見出し画像

STARTUP LIVE #4 赤坂優氏——イベントレポート

5/29に出版された『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicksパブリッシング)の刊行を記念して、本書に登場する起業家の方々をお招きする連続イベント「STARTUP LIVE」が開催された。

第4回目はfranky株式会社の赤坂優氏をゲストにお迎えし、著者堀新一郎氏、琴坂将広氏と対談。その様子を書き起こしにてお届けする。

書籍のご紹介

赤坂優氏のご紹介

STARTUP LIVEのアーカイブ動画(YouTube)

琴坂将広氏(以下、琴坂):みなさんこんばんは、STARTUP LIVEのお時間です。この番組は2020年5月29日発売の話題作、『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』の出版を記念して、この本に登場する起業家の方々をお呼びし、根掘り葉掘り質問しちゃおうという企画です。 #STARTUP本 でコメントもお待ちしております。プレゼンターは私、慶應義塾大学SFCの琴坂将広とYJキャピタルの堀新一郎でお送りします。

今日のゲストは赤坂さんです。こんにちは。

赤坂優氏(以下、赤坂):こんにちは。よろしくお願いします。

琴坂:今何をやっているか、というところからお話ししていただいてもよろしいでしょうか。

赤坂:一昨年ぐらいからアパレル分野でストリートファッションブランド『WIND AND SEA』の経営を始めていて、それに加えて今年から新しい会社も始めています。

堀新一郎氏(以下、堀):アパレルはコロナ禍でも売れてるんですか?

赤坂:僕たちはネット通販なので、幸いにも影響はあまりないですね。

堀:今はどこもお店をやってないから、ネットだけで売っているところがすごい伸びてるって聞くんですけど、それは実感できます?

赤坂:基本的には生産量自体を一定に保っていて、消化率100%を目指しています。なので、過剰に生産していない分、計画から大幅な上振れはなく、今まで通り消化率100%を目指して頑張っている感じです。

堀:売上は減っていないということで、順調なんですね。

赤坂:そうですね。外出自粛に伴って店舗は閉めていたので、そこでの売上はなかったですけど。

琴坂:店舗は大きくないってことなんですか?

赤坂:中目黒に1店舗だけあって、お客さまに実際の商品を見ていただいたり、手に取っていただけるように、フラッグシップショップのような位置付けになっています。なので、店舗の売上に依存しているということはないですね。

琴坂:まさしくDtoCという感じですね。

赤坂さんには、STARTUP本のなかの「アイデアを検証する」というところで登場していただいているんですけど、この本、どうでしたか? 率直な感想をまず聞きたいです。

赤坂:とてつもなく良書でした。

琴坂:ほんとですか?(笑)

赤坂:僕、活字アレルギーで、本を読むのが苦手なんです。でも、この本は500ページあると思えないぐらいサクサク読むことができて、2〜3時間でかなり網羅できました。

実際に僕が面白いと思ったのは、事業よりも組織に関する部分なんですよね。ミラティブ赤川さんの「創業者の最も重要な役割が、最初の10人を集めること」のところは、今シリアルで(連続して)2回目の事業開発にチャレンジしている身としては、かなり響きました。あと、hey佐藤さんの「フリークアウトの失敗から学んだ、事業の複雑性と組織の複雑性の話」などは、親近感を感じることができて勉強になりました。

堀:裏話なんですけど、本を書くにあたって17人の方にインタビューしましたけど、赤坂さんが1人目だったんですよ。

赤坂:そうなんですか。1年ぐらい前の真夏のカフェでしたよね。

堀:あのとき、とても具体的にお話してもらいました。「この本いける」という手応えを感じることができたのは、本当に赤坂さんの1発目のインタビューがあったからだったので、感謝しています。ありがとうございます。

赤坂:細かい部分までお話ししましたよね。

堀:競合の話はバイネームで言えないところがありましたけど、徹底的に競合の調査分析をされている話は、本にも一部書きました。

赤坂:競合分析に関しては、当時の全社ミーティングでも、細かく具体的に「こういうポイントを頑張っていけば逆転できる可能性があるんじゃないか」というような話はしてました。

