ろして立ち上がり(つまり両足で立って)、立ち上がれた辺りで再び片足を浮かせるということを意識的というよりは本人も気がつかないまま無意識にやってしまうことがあります。

 ですので、先ほどのパートナーさんがそこはチェックします。また立ち上がった時は膝が伸び切った状態でないといけません。ここもパートナーさんのチェックが必要です。そして、立ち切ったところで3秒間の静止姿勢になりますが、この3秒もご本人ですと早くカウントしてしまうので、パートナーさんが客観的に声に出してカウントするようにします。

 次に「2ステップテスト」です。これも大きな失敗をしました。

 このテストは両足をそろえた起立姿勢から、自分としては大股という意識で跨ぐようにして2歩前に進み足をそろえて終了というテストで、筋力も要する動作ですが、バランス能力のチェックにもなるテストで、先ほどの立ち上がりテストよりも負荷が高い動作になると思います。

 負荷が高いということはリスクも高いということになります。先の立ち上がりテスト同様にペアーで実施するのは、それこそパートナーも一緒に転倒してしまうことも考えられるので、補助に慣れたスタッフで、そのスタッフの人数分にグループを分けて実施したほうが良いでしょう。

 私の失敗した事例ですが、コロナが落ち着き始め運動教室がようやく再開となった頃でした。中高年の皆さんがご参加の講座でした。このテストを2グループに分かれて、それぞれ一人づつ試験者(保健師さんと私)がついて行いました。

 60歳台後半の女性を私が担当した時です。私は被験者の前で手の届くところに位置していました。1歩目の踏み込みの時です。その方がふらついて後方にお尻をつくように転倒してしまいました。腕を伸ばしましたが届かず倒れてしまいました。

 これは私の立ち位置の問題でした。試験者は被験者の横の位置に寄り添い、体を支えることができる位置に立たないといけません。

 運動にリスクはつきものです。当然ながら体力テストも運動です。健康づくりのための運動で怪我をしてしまっては元も子もありません。

 試験者側は最大の注意が必要です。と同時に被験者自身にも注意してもらうことが求められます。その注意喚起を試験者側はしっかり事前に伝えることも重要になります。

 テストですから、当然頑張ることも求められますが、あくまでマイペースで、異変を感じれば即中止してもらうこと、またその日の体調を各人確認した上で参加してもらうことも大切ですね。健康チェック表、血圧測定をできれば受付時に実施しておくほうがより安全に実施できます。

 それから、先ほども申し上げましたが、このロコモチェックだけではなく、体力テスト全般に言えることなのですが、「テスト」はどうしても頑張ってしまうんです、みなさん。良い結果を出したいから。。。でも、それは意味がないことをあらかじめ伝えておくことは、頑張りすぎて怪我、事故を起こしてしまうことを回避すためにも大切だと思います。

 大事なことは、「今の自分がどういう状態(体力)なのかを知ること」な訳ですよね。そして、基準値と比べて優劣をつけることはしない!基準値よりも低い、または高い、ただそれだけ。そこで人と比べる意味はない、ということです。事実を知ったら、ではどうするかを考え、実行するだけ。それだけのことなのです。

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