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仕事には誰の「信頼」が必要か──『フルライフ』#3

人生100年時代が到来し、75歳頃まで一生懸命に働くだろう私たちに、いま必要な「戦略」はなんなのか? 予防医学・行動科学・計算創造学からビジネス・事業開発まで、縦横無尽に駆け巡る、 石川善樹さんの集大成『フルライフ』を、一部特別公開します。
私たちNewsPicksパブリッシングは新たな読書体験を通じて、「経済と文化の両利き」を増やし、世界の変革を担っていきます。

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大成するキャリアは3つに分けられる

 ここまで職場におけるWell-BeingがWell-Doing(生産性・収益性)に寄与すること、そしてその重心が「信頼の文化」にあるということをお伝えしてきました。

 それを踏まえて、ここから長い仕事人生における時間戦略の全体像を示していきます。

 もちろん、私自身このテーマについてはさまざまなことを考え、あるいは教えられてきました。それらを統合し、特に時間の使い方という観点から考えると、次に示す一枚の図に整理できます。

 この図はとてもシンプルなことを言っています。ヨコ軸に時間、タテ軸に成功を置いています。ちなみに「成功」ですが、おそらく20世紀的なそれは、社内の役職の階段を駆け上がることだったかもしれません。

 ですがこれからはもう、そんな時代じゃないですよね。あるいはお金を得るといったことよりも、もう少し大きなスケールで考えたいと思います。ここで言う「成功」とは、例えば後世に名を残すような「社会的なインパクトの大きさ」という意味です。

 この図が示しているのは、何か大きなことを成すためには「3つのフェーズ」があるということです。

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 ちなみに私がこの図を教えてもらったのは、34歳の時です。当時の私は、一言でいうと「ふてくされて」いました。というのも、同級生や後輩たちがどんどん活躍していくのに、どうして自分はこんなにダメなのか。一体、彼ら/彼女たちと比べて自分は何が足りないのか、人生の迷子になっていた時期です。

 そこに現れたのが、Yさんです。私と関わっても何の得にもならないのに、Yさんはじっくりと話を聞いてくれた後、こういったのです。

「石川くん、僕はいろんな人を見てきた。もちろん、一人ひとりの人生の軌跡は様々だけど、あえて成功のパターンを探すとこうなっているようだよ」

 そういって、さきほどの図を示してくれたのです。当時Yさんに聞いた話を、ざっくり説明します。

 まず最初に誰しもの身に訪れるのは、成功の度合いが直線的なままの「ハードワーク期」です。ハードワークと言っても、ロングワーク(長時間労働)をすることではありません。「質の高い仕事をすること」をハードワークと考えてください。周りから一目置かれるような仕事を積み上げていくイメージです。

 ここは現場によっては、下積みと呼ばれるものかもしれません。だけれども、下積みを重ねていったときに、ある時点から急速に成果につながっていきます。

 次に訪れる「ブランディング期」は、周りからの信頼を集め、仕事の幅を広げながら自分というブランドを固める時期です。成功のカーブが右上がりに転じて、加速的に結果が出始めます。

 3つ目の「アチーブメント期」では、曲線は垂直に近い軌道を描きます。自分の仕事をどんどん社会的に還元することのできる時期。ここに到達するのは、早い人で50歳ぐらいではないでしょうか。

 私はYさんの話を聞いて、「そうだったのか!!」とピンときたのです。つまり、これからの人生をどう歩んでいけばよいのか、ボンヤリではあるものの、戦略が見えるような気がしたのです。そして「ピン!」と来た直観がなんだったのか、丁寧に言語した内容が本書のひとつの骨格となっています。

 まず、この図を理解するうえで一番重要な発見からお話していきたいと思います。それは次の通りです。

 これら3つのフェーズは、「誰の信頼を得ながら仕事をするのか」という意味で、重心の置き方が違います。

 つまり、仕事の重心は「信頼」にポイントがあるのです。

 これは私にとってきわめて重要な発見でした。とはいえ、もっと詳細にご説明しないと意味がわからないと思うので、3つのフェーズの一つひとつについて、順番にくわしく見ていきましょう。

質の高い仕事をするには誰の信頼が必要か?