堀:福島さんがYouTubeLIVE後に、それぞれの起業家の特徴を書かれていましたけど、とにかく僕の印象は「調べる男・赤坂」っていう感じで、競合にしたくない起業家ナンバーワンです(笑)。

赤坂:でも、たまたま僕が競合分析の部分を話しているだけで、みんなそれぞれしぶとくリサーチをしていると思ってます。

サラリーマン生活を通して手に入れた「スキル」と「パートナー」

琴坂:赤坂さんは、細かい作業の積み重ねを付加価値につなげているっていうイメージを持ったんですけど、そのスタイルはどのように身につけたんですか?

赤坂:起業当初、自分に自信がなかったんです。なので、他の方々の事業をみて、成功サンプルと失敗サンプルをできる限り先んじて集めて、自分が失敗しないようにしていました。僕は恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」をリリースする前の3年間で、受託や広告代理業などをやっていて、その期間に競合分析のスキルは身についたのかもしれません。自信がない分、調べる量は多かったです。

琴坂:どういうメンタルで(「Pairs」をリリースする前の)3年間を過ごしていたのですか?

赤坂:2008年に創業して、最初からサービスで起業したかったんです。当時、ソーシャルブックマークサービス「Delicious」を使ってブックマーク数が急激に伸びたサービスを調べていたのですが、該当するものがわんさかあった。だから、僕も最初からサービスでいきたかったんですけど、サービスづくり、メンバーリソースにおいて必要な能力や知識がゼロで、最初は「参入したものの何もできない」状態でした。

「エンジニアリソース、デザインリソースがないと勝てない」とか、「集客戦略を明確に持ってないと無理」だとわかっていたので、最初の3年間はその部分を補うという目的がありました。そして、(自社サービスに)チャレンジできる土壌を会社につくらなきゃいけないと思っていたので、まず受託の事業を成長させておいて、良いサービスができたときにプロモーション面でアクセルを踏めるよう資金を準備しておこうと考えていました。

(質問)会社の中で事業責任者まで昇って、経験を積んでから起業をするか、スキルが十分ではない状態で起業するか迷っています。「起業(と会社の業務)は筋肉の使い方が違うから早く起業した方がいい」というアドバイスをもらいますが、赤坂さんはどう思われますか?

赤坂:僕は2年半ほど企業に勤めて、広告営業、メディア営業を経験しました。通販系のクライアントが多かったので、インプレッションやCTR、コンバージョンなどを常に扱っていたんです。なので、サラリーマン生活を通じて、集客に関するスキルが培われていたと何となく感じています。

LPを制作していく上でも、デザイナーとやり取りをする必要があった。自分以外のリソースを活用しながら、チームで何か作っていくことを学べたのはとてもよかったです。そこがないと起業してからのスタートダッシュはできなかったと思います。また、最大のよかった点は、共同創業者の西川順さんと出会えたことです。将来経営陣になり得る人と会社で出会えたというのは、とても有意義だったと思います。

堀:赤坂さんは、もともと友達が多いのか、それとも仕事を通じての人脈だけなのか、どういうタイプなんですか?

赤坂:僕はかなり友達が少ないと思います。

堀:あんまり作ろうとしないのですか?

赤坂:懐に入らせてもらえる人とは仲良くなれるんですけど、相手が閉ざすタイプだと一向に距離が縮まらない感じです。なので、多くの人と仲良くするタイプじゃないかもしれないですね。

堀:西川さんと出会えてほんとに良かったですね。

赤坂:そうですね。起業当時、僕は24歳だったんですよ。西川さんは僕の8つ上なので、当時32歳で。32歳って絶妙に社会人一周してるじゃないですか。なので、そういう人と組めたのは、しばらくクライアントワークをやっていく上でも、かなりポジティブに働いていたと思います。

琴坂:「いつかは起業したいと思ってるけど、うーん!」と悶々としている人からよく相談を受けるんです。赤坂さんはすごく丹念に準備された後に起業されているのですが、その間の焦りとかはなかったのでしょうか?

赤坂:焦っていなかったと言えば嘘になります。起業してサービスを作っている友人は少ないものの、ネットニュースには、年齢が近い経営者の事業が成長してるという情報が出ていたので、「どうしてうちは受託をやっていて、周囲は(自社サービスが)できているんだろう」という焦りはかなりありました。

琴坂:どんなニュースが心に残ってますか?

赤坂:2008年に起業して、受託で忙しかった2010年頃には、すでにイグジットがかなり出ていたんです。親しい知人・友人では、「STORES.jp」をやっていた光本さんとか、「サイタ」をやっていた有安さんですね。また、イグジットまではいかなくても、サービスが伸びているというニュースやプレスリリースを数多く見ていたので、焦燥感はありました。

社員2名、学生インターン25名

堀:仲間の話になりますけど、採用という観点では、赤坂さんよりも西川さんが頑張って採用していたんですか?

赤坂:試合の戦況を見て、戦術的にどちらが前に出たほうが良いかを切り替えていたので、どちらかが採用に特化していたわけではないです。一次面接から僕が出ることもありましたし、西川さんが出ることもありました。

堀:採用自体は媒体に載せて採るみたいな形だったんですか?

赤坂:初期は、年齢が大体同じ方や、少し年上の方を創業メンバーとして誘っていたのですが、それは失敗だったと位置付けています。なぜかというと、結果的に(彼らが会社を)辞めることになってしまったからです。キャリアも2年半ほどで、経験値が少ない25歳の僕が、創業経営者としてビジョンを語っても「今は受託で広告代理業をやってるくせに、夢って何なの?」みたいな感じになってしまって、(彼らを)引っ張り切れなかったんです。

「キャリアのある方を採用して、会社をグロースしていくのは難しい」と割り切ったのが、創業してから1年経った頃でした。その意思決定はよかったのですが、そこから大学生のインターンを主体にメンバーを集めていって、一時期、従業員のうち社員が2名ぐらいで、学生のアルバイトが25名ぐらいでした(笑)。

琴坂:すごい構成ですね(笑)。

赤坂:エウレカのインターンを経験したことある方って、累計100人は超えていると思います。みんな今それぞれ活躍していて、僕が退任したあとのエウレカで役員を務めているメンバーのひとりも、当時のインターン生ですね。

琴坂:かなり振り切ってますよね。なぜインターンですべて押さえていたのですか?

赤坂:「年上のマネジメントができない」となったときに、生き延びていくためにはシンプルに「コントロールのしやすさ」が必要だと思いました。あと、時代の追い風もあった。当時は今ほどインターンが浸透してなかったんです。インターン求人メディアが出始めた頃で、ベンチャー企業が運営しているサイトが2、3個しかないという感じでした。そういうメディアの方に直接お会いしに行って、通常の掲載料が10万円だとしたら20万円支払って、サイトの目立つ位置をとってジャックさせてもらって、高学歴な学生をひたすら面接していました。

堀:その中で優秀だった人を社員として登用していくスタイルだったんですか?

赤坂:そうですね。大学2、3年生で入ってもらうと、大体2年間ぐらい時間があるので、その間に、営業職だったら営業職関連、エンジニアだったらエンジニアとして成長していってもらって、大学3年生の秋冬時点で内定を出して、そこからは必死のクロージングでした。

堀:インターンで入れるときの誘い文句と、クロージングの締め文句はどんな感じだったんですか?

赤坂:インターンで誘うときも、クロージングもほとんど同じなのですが、当時はエグイぐらいバイアスのかかったことを言っていました(笑)。「大企業はダメ」「組織の歯車になって何が面白いんだ」「1,000分の1で意味あるの?」みたいな話をしていましたね(笑)。

琴坂:心からそう思っていたんですか?

赤坂:心からそう思っていました。自分が組織を辞めて独立した立場でしたし、若いうちから自分自身に負荷をかけることによって成長するというのは、身をもって体験していたことなので。

糸井重里さんがほぼ日のオフィスを「明るいビル」として構えたあと、彼らが移転で出ていったところに僕たちが居抜きで借りて入ったんです。そこに仮設のシャワー室をつくって、洗濯機を導入し、洗濯干し場をつくって、和室に布団と寝袋を買い込んで、学生が常時5人は寝泊まりしていましたね(笑)。

四半期に一度の個別1on1

琴坂:起業家のみなさんは、事業じゃないところでの発明をたくさんされていますよね。今のお話も他社がインターンをやっていないなかで、インターン生を効率的に採るという発明をされていて、それが成長のドライブになっているなと感じました。それ以外にすごく効率的だったメソッドとかってありましたか?

赤坂:当時僕たちと同じようにやられていた会社もあると思うのですが、重要視していたのは、今で言うところの「1on1」です。当時は四半期に1回、個別に評価面談を行っていて、従業員・アルバイト・インターン全員が対象でした。およそ1人あたり1時間ぐらいですかね。

堀:四半期に1回?

赤坂:はい。昇給のタイミングも四半期に1回設けていて、それも面談で決定するんです。短期のタームで評価をして、(従業員が)頑張れる動機を意識的につくってました。

堀:すごい!なかなかできないですよね。

赤坂:評価面談の時期は忙しかったです。ドラマのワンシーンように、評価がよくなかったメンバーが泣いて帰ることもありました(笑)。学生のインターン生が面談にカバンを持って入ってきて「どうしてカバンを持ってきているの?」と聞いたら、「泣き顔を同僚に見られたくないので、そのまま帰宅できるようにカバンを持ってきました」と言っていて(笑)。

琴坂:YouTubeのコメントに「1on1という名の詰め会」「大体泣くやつ」とかって書いてあるんですけど、(面談で)何が発生してるか気になりますね(笑)。

赤坂:振り返ると、結構大変でしたね(笑)。

堀:エクイティするまでの間、外部からの資本は一切入ってないじゃないですか。会社経営の仕方は、西川さんと話しながら自分たちで発明していったのか、それとも誰かメンターのような方がいたのですか?

赤坂:僕らは(メンターが)ほぼゼロだったんですよ。なので、自分たちが勤めてた企業や、それよりも前に西川さんが勤めていた企業で、各自が経験してきたよくなかったことを参考にしていました。「こうするとモチベーション維持しやすいよね」など、そこからの企画で1on1も生まれました。

あと、創業当時からずっと全社会を月に1回やっていたんですよ。役員同士が持っている情報をそのまま現場に共有して、学生のインターン生にも「移転して家賃がいくらになり、初期費用にいくらかかっていて、前日までと売上も粗利も変わってないのにコストは重くなってるよね」というような話をしていました。

堀:支援先から「人件費とか家賃とか、PLとかを(従業員全員に)開示するべきか?」っていう相談を受けますが、大体「経営幹部だけ知ってればいい」という結論になります。今のお話だと、赤坂さんは学生のインターンにも話していたんですよね?

赤坂:そうですね。伝えたことをロボット的にこなしていただくようなイメージでインターン生を採用していた場合は、きっと必要なかったと思うんです。でも、面接では優秀かつ自発的に考えて行動できるメンバーを採用していたし、そういったタイプのインターン生は情報を持っていたほうが行動しやすいのかなと思い、共有していました。

堀:話が最初のほうに戻っちゃうんですけど、受託をやっていたのは何年何ヶ月くらいですか?

赤坂:受託は2~3年弱やってます。

堀:2年~3年弱で優秀な学生を口説くのってそんなに簡単じゃないとあらためて思うんです。「モテるぜ!」「他よりもバイト代高いぜ!」とか、そういう学生の心をくすぐるような何かがあったんですか?

