見出し画像

STARTUP LIVE #5 佐藤裕介氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第5回目はヘイ株式会社の佐藤裕介氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

佐藤裕介氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

今日のゲストはヘイの佐藤さんです。こんばんは!

佐藤裕介氏(以下、佐藤):こんばんは。よろしくお願いします。

琴坂:(STARTUP本を)ちゃんと読んでいただいたと聞きましたので(笑)、まずは感想からお聞きしてもいいですか?

佐藤:僕は(本に出てくる起業家)ほとんど全員とリアルでの面識があって、それぞれが事業に挑戦しているときに話していたり、感情を共有している仲なんです。本を読むと、有安さんとかフッキー(福島良典氏)とか近くにいた人が「当時、こんなことを考えてやってたんだなぁ」と知ることができて面白かった。

琴坂:特に「こんなこと思ってたのか」みたいな場面はありましたか?

佐藤:組織パートに出てきた人全員、(組織に)興味ない人だと思っていたんです。組織開発よりも、他のプロダクト作りや技術にモチベーションがあって、組織のことを一生懸命考えるようなタイプの人ではない印象でした。でも、それぞれいろんなことに悩んだり、深く考えているんだなと。それこそBASEの鶴岡君とかフッキーのパートを読んで思いました。

琴坂:表に出さないだけで、実は影のほうで丹念に作業しているというのがあるということですね。

佐藤:彼らが、具体的な意見をたくさん持っていることが意外だったし、やっぱり勉強になりました。僕もどっちかというと組織のことを聞かれるタイプではないのですけど。

琴坂:そうですか? heyは面白い組織で、よく記事とかに取り上げられてるイメージですが。

佐藤:(STARTUP本で)初めてに近いくらいの言語化をしたような気がします。

堀新一郎氏(以下、堀):幹部を採用するときに20回くらいお会いしている話とか、僕は衝撃を受けました。

佐藤:それは(自分でも)さすがに偏執的だと思っています(笑)。時間割を作って信頼構築パートとか、生い立ちのことを聞くパートとか、いろいろ区分けをして、みんなで手分けをしながら会う、みたいなことをやっていました。

琴坂:それは、網羅的に特定のシートを全部埋めていこうみたいな感じなんですか? それとも人によって話す内容は違うんですか?

堀:僕が聞いたのは、(面談が)20回あるなかで、今日は前職のこと、今日は家族のこと、今日は趣味のことを聞こう、という感じで、すごく細かくやられていたみたいです。

佐藤:(面談は)能力を探ることが目的ではありませんでした。マネジメントのレイヤーの採用って、採用したら覚悟を持ってその人を応援しないといけないじゃないですか。だから、入ってきてくれた人が成果を上げられるように、こちらがどれだけ支援できるか、どれだけサポートできるかが大事だと思っています。「これだけ話して、これだけお互いのことを共有して、もうあとは結果を出すために支えるしかない」というプロセスで自分を納得させたり、それを支援する他のマネジメントメンバーにも、同じくらいの覚悟を持ってもらう必要があると思ったんです。

実力の見極めとか、こちらの要望とフィットするかどうかは、過去の経験を聞くとある程度わかってくると思うんですけど、能力が高いことと組織で結果を出せることは別の話です。

琴坂:それだけ(面談を)やっても、パフォーマンスが出ない方っていると思うのですが、そういう方も支援するのが鉄則なんですか? それとも、どこかのタイミングで見切らないといけないのですか?

佐藤:それはどちらもあると思います。でも、採用する際に「自分が組織に貢献できないときに、『どうしていけばいいか』という議論ができるような人」かどうかを見ています。成果を出しきれない、貢献できてないという状況は彼らにもストレスなので、それを解決するために何ができるかを前向きに話し合います。そのオポチュニティにがうちにはなさそうだというときには、優秀な人ではあるので、行き先に困るようなことは当然ないですね。

琴坂:なるほど。フィットとかオポチュニティの問題ですからね…。

佐藤:そう。そういうことを冷静に話せる人かどうかは、採用するときの条件になると思います。

堀:このコロナの状況で、そういうクラスの人を変わらずに採用していらっしゃるんですか?

