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STARTUP LIVE #11 倉富佑也氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第11回目はココン株式会社の倉富佑也氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

倉富佑也氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

今日のゲストはココンの倉富さんです。こんばんは!

倉富佑也氏(以下、倉富):ココンの倉富です。よろしくお願いします。

堀新一郎氏(以下、堀):レアキャラが来ました。

琴坂:映像コンテンツに出ていただけるのは珍しいとのことですので、際どい質問をしていきたいと思います(笑)。

倉富:よろしくお願いします(笑)。

琴坂:早速なんですけども、STARTUP本は読んでいただけましたか?

倉富:一通り拝読いたしました。

琴坂:ありがとうございます。率直なご感想をいただきたいのですが、いかがでしたか?

倉富:堀さんが冒頭で書かれていた通り、スタートアップコミュニティというのは、先輩方がフレンドリーにいろいろなことを教えてくださいます。けれども、僕も入ったばかりのころは、固有名詞が飛び交う先輩方の話についていけないこともありました。STARTUP本は、そういったコミュニティでの会話で出てくるような先輩方の話やアドバイスが、細かく書かれていて、これからの(起業の)ハードルを下げている本だと思います。これからスタートアップコミュニティに入っていくような方も含めて、すごく学びにつながる本であるという感想を持たせていただきました。

堀:ありがとうございます。

琴坂:前回のYouTubeLIVEに登場していただいた、ラクスルの松本さんから質問をいただいております。「倉富さんと最初に会ったのは、倉富さんが20歳のころだと思うのですが、早熟感があって心配にもなった。リスクを取らない方法論を確立していて、それが制約になっていなかったのか? 成熟した倉富さんがどう進化したのか、進化しづらかったことはなかったのか?」とのことです。いかがでしょうか?

倉富:最初にお会いしたのは5年前くらいで、僕がおそらく23、4歳のころだと思います。年齢の割に大人に見ていただけたようですが、早熟しているわけではありません。学生のときからこんなキャラクターの人間でしたし、話し方もこんな感じで、あんまり変わらずに今に至っていると思います。

琴坂:そのようなキャラクターというのは、つくっていますか?

倉富:あんまりつくってないです。

琴坂:ずっとそのような感じだったんですね。

倉富:話し方も含めてこんな感じです。

琴坂:私が18歳ぐらいの頃は、若く見られないように、信頼されるように、相当(キャラクターを)つくっていたのですが、若く見られないようにするための苦労はありましたか?

倉富:その点ですと、年齢を上に見られたいと思って、意識してメガネをしていたことはありました(笑)。ただ、ビジネスシーンで年齢を言うことはあんまりないですし、若いから有利・不利があるかというと、そういうことでもないのかなと思っています。

琴坂:「学生起業」という言葉がありますが、起業において学生ならではの強みはあるのか、年齢は全然関係ないのか、どのように思われますか?

倉富:個人的な発言ですが、ビジネスではすべてが結果として出てきます。学生起業だからとか、どこかで経験を積んで起業したからといって、前提に関係なく結果をシビアに見られますので、年齢は特に関係がないと考えています。

琴坂:結果がすべてですよね。

経営者として生きるという天命

堀:倉富さんがどのようなご家庭で育ったのかということがすごく気になるのですが、キャリアを考えるときも就職するという選択肢はなくて、起業することが第一に浮かんだと思うんです。STARTUP本にも書かれていますけど、あらためて起業に至った経緯を教えてもらえますか?

倉富:かしこまりました。14、5歳くらいの高校生のときには「自分で起業していきたい」という思いがありました。

堀:14、5歳で!

倉富:はい。「自分の人生は、経営をして生きていくような人生でありたい」と思っていました。

堀:なんで14歳、15歳のときに起業したい思ったのですか?

倉富:いろいろ振り返ってみますと、小中高で生徒会長をやっていたりもして、チームで何か大きなことを成し遂げることに興味がありましたし、好きでした。ココンでは「古今東西愛されるサービスで、時代のターニングポイントを創る」というミッションを掲げているのですが、それを実現するためにチームで邁進していくようなことを生涯にわたってやっていけたら面白いと思っていました。

あとは、いろんなアプローチがあるかと思いますが、今の時代の有効な手として、会社で行う事業を通して世の中に大きな価値貢献をしていく、面白いことをやっていくということがイメージとして湧いていました。世の中に大きな価値貢献をしたいという思いを、幼い頃から抱いていたのかなと思っています。

琴坂:そのイメージが湧いたのはいつ頃なんですか?