赤坂:前提として「エンジニア職、デザイン職、ITソフトウェアをつくっていく会社がとてもクールだ」ということには共感してもらえていました。するとみんな、「今、自分にスキルはない。だけど、(各職の分野で)将来活躍できるような自分になりたい」って思うんですよ。なので、「その間を埋めることができるぞ」というプレゼンテーションをしていましたね。

堀:「成長できるよ」と。

赤坂:はい。「うちで(ひと通り)やって辞めればいい」という話もあったのですが、(学生の)モチベーションが切れないうちに、早く受託から脱却して、世界で勝てるサービスをつくって「楽しい」と思ってもらいたいという、経営者側の焦りはありましたよね。

琴坂:メンターがいないというのは珍しいケースだと思うのですが、探そうともされなかったんですか?

赤坂:途中で努力はしていました。西川さんがサイバーエージェントにいたことがあるので、取締役の曽山哲人さんにお話を聞きに行ったりもしていました。だけど、もともと僕も西川さんもあまり社交的ではなかったり、ネット業界に人脈がなかったので、純粋に頼る人がいなかっただけですね。(人脈が)あれば絶対に頼りたかったです。

琴坂:(事業開発)2周目ですけど、アプローチは変わりました?

赤坂:大幅に変わりましたね。相談相手がいることって、とても価値が大きいなと思います。

琴坂:そこをちょっと深堀りしたいですね。

赤坂:人員的なところもそうですけど、なによりも、今の僕らにとって絶対的に必要なのは、グロースしていくときのスピードという点で、資金調達だと思うんです。創業が初めてでまだ信用のない僕より、「過去にこういうことをやっていて、今回こういうことをやりたい」という話ができる(今の僕の)方が、大幅に説得力が増しますよね。現状、まだ調達はしてないませんが、今後調達する場面で確実に活きてくると思います。

あとは、起業家コミュニティの中で相談できることにもすごく価値を感じています。僕の場合、エンジェル投資を2016年からやっていて、投資先が70~80社あり、(投資先の)彼らとのコミュニケーションのなかで学べることが多いですね。

堀:投資としてのリターンを出したいっていう気持ちはもちろんあるんだけど、どちらかというと学びのほうが圧倒的に多いってみなさんおっしゃいますよね。

赤坂:そうですね。やっぱり起業家は一次情報が命じゃないですか。(投資先に)現場で戦っている人たちが70〜80人いて、彼らが経験してだめだったこと、うまくいってることを聞けるというのは、年齢に関係なく学びがあります。

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内

受託の経験があってこその「Pairs」

(質問)「Pairs」をつくられるとき、他にも事業アイデアはありましたか? もしあれば、その中でなぜ「Pairs」に注力しようと思ったのですか?

堀:これに加えて、「Pairs」に決めた経緯のなかで、それを西川さんと決めたのか、自分ひとりで決めたのか、それともインターンも含めた全社会で決めたのか、どうやって決めたのかを教えてください。

赤坂:まず、当時「脱受託」というテーマの下、「自社事業でサービスが欲しい」というのは会社全体で話してました。

そもそも「労働集約型から脱却したい」とずっと言っていたんです。働いた時間でお金がもらえる商売は非常につらくて、時間の切り売りになってしまう。だから、収益逓増型、かけた時間が将来のアセットになっている方が良いというのは、言い続けてました。

それが可能になるサービスが欲しいとなったとき、中心となって考えていたのはやはり僕と西川さんでした。何個かアイデアを出し合ったときに、当時リワード系のブーストメディアが伸びていたので、僕は「企画でもう少し面白く改良したブースト系のメディアとかどう?」と言っていました。一方で西川さんは、社会的な意義がありつつも収益が立ちやすく、積み上げにもなるようなものとして「オンラインデーティングサービスがいいんじゃないか」という話をしていて。そのなかで、「どっちもやろうよ」と言っていた僕と、「『Pairs』だけで良いのでは?」と言っていた西川さんがいて、スモールスタートアップなので(ひとつに)フォーカスしようという話になり、「Pairs」をやるという意思決定をしましたね。

堀:なるほど。

琴坂:決め手は何でしたか?