佐藤:そうですね。変化のタイミングってプラスにもマイナスにも影響すると思うんですけど、僕らみたいな小さいチームからすると(このタイミングは)やっぱりオポチュニティだと思います。なので、このタイミングでしっかりとチームの層を厚くして、ニュートライを増やしていきたいと思っていますので、全力で採用中です。

堀:面接は全部Zoomですか?

佐藤:そうですね。面接は全部オンラインでやってます。今の時点ではないですが、本当にトップレベルの採用となると、フィジカルでの感触をたしかめたいと思うかもしれないですし、先方から「会いたい」と依頼されることもあります。

堀:1回くらい有名人である佐藤さんに会いたいですよね。

佐藤:でも、グローバルでの採用は実際に会わないじゃないですか。だから(オンライン面接は)特別なことでもないし、フリークアウトのグローバルチームの採用も電話で意思決定しているので、大きく変わったという感覚はないです。

堀:前回の赤坂優さんから「佐藤さんが学生時代にロードバイクで生計を立てていたという話をもう少し詳しく聞きたい」とのことです。どんな感じで始めたんですか?

佐藤:もともと自転車が好きで、新しい自転車がほしいときに、もっていたやつを売って原資にしていたんです。それを、出品代行みたいな形で、友達の分までやるようになってました。

大学2年生くらいのとき、バイク王のビジネスモデルが好きだったんです。買取専門店舗って、小さなカウンター店舗を全国に出して買い取りをして、再販は基本的にはB向けのオークションかオンラインで、コンシューマ向けの売り場を全く出さずに収益性を高めていたんです。「これはイケてるモデルだな」と思ってました。

結局スポーツ自転車も、移動のためのロードバイクというよりは、ラグジュアリーなので、大型バイクの市場に近いんですよね。中古大型バイクの市場は大きくて、自転車の二次流通市場もそれなりに大きいのではないかと思っていたんですけど、日本にはなかったんです。そこから真面目に取り組み始めたという感じですかね。

「未来人」の習慣を一般化したい

琴坂:佐藤さんの原点ってどこまでさかのぼるんですか?

佐藤:そうですね。僕の世代って「ゲームを作りたいから、小学校のときからプログラミングをやる」という感じだったんです。なので(幼い頃から)コンピューターに触れつつ、中1くらいのときに知り合いと一緒に、ビートマニアとか音ゲーの攻略掲示板をつくったんですよ。でも、なぜかその掲示板を大人に乗っ取られて、バイクのパーツを売り買いする掲示板にされてしまって(笑)。

琴坂:謎ですね(笑)。

佐藤:僕も意味がわからなかったんですけど、「自分がつくった場所が、知らない大人に使われている」ということがすごく衝撃的で、世界が拡張される感覚でしたね。大人が喜ぶようなものを自分が作れるなんて想像もしてなくて、その頃から漠然と「インターネットの仕事をしたい」と思っていました。

琴坂:ものづくりをすることから、リーダーになって事業を作っていこうと思うまでには少しジャンプがあると思うのですが、そこにいたる過程にはどんなことがあったのでしょうか?

佐藤:経営や事業開発をやることと、掲示板を運営することに大差はないと思っています。自転車屋さんにしても、自分が趣味でやっていることから、超過的な利潤で資本を積み上げていって、できることを増やしていく作業なので、あまり大きく変わらないです。

(STARTUP本のアンケートの中で)「起業は自然なこと」と回答したんですけど、自分がやりたいことを継続する上で(起業が)必要なプロセスだったので、「よし!経営するぞ!」みたいな感じでもなかったんです。

起業家のなかには、経営者に憧れて起業家になった人もいます。著名経営者の本を学生の頃から読み漁っていて、ある経営者のことがオタク的に好きだから「自分も絶対経営者になる」という人たちもいるんですけど、僕はあまりそういう感じではありませんでした。

琴坂:システムを作るなかで、その一部として、人であったりお金が必要だったというイメージですよね。

佐藤:そうですね。

堀:「ビジネスで儲けてやるぞー!」という印象はないですよね。

佐藤:もちろん、会社として持続していくためにお金は必要なので、フリーキャッシュフローで利潤を生んでいくことは必要なのですが、(儲けたいという)個人の意思はあまりないですね。僕はお金のかからない日々を送っているので…。

琴坂:今の佐藤さんの「経営者としてのパッション」はどこにありますか?

