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STARTUP LIVE #7 中川綾太郎氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第7回目は株式会社newnの中川綾太郎氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

中川綾太郎氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

今日のゲストはnewnの中川綾太郎さんです。こんばんは!

中川綾太郎氏(以下、中川):よろしくお願いします。

琴坂:さっそく、前回登場していただいた庵原さんから質問をいただいております。「顧客のニーズをいつの間にかつかみ出し、芸術的なサービスを練り出してくる綾太郎さん。発想の源泉はどこにあるのでしょうか?」

中川:んー、難しい質問ですね。

琴坂:どのように(アイデアを)考えているんですか?

中川:僕は「どのように(プロダクトを)とらえるかをたくさん書き出す」という感じですかね…。「どのように定義するか」っていろいろな角度があるじゃないですか。

堀新一郎氏(以下、堀):うんうん。

中川:僕のスタイルは、そこからいろいろ掘っていく感じです。

琴坂:「定義する角度」とは?

中川:たとえば、今は「stand.fm」という音声のプラットフォームを運営しているんですけど、stand.fmをシンプルに「Podcastをつくるツール」と見る角度もあれば、「新しいインターネット上のサードプレイスを創ろう、居場所を創ろう」と見る角度もあれば、「ライブ配信から画面を消したもの」みたいなとらえかたもあるじゃないですか。そのような感じで、考えるときにはいろんなとらえ方を出していきます。

琴坂:私からすると、音声配信の領域というのは「どっからどう見ても競合だらけ」という感じがするんですけど、どのような角度から「(stand.fmは)斬新」なのでしょうか?

中川:僕は競合を気にしないんです。Webサービスの領域は特になんですけど、スタートアップでは「たとえ競合がゼロだったとしても、うまくいかないサービスがほとんどだ」という前提に立って考えています。競合が理由でうまくいかない程度の事業はやらない、というか、そのようなサービスはあまりないと思っています。

競合が理由でうまくいかないのは、資本の殴り合いか、取るべきアセットを奪われてしまうケースぐらいだと思います。(取るべきアセットを)取られてるのに参入するほどアホじゃないので、そういうサービスはやりません。資本の殴り合いになったら、「負けないように頑張ろう」というだけで、あんまり気にしてないです。

琴坂:「資本の殴り合いで負けないように頑張る」というのは、自信の裏返しですね。

中川:やり始めたら「もうやるしかない」と思うじゃないですか。参入してから強い競合が出てきたら困ると思うんですけど、でも、あんまり気にしてないですね。

コンシューマー向けのプロダクトにおいては、プロダクトの品質が最も重要なのでプロダクトに集中します。

堀:ラクスルの松本さんと対極的ですよね。松本さんは「おじさんばっかりのところは競合がいないから、若い人が挑戦したら絶対勝てる」って言ってました。

中川:あと、みんな機能表が好きなんですけど、あれは重要度が低いと思っています。

堀:機能表っていうのは、競合を比較するときに、どのサービスがどこに優れているかを比較できる一覧表ですよね。

中川:みんな機能表を作るんです。でも、(サービスには)「使ってて気持ちがいい」みたいな「質感」ってあるじゃないですか。あと、機能表よりは、どの辺のターゲットを押さえていくかとか、ユーザーへの打ち出し角度とかのほうが大事だと思っています。

琴坂:「打ち出し角度」って、ユーザーにぶつける機能とかパッケージのことですか?

中川:そうですね。あと、機能はミニマムでいいと思っています。中途半端な状態の機能がいろいろあると「どれがどのようにうまくいっていないのか」がわからなくなってしまうので、ミニマムな状態で運営することが大事です。

琴坂:研ぎ澄まされたエレメントだけにして、余計なものはつけないということですね。

中川:そうです。そうじゃないと、打ち出し角度がチグハグになってしまいますよね。

琴坂:stand.fmでいうと、研ぎ澄まされた手触り感はどこにあるんですか?