 もっとも重要なフェーズは、ハードワーク期です。序盤戦でどれだけハードワーク、質の高い仕事を積み上げられるかが、のちの人生にとって大きな伏線になってくる。

 この時期に「高めるべきパフォーマンス」は、自分の武器となる専門性であり、業務上の能力です。例えば「〇〇(が専門)の石川」と、名前の前につく「〇〇」を手に入れるよう努力する。気の利いた人になると、掛け算しようとしますね。より希少性を出すために「スキルXとスキルYの石川です」と。

 質の高い仕事をもらうことでハードワークができるし、実力をつけることができるんですが、若い頃は経験もスキルも人脈もないですよね。そういう人間がハードなプロジェクトや仕事を任せてもらうためには、どうしたらいいか。簡単ですね。偉い人から仕事のチャンスをいただかなければいけません。

 若い時は、同世代とつるみたくなるかもしれませんが、その人たちは、悩みの解消ぐらいはしてくれるかもしれませんが、質の高い仕事をくれるわけではない。もっとでかいことをしたいと思ったら、年上の偉い人やすごい人たちと仲よくなるしかありません。

 まだ何物でもない若い自分が、すごい人から信頼を得て、質の高い仕事をもらうために必要なものは何か? 私の考えによるとズバリそれは次の2つです。

Q.すごい人から信頼を得るために必要なのは?

〉〉〉A.「可愛げ」と「大物感」

 身も蓋もない言い方をすると、「すごい人に好かれるためのポイント」と言えるでしょう。

 可愛げだけだと、ただ可愛がられるだけで、飲み会要員として呼ばれて終わりかもしれません。それに加えて大物感を出さなければ、質の高い仕事は降ってこない。逆に大物感だけでは、お前は生意気だと反感を買うだけなので意味がない。一見矛盾する、可愛げと大物感を両方セットで身につけることが必要です。

 さて、可愛げの磨き方は他の書物を参考にしてもらうとして、本書では「大物感」について考えてみましょう。そもそも、大物感のある若者の特徴は一言でいうと何になるでしょうか? おそらくそれは、次の一点に尽きると考えています。

Q.若者が大物感を出すには?

〉〉〉A.時代を語る

 つまり「これからは〇〇の時代が来る」というふうに、大上段に振りかぶって時代を語るのです。なぜなら偉くてすごい人たちが若者に何を聞きたいかというと、「次は何の時代か?」なんです。ただ、そこで例えば「次はAIの時代です」と言っても、エッジが立ちません。自分独自の「次は○○の時代です」を語れると、途端に大物感が出てきます。そのためにも普段から、未来のことを考えるよう癖づけておくのがいいでしょう。

 人生100年時代の時間戦略を考える本書は、まさに自分の時代を考えるための戦略書です。自分は3年後、10年後、そして50年後どのように生きるのか。それを考えるときには自然と、10年先の世界や日本にも想いを馳せるはずです。

 ぜひ、自分オリジナルの時代を予見してみてください。タピオカの次を考えるのだって、スマホの次を考えるのだって、時代を考えることですから。

 ここで重要なポイントは、次の時代がなんなのかというのを大雑把に語ることが許されるのは、若い時期だけということです。60代のおじさんが「次の時代はこうだ!」と言い出しても、あんまり耳を傾ける気になりません。

 NewsPicksのような経済メディアを見ている方はわかると思うんです。若いしまだ実績がさほどあるわけじゃないけれども、大物感が漂う若い識者は間違いなく、時代を語っています。そして記事にはならないところで確実に、「可愛げ」をいっぱい発揮しています。友人も多いので、取材では一見強面の彼ら/彼女らの、取材外での可愛げを窺い知ると、見習うべきことばかりです。

 若いからこその特権を、大いに活用するのが「ハードワーク期」です。「可愛げと大物感」のセットで、偉くてすごい人から質の高い仕事をもらい、自身を磨いていきましょう。

仕事の幅を広げるには誰の信頼が必要か?

 次にやってくるのが、ブランディング期です。ここで己のブランディングに成功した人だけが、アチーブメント期まで到達することができる。

 このフェーズにおいて高めるべきは、仕事の能力ではありません。というか実務能力が万全に高まったからこそ、次のフェーズへ移行することができるわけですから、別のものを磨くべきです。このフェーズで高めるべきは、「人間としての魅力」です。

 さきほど、ハードワーク期に獲得すべきなのは自分の武器となる専門性であり業務上の能力、「〇〇(が専門)の石川」という肩書きだと話しました。この言われ方には、メリットとデメリットがあります。「〇〇の石川」という言い方って、実は「〇〇」のほうに焦点が当たっているわけです。「〇〇」だけが情報として受け取られていて、個人としての理解は得られていない。しかも「〇〇」の分野で自分より若いフレッシュな人が出てきたら、簡単に取って代わられます。となれば「〇〇の石川」という言い方の、「石川」のほうに注目してもらうよう努力しなければいけない。