佐藤:変遷はあるんですけど、今はヘイという会社で「スモールチームの商売を持続させるためのツールキット」みたいなものを提供しています。たとえば、ECサイトをノーコードで簡単に立ち上げるとか、決済サービスを技術者の支援なく簡単に使えるとか、そういうものを提供しているんです。なので、今はどちらかというと「お客さんが好きだから続けているし、頑張れている」という感じですね。

琴坂:なるほど。ヘイのサービスを使っている方々をエンパワーしたいというモチベーションなんですね?

佐藤:僕がすごく好きなポール・ブックハイトが「未来にある当たり前の習慣を、今すでにやっている人が世の中にいるから、その人たちを満足させるものを作れ!」みたいなことを言っていたんです。僕らのお客さんの一部にも、「最先端の生き方をしている人」がいるんですよね。自分のこだわりを形にして、デジタルツールを使いこなしながら、持続的な商売を効率的に運用しているような人たちです。真新しい独立事業者がいて「未来人みたいだな!」と思うんです。だから、個人をエンパワーするというより、(未来人みたいな人が)やっている習慣を学ばせてもらって、それを汎用化して、他の未来人予備軍みたいなみなさんにも提供したいという感覚ですかね。

琴坂:先進ユーザーの方々から学んで、それを一般化して今とは違う生き方を普及させたいというか…。

佐藤:一般化って、テクノロジーでハードルを下げることだと思うんです。テクノロジーが、未来人みたいな人の習慣を一般化させていくときに、安くなったり簡単になったりするからマス化するんですよね。それに貢献したいと思っています。

堀:コメントにも「佐藤さんのビジネスは温かいカルチャーを感じさせますね」とか「家入一真さんとは違うけど、何か似ているナチュラルカルチャーのにおいがします」と…。たしかに温かい感じがしますよね。

佐藤:フリークアウトの社長だったときは、あまりそう言われることはなかったですね。僕自身も変わったんだなと思いますし、経営のやり方もこの2、3年で変わったのかなという気はしています。

(質問)ヘイの社名の由来はなんですか?

佐藤:ヘイの社名の由来は、上場までにいい話をつくろうと思っているので、それを楽しみにしてください(笑)。

琴坂:実は勢いで決めた疑惑が…(笑)。

佐藤:ファウンダーが集まってできた会社なので、社名ってとても決めづらいんですよ。もう「我の塊」みたいな人たちが複数人いるという状態だから(笑)。

堀:ちなみに経営会議はどんな感じなんですか? 我が強い人たちのなかで、佐藤さんは調整役なのか、それとも「俺はこうしたほうがいい!」と言って、引っ張っていくタイプなのか。

佐藤:ファウンダーですから、みんなそれぞれプライドがあって、何かをやるときに船頭が多い状態になると、一番わかりやすい崩壊が見えますよね。なので最初の経営統合のときに「これをやるなら最終的に僕に決めさせてほしい」という話をしました。年齢的には僕が一番年下ですけど、僕が好きなことを言って、みんなが「はいはい」と優しく聞いてくれるというか、「どうやればそれができるだろうね」といった感じで、温かく前向きに受け止めてもらっています。

琴坂:(佐藤さんの)記事を読んでいると、昔からの友達と自然な流れで合流したみたいな印象を受けるのですが、「この瞬間に決まった」という感じではないんですか?

佐藤:もともと仲が良いメンバーで「この話しよっか」と言って、仰々しくランチで青山に集まっていたんです。そこからなし崩し的に「あれ?本当にこれ現実化しそうだな」とみんなが思い始めて、いろんなことが決まっていきました。なので、「よしやるぞ!」と決まったのは社名が決まったときと、ロゴの議論をしていたときですかね…。

琴坂:最終決定をする前にフィージビリティサイドでいろんなものを決めていってから、だんだん見えてきて…という感じ?

