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善き社会への青写真──『ブループリント』#3

ビル・ゲイツが「これほどの希望を感じて読み終えるとは、予想もしなかった」と絶賛し、全米ベストセラーを記録した本があります。イェール大の大物教授、ニコラス・クリスタキスの新著『ブループリント』です。その日本語版が刊行されました。人種差別からコロナまで、世界が「分断」に揺れるいま、進化論の立場から「どうすれば理想の社会を築けるか」を検証する人類史。エリック・シュミット(Google元CEO)、マーク・アンドリーセン(Netsacpe創業者)、伊藤穰一(投資家)といった経済界のビッグネームたちがこぞって賛辞を贈る、本書の冒頭部分を公開します(全3回)。

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はじめに――私たちに共通する人間性 #3

善き社会への青写真

異文化間のこうした類似性はどこからやってくるのだろう?人びとはお互いに──戦争さえ始めてしまうほど──大きく違うにもかかわらず、一方でとてもよく似ているなどということがどうすれば可能なのだろう?

根本的な理由は、私たち1人ひとりが自分の内部に「善き社会をつくりあげるための進化的青写真(ブループリント)」を持っているという点にある。

遺伝子は人間の体内で驚くべき仕事をするが、私にとってさらに驚くべきなのは、それが体外でなすことだ。遺伝子が影響を及ぼすのは人体の構造や機能だけではないし、人間の精神の、したがって行動の構造や機能だけでもない。そうではなく、社会の構造や機能にも影響するのだ。それは、世界中の人びとを眺めてみればわかる。私たちに共通する人間性の源泉はここにあるのだ。

自然選択は、社会的動物としての私たちの生活を形づくってきた。また、愛し、友情を育み、協力し、学び、さらには他人の独自性を認めるといった人間の能力すらもたらす特徴からなる――この本の大事な概念であるところの「社会性一式(ソーシャル・スイート)」――の進化を先導してきた。現代の発明が、道具、農業、都市、国家といったあらゆる虚飾や人工産物を生んできたにもかかわらず、私たちは自己の内部に、人間にとっての自然な社会状態を反映した生まれながらの性向を持っている。こうした社会状態とは結局のところ、事実として、さらには道徳的見地からしても、何よりもまず善なるものである。人間がこうした前向きな衝動に反する社会をつくれないのは、アリが突如としてミツバチの巣をつくれないのと同じことなのだ。

私たちは、より残虐な性向にいたるのと同じくらいごく自然に、この種の善良さにいたるものだと思う。それは動かしがたい事実だ。人は他人を助けると実にいい気分になる。善行とは単なる啓蒙主義的価値観の産物ではない。もっと深遠な、有史以前にさかのぼる起源を有しているのだ。

「社会性一式」を形づくる古来の性向は、一体となって働くことで、共同体を結束させ、それらの境界線を明確にし、メンバーを特定し、さらには、人びとが個人的・集合的目標を達成できるようにするが、その一方で、憎悪と暴力を最小限に抑える。

科学界はあまりにも長いあいだ、人間の生物学的遺産の暗黒面に焦点を当てすぎてきた。つまり、同族意識、暴力、利己性、残忍さなどを生み出す素質だ。明るい面は、受けるに値する注目を拒まれてきたのである。

(翻訳:鬼澤忍・塩原通緒)

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【目次】
はじめに――私たちに共通する人間性
第1章 社会は私たちの「内」にある
第2章 意図せざるコミュニティ 
第3章 意図されたコミュニティ
第4章 人工的なコミュニティ
第5章 始まりは愛
第6章 動物の惹き合う力
第7章 動物の友情
第8章 友か、敵か
第9章 社会性への一本道
第10章 遺伝子のリモートコントロール
第11章 遺伝子と文化
第12章 自然の法則と社会の法則
訳者あとがき