中川:今そこに困ってるんですよね(笑)。どちらかというと、いままで(音声配信サービスを)使ってなかった人たちに「使ってみたら面白かった」と気付いてもらうことが一番大事かなと思っています。「ラジオです」って言い切ることで、それが刺さってくださる方もいれば、「ラジオ聞いたことないからわからないな」と思う方もいるんです。でも、普段からみんな「話すこと」をしていて、これがいままではコンテンツだと思ってなかったけど、コンテンツになる可能性があることに気付くんです。「スピーカーになりたい」とか「(音声配信を)やってみたい」と思っていた層に(サービスを)当てるのか、「配信したいと思ってなかったけど、誰でもできるんだね」と思っている層に当てるのかで、サービスが大きく変わってくると思います。なので、僕はポジショニングとタイミングをすごい大事にしています。

琴坂:見せ方が決まると、手触り感の方向性が固まると思うんですけど、(ユーザーへの)当て方を決める責任ってすごい重いじゃないですか。意思決定のときはどうしていますか?

中川:(考えうる限りのことをシミュレーションした上で、最後の意思決定は)直感です(笑)。

グロースのシステムが内包されているプロダクトが好き

堀:stand.fm以外で「これ最高だな」「この部分最高だな」と思うプロダクトやサービスはありますか?

中川:Cameoというサービスは、触ってみて「すごい面白そうだな」思いました。画面のUIがめっちゃよかったんです。機能はミニマムなんですけど、オリジナリティーがあるUIという感じでした。

あと、設計が美しいですよね。(サプライズ動画とかを)もらった人が、絶対拡散するんですよ。そういう「グロースのシステムが内包されているプロダクト」が僕の好みなんです。(プロダクトが)跳ねるかどうかは、設計で決まると思っていて、「(広告などの)ペイドで伸ばすことを許容できるプロダクト設計」なのか、「ノンペイドで伸びるエンジンを内包してるプロダクト設計」なのかどうかを見ています。

琴坂:どっちが好きなんですか?

中川:自分がやる時は、(設計を含めて)毎回バラバラにテーマを決めています。「こういう伸ばし方をしたことがないから、こういうのやってみたいな」と思って決めるんです。多くの人が好きなのは、一番簡単な「ユニットエコノミクスを合わせて、資金調達してユーザーグロースに踏む(編集注:資金を投入する)」ことだと思うんですけど、そのやり方だと、ユニットが伸びるサイズや効率が決まったら、あとは調達できる金額で成長速度が決まってしまいますよね。プロダクトのポテンシャルが、計画より上振れすることがない。だから、数年後先にどれくらい伸びるか決まってしまって、楽しくないし、つまらないと思います。むしろ、バイラルさせるほうが、理屈的には永遠に伸びるじゃないですか。「バイラル係数上げていくほうが面白い」「夢があるな」と思います。

琴坂:綾太郎さんの原点というか、いつごろからそういう視点で見られるようになっったのでしょうか?

中川:昔、アマゾンのAPIをたたいて、自分が読みたい本のリストを作れるサービスを、会社外でつくったことがあるんです。それの売り上げが初月で10〜20万ぐらい上がって、バズったんですけど、すぐにユーザーがこなくなって「バズってもほんと意味ねえな」と体感しました。「打ち上げ花火的で、伸びないもの」と、「ストックしていくもの」との価値の差を、リアリティを持って感じたんですよね。

琴坂:そうすると、その次の挑戦は、ストックされていくものを目指したんですか?

中川:そうですね。「MERY」はストック型に近かったです。

モール型がいいのか垂直統合型がいいのかを考えるときに、表とかを作ったりしたのは原点かもしれないですね。「何で委託したほうがいいんだっけ?」とか、「何店舗以上入ったらモールのほうが合理性があるのか」みたいな表を作って、「浅く広く取るのか、狭く深く取るのかどっちがいいんだろう」と考えてました。

(モール型と垂直統合型が)どっちもあるのに、どの業界にも明らかに優位な人たちがいるわけですよね。似ているサービスを比べて「どの構造の違いによって結果が変わっているのか」を、自分なりに要素分解していくと、どっちがいいのか見えてくるのかもしれません。たとえば、Amazonの「すぐ届く」という点を押さえれば、ユーザーアクイジションコストを下げられるとか、そういうのをいろいろ考えるのが好きです。

琴坂:初期の頃は、いろんなことを考えて分析していたけど、だんだんマスターしてくると、そこまでやらなくても見えてくる感じなんですか?

