生成AIでダブルダイアモンドは終焉に? 新モデルStingrayからAI時代のプロセスを再考する
NEWhのBusiness Designer、飯野です。
僕が所属しているNEWhでは、Business Designerが持ち回りで毎週Business Designに関する記事を更新しています。
いままでのマガジンは下記から読めますので、ぜひご覧になってください。僕もイチメンバーとしても勉強になることが多いです。
さて、僕は生成AIによって新規事業開発プロセスがどう変化するのか? どう組織が変わるのか? にすごく興味を持っています。
グローバルのデザインファームであり、最近は生成AIを活用した自律的な組織支援に注力している会社に『Board of Innovation』があります。彼らが生成AI時代のプロセスについて新しいモデルを提唱しているので、今回の記事はそれについて考察します。
デザイン思考・イノベーションのプロセスモデル「ダブルダイアモンド」
デザイン思考を学んだことがある人であれば、ダブルダイアモンドというプロセスモデルを聞いたことがあるはずです。
簡単にご紹介すると、「ダブルダイアモンド」は主にデザイン思考やイノベーションプロセスに関連するモデルで、イギリスの機関であるDesign Councilによって2005年に提唱されています。新規事業などでも活用されます。
図を見てもらえればわかるように、アイデアの開発と実現という2つの大きなフェーズで発散と収束を繰り返すことが特徴的です。またこれらの2つが別のプロセスではなく一連のプロセスとして定義されていることも重要な点。縦軸はアイデアの幅、横軸は時間軸だと理解ください。
2つのダイアモンドはよく、前半が「正しい問いを見つける」パート、後半が「正しい解決策を見つける」パートという説明をされます。
図で示されている、4つのステップについても簡単に説明しておきます。
発見(Discover):問題やニーズの理解のために情報を収集し、現状を分析する。
定義(Define):収集した情報を整理し、問題やニーズを明確に定義する。
開発(Develop):問題解決のためのアイデアを生成し、試行錯誤を通じてプロトタイプを作成する。
実現(Deliver):最終的なソリューションを提供し、実行可能な形に仕上げる。
ダブルダイアモンドはもう時代遅れ?
2005年に提唱されてから、ほぼ20年の間使われてきているダブルダイアモンドですが、「生成AI時代には合わないのでは?」という声も一部で上がっています。
前述のBoard of Innovationは、下記3つの理由でダブルダイアモンドは時代に則さないと述べています。
今は多くの問題を即座に検討できるようになってきているので前提が違う
リソース(主に時間)を使いすぎる。顧客ニーズを満たせても、技術的や財政的な実行可能性・実現可能性の観点が抜けがち
多くの情報を集める必要があり、人間のバイアスがかかりやすい
生成AI時代のダブルダイアモンド、Stingrayモデル
ということで、生成AI時代にダブルダイアモンドに変わる新しいモデルが必要だよってことで彼らが提唱しているのがStingrayモデルです。
特徴としてダブルダイアモンドとは別の3つのステージに分かれていることと、AI-ledパートとHuman-ledパートという区分けがされており、AIとの協業が前提となっていることがあげられます。
このStingrayモデルは、ダブルダイアモンドと比べて下記のような違い(利点)があると彼らは主張しています。
より慎重な目標設定
より困難な課題に取り組む
問題と解決策のより迅速な導出
リソースをより効果的に配分するための不必要なステップの排除
共感よりも実験を重点化
人間のバイアスを克服
ちなみにStingrayっていうのはアカエイのことで、アカエイはこいつです。
話はそれますが、そんなにこのモデルの形、Stingrayっぽいですかね? 個人的にはあまりアカエイの形感もないけどな……。なんか他にいい名前なかったのかな。ダブルダイアモンドと比べると名前負けしてる感じありますし、最初のTrainの四角形はどこにいったんだとか気になることはたくさんある。もごもご
さて、話を元に戻して。
Stingrayモデルの3つのステージについてです。
Train: プロジェクトの目標を設定し、消費者データ、市場トレンド、技術的実現可能性などの情報を収集。そのデータでAIモデルを訓練する。仮説を作る。
Develop: AIと人間の知見を組み合わせて、多数のアイデアを生成する。問題とソリューションを同時に検討し、効率的にアイデアを広げる。
Iterate: 初期のアイデアを生成AIテストで評価し、フィードバックを元に改良。信頼度が高まるにつれて、人間によるテストを増やし、最終的なプロトタイプを作成。
2)と3)のソリューションのアイディアを広げる部分と、収束させる最初の部分ではAIを活用しながら、より具体的なソリューションやプロトタイプに近づくにつれて人間の関与を増やしていく、ということのようです。
目を引くのは、一番最初のTrainのステージですね。ダブルダイアモンドモデルと比較すると、このTrainのステージは一番最初のダイアモンド(Discover, Define)に該当しているようにも見えます。
つまりは、学習ステージといいながら、学習データを元に「ユーザーのどの課題を解決するのか?」を定めるステージです。彼らはこのフェーズの最後では優先順位づけがされた課題群と、それらに対応した形でプロジェクトの目標を満たすソリューション群がセットで出てくる、と述べています。
このフェーズでさまざまな関連情報をAIに学習させることで、それ以降のアイディエーションや評価などにAIの恩恵が受けやすくなっており、効率的にスピード感を持ってプロジェクトを進められる、という観点もあるんでしょうね。
また、2)のDevelopのステージでも、ダブルダイアモンドのように前のステージで問いを決めてから解を決めるのではなく、問いと解を同時に検討すると記載されているのも違いです。
なんだか、AI時代っぽいですね!(?)
気になった方のためにStingrayモデルが説明されている、YoutubeとBlogをリンクしておきます。
Stingrayモデルの問題点:スタート時に解くべき問いは明確ではない
ここでは、僕なりのこのStingrayモデルについての考えを述べます。
ただ、僕自身このBoard of Innovationの方々とも話したことはないですし、Webinarを聞いたり、Blogの内容を読んだにすぎないので、そもそものStingrayモデルの解釈が異なる可能性もあります。その前提で読んでもらえれば。
まず、前述の通り、ダブルダイアモンドでは前半は「正しい問いを見つける」ことが焦点です。(多くの場合)ユーザーインタビューや観察を通して、「何を問いにするべきか」を最初のダイアモンドの部分で頭をひねって考えていく感じになります。
一方、Stingrayモデルは「プロジェクトの目標を決め、どのデータを入れるか」からスタートしています。ここは大きな違い。
ただ、正しい問いがまだ見えていない状況において、どのデータを学習データとして渡すべきか判断ができるのでしょうか。個人的にはここは、なかなか難しそうな感覚を持っています。
となると、すでにある程度見えている隣接市場や、競合のデータを入れていくことになるでしょう。もちろん技術実現性などのデータをいれていくことで、自社アセットのなかでどこが活用しうるのか、どのあたりが市場規模としては大きいのかなど、情報の整理としては意味があるはずです。
ただし、そうやって集めたデータから、データドリブンに解くべき問いをみつけて、社内に共有してもこんな反応になると思うんです。
ある程度の市場規模を求められる新規事業を立ち上げるときには、ロジカルにデータドリブンにやろうとすればするほど、新しい発見は見つかりにくくなります。というのも大きいデータは気づきやすく、近辺領域で働いている人であれば、周知の事実であることも多いからです。
そういって立てた問いは「市場が大きく、多くの人にとっての課題」になってしまうので、競合も多くいます。その競合にどう勝つか?という観点では、どちらかというと事業やサービスそのものよりも、マーケティングやPRの戦いになることも多いのが事実です。
もちろん最初のTrainステージには、後から戻ってくることもできるので、繰り返し行うことで質をあげることもできますが、最初に立てた問いによってメンバーにバイアスがかかってしまうことも多く考えられます。実際、どうなんだろう。
ダブルダイアモンドを速く多く広げて繰り返しやる
Stingrayモデルはなんだかしっくりこない部分もあるので、最後にじゃあ生成AI時代にダブルダイアモンドはどうなるんだ、という個人的な意見を述べておきます。
ダブルダイアモンドは、デザイン思考のプロセスを視覚的にわかりやすく使えるときに用いられることも多く、どうしても人間中心設計の文脈で語られることも多いモデルです。
ですが、僕は形だけに着目して「たくさん問いをだして、そのなかから筋のよさそうなものを選ぼうね」「たくさん解決策を出して、そのなかでよさそうなものを作って試そうね」ぐらいの理解をしています。(界隈の人に怒られるかもしれない)
そういう意味では、この「発散と収束」という形は生成AI時代に、かなり相性がいい考え方なのでは、と実は思っていたりします。
ということで、私が考えるAI時代のダブルダイアモンドはこんな感じです。
AIの強み。いろいろあると思うのですが、『速く』『多く』『広げて』できること、ではないでしょうか。
その強みをシンプルに最大限活かして、複数の軸でとにかく発散と収束を繰り返しながら、短期間でとにかく「正しい問い」と「正しい解」の質を上げていく。これが生成AI時代のダブルダイアモンドなのでは、と思っているのですがどうでしょう。
Stingrayモデルでも、最後のステージはIterateになってましたよね。AIで量をやって精度をあげていって、そのあと人の関与を増やしていく、というAIと人間の役割分担については、僕と感覚は近しいなと感じました。また、問いと解を別々で考えるのではなく、高速に一緒に考える、というのも納得感があります。
ぜひこのあたり誰かとお話ししたいです。
NEWhでは、ダブルダイアモンドの前半の「正しい問い」を見つけるための発散と収束については、AIをいろいろな用途で活用できるようになってきました。
生成AIでペルソナを作り、そのペルソナを活用してアイディエーションを普段と違う角度から出していく、ということもやっています。また、AIペルソナにAIでインタビューをし、インサイトをAIでまとめる……といった手法(生成AIユーザーリサーチと言える…?)も活用し始めていて、効果も感じています。
国内外でそういったプロダクトもちょっとずつでてきていますし、活用の未来が明るい分野だと確信しています。
後半のダイアモンドの、解を見つけるパートもどんどん効率化されています。例えばプロトタイプに関しては、多くのノーコードツールがすでに活用できますし、ここにもArtifactsやCreate xyzなど、生成AIが簡単に実務に活用できる未来もかなり近いところまで来ています。生成AI自体をアウトプットにしたい場合はdifyももちろん使えますね。
このあたりは個人的にももっともっと貪欲に学んでいきたいところ。
よりいろんなことが速くできるようになると、同時に多くのことができるようになるので、扱う情報量はどんどん多くなります。
そこで「どう情報を収束させるか?」「どう決定するのか?」というところが腕の見せどころになるのですが、それはまたどこかで……。
2回、Business Design Magazineを書いてみて、両方とも抽象的で長い話になってしまったので、次はもっともっと実務に近い&活かせる話でも書きたいなと思ってオリマス……。
一応興味を持っていただけた方のために、前回の記事もリンクしておきます。
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8/8、生成AI関連のセミナーをやります!
実際生成AIを自社のビジネスにどう使うんだ・・・?みたいなところを解説&プチワークショップもやるので、気になる方はいらしてください。
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