倉富:チームで何かをやっていきたい、そこで旗を振れるような存在でありたいと思っていました。小学生とか中学生のころには漠然と経営をやっていきたいと感じていたと思います。

「自分で事業を起こしたい、経営していきたい」とはっきりと思ったのは、中学生の後半から高校に入る頃だと思っています。経営をしている友人に聞いても、比較的に早いほうではありました。

堀:お父さま、お母さまもしくはご親戚に起業家がいるのでしょうか?

倉富:いえ、父はもともとパソコン関連のエンジニアで、母親は少し仕事をしていましたが、ほぼ専業主婦でした。強いて言いますと、叔父が眼科を経営していますけど、経営者一家ではないです。

琴坂:倉富さんが経営者として「自分で成果を出していける」と感じた瞬間はいつですか?

倉富:まだまだこれからだと思っていますけれど、特に創業初期のころは、成果を出していける・いけないというよりも、「今活躍されていらっしゃる先輩方になんとか追いついていきたい」という思いで、仕事をしていました。家族であったり、エンジェル投資家の方から応援していただいたので、なんとか前に進んでいくことだけを考えていました。今はいろんなご縁もあって、少しずつ会社が形になってきてていますが、振り返るとすごくたくさんの方々から応援していただいてるなと思います。

あとは、比較的年齢が若いときから非常に貴重な経験をさせてもらいました。STARTUP本の中にも書かせていただいてますけれども、いろんな偶然で貴重な経験をさせていただいて、いま新しい挑戦ができるような場所にいます。貴重な経験を積ませていただいたので、世の中にもお返ししていきたいですし、自分が経営者として生きていけるということが、ひとつの天命のようなものだと信じて、今は仕事に取り組ませていただいてます。

ミッション実現のためにM&Aを重ねる

琴坂:現在のココンには大量のグループ会社があって、いろいろな事業が展開されているんですけど、なぜそういう戦略に至ったのですか?

倉富:まだココンを知らない方もいらっしゃると思うんですけれども、ココンは2013年に創業しまして、今年で8期目になる会社です。最初はゲームに出てくるイラストを制作する、クラウドソーシングの会社としてスタートして、2015年にゲーム会社さま向けに「ゲームの不正行為を防止する」というサービスをつくって、サイバーセキュリティの領域に参入しました。そのときに、イエラエセキュリティの牧田代表とのご縁があって、グループ入りいただきました。その後もM&Aをしながら少しずつ業態を拡大していきました。

今はサイバーセキュリティとAIに関連する領域にフォーカスして、取り組ませていただいています。

琴坂:初期からM&Aを活用して、多角化の方向性を歩まれているように見えるんですけれども、どうしてそうなったのですか?

倉富:最初のM&Aは偶然でした。取引先の会社や知り合いがやっている会社と「一緒にやればもっとシナジーが出せる、両社一緒に大きくなれる」と思うことがありましたので、そういった会社さまにお声がけをして、ご参画いただいていました。

気がつくと、そういった会社さまとのご縁によって全体的に事業が拡大してきて、2015年前後ぐらいから本格的に今の事業の周辺領域、あるいは今の事業を掘り下げていこうと思いました。そのころから、ゼロイチで機能を追加するか、新しいビジネスを始めるか、バイサイドM&Aをするかを天秤にかけて考えるようになりました。

最初は偶然の出来事からM&Aをしましたが、途中から経営のひとつの打ち手としてのM&Aに積極的に取り組むようになっています。今はココンがホールディングスカンパニーで、10社のグループ会社が存在する計11社の企業グループという形です。

琴坂:管理しやすいようにシングルビジネスで突き進んでいく会社のほうが多いと思うのですが、なぜ拡大の路線を選んだのですか?