中川:そうですね。

(質問)MERYのようなSEOを軸としたWebメディアは、C向けの流入チャネルとして今後どのようになると思いますか?

中川:SEO系ですか…クエリがなくならないかぎり、全然(可能性は)あるんじゃないですか。

琴坂:ユーザーが探し求める行動が変わらないかぎりは(可能性が)あるってことですね?

中川:そうですね。相対的に他のトラフィックが力を持ってきているだけだと思います。コンテンツの費用を積んで「コンテンツのD2C」っぽいことをして、その利益を最大化しようとするか、SEOで決め打ちするかで、(サービスの)構造が全然違ってきます。

琴坂:なるほど。

中川:「SEOのメディアだ」としてしまうと、そこのコンテンツに投資するアップサイドが決まってしまいますよね。今は流入面が増えているので、どっちかというと、他でも取れるほうが収益性が高くなっていいと思います。目をつけるところをSEOだけにしてしまうのは明らかに損です。

琴坂:「そもそも流入チャネルと言うな」ということですね。

中川:「Twitterでバズる」とか、コンテンツを短期的に知ってもらう方法もあって、そこに課金コンテンツを同時に走らせると、コンテンツあたりの収益性がサーチだけで取るよりも高くなるはずなんです。なので、自ら武器を捨てる必要はないですよね。

YouTubeもTikTokもすごい伸びているけど、そこに入ってきているコンテンツのレイヤーって、まだ少ないと思うんです。ユーザー行動に変容はないけど、ビジネス的に勝てる理由はまだまだある、というトラフィックの構造だと思います。

琴坂:なるほど。収益の型とかとらえ方が変わっていけば、まだ可能性がある事業領域ってことですね。

中川:昔でいうと、トラフィック全体の8割がひとつに依存していたので、コンテンツに投資している人の収益の8割は、コンテンツから生まれていたみたいな構造か、アプリでユーザーをためた人たちが、そこのアービトラージを取っていた感じだと思うんです。今はチャネルが分散しているんで、そこは変わってきていますよね。

琴坂:なるほど。理路整然ですね。

中川:そう言いながら思いましたけど、検索で伸びてるプレーヤーって、CGMで(コンテンツを)ためてロングテールを取れていたりとか、アプリとか他のチャネルにもコンテンツをたくさん持っている人たちですよね。やっぱり、他のチャネルも合わせてユニットでコンテンツを持っている人たちが、収益性を高められるという構造になっているんだろうなと思いました。

アドバイスをすべて足しても、いいサービスはつくれない

琴坂:(コメント欄に)「あやたんは、LINEが流行る前に、絵文字をベースにしたコミュニケーションアプリを考えてました」ときていますが、これはどういうことですか?

中川:当時、VOYAGE GROUPのインターンに行っていたんです。そのとき、ちょうどガラケーからスマホに変わるタイミングで、「どういう(スマホの)プランをつくるのがいいか」を考えていたんです。それで、「(ガラケーでも)これだけ絵文字が流行っていたから、スマホになったら絵文字がメインになるんじゃない?」みたいな、それぐらいの話でした。

琴坂:なるほど。

中川:いま思うと構造的には完全に(LINEに)近かったですね。

(質問)同世代でリスペクトしてる起業家を教えてください。

中川:フッキー(福島良典氏)とか、福山太郎さんは、やっぱりすごいと思います。その2人は年齢が1個か2個上なんですけど、フッキーはマジで頭いいと思います。ビビります。

琴坂:何でリスペクトしているんですか?

中川:いろんな軸はあると思うんですけど、あそこまで頭のレベルの違いを見せつけられると…なんかもう全面降伏というか(笑)。フッキーを見て、「ブロックチェーンとか絶対できない」と思いました。

堀:福島さんとか、福山さんとか、そういった起業家仲間の方たちと頻繁にディスカッションだったり、意見交換されているんですか?

中川:やたらアクティブなFacebookのグループがいくつかあるので(笑)、そこでくだらない話から真面目な話まで、ちょこちょこ意見交換しています。

堀:delyの堀江さんが「stand.fmを普及させるときに僕も手伝ったんです」とか、Twitterでも「(stand.fmの)中の人です」みたいなことを言っていましたけど、どんなことがあったんですか?

中川:FacebookのMessengerに全然関係ない人が2人入ってるグループがあるんです。社員じゃな人が社長と会長で、社長の1人が堀江さんなんです(笑)。なので、日頃からいろいろアドバイスをもらっています。

堀:実際にサービスに反映させたアドバイスはありますか?

中川:反映させたものはないんですけど(笑)、堀江さんは(stand.fmの)ライブを盛り上げてくれてます。堀江さんのライブを見ていて、「stand.fm、こんなにおもしろいのか!」って僕自身思いました。

あと、堀江さんと山田進太郎さんと3人でライブしたことがあるんですけど、そのときに、いろいろアドバイスをしてくれたんです。進太郎さんのアドバイスも、堀江さんのアドバイスも、全部正しそうに聞こえるし、多分正しいんです。ただ、アドバイスされたものを全部足しても、すごくいいサービスにはならないじゃないですか。だから、「いろんな人の意見を聞きながら、いろんな人の意見を永遠に無視し続ける」ことができないと、いいサービスはつくれないと思うんです。

堀:面白いですね…。自分のなかで大事にしている価値観はありますか?

中川:あまりないですね…。

堀:アドバイスを取り入れるか、取り入れないかを決める軸はありますか?

中川:それでいうと、「ユーザーファースト」で、つくりたいUXに沿っているかどうかで決めます。「そもそもUXがずれてない?」というアドバイスは超いいんですけど、「もっとこっちをやったほうがいいんじゃない?」というアドバイスは、自分が進もうとしている道が無理だとわかるまで、あまり意味がないです。

堀:なるほど。

中川:とはいえ、進みたい道を決めるタイミングでは、いろんな人のいろんな意見を幅広く参考にします。組織の話とかは、(どの道を進んでも)参考になるんですけど、プロダクトとか、機能の話とかはあまり参考にしません。

たとえば、よくあるのは「日本人はランキングが好きだから、(stand.fmに)ランキングの機能をつけて競わせたほうがいい」というアドバイスです。いろんな人が言ってくれていて、それで成功して、KPIが上がる会社は導入すればいいと思うんです。ただ、僕は競わせるのはいやだなと思っています。

堀:なるほど。プロダクトに関する考え方は、ひとりのユーザーとしての発想なのか、データを見ながら決めていくのか、どんな感じなんですか?

中川:両方違くて、「ソーシャルリスニング」みたいな感じですね。

堀:ソーシャルリスニング?

中川:ユーザーの方が使ってくれて、初めて見えてくるものって結構あるんです。「自分だったらこうだよね」というのも、もちろんあるんですけど、人の話をよく聞きます。ユーザーインタビューから、重要な意見と事実を分けるのは得意かもしれません。

琴坂:道に迷っているときは幅広くアドバイスを聞いて、道が決まってるときは並走してくれる人の話を聞くけど、基本的にはユーザーの意見を聞く…。みなさん、真似したほうがいいことばかりですよ。

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なぜ撤退ラインを延長したか

堀:以前、「朝起きたら『最悪だ』と思ってから1日が始まる」とおっしゃっていたじゃないですか?

中川:はいはい。最悪ですよね。

堀:世の中の多くの人からすると「すべてが順調にいっている起業家のうちのひとり」に見えると思うんですけど、いつも何が最悪なんですか?

中川:ほんとうに最悪だって思っているんですけど…「このままいくと、あそこまではたどり着かないな」というのが見えるじゃないですか。常に「これやべえな…」みたいことが何個かある感じです。

琴坂:どこにたどり着かないんですか?