佐藤:そうですね。タスクリストを消化するのは上手な人たちなので、「これ決めないとね」「うん、じゃあ来週までに」という感じで進めていくと「あれ?もうできちゃう?」みたいなことになってました。

いかに自分にしかできないインプットをするか

(質問)光本勇介さんさんとの違いはご自身でどう感じていますか? 尊敬するところ、逆にいい意味で彼に足りてないところを知りたいです。

佐藤:僕とみっちゃんは全く似てないんです。こんなにありとあらゆる面で違う人も珍しいなというくらい。似てるとしたら「シャイ」なところくらいです。だから、みっちゃんのアイデアは、自分からは出てこない角度からのものばかりなんです。Facebookのグループメッセンジャーで「こういうの考えた、どう思う?」「このニュースこうだね」みたいに、毎日アクティブにやり取りしているんですけど、「何でこの人はこんなことを思いつくのだろうか」といつも思っていますね。

琴坂:衝突したりしないんですか?

佐藤:全くならないです。

琴坂:その秘訣は?

佐藤:彼もシャイなので、「こうしてみたら?」とあまり言わないタイプなんです。「こういうのが面白くない?」みたいな、拾うもスルーするもこっちのさじ加減みたいな感じで、適度な距離感でやってくれていますね。彼は器が大きいですし、本当に変人です。僕は割とベーシックなタイプで、彼はあらゆる物事を疑っていて、「その脳みその構造でよく疲れないな」と思うくらいです(笑)。多分僕らがスルーする、認知上当たり前すぎるようなことに疑問をもつタイプなんでしょうね。

堀:アイデアが本当に斬新ですもんね。

琴坂:佐藤さんはご自身のことを「普通の人」とおっしゃいましたけど、(コメント欄に)上原仁さんから「佐藤さんには、かもし出される未来人感があります。これを解像度高めにご自身で言語化してみてもらえますか?」と来ています。

佐藤:僕は多分キャラ設定を間違えていて…。あまり深く考えてないことでも「背景に何かあるんじゃないか?」と勘ぐられるキャラになっているんですよね。何でそういう印象になるんだろう?

琴坂:ご発言の節々に哲学的な要素が入るところが、未来人感をかもし出しているうわさはあるんですけど。

佐藤:変に賢ぶるのはよくないですね。

琴坂:特に意図はないのですね?

佐藤:そうですね、全然ないです。フッキー(福島良典氏)がTwitterで、それぞれの経営者がどういうキャラクターで、どういうルールで勝ちに持っていくプレーをするかということを書いてくれてましたよね。僕は「とにかくエクスクルーシブで、あまり表に出ない一次情報をひたすら収集しまくって、勝てると確信できる場所でゲームをする」みたいに書かれていたんです。まさにそういうことを意識しています。

みっちゃんみたいに斬新なビューで世の中を見ている自覚もないし、フッキーほど頭がいい自覚もないので、「いかに自分にしかできないゲームをするか」とか「自分にしかできないインプットをするか」を考えてます。アルゴリズムは平均的だけど、インプットが上質だとアウトプットが高くなる。どこかを卓越させるしかないとなると、インプットの質とか(情報の)独占性とか排他性みたいなものはたしかに意識しているんですよね。

琴坂:どうやればいいですか? 差し支えない範囲で教えていただけると嬉しいのですが。

佐藤:とにかく自分が学んだこと、考えたことをオープンにする。起業家のなかにも、それを内緒にする人ってやっぱりいるんですよね。これは、成果が出ている・出ていないに関係なく、「そんな気にする?」というくらい気にする人もいるし、あけすけな人もいるんです。でも、やっぱり排他的な情報源にアクセスしようと思ったら、自分なりの発見がないといけないし、それをギブできないと(情報共有の相手と)持続的な関係にならないじゃないですか。だから、自分なりに物事を抽象化して、汎用性の高いものにして、それを提供することで(相手の情報から)自分も学ばせてもらう、教えてもらうということですよね。

琴坂:「抽象化して誰かに提供する」というのはどういうことですか?

佐藤:たとえば僕自身が経営のなかに「こういう課題があって、その時にその現象をこうやって構造化する」とか、ある程度抽象化できると、その現象を見たときに、解釈とか理解のぶれがなくなると思うんです。誰かに現象だけをシェアしても「それはお前のところの話だろ」となるので、抽象化した部分を持っていってあげて、「そちらの会社で言えばこういう形で当てはまると思います」みたいな話をします。

少なくとも「面白いことを言う人、学習機会になり得るものを持ってきてくれる人だな」という印象を持ってもらえるように、準備したり工夫するというのは意識しています。

琴坂:ご自身の経験をそのまま話すのではなくて、目の前にいる人にとって有益になるように解釈するなり、一般化した上で伝える。そうすると、ギブしたくなって、つながっていくという感じですね。そのような場というのは、1対1とかクローズな場所でしかないんですか?