赤坂:決め手というか…あまり自信がなかったんです。だから、海外事例や国内事例と(「Pairs」を)比較して、初速の数値が出てきているというのは、微かな自信が確信に変わっていく瞬間だったし、(「Pairs」というサービスが)僕らが持っていたアセットとかなり噛み合ったんです。

当時、大手のクライアントさんからの受託でFacebookの診断アプリを開発していたのですが、FacebookログインをAPIに使ったマッチングサービスは、かなり近しいポジションにありました。また、スマートフォンアプリの受託開発も行っていて、アプリ開発のノウハウを2年間ほど溜めていた僕らにとっては、デスクトップ版のマッチングサービスが出ているなかで、それをスマートフォンUXにしたり、ネイティブアプリにしていくのは、かなり簡単だったんです。なので、(「Pairs」をやれば)2年間の受託活動が活きる感覚はありました。

堀:「受託は悪だ」みたいなことを言われるなかで、赤坂さんの話を聞いて勇気もらっている起業家の人たちはいますよね。

赤坂:アーカイブでけんすう(古川健介氏)の動画を見たんですけど、「波が出てきたときに沖にいられる重要性」という話をされていたじゃないですか。本の中でもみんな同じようなことを言っていると思ってて、それに近いと考えています。受託をやっていたから、アプリをつくれる状況があったし、マーケティングもやりやすかったですね。

堀:受託でそれなりに利益が出てきて「もうこれでいい満足だ」と思うような瞬間は1秒たりともなかったんですか?

赤坂:なかったですね。やっぱり時間を売って商売をしているつらさを僕は感じていたので。今日働かないと明日稼げないことがいやだったんですよ。

数字が一番の癒し

堀:「あの人みたいになりたい」「ああいう会社になりたい」っていうのは当時と今で変化があったりするんですか?

赤坂:当時はマーク・ザッカーバーグとスティーブ・ジョブズを崇拝していましたね(笑)。(夜中の)12時半ぐらいにオフィスから徒歩2~3分のところにある自宅に帰って、2日に1回くらい映画『ソーシャル・ネットワーク』を再生して、(ユーザーが)100万人に到達するシーンを延々とリピートして見てました(笑)。

琴坂:ちょっと病的な感じ(笑)。

赤坂:これと同じことをやっている起業家の方々すごく多いと思うんです。雰囲気の柔らかい映画やラブコメを見ると、自分の戦闘力が落ちる感じがするというか(笑)。『ソーシャル・ネットワーク』はとてもいいシーンだけを切り抜いていて、あれを見ると何か報われた感覚になります。あとビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの『バトル・オブ・シリコンバレー』も好きで、『ソーシャル・ネットワーク』と交互に見ていました。

堀:つらい時期はそれを見て自分を鼓舞するみたいな感じですか?

赤坂:つらい時期というより、(その作品が)好きだから見ていましたね。

(質問)つらい時期はありましたか?

赤坂:振り返ると全部つらかったのですが、一番つらかったのは「Pairs」をリリースしてからの半年~1年ぐらいです。競合が先に走っていたので、本当に1時間の遅れも取りたくないし、時間を有意義に使わなきゃいけないと考えると、労働時間×労働人数や、意思決定のスピードでしか戦えないと思っていました。そうすると、ほとんど寝ないで働かなきゃいけないし、メンバーもそういうモチベーションでいなきゃいけないし、タバコを吸ってる時間さえも無駄に感じていました。

琴坂:映画を観ること以外に、自分の支えになったものはありますか?

赤坂:サービスの管理画面を見ることですね。KPIが伸びていたり、新規ユーザーが獲得できていたり、有料課金転換されていたり、そういったことが一番の癒しでした。AppStoreのランキングやグロスを見ながら、自分たちの位置と、競合だったり他社サービスとの距離感を見ていて、それが近づいたときはかなり嬉しかったですね。

琴坂:まさに「数字が一番の癒し」になるんですかね。

赤坂:そうですね。へこんだことでいうと、僕自身の経験不足から広告代理業関連の事故を起こしたことがあったんです。それでクライアントさんにご迷惑をおかけしてしまって、想定外のところで予算を使わなければいけなかったり、時間を止めてしまうことになったりしました。もし今同じ事件が起きても(痛みを)1しか感じませんが、当時100ぐらいに感じていましたね。

堀:Pairsのサービス領域は、事件が起きやすい領域だと思うのですが、専門家をちゃんと社内に抱えたほうが楽だったみたいなことはありますか?