中川:自分が「こうしたい」と思っていたプロダクトの状態とか、会社の状態にたどり着けないと思うと、悲しいですし、情けないと思います。stand.fmはプラットフォームなので、インスタとかWhatsAppみたいに、めっちゃ伸びててもおかしくない構造のはずなんです。インスタはみんなが写真を撮って、URLがTwitterに流れて、それを見た人がインストールして、撮って…という具合に、完全にバイラルですよね。究極的には(stand.fmでも同じことが)起こってもいい設計のはずなんですけど、(instagramほどには)起きない。

(質問)noteに書いていた、stand.fmの撤退ラインの延長の意思決定をしたときの話を聞きたいです。

中川:(stand.fmは)手金でやっていて、「3,000万円ぐらい使うまではやり続ける」と決めていました。でも、(事業が)立ち上がらないって悔しすぎるし、その理由が「自分の仮説が間違っていた」のか、「プロダクトの品質上課題が多かったから、その仮説が証明されなかった」のかわからなかったんです。それが本当に嫌で…。

アイデアがダメだったら納得がいくんです。ただ、実行力が足りないとか、ちょっとした施策の順番が間違っていてうまくいかなかったのなら、このあと誰かが挑戦して、うまくいってしまいますよね。「そんなのマジ耐えられねえな」と思ったんです。

コンシューマー向けビジネスでのアップサイドの大きさはわからないんです。投資家的には最低限のリターンのサイズがあるんですけど、個人的には、「あるコンシューマー向けのサービスの市場が、時価総額でいうと50億、100億のサイズまでしかなかった」とか、メルカリみたいに「ポテンシャルがめっちゃあった」みたいなのって、結局やってみないとわからないと思っています。なので、少なくとも「自分がつくるプロダクトの可能性を諦めていいと思えるまでは突っ込みたい」と思っていて、(撤退ラインを)金額じゃなくて仮説で切りました。「(仮説の範囲で)やってみて、だめだったらやめよう」と思って、黙って見ていたら9,000万円ぐらいなくなってしまって、「うわ、結構なくなるな…」と思いましたけど(笑)。

琴坂:金額ではなく仮説で切るということですね。

中川:金額で切るとみんなちょこちょこ変なことをやってしまいますよね。

(質問)stand.fmはどんな仮説のもと、どんな検証を繰り返してきたのでしょうか?

中川:迷走していた期間があって…。

堀:どれぐらいの期間、迷走していたんですか?

中川:おそらく1年ぐらい迷走していましたね。ユーザーさんが配信してくださらないとサービスは伸びないので、「すごく配信しやすいプロダクトをつくるべきだ」という大前提がありました。スタート地点では、「ツールっぽいもののほうが、配信しやすいものをつくりやすい」と思っていたんですけど、多くの方が使ってくださるなかで「場の集客力が一定量あるよね」みたいなことがわかってきたんです。ただ、始めた当初は、ほんとに何もわからないので、「鶏と卵」にめっちゃぶつかるんですよね。

最近だと資金調達がしやすくなっているので、ユーザーをペイドで集めて、なんとなく「週次何%伸びてます」風の広告を出しながら時価総額を上げて、帳尻を合わせている会社もあると思うんですけど、どっちかというと「それはつまんないな」と思ってやらなかったんです。Podcastは、ミステリー系のヒットコンテンツが火付け役になったりしていたので、チームのなかで、「プラットフォームを育てるのか、コンテンツを育てるのか」みたいな話が出て、「コンテンツドリブンも理屈的にはあるよね…」みたいな。

琴坂:たしかに。

中川:「そういう路線も試してみよっか…」みたいな感じでグルグルしていて、なかなか思うように伸びなかったんです。そこから「完全にプラットフォームに振り切ってみようよ」という話をして、方針を切り替え、そこから伸びてきました。

(質問)シリアルで起業するのは怖くなかったですか?

中川:全然怖くはなかったです。ただ、「未来がずっと固まってしまって、リビングデッドになる」っていうのは怖かったですね。

琴坂:stand.fmのゴールはありますか?