佐藤:Facebookのメッセンジャーとかですね。数字とか売り上げというよりは、具体的な情報を含めて、会社で起こったことを話したりするので、どうしても表で書きづらいんです。少しミスすると(世間的に)ものすごいことになるので、情報がクローズドになってきているのですが、これはもったいないことだと思います。なので、STARTUP本はすごく価値があると思います。

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内

琴坂:コミュニティを調査している側からすると、Facebookグループや、そのつながりが刷新されないという問題意識はあります。リスナーの方には、「そこに入りたい」と思う人がいると思うのですが、そこに入り込んでいける可能性、コミュニティが進化する可能性ってどのようにとらえていますか?

佐藤:僕の場合だと「若手の人でこの人は面白いよ」と誰かに紹介してもらいます。それで、ご飯に行ったりするために連絡を取っていたグループが、そのまま情報共有の場になったりしますね。最初から情報共有の場所をつくったというよりは、もともとご飯のグループだったところから発展していることが多い気がします。

だから、そういうグループにたまたま入ったときに、ご飯の予定調整のやり取りだけで終わずに、「こういうことがありました」みたいにポーンと投げ込むと、いつの間にかその場所がやり取りをする場になっていることって結構あると思うんです。

堀:一緒にご飯に行く場に行かないと、そのコミュニティには入れないということですよね。

佐藤:僕は出不精で、そもそもご飯とかも行かないのですが…。周りのすごい人達がどうしているかは全然わからないですけど、僕の身の回りで起こっていることで言えばそんな感じです。

(質問)いろんな起業家を見られていると思うのですが、たくさん見てこられたなかで、失敗する企業家に共通するものは何でしょうか?

佐藤:これって「幸福な家族は似ている」論に結構近くて、失敗は無数の要因が折り重なってできていて、失敗の方向ってバラバラなんです。うまくいっている組織はファクトベースだとか、物事の進みが早いとか、全員が物事を前に進めることを意識しているとか、政治が少ないとか…「当たり前のことを当たり前にできている」という点においてすごく似通っているんです。

琴坂:おっしゃる通りなんですよ、だから(成功の原則をまとめた)この本を書けたんです。

佐藤:「失敗から学ぶ」ってよく言うんですけど、起業に限って言うと、本当に複数の要因があってバラバラなので、難しいなと思います。

堀:最近はどれくらいのペースで投資しているんですか?

佐藤:2月くらいからは、お金の使い道として、既存の投資先が(コロナ禍で)まずいときのサポートに回すことが重要かなと思っています。なので、まったく知らない人への新規投資はほぼやってないですね。知り合いの紹介ベースで、月1件くらいやっている感じです。

堀:現在は、ヘイとエンジェル投資とフリークアウトの取締役も入ってますよね?

佐藤:そうですね。(フリークアウトの)新規事業領域をやっています。

堀:かける時間の割合はどれくらいですか?

佐藤:投資と言っても特別なことをやっているわけではないし、普段から投資業としてオペレーションが回っているというわけではないので、基本的には全て本業に時間を投下している感じです。

堀:空いている時間にメッセンジャーとかで投資しているのですか?

佐藤:そうです。

堀:違うイベントでご一緒に登壇させていただいたときに、「海外のクラウドソーシングを使って、現地のアプリユーザーの声を集めている」と聞いて、驚いたんです。それは今でもやってらっしゃるんですか?

佐藤:やっています。基本動作という感じです。多分フッキーもやっていると思うんですけど、現地ユーザーの感覚を自分で体感するのは難しいし、アプリだけ見てもその価値はわからないじゃないですか。わかるものもあるんですけど、僕が興味あるものが、現地でどう受け止められているかとか、課題感がわからないものが多くて。そういうのは現地のユーザーにヒアリングしてもらうするほうが早いし、安いんですよ。

琴坂:事業開発をするときのアイデアの源泉というのは、そういうところにもあるんですか?