倉富:「時代のターニングポイントを創る」というミッションがありますので、今は、変化が大きい事業領域、産業領域にフォーカスをしていくことや、スケールするSaaSのビジネス、ストック収益のビジネスを大きくしていくための取り組みをしています。

ただ最初は、産業規模とか、スケールするという言葉すら知らなかったので、あまり考えずに参入しました。今も特化型のクラウドソーシングが大切なビジネスとしてありますけれども、さらに大きいビジネスにしていくという観点で、徐々にメインのビジネスを移してきたという背景があります。

琴坂:もし今のご経験とご見識を持ったまま、2013年に戻ったら何をしますか?

倉富:どうでしょう…今はすごくいいご縁をいただいていて、次のチャレンジにわくわくしていますので、今の状態に持っていくまで7年かけるのではなくて、3年くらいで持っていくという挑戦をするかもしれません。

(質問)「孫正義さんを超えたい」とおっしゃっていましたが、超えることができる自信・見立てはありますか?

倉富:僕が孫さんをライバル視するのも恐縮ですし、超える・超えないというものではないと思っています。ただ、世の中の変化が非常に激しくなっている時代に、腰を据えて、孫さんと同じようなスケール感、あるいはそれ以上のスケール感でビジネスを展開して、世の中に価値貢献していきたいです。まだまだ遠い存在ではありますけども、ひとつひとつ積み重ねながら、そういうスケール感で中長期的に安定したビジネスを展開しようと思っています。

今のココンは未上場の会社ですけれども、上場しても安定的に伸ばせるような攻め方を必死に考えながら、事業モデルやこれまでの経験を積んできました。ですので、どこかですぐにアッパーが来てしまうのではなくて、腰を据えて伸び続けるような会社にしていきます。

アグレッシブに、かつ丁寧に

琴坂:資本政策が失敗してしまったらどうしますか?

倉富:資本政策につきましては、波乱万丈なことがあって今のココンに至っています。初期は僕の持ち株の割合が全体の半分以下でしたし、そこから「中長期的に見据えて調整していきたいです」ということで、創業から半年もしないうちに株式比率を調整したりとか…そんなことを繰り返しています。

あとは、ある方に生株を全部渡したのですが、結局方向性が合わなくて辞められることになって、株の買い戻しをさせてもらったこともあります。なので、あまりお手本になるような資本政策はしていないと思います。

琴坂:これから資金調達する人へのアドバイスはありますか?

倉富:一般論かと思いますが、今後の資本政策の柔軟性を高めるためにも、最初にアグレッシブなダイリューションをしすぎないことです。あとは、会社のステージはどんどん上がっていきますので、インセンティブの設計は、生株ではなくてストックオプションなどで設計をして、将来にわたって、ある程度コントローラブルな部分が大きくなるストラクチャーにした方がいいと思います。ココンの場合はそこで少し悩んだ部分がありました。

堀:経験や実績がない状況で、どうやって目上の人にアドバイスをもらっていくのでしょうか。倉富さんはいろんな人にアドバイスをもらって、お金も出してもらいながら今日に至っていると思うんです。これまで、累計でいくら調達しているんですか?

倉富:エクイティで41億円出資していただきました。

堀:それって最初の一歩が大事だと思うのですが、どうやって前に突き進むことができたのですか?

倉富:幸いにも、私のような無知な若造の面倒を見てくださるような先輩がいらっしゃいました。タワーズワトソンというコンサル会社の日本法人元代表で、今はココンの社外役員をしてくださっている淡輪さんは、僕が18歳くらいのときに、インターンをしている会社の副社長の方が紹介してくださったんです。それから、「こんなパン屋を始めました!」「それは絶対失敗するだろう」「失敗しました!」みたいなことで、事あるごとにご報告をさせていただいておりました。そのように、(関係は)ふわふわしているような状態でしたけれども、構ってくださり、ご指導いただける先輩方がいました。先輩方にはすごく感謝をしております。なので、少しずつご縁をいただいて、いろんな知見を増やしていくことがいいのだと思います。

あとは、スタートアップコミュニティの方々が、多くのことを教えてくださって、キャッチアップできたと思っております。「これは後輩に返さなきゃいけない」という思いを、僕自身もそうですし、多くの起業家たちも持っています。

堀:私のようなVCのところにも「出資してください」「事業アイデアを聞いてください」という相談が山ほど来るのですが、淡輪さんのようなコンサル会社の代表をやっている方が、何年も目にかけてくれることって、なかなかないと思うんです。何か意識してやられていたことなどはありましたか?