中川:MERYをやっていたときも、最後までずっと楽しかったんです。厳密にいうと、ゼロイチだけが楽しいというよりも、「もっとポテンシャルあるよな」とか、「世の中に、新しい角度で、新しい価値をつくれてるな」とか、「新しい価値を、もっと多くの人に広げられるな」と思っているうちは、ずっと楽しいし、(stand.fmに関しても)そう思えている間は、ずっとやっていくと思います。

琴坂:なるほど。

中川:音声という領域を選んでいるのは、もともといろんな音声サービスがあったんですけど、まだまだ新しい使い方があると思うからなんです。(stand.fmは)音声だけのライブ配信とか、それが複数人ですぐできるとか、新しい使い方ができていて、それによって拡張できる体験は多いと思います。

琴坂:なるほど。これまでの起業家のみなさんは、多大なストレスを抱えることがあったみたいなのですが、綾太郎さんのストレス解消法を教えてください。

中川:僕は、漫画とアニメとマッサージと…。

堀:チャーハン?

中川:最近はそうですね、ミョウガとかネギを切ってるときは無心になれます。

琴坂:どんな漫画を読むんですか?

中川:なんでも読みますけど、『蒼天航路』とか『惑星のさみだれ』という漫画はすごくおすすめです。読んでみてください。

既存のSNS上に「染み出す」サービス

(質問)けんすうさんがstand.fmで話されていたCGM論(≒Twitterなどに染み出させる)に、ツイートで共感されていたと思いますが、あやたんさんが今のサービスで意識されていることを教えてください!

中川:あれは天才ですよね。「あれをちゃんとやる人がいたら、かなりのサービスをひっくり返すことができるんじゃないかな」と思いました。

堀:簡単に説明していただいてもいいですか?

中川:すごくざっくりいうと、いままでは、あるサイトに投稿して、そこにトラフィックを求めないといけなかったんですけど、既存ソーシャルネットワークの上で、それがコンテンツ化するフレームをつくると、新しいプラットフォームにコンテンツを集積させる必要がなくなりますよね。そういう構造はすべてのサービスに当てはまるんじゃないのかなと思います。BASEとかもそういう感じです。

堀:Yahooショッピングとか楽天とかAmazonとかでトラフィックを取らなくていいってことですよね。

中川:そうです。けんすうさんはアルペイントの話をしていて、「サービスというよりは、サービス外で(既存プラットフォームに)染み出す設計がペインタブルだといいんじゃないか」みたいな、そういう感じですかね。

堀:ありがとうございます。

中川:これは、難しいですね…。

一緒にやりたい人がいるサービスかどうか

(質問)今やられている各D2Cの事業と、stand.fmに共通する事業の方向性はありますか?

中川:具体的なハードが違うんですけど、方向性としては「個人が何か新しいことを始めるのを応援する」ような個人をエンパワーする事業が僕の好みです。

たとえばD2Cだと、田中絢子さんがやっている「COHINA」というその子が感じる課題をブランドで解決するサービスを、会社というプラットフォームで応援している感覚なんです。stand.fmはWebサービスのプラットフォームという形で、配信でのお手伝いをさせてもらっています。「Mr.CHEESECAKE」も、会社経営でやらなきゃいけない業務を、サポートさせてもらっているんです。なので、基本的にやっていることは同じかなと思っていますね。

堀:エンジェル投資の投資業から、事業投資や人に投資するみたいになってきているんですか?

中川:そうですね。コミットメントとオペレーションまで責任を持てるか、というのと、いきなり個人投資家の人がバンバン入ってきて、意思決定していったら超ウザイと思うので、そこの線引きができれば、(エンジェルも)同じかもしれません。

(質問)D2Cのスタートアップをいくつか買収されていると思いますが、買収するうえで大事にしている判断軸はなんでしょうか?