佐藤:そうですね、多いと思います。たとえば、最近、母親にZoomを教えたんです。母が趣味でクラフトの先生をやっていて、Zoomで生徒さんとやり取りをしないといけなくなったんです。とはいえ、もう60いくつなので、(操作方法が)わからないから、パソコンの画面をケータイで撮影して、今どの画面にいて何に詰まっているかを、佐藤家のLINEグループに送ってもらってたんですよ。「それはここのチェックボックス入れて、サブミット押して」「ああ!つながった!」みたいなことがあって…。コロナの影響もあって、シニア世代がどのようにデジタルデバイスを使いこなすかっていう課題も出てきているなと感じたりしました。

それで、いろいろ調べて、すごい資金調達をしている「エンジョイテクノロジーズ」という会社がアメリカにあるけど、そのサービス体験ってサイトを見ただけではわからないから、依頼をして調査してみた、みたいなことがありました。

琴坂:どうでした? 普通にいいインプットになるんですか?

佐藤:気の利いた返事をしてくれる人と、ざっくりした感じで返ってくる人もいるので、当たり外れがあります。「初めてでもいいからこのサービスを使ってみて」と言うときは、この人に頼もうみたいな人がアメリカにいるんです。でも、ロンドンのサービスを調べたくて現地の人に頼んだときは、感想文みたいなものが送られてきて、「なるほどな」という感じでした(笑)。

学生でも勝てる事業領域はある

堀:3年くらい前に、起業家とVC合わせて8人くらいでご飯を食べに行ったんです。そこで、直近に出ていた新しいサービスの話になったときに、その場にいた僕以外の全員の人がそのサービスを触っていて「早!?」と思ったんですよ。

新しいサービスを徹底して自分から触りにいくというのは、当たり前の感覚かもしれないですけど、やっぱり常にチェックされているんですか? それとも光本さんみたいな方が近くにいて、「こんなサービスいいな」っていう声を聞いた瞬間に、「それって何かないのかな」って調べに行っているのか、トリガーが何なのかがすごく気になります。

佐藤:どっちもあります。「自分の体験に関連する事業領域ないかな」とか「これをもう少しモダナイズしたものって海外にあるのかな」というきっかけもありますし、みっちゃんみたいな人が「これはこうだから面白い」とか「このニュース何?」みたいにいくらでも送ってきてくれたりします。

それがきっかけになることもあるし、プロダクトハントとかエンジェルリスト、AppStoreランキングを見て、スパイクしているものがないかを確認することもあります。最近は(自分は)おっさんになって来ていて、若くてすごく詳しい人がいっぱい出てきているので、あまりそこの土俵で勝負する必要もないなと思い始めました。

琴坂:その時はどういう土俵で勝負するんですか?

佐藤:市場に対するエントリーチケットって、すごく高いものからフリーで入場できるものまであるんです。公開開示情報のなかで、イケてそうな情報を見ながら、それを自分で作ってみることってほとんどタダでできるじゃないですか。ただ、そこは競争過多で、混んでいますよね。極端に言えば、500億のエントリーチケットだけど、鉄の山を買えば一定の利回りは出るみたいな市場もある。いろいろな市場があるなかで、自分がどのくらいの入場券を買って、限られた枠組みのなかでどう勝負していくかは見極めます。

琴坂:リスナーには大学生も多くて、高額のチケットを買えない人たちが多いと思うのですが、そういう人たちが創業するとしたらレッドオーシャンから行くしかないということですかね?

佐藤:ある業界の平均水準以上の人間が、その業界水準以上にコミットすれば、当たり前ですけど、相対的には結果が出るわけじゃないですか。そうすると、実は若いことが武器になることもあって、たとえば東大の子たちが投資銀行やコンサルティングファームに行かずに(事業を)始めて、寝ずに頑張ったら勝てるものもいっぱいあるんです。

その子たちがプロファームの市場に戦いに行っても、周りがめちゃくちゃ働いている状況だと勝てないんです。でも、そういう人が全くいないというマーケットはすごくたくさんあって、経験とか業界ドメイン知識みたいなビハインドを、一気にまくる方法というのは実はあるんじゃないかなと思っています。