倉富:お世話になっている先輩方に全然お返しができていないので、これから実績をつくりながら、少しでもお返ししていきたいと思っています。ただ、まったく経験がなくて、自分がギブできることは何もなかったので、当然先輩方の本は全部読んでから伺っていました。敬語の使い方もわからなかったので、「てにをは」を調べながら、お礼のご連絡もさせていただいていました。

あとは、ビジネスとして自分がまっとうだと思うことを貫いてやっていくという姿勢は、当たり前のことですけれども大切だと思っています。

琴坂:そういった基本的なことを誠実にやっていれば、YouTubeLIVEを見ているような若者でもできるのでしょうか? 

倉富:先輩方にはまったくプラスにならないんですけど、「自分はこういうことをやりたい!」「ゆくゆくはこんなことをやるので、ご出資していただきたいんです!」という思いを、できる範囲で伝えていました。思い返すと、18歳とか19歳のころはよく手紙を書いてました。

堀:手紙?

倉富:手紙です。「こういうビジネスをやろうと思っているので、お会いしていただけないでしょうか」というご連絡を手紙でしていました。

あとは、すごく恥ずかしいですけれども、当時、サイバーの藤田社長とかにFacebookで勝手にDMを送っていました。今でも「あのときは失礼しました」と言っていますが、ときどき構ってくださることもあります。失礼ではない範囲で、ご連絡をアグレッシブに取っていって、いただいたご縁を大切に少しずつ自分のものにしていく。自分もまだまだできないところもありますけれども、そういうことが大切なのかなと思っています。

堀:「ご縁を大切にする」というところで、お会いしたあとに意識してやっていたことなどはありますか?

倉富:メールでご連絡をしたりとか、場合によっては手紙で「ありがとうございました」というご連絡をしていました。

今でもすごく記憶に残っているのは、高校3年生のときに『日経トップリーダー』という雑誌を購読させていただいていて、それのセミナーがあったんです。堀場製作所の堀場雅夫さんが講演をされていて、すごく感銘を受けたので、一方的に「感銘を受けました」という手紙を書いたら「ありがとう。応援してるよ」と書かれたハガキが1カ月後ぐらいに届いたということもありました。

0→1の段階はインプットが重要

(質問)0→1を行うときに大事にしているアプローチはありますか?

倉富:僕の場合は、国内外の事例やマーケットをとにかく研究・調査して、業界に詳しい方々にも伺って、できるだけインプットを増やしています。マーケットの大まかな全容をつかんだ上で、自分たちが勝っていけるのかどうかを判断しています。

琴坂:ひたすら調べる。

倉富:はい。勝ち筋の仮説がつくれるまで調べるという感じです。

琴坂:ベーグル屋さんをやられたときも勝ち筋はあったのでしょうか?

倉富:当時は18歳、ココンの創業前でしたので、勝ち筋なんてまったくないまま始めてしまいました。代表が希望的観測で意思決定をすると、数字がシビアについてきて、メンバーにも出資していただいた方にも迷惑をかけてしまう。そんな当たり前のことに気がついて、できる限り希望的観測をなくして、色眼鏡を外して考えていくことが大切だと学びました。

琴坂:経験から学ばれたということですね。

倉富:はい。ベーグル屋のときは、全然できていなかったです。

堀:ここまでの話を聞いていると、「なんて立派な男の子なんだ」と思って、心から応援したくなってしまう感じがして、それが多くの先輩方を動かしてきたのかなと勝手に思いました。

琴坂:自分の得意技や自分のスタイルはどのように認識されていますか?

倉富:ひとつは「時代のターニングポイントを創る」ということで、もちろんひとつひとつの事業の積み重ねはありますけれども、より大局的な視点で、「できるだけ多くの人々に、よい影響を与えていけるビジネスをしていきたい」という思いを強く持っていることがあると思います。

あとは、組織のマネジメントの点で申し上げますと、18歳からインターンをしていましたし、そのあとすぐに中国に行きまして1年半くらい働いて、現地の人のまったく違う価値観も知りました。イラストのクラウドソーシングからサイバーセキュリティのビジネスモデルを進めるなかでも、バックグラウンドや思考法が違う方々とお会いしてきましたので、多様性に対する理解や尊重の思いは人よりあると思います。

そのような思いを持ちすぎても組織が分散してしまうと思うんですけれども、いろんな価値観をリスペクトして、それぞれに考え方があるということを前提に、11社のグループの経営に携わらせていただいています。

琴坂:経営者としてご自身が決めることと、ご自身で決めないことはどのように分けられてますか?