中川:D2Cの場合は、伸ばし方がいろいろあるんですよ。なので、個人的には、「プロダクトが新しくて、ワクワクするようなもの」がいいなと思っています。マーケティングを頑張れば伸ばせるというプロダクトも結構あるんですけど、最終的に他のブランドさんと食い合ったりしてしまう場合が多いんです。だから、どちらかというと、ものづくりのレイヤーまで自分たちが入るから、いままであるようでなかったものとか、世界中に(商品を)届けられるみたいなサービスのほうが、一緒にやっていてワクワクします。

「MERY」というサービスは、一時期それなりの方に使っていただいたんですけど、世界中の人に使ってもらうという経験はしたことがないんです。たとえば、チーズケーキだったら「ニューヨークチーズケーキ」とかってあるじゃないですか。

堀:はいはい。

中川:あれって、ニューヨークでできたからニューヨークチーズケーキらしいんです。そういう感じで、田村さんがつくった「トーキョーチーズケーキ」というのが、世界中で食べられるようなものになって、ひとつのカテゴリーになったらすごいハッピーだと思っています。いままで深夜とかに「ちょっといいケーキ食べたいね」と思っても、深夜までケーキ屋さんが開いてないじゃないですか。

堀:うん。開いてないね。

中川:お店が閉まる時間まで働いていることもあるし、わざわざケーキ屋さんに買いに行けない人も多いと思うし、だからといって、保管もしにくいじゃないですか。冷凍(のケーキ)っておいしさが損なわれると思われがちなんですけど、実はそんなことなくて、「そこのイメージが変わるといいよね」と思っています。そういうプロダクトの面白さと可能性に惹かれて、一緒にやらせてもらっている感じです。

堀:ワクワクという感性的なものと、それを支える分析があって、右脳と左脳が両輪でガーッて動いている感じがしますよね。

中川:そうですね。「COHINA」のアパレルマーケットも、さんざんやりつくされていてプロダクトホワイトスペースなんてあるわけないと思うぐらい社数が多いんです。なんですけど、蓋を開けてみると意外と(スペースが)あったみたいなことがあって、それはすごい面白いと思いましたね。

堀:冒頭で話していた、「競合を気にしない」というところにも繋がっているんですか?

中川:そうです。「実際いないよね」という感じです。

今後自分がやるとしたら、やったことない伸ばし方で世界に行けることとか、個人的にテンション上がるものだと家具とかやりたいです。とはいえ、(事業が)大きくならないと楽しくないので…。IKEAやニトリはあるけど、国内にそんなに家具屋がないので、仲いい建築家の友達と「家具つくろうよ」みたいなことを話しています。もしかしたら「一緒にやりたい人がいるかどうか」で選んでいるかもしれないですね。

琴坂:そろそろ締めていかないといけないんですけど、綾太郎さんにとって、起業とは何でしょうか?

堀:本のアンケートには何て書いてましたっけ?

中川:「趣味」って書きました。

琴坂:自分がエキサイトする、やりたいことで勝負されているという意味で、まさに趣味という感じですね。

中川:それでいうと、自分のなかに明確な課題がいくつかあります。いままで絶対できないと思ったことに挑戦していなかったり、自分から見つけにいくほどのやりたいものに出会ってなかったりするんです。だから、フッキーとか堀井さんとかが「金融なんちゃらだ!」「世の中を自動化したほうがいい!」みたいなことを言っているのを聞くと、「すごいな…」「マジ超カッコいい」と思うんです。

堀:なるほど。ありがとうございます。

琴坂:次回のゲストが堀井翔太さんなんですけど、堀井さんに聞きたいことはありますか?

中川:僕は堀井さんがこれから何をやろうとしているかを、ちょっとだけ知っているんですけど、世の中にはあまりオープンにしてないんだと思います。なので、内容は言えないかもしれないですけど、難易度的には超難しいことをやろうとしていて、なぜそのテーマを選んだのかを聞きたいです。

琴坂:ありがとうございます。この番組は『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、本日は綾太郎さんをゲストにお送りしてまいりました。本日も貴重なお話、綾太郎さんありがとうございました。

STARTUP本には最高の物語がたくさん詰まってます。ぜひ手に取ってみてください。次回はFril創業者の堀井さんです。ではまた!

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