琴坂:なるほど。経験がない人でも、地頭や馬力でカバーして、最初の壁を越えることはできるだろうということですね。

佐藤:フリークアウトも広告業界のプロフェッショナルではない2人が始めた会社です。今では言えないような労働環境の中で、若い人たちが強いコミットメントでやっていたから、短期的に立ち上げることができました。それは、プロダクトのすごさ、技術のすごさというより、その業界の平均レベルを越える頭のいい人たちが、たくさん働いていたから勝てたという感じです。

琴坂:その後に、資源やアクセスを手に入れて、新しいチケットを買うことができるから、事業をサスティナブルにしていけるということですね。

佐藤:そうです。永遠に馬力を働かせ続けるのはかなり難しいですし、そもそも社会的にNGなので(笑)。

琴坂:おっしゃる通り(笑)。

佐藤:労働時間を遵守する組織にしていくときに、すごく高いコミットメントを維持し続けるには、特殊なインセンティブ設計が必要だったり物語性とかストーリーが必要ですよね。

僕のオフィスは恵比寿にあって、恵比寿駅の近くにある猿田彦珈琲に毎日テイクアウトしに行くんです。そこの店員さんってめちゃくちゃ愛想が良くて、すごくホスピタリティがあって、いつもにこにこしていて、優しくて、外まで見送ってくれる。でも、彼らの時給ってドトールの人と比べて高いかというと、多分そうでもないんです。ただ、(従業員の)高いコミットメントを引き出せるのは、猿田彦珈琲の場合、ブランドとか世界観とかストーリーというのが構築されているからなんですよね。ディズニーランドのキャストさんとかも同じだと思うんですけど、本来であればその業界で雇用できない水準の人のコミットメントを引き出す構造が裏側に回っているので、そのような歪みをつくってしまえば勝てると思います。

琴坂:採用、組織、評価などの「仕組みのイノベーション」が発生していて、そこでパフォーマンスが変わっているというのはありますよね。

佐藤:そうですね。プロダクトとか戦略の差分はいずれ埋まります。それがバリアになり続けるというのはやっぱり嘘で、どの企業もそれはできないんです。だから、どういうレベルの人材が、どれくらい一生懸命頑張れるような構造や仕組み、ブランドを裏側に作れているかということですね。サイバーエージェントとかはすごいと思います。

ジャイアントキリングはゲームチェンジのときに起こる

(質問)2009年くらいに、「リグレト」という擬人化されたモフモフキャラに、その日の後悔とかを吐き出すサービスを応援してらっしゃった記憶があります。当時から「いいサービスだなぁ」と思っていましたが、当時はどのような考えからサポートしていたのですか?

佐藤:これは「怖くない2ちゃんねる」というのを標榜していたサービスで、作った人は今スマートニュースのチームにいます。社名は「ディヴィデュアル」で「分人」という意味です。人間は、世の中に表出している自己とかアイデンティティだけではなくて、複数の自分を持っているから、それを出せる場所があったほうがいい。でも2ちゃんねるは怖いので、ある程度人に優しくすることをアーキテクチャで推奨するようなサービスを作りたい。つまり、良い人ぶることが動機づけられるようなサービス設計をしているという仕組みで、慰めることを目的にしたコミュニケーションサービスなんですけど「すごくいいサービスだな」と僕も思ったんです。

今で言うと、たとえば「あつ森」とか「フォートナイト」「PUPG」とかもそうかもしれないですけど、実はゲームコミュニティを中心に、自分の複数の側面をちゃんと出せるというか…。オフラインでの自分のキャラクターじゃないものを出せる場所がどんどん発露してて、そこで暮らすように生きている人たちもいます。引き続き大きな可能性のある領域なんじゃないかなと思っていますね。エンタメ性が高くて、バーチャル世界なのに魅力的なリアリティを兼ね備えていて、ひたすら楽しいんです。バーチャルの世界に暮らしたいと思う人はいっぱいいるだろうなと思いますし、この領域はすごく面白いなと未だに思っています。この領域を中心にやっている会社が何社かあるので、そこには投資しています。

堀:投資するときは、アフターコロナを意識しているんですか? 「アフターコロナ」という言葉自体をバズワードとして認識しているのか、生活様式が変わるので、それを見据えた事業領域に注目しているのか、その辺を聞かせてください。