倉富:原則としては、株主価値を最大化するために代表取締役という立場で仕事をさせていただいてますので、その観点で、株主への説明責任が果たせて、自信を持てる意思決定ができるように関わせていただいてます。「ここは委ねたい」と思うことの大半はメンバーに意思決定していただいていますけども、説明責任が果たせるかどうかを意識しながら、自分の関わる範囲を決めています。

琴坂:ガバナンスに寄っている意思決定なんですか?

倉富:ガバナンスもありますし、まだ小さな会社ですので、自分が違うと思う方向に進んで失敗することは説明責任が果たせないですし、嫌です。振り返れば「もっとこうしておけばよかったかな…」と思うこともあります。ですけど、いろんな意見を聞きながら、「現時点でのベストを尽くした上での意思決定だ」と、自信が持てるまでは関わりたいですし、そういう状態をつくっていく責任があると思っています。

ただ、今はすごくいいメンバーとのご縁をいただいていますので、多くの意思決定をお願いできていますし、グループ各社の通常の意思決定は、ほとんど各社の代表や役員の方々にしていただいてます。

正しい意思決定を積み重ねることに集中する

堀:ご自身が代表をされていないグループ会社10社の代表は、倉富さんより年上の方ですか?

倉富:はい。全員年上です。

堀:先ほども年齢は関係ないとおっしゃっていましたが、年上の方とお仕事するときに意識されていることはありますか?

倉富:何か特筆して意識していることは特にないです。ただ、それぞれの方がいろんな経験・知見を持たれていますので、日々アドバイスをいただいています。逆に、「違う」と思うことでいろいろ議論する場面もありますし、そこはお互いの意見をリスペクトしながら、いい意思決定につなげていくことを考えています。

ですので、年齢は関係ないですよね。「明日どうやって勝ち抜いていくのか」「お客さまにご評価いただけるかどうか」というところで、いい意思決定を積み重ねていくことが唯一の正しい方向性ですので、そこに焦点を絞って議論していくしかないです。

琴坂:すごく共感します。

(質問)M&Aをする時に大事にしている観点を教えてください!

倉富:多くのグループ会社とは、「これくらいの期間残ってください」というようなリテンション契約をしてはいないのですが、ありがたいことに多くの方々がコミットし続けてくださり、今も一緒に仕事ができています。そのように中長期的に一緒に働いていけることと、あとは、グループのミッションであったり、各セグメントごとのミッションや世界観に一定の共感ができる方と一緒に働いていくことをすごく意識しています。

そのほかにも、会社の評価額であったりとか、事業の内容は非常に細かく見ていますし…(M&Aには)いろんなノウハウがあると思います。ただ、お互いに「一緒に働いていきたい」と思えるかどうかを重要視しています。

琴坂:チームを買うことと事業を買うことでは、どっちの方が多かったですか?

倉富:チームを買うことが多かったです。ですが、M&Aのシーンにおいては事業ができていればできているほど高い評価になるべきだと思ってますので、結果としてフェアバリューに落ち着いていくと思っています。

ただ前提として、一緒に働きたいと思えるかどうか、リスペクトできるか、いろいろアドバイスをいただきたいと思うかどうかを大切にしています。

堀:「若い」という理由で、相手になめられるという経験はありませんでしたか?

倉富:そういう記憶はあんまりないです。

琴坂:しんどいとか、つらいと思うのはどのようなときですか?

倉富:マネジメントもそうですし、仕事がうまくいかないこともそうですし、自分がたどり着きたいと思うところにたどり着けていないことで悩むこともあります。

ただ、「時代のターニングポイントを創る」ということが、自分の天命だと思ってやっていってますので、それを乗り越えて仕事をしていくことが、自分の唯一の生きる意味だと思っていますし、そういう人生でありたいと心から思っています。

琴坂:ストレス発散のためにやっていることはありますか?