赤坂:僕らは当時できていなかったですけど、専門家は必要ですね。何をやるにしてもその領域で経験のある方にしっかりと入っていただいて、ダウンサイドリスクをなくすのは重要です。

琴坂:そういう意味で、2周目になってから、いろんな側面でアプローチが変わっていったということですよね。

赤坂:「これは事故が起こりそうな気配がする」とか、何となくわかってきますよね。しかも頼る先があるじゃないですか。弁護士の知り合いも前より増えているし、聞ける人がいるのはかなり宝ですね。

(質問)なぜアパレルだったんですか?

赤坂:結構シンプルで、僕は大学生の時から服が好きなんです。それが出発点としてあったことに加えて、ネット上でサービスをつくって多くの人に使っていただくことに興味を持っていました。

一方で、心のどこかで「リアルなものづくりをしたことがない自分」にコンプレックスを感じていたり、そこにチャレンジしてみたいという気持ちはありました。

堀:半分冗談で半分本気の質問なんですけど、「Pairs」を始めるときって恋愛・婚活マッチングサービスがすごい好きだったんですか? それともやってみて、世の中に価値を提供してるし、やっていくうちにサービスとして好きになっていったのか。そもそもマッチングサービスを使いまくっていたのか(笑)。

赤坂:正直、最初僕は「Pairs」をやることに反対したんです。いわゆる“出会い系”だと思われてしまうとよくないと思って、最初はエウレカでやっていなかったんです。そのための別の会社をつくって事業開発を始めたぐらい、やっぱりそこは気にしていました。ただ「Pairs」をやってみようと本格的に検討してリサーチに入るときに、僕自身がユーザーとして競合のサービスを使ってみて、結構感動したんです。

琴坂:感動した?

赤坂:実際に1人の女性とマッチングして直接お会いするところまでいったんです。ネットでメッセージを交換して、待ち合わせをして会うっていう経験をした時に、「インターネットすごい」「こんなことができるのか」と改めて思いました。その経験から「このサービスは単なる出会い系で終わらない可能性を秘めている」と感じましたね。

琴坂:なるほど。

赤坂:それから「Pairs」への価値観がガラッと変わって、僕がサービスを肯定できるようになったので、迷わず進めました。

琴坂:一定の信頼が必要になる受託事業が中心だったタイミングで、出会い系だと思われてしまうサービスをつくるという意思決定には、少しブレーキがかかっていたんですか?

赤坂:かかってましたね。「もっといいサービスはあるんじゃないの?」とか言っていました。

琴坂:だけど、「インターネットすごいぞ」と思えた経験で、それがすべて消えたのですね。

赤坂:そうですね。「ザ・インターネット」でしたよ。「回線を通じてつながった方とリアルで会うなんて、ものすごいことが起きている」と思いましたね。

堀:2回目の起業はどうですか? 1回目の学びでうまくいったものを継続してやっていると思いますし、逆にうまくいかなかったところで、工夫してやっていることとか、意識してやってることはありますか?

赤坂:フッキー(福島良典氏)がTwitterで、それぞれの起業家のタイプを書いてくれていて、僕は「リサーチとか、死なないキャッシュフローづくりをする」みたいな感じだったと思うんです。そこは今も変わっていなくて、加えて、オールドエコノミーに対するネットの最適化とか、ROIをシビアに見ていくみたいなことをやっていきたいです。

あと、けんすうっぽさというか、「自然体でユーザーが欲しがるもの」を考えるようになりました。2回目だからというのもあるのですが、けんすうが(YouTubeLIVEで)言っていたように「死ぬまでやれるものをやりたい」と思っていて、そうなると、短期的な利益の優先度は1番ではなくなって、長期的な目線に変わりましたね。

「事業」ではなく「人」について来てもらう

堀:チームビルディングに変化はありましたか?

赤坂:チームビルティングも変わりましたね。今アパレルは10名ぐらいで、アパレル以外でやろうとしていることは5名ぐらいのチームなので、まだそんなに規模が大きくないんです。スピードという点で、最初に強い人をメンバーに入れたいなと思うようになりました。あと、どういう組織にするかという点で言えば、1回目のエウレカ時代はマイクロマネジメントをやっていたんです。だけど、今回僕がやりたいことは事業領域が多岐にわたっていて、全スタッフをマイクロマネジメントするのは不可能に近いので、最初からミドルに任せていかなきゃいけないなと思っています。

堀:学生バイトは継続しているんですか?

赤坂:おそらく必要なポイントで起用していくと思うのですが、前提として、強い大人に(サポートとして)入っていただくことが必要だなと思っています。そして、カルチャー設定の重要度が、1回目の時より増していますね。カルチャー設定しておけば、明らかに採用も楽になりますし、意思決定もブレがなくなるので、そこをまとめるように意識は向いてますね。

堀:1回目のときは、カルチャー的なものってDay1からあったんですか?

赤坂:なかったですね。何でカルチャーつくらなきゃいけないのかをまったくわかってなかったのですが、むしろ当時はそれで良かったと思っています。日銭を稼がないといけない環境で、ビジョンとかミッションとか言ってる余裕がなかったんですよね。

あと、受託をやっていて、将来のビジネスが確定していないなかで、明言できるカルチャーなんてなかったんですよ。途中からは、「稼ぐことはかっこいい」というフレーズを使っていましたね(笑)。今ほどカルチャーの重要度というのはわかっていなかったのです。今はかなり大事だと思っていますね。

琴坂:50年先にどんなところまで到達したいですか?

赤坂:50年先というのが、どれぐらいのスパンなのかわからないのですが、「世界で知られる企業」になりたいと思います。自分が描ける未来は数年ほど先までなので、そのなかでユニコーンになることは第一目標として置いています。そこから先はきっと、そこの土俵に行かないと見えない世界だと思うので、まずは短期目標の達成を目指しています。

琴坂:先が見える場所まで全力で進んでいるという状況ですか?

赤坂:そうですね。エンジェル投資先の起業家の方々とたまに話すのですが、「5年後や10年後が見えないのは当然で、3年後になればきっと5年後は見えているので、3年後を目標にすればいい」というのが落としどころになっています。

琴坂:なるほど。ローリングですね。見えている範囲でしっかり決めていく。

赤坂:一歩階段を上ると景色がだいぶ変わるので、そこで見える選択肢って新たに出てくるものも多くて、そのほうが良質な意思決定ができるかなと思います。

(質問)創業メンバーの口説き方を教えてください。

赤坂:正直、一緒に働いたことがない人にいきなり口説かれて、身を預けようと思えるかというとかなり怪しいので、(判断基準のなかで)事業アイデアへの依存度が高くなると思うんです。そうすると、スタートアップなんてすぐにピボットするので、事業アイデアが変わった瞬間にいなくなってしまうリスクがありますよね。だから「事業」ではなく「人」についてきてくれるパートナーを見つけたほうが良いと僕は思います。一緒に経営を始める前に、できる限り一緒に働いて、プロジェクトを経験してみるのが良いと思ってます。

琴坂:ありがとうございます。あっという間ですね。そろそろ締めていきたいと思います。

この『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』は本当に学びが多い本ですので、皆さん是非読んでください。この本をもとに、新しい世界を作っていけるといいんじゃないかなと思っています。

次回はheyの佐藤さんです。赤坂さん、佐藤さんに質問などありますか?

赤坂:自転車の中古車販売の話(書籍内でも登場する、「ECサイトでロードバイクを販売し商売の感覚を掴んだ話」)などをもっと聞きたいですね。

琴坂:わかりました。赤坂さん、本当に今日はありがとうございました!

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』書籍のご案内