佐藤:そもそも、ジャイアントキリングの戦いをするなら、(コロナ禍のような)ゲームチェンジのときに一番エネルギーを出すべきだと思います。平常時は、やっぱり大きい会社、スケールがある会社が強いし、BS投資し続けてきてアセットのある会社は効率的なので、なかなか勝てないですよね。

実際、スマホはジャイアントキリング(のタイミング)だとされていたけど、ほとんど入れ替わらなかったんですよね。レシピサービスは入れ替わりつつありますけど、大きい会社はその変化に適応して大きくなっていって…。

堀:CtoCマーケットプレースとニュースとレシピですよね。

佐藤:そうですよね。ニュースもなんだかんだYahooが強いじゃないですか。

堀:まくってきましたね。

佐藤:そう。でも、これくらいの前提条件の変化があると、その変化に適応するのに全振りするのは当たり前というか、逆にそれをやらずにマイペースにやっているというのも変な話だなという感じです。

なので、僕の投資テーマも、それを意識したものにぎゅーっと寄っている感じですね。ただ、突飛な変化が起こるとは思っていないので、今まで起こるとされていたもののタイミングが、5年とか10年単位で早くなるだけだと思っています。待ちゲームだったものが、急に忙しくなったりするということが足元で起こっているので、そういう領域はすごく気にして見てます。

堀:1個でもいいから具体的に教えていただけますか?

佐藤:昨日、stand.fmで話したんですけど、「パラレル」っていうサービスがあるんです。バーチャル世界に自分の人格をつくって、人間関係とか友人のネットワークを築くことをサポートするコミュニケーションインフラをやっている会社です。その会社は自粛のタイミングで桁違いの成長をしています。デジタルで人とつながって、同じ時間を過ごすということを、この3ヶ月くらいで普通の子たちも急速に学んでいったというか…。僕が想定するターゲットユーザーじゃない人たちもドハマリしていて、この3カ月でこのエンタメの喜びを知った人はかなり多いんじゃないかなと思っています。

琴坂:もちろん辛いこともあるけれど、それをチャンスに変えるというのは当然だし、変えないのはおかしいということですよね。

佐藤:だと思います。

琴坂:そろそろ締めていかなればいけないのですが、最後に「事業を作るとは何か」ということをお聞きして終わりたいと思います。

佐藤:20代のときは、「勝てるゲームでどのようにバットを振るか」ということを考えていたので、負けたらつまらないし、絶対勝つという気持ちで事業をやっていたんです。だけど、最近は「自分が大事だと思っていることにチャレンジにする」ことを考えています。特にヘイを始めてから、事業というものに対するとらえ方が変わってきたんです。自転車屋とか広告技術も、ある程度趣味の延長で、かつ成り立たないとつまらない、伸びないと面白くないという感覚だったんですけど、今はもう少し「提示したい世界観があって、それをみんながどう思ってくれるか」「それを面白がってくれるといいな」みたいな感じになっている気はします。

琴坂:提示したい世界観を実現するために事業を作る、いいですね、ありがとうございます。この番組は『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、ヘイの佐藤さんをゲストにお送りいたしました。本日も貴重なお話、佐藤さんありがとうございました。

佐藤:ありがとうございました。

琴坂:次回はヤプリの庵原保文さんをゲストにお送りしていきたいと思います。庵原さんに何か質問などありますか?

佐藤:そうですね、今のヤプリみたいな事業って、当時はどっちかというと「あまりおしゃれじゃない」と捉えられていたと思うんです。それが逆に、今はヤプリみたいな事業って「DXだ!」みたいに、世に求められているものになっていると思うんです。

僕自身も当時だったらもっと違うことをやっていただろうと思うので、なぜそういう意志決定ができたのか?を聞いてみたいですね。僕は人がやっている事業を、「何で自分ができなかったんだ」ってめっちゃ思うタイプなんです。

堀:欲深いですね(笑)。

佐藤:そう(笑)。暗号通貨取引所とかキュレーションメディアとか、何でやらなかったんだろうかと思うんですけど、ヤプリも結構思うんです。なので、あの当時何であれがイケてると思ったのかを知りたいです。

琴坂:深堀りしていきたいと思います。今日も皆さんありがとうございました。それではまた!

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内