倉富:オンとオフをしっかりつくるようにしています。釣りが趣味ですので、創業初期から休日は釣りに行っていました。あとは、仕事以外のところで勉強できる価値観やアイデアもありますので、仕事だけになりすぎないようにバランスを取ることを意識しています。

堀:プライベートで仲のいい起業家はいますか?

倉富:ありがたいことに先輩方から釣りに誘っていただけることがありますし、同世代くらいのメンバーと一緒に釣りに行くこともあります。明後日は、Fun Groupの三木さんとdelyの堀江と一緒に「30年後社会がどうなっていくのか。そして自分たちがどうありたいのか」ということを考える合宿をする予定です。

琴坂:堀江さんも「僕の船に乗りたい」と言っていたので、倉富さんも一緒に乗って釣りをしますか(笑)。

倉富:行きたい!行きたいです!

琴坂:じゃあ、やりましょう。

あらゆるものが最適化・自動化する世界

(質問)目標にしている経営者はいますか?

倉富:これからの時代は、自ら新しい事業を生んでいけるような方が、世の中からも求められていると思いますので、遠い存在ですけれども、イーロン・マスクさんのような経営者にすごく憧れています。もちろん攻め方やバックグラウンドが違うのですが、大きなスケール感で自ら価値をつくり出している、毎日汗を流しながら価値をつくっていくところがすごくいいなと思います。

(質問)どのような世界をつくりたいですか?

倉富:今のココンはセキュリティとAIをメインのセグメントとして位置づけています。日本にはすごくレベルの高いエンジニアがたくさんいらっしゃるのですが、実は、グローバルセキュリティカンパニーは日本からほとんど生まれていない状態です。これからの時代は、インフラとしてのサイバーセキュリティが非常に重要な時代になり、これまで以上にセキュリティに目を向ける人たちが増えていくと思います。セキュリティのビジネスにおいては、「グローバルセキュリティカンパニーをつくっていきたい」ということを掲げています。

AIに関連する領域ですと、あらゆる産業が少しずつ再定義されているような時代だと思っていますので、自動化・最適化されていく世の中に対して、今のセキュリティやAIの技術を活用しながら、もっと最適化・オートメーション化して、より創造的なところに取り組めるような世の中をつくっていこうとしています。未来を少しずつでもつくっていくことにチャレンジしていけたら面白いですよね。

堀:起業する上で、愛されるプロダクトつくることを大事にしているのか、市場の大きさを見るのか、どのように市場選定をされていますか?

倉富:個人的な考えとしては、士気が高くてビジネスをやり遂げたいと思っている場合には、極力、市場規模が大きなマーケットを選ぶのがいいと思っています。ココンのサイバーセキュリティやAI関連のビジネスは、各コミュニティのなかで認知をしていただけるようなビジネスになっていますけれども、グローバルでみても、まだまだ、木に例えると枝みたいなところですよね。この枝を幹に太らせていくことに取り組んでいかなきゃいけないと思っています。枝をいくつも立ち上げるよりも、最初からひとつの枝に集中して取り組んで、幹にしていったほうが効率的に取り組んでいけます。その点でも、もし大きなスケール感でビジネスをやっていきたいと考えているのなら、市場規模が大きいマーケットや、時代の大きな流れを読んだ上で変化が起きそうなところに参入していくのは、ものすごく大切です。

琴坂:残りの経営人生が40年以上あると思うんですけど、40年後ぐらいの世界はどこまで変わっていると思いますか?

倉富:ヤバいことになってると思います(笑)。1カ月に1回くらいは、日本と世界のセグメントごとの市場規模ランキングを見ているんですけれども、セキュリティの領域はもちろん激変していますし、AIに関連するところでも、医療とか食、物流、リテール、金融、エネルギー…などのいろんなところが大変革をしていくことが明らかになっています。あらゆるものが最適化・自動化されていって、今では考えられないような世界観になっていると思います。

琴坂:視聴者には学生が多いと思うんですけど、倉富さんがいま学生だったら、何をしますか?