 もう一つ、「〇〇の石川」という言い方で自分が語られることのデメリットがあります。来る仕事が自分の専門性とか経験に寄ったものばかりとなり、自分の幅が広がらなくなることです。人間としての総合力を高めるためにも、一度築き上げた「〇〇」の領域から外へと飛び出さなければいけません。

 言い換えるならブランディング期は、「他分野からの信頼」を獲得する時期である。仕事でいうと「他部署からの信頼」、あるいは「他業界からの信頼」です。

 ハードワークは「深める」時期ですが、ブランディング期は「広める」時期です。自分の専門性がないところの分野の人たちと出会い、知見を吸収していく。自分の幅を広めると共に、自分という存在を広める時期です。

 このフェーズにおいても、ハードワーク期で語った「可愛げと大物感」と同じように、意識的なパフォーマンスが重要になってきます。

 ちなみに、人間としての魅力をアピールしようとして、自分の過去の実績を語り出すのはNGです。すごい人アピールは、「ああ、すごいですね」と思われて終了です。「すごい人なんだな」という信用は得られても、「この人とは仕事を超えてつながりたい」という信頼は得られないでしょう。

 ハードワーク期を過ごし、実績を得た人間が本当にアピールすべきは、次の一点に尽きます。

Q.実績のある人間がアピールすべきものは?

〉〉〉A.弱さ

 つまり、「石川ってめっちゃルーズなんだけど、すごくいいやつなんだよね」という具合に、周りから「××だけど、実は○○」というふうな認識のされ方をすると、人間的魅力がある人として存在が広まっていきやすいんです。ツッコミどころがある人のほうが、口コミに乗りやすくなりますから。

 こうした一連の現象の背景には、人間の本質として「他の人を見下したい生き物」という点があります。ちゃんと見下していいポイントを作り、それを自分から提示するということがものすごく重要です。いい自分、できる自分だけを見せていてもしょうがない。弱さがあるから、人間としての魅力が出てきます。

 さて、次の問いに移りましょう。

Q.ブランディング期は、誰の信頼を得るべきか?

〉〉〉A.同世代の仲間

 私は同世代の仲間だと考えています。大御所と付き合い続けていても、彼ら/彼女らはいずれ会社や社会からいなくなってしまいます。それよりも業界の内外で同世代のいろいろな仲間を増やし、彼らが近い将来偉くなった時に手を取り合える関係を構築しつつ、自分自身の器を広げていきましょう。

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志を達成するには誰の信頼が必要か?

 やがて第3のフェーズであるアチーブメント(達成)期がやって来ます。自分が人生で何を本当に成し遂げたいのかという志は、第1、第2のフェーズにおいて専門性を深めたり、いろんな分野の人と知り合うなかで、時間をかけて初めて見つかるものだと思います。その志を、仲間と共に達成していく。このレベルになると仕事というより、「志事」ですね。

 この頃になると「石川さんには△△という仲間がいるよね」という言葉で、周りから自分を認識されることになるんだと思います。

 アチーブメント期になると、もはや自分自身の能力や人間的な魅力はどうでもいいです。それよりも仲間の能力や魅力を磨くことに専念すべきです。その上で、「私たちは○○を目指しています!」というビジョンを、より遠くまで広められるよう努力する。この時期に付き合うべきは、「次世代の若い人」だと思います。若い人たちから信頼を得られるよう、時間の使い方を工夫すべきです。

 さて1章では、Well-Beingが、Well-Doing(つまり仕事の成果)につながること。そして、職場におけるWell-Beingの重心が「信頼の文化」にあるということをお伝えしました。

 さらに、長い仕事人生を3つのフェーズに分け、その信頼を誰から得るかによって、仕事の成果が飛躍的に実ることをお伝えしました。

 仕事人生における戦略の全体像をお伝えしましたが、ここから、3つそれぞれのフェーズで、どのような時間軸で戦略を組み立てるべきかを考えていきます。

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はじめに どうしたら一度きりの人生がフルになるのか
1章 仕事人生の重心は、すべて「信頼」にある
2章 生産性の重心をとらえる3つの「時間軸」
3章 創造性の重心は「大局観」にある
4章 人生100年時代の重心は「実りの秋」にある
5章 真のWell-Beingとは「自分らしさ」の先にある
おわりに 新しい時代の重心は「私たち」である