桃太郎のパーパスは鬼退治じゃない。5分でわかるパーパス超解説
ビジネスの現場ですっかり浸透した「パーパス」ですが、その意味や役割を本当に理解して使っていますか?
ここでは、じつは知ったかぶりしている人や、今さら質問できない人のため簡単に解説。さらにパーパス策定に困っている人のため、新たな策定法をお伝えします。
パーパスは簡単に言うと「志」
「目的」を意味するパーパスは、多くの場合「存在意義、存在理由」と紹介されます。企業やブランドが何のために存在するのか、です。
「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える」(東洋経済新報社)の著者、経営学者の名和高司氏をはじめ多くの識者は、パーパスを「志」と定義します。
「志」とは、心に決めた目的や目標という意味です。
すべての企業やブランドは何らかの志をもってスタートしたはずであり、パーパスの策定とは、その大義名分を思い返す、本来シンプルな作業なのです。
にもかかわらず、まるで自分探しのように深みにハマり迷いやすいもの。
その理由の一つがミッションとビジョンの存在です。
ミッションやビジョンと何が違う?
パーパスを、ミッションやビジョン、バリューと混同している人は少なくありません。「何でも英語にすればいいわけじゃない!」という多くの指摘はさておき、それぞれの意味を解説しましょう。
たいてい、図解(三角形の図や同心円の図が多い)されますが、ピンとこない人も多いでしょう。それぞれの違いを「パーパス・ブランディング」(宣伝会議)の著者、齊藤三希子氏は次のように説明します。
また、一般的に以下のようにも分類されています。
ちなみに、日頃からさまざまな企業のパーパスやMVVの策定に携わる筆者は、次のような感覚で捉えています。
ここまでパーパスの概要と、MVVとの違いを説明しましたが、ここからは具体例です。最も引き合いに出されるのが、SONYのパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」ですが、今回はもっとわかりやすく、日本で最も有名なストーリーをもとに解説します。
桃太郎のパーパスは鬼退治じゃない
日本人におなじみの桃太郎。そのパーパスといえば、真っ先に「鬼退治」が思い浮かぶでしょう。ところが、先述の「なぜ存在するか」に当てはめると、違和感に気づくはずです。
桃太郎はなぜ存在するか?そもそも彼は、鬼退治のために桃から生まれたわけではなく、そのために送り込まれた「傭兵」でもありません。鬼退治は、彼が使命感から名乗り出たことに過ぎません。
仮に、彼が鬼退治のために存在するキャラクターだとしたら、物語が終わった後、彼の存在価値はなくなってしまうのでしょうか?その後も彼の人生は続きます。
つまり、鬼退治という行為は先々の大きな目的を果たすための手段であり、パーパスというよりむしろミッション=使命のほうが近いといえます。
そして、いかに鬼退治を実践したかという意味で、「正義」「勇気」「団結力」などがバリュー=行動指針に該当します。
では、なぜ桃太郎はわざわざ危険を冒してまで鬼ヶ島に向かい、結果的に何を成し遂げようとしたのでしょうか?
「めでたし、めでたし」が意味すること
カギは、物語の結末の「めでたし、めでたし」にあります。
桃太郎にとって、あるいは読者にとっての「めでたし」とは、鬼の恐怖から解放され平和に暮らすこと。そう考えると、桃太郎が目指したゴール=ビジョンとは、鬼ヶ島でなく、村で過ごす平和な未来だとわかります。
パーパスとビション似ている問題
残るパーパスですが、ここで疑問が生じます。
先ほど「平和な未来」をビジョンに設定しました。しかし、それをパーパス の「なぜ存在するか」に当てはめ、「平和な未来のために桃太郎は存在する」と捉えれば、「平和な未来」はパーパスとしても成立してしまいます。
「なぜ存在するか(パーパス )」の答えは「ゴール(ビジョン)へ向かうため」であり、パーパスとビジョンには、否応なく重なり合う部分が存在するのです。
両者を区別し、明確なパーパスを策定するには、2つの方法が考えられます。
まずは「範囲の限定」です。「なぜ存在するか」ばかり考えていても、哲学的な思考に陥り、抽象的な答えしか浮かばないでしょう。
そこで、「なぜ、今、社会に、存在するか」と考えます。「今、社会に」がポイントです。
パーパスとは存在理由ですが、社会での存在理由の意味合いが強い言葉です。SDGsが世間に知られるようになり、多くの企業が社会や環境への貢献について明文化しています。「今、社会に」と範囲を絞り込むだけで、周囲との関係性に想像が広がり、先々のゴールを示すビジョンとは別の答えが出るでしょう。
ビジョンは「I」、パーパスは「We」
もう1つの方法が「視点の転換」です。ビションとパーパスの違いについて、次のような解釈も知られています。
先ほど、範囲を社会に限定したのと同様に、今度は主体(企業やブランド)の視点を切り換えます。
ビジョンが「企業が顧客にとってどうありたいか」を表明するのに対し、パーパスは「顧客に限らず多くのステークホルダーと一緒にどんな社会を共創していきたいか」。
要するに桃太郎のパーパスとは
話を桃太郎に戻しましょう。上記を踏まえ「桃太郎たちは、なぜ今、社会に存在するのか」と考えると、鬼退治という一過性のミッションのためでないことがわかります。平和な未来という先々のビジョンのためでもないことも明白です。
物語の結末をもう一度確認すると、こう記されています。「おじいさんとおばあさんと、いつまでも幸せに暮らしましたとさ」。
桃太郎が鬼ヶ島から戻った場所は、自分が生まれ育った村。おじいさんとおばあさんの待つ家です。鬼退治した後も、なぜ社会に存在するのか。それは、みんなと幸せに暮らすためだと結論づけることができます。
パーパス策定に困ったら
パーパスの策定とは、創業時から今に続く大義名分を思い返す、本来シンプルな作業。けれど、それが案外難しいもの。
そんな場合におすすめの方法が、パーパスの存在を忘れること。
そして、企業やブランドの業務そのものをいったん停止することです。
実際は停止などできないので「仮に停止したら」と想像してみてください。おそらくすぐ再開するに違いありません。そのとき、自分の胸に聞いてほしいのです。
なぜ再び行動を起こすのかと。
ある人は、待っているお客様のため。ある人は、生活費を稼ぐため。その理由はさまざまでしょう。パーパスは志。理屈ではなく衝動的な感情であり、行動を起こす理由こそがパーパスといえます。
桃太郎も一度行動をやめたとしても、きっと再び動き出すでしょう。みんなと幸せに暮らすために。
仕事で想像するのが難しい人は、普段の習慣で試してみてはどうでしょうか。
歯みがきをいったん止めてみる。筋トレをいったん止めてみる。再開する理由が、その習慣のパーパスです。そして、なんとなく惰性で続けるより目的意識を持って取り組むほうが、同じ行動でも成長を実感できたり、充実感が大きくなったりすることにも気づくはずです。
This is New Perspective
パーパスが見つからない場合は、いったん行動をやめてみる。
再び行動しようとするモチベーションがパーパスになる。
Reference:「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える」(名和高司/東洋経済新報社)、「パーパス・ブランディング」(齊藤三希子/宣伝会議)、日経クロストレンド 超図解・新しいマーケティング~5分でわかる「博報堂の流儀」