倉富:世の中を変える方法はいろいろあるのかなと思っています。実業だけではなくて、研究に集中をして、そこから実業につなげていくというやり方もありますし、金融業界に行ってから、実業に戻ってくるというようなアプローチもあります。世の中を大きく変える方法って、いろんな切り口があるのかなと思っていますので、自分の趣味とか、バックグラウンドを考慮して、最もやりやすい方法でチャレンジをしていくといいと思います。

琴坂:いろいろ経験した結果、起業がすべてじゃないと思ったのですか?

倉富:実業がいいアプローチだと今でも思っていますけれども、世の中をよくしていく方法、変えていく方法は、もちろんそれだけではないですよね。どこかの会社に入って、ミッションをともにしているメンバーと取り組んでいくこともできると今は思っています。

挑戦できないビジネスの領域はほとんどない

(質問)今から起業をするとしたら、何の事業をされますか?

倉富:今、展開している事業を取り組みたいですが、強いてあげると…医療に関連する事業もしてみたいです。

琴坂:医療のなかでも具体的にはどんなことですか?

倉富:医療をやりたい理由としては、人々の生活に近い産業に技術が入っていくことによって、業界が激変していくと思っているからです。医療や食などの命に関わるような事業は人々への影響がすごく大きいですし、激変が起きていく領域という観点で、すごく面白いのかなと思っています。親族に医者が多かったり、弟も医者だったりするので、医療の領域に貢献したいという思いもあります。

あと、僕たちはリテールテックにフォーカスしているんですが、この領域も大激変中です。そんな変化の時代に仕事をさせてもらえてありがたいなと思っています。

琴坂:学生で勝負できる領域と勝負できない領域があるのではないかということも言われています。現実的に事業が大きくならないかもしれないですけど、学生でも一定の成功を収めることができる領域はあると思いますか?

倉富:どんな領域でもできると思っています。知見を持っている人と一緒に始めていくこともできますので、できないことや参入できない領域はほとんどないのかなと思っています。

堀:倉富さんは怒ったり、イライラしたりしますか?

倉富:怒ることはほとんどないです。ただ、マネジメントをしていくなかで、会社の中長期的なミッションの実現に対して、ネガティブな影響が出てしまうような発言とか言動をされるような場合には、強く言うこともあります。そういうこと以外で、強く怒るようなことはあまりないです。

堀:部下が仕事でミスをしても怒ったりしないんですか?

倉富:そんなに強く怒ることはないです。ただ、基本的には成果主義ですので、失敗を積み重ねてしまうと評価に影響はありますし、組織も成長できないので、そこはシビアにマネジメントとしています。

堀:人間として完成していますね(笑)。

倉富:いえいえ(笑)。

(質問)なぜ日本にセキュリティ分野のグローバルプレイヤーがいないと分析されていますか?

倉富:これはシンプルに、チャレンジする会社がなかった、チャレンジの絶対数が少なかっただけだと思っています。古くからSIer的に外からの商材を担いで売っていく会社は、すごく大事な役目を担っていて、日本にもたくさんいらっしゃいます。ただ、新しい技術のトレンドを組み込みながらプロダクトアウトして、自らグローバルに展開できるような会社が日本にはなかった。あるいは、あったかもしれないけれど、その挑戦数が少なすぎてグローバル展開と言えるほどの規模にできなかったということだと思っています。

アメリカやイスラエルですと、セキュリティ系のカンパニーが1年間に100社から200社生まれますので、そこが全然違いますよね。

堀:グローバルに1万2,000社か2万社ぐらいのセキュリティ会社があって、3,000社か4,000社がイスラエル出身と聞いていました。今後イスラエルの会社やアメリカの会社をM&Aしていく可能性はありますか?

倉富:はい。政治が絡むところですので、慎重に意思決定はしていますけれども、すでにイスラエルの会社さまとは事業提携させていただいています。アメリカの会社ですと、昨年も何度か出資やM&Aのご相談をしていますので、常にチャンスをうかがっています。

琴坂:ありがとうございます。そろそろ締めていきたいと思いますが、実は今回がファーストシーズン最後ということで、トリを飾っていただいた倉富さん、本当にありがとうございました。

倉富:こちらこそ、ありがとうございました。

琴坂:この番組は『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、本日はココンの倉富さんをゲストにお迎えしてお送りしました。みなさん、ぜひ本のプロモーションにもご協力ください。ありがとうございました!

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