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BTS "Serendipity" 愛が花開く時 ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.069

ただ 君を愛させて
宇宙が初めて生まれた時から
全て決まったことだった
ただ 君を愛させて

Serendipity(Full Length Edition)


全部 偶然じゃないよ
なんとなく 僕の感覚次第で

世界中が昨日とは違う
なんとなく 君の喜び次第で

君が僕を呼んだ時
僕は君の花として待っていたみたい
僕らは凍える程に咲き誇る
もしかしたら 宇宙の摂理
何となくそうだったんだよ
知ってるでしょ?
僕も知ってるよ
君は僕で 僕は君

心がはやるからとても怖い
運命が 僕たちを
しきりに嫉妬して
君と同じくらい僕もすごく怖いよ
君が 僕を見る時
君が僕に触れる時
宇宙が僕らの為に動いた
少しの誤解さえなかった
君と僕の幸せは
予定していたことなんだ
君は僕を愛しているし、
僕は君を愛しているから


君は僕の青いカビ 僕を助けてくれた
僕の天使 僕の世界
僕は君の三毛猫 君に会いに来た

愛してよ 僕を
触れてよ 僕に

ただ 君を愛させて
ただ 君を愛させて
宇宙が初めて生まれた時から
全て決まったことだった
ただ 君を愛させて


君は僕の青いカビ 僕を助けてくれた
僕の天使 僕の世界
僕は君の三毛猫 君に会いに来た

愛してよ 僕を
触れてよ 僕に

ただ 君を愛させて
ただ 君を愛させて
宇宙が初めて生まれた時から
全て決まったことだった
ただ 君を愛させて


もう そばに来てよ
'僕たち'になって欲しい
帰らせないで欲しい
なんとなく 任せればいいんだよ
言葉はなくても感じるじゃないか
星たちは浮かんでいて、
僕らは飛んでいるよ
絶対 夢じゃない
震えないで 僕の手を握って
今 '僕たち'になるんだよ
君を愛させて


ただ 君を愛させて
ただ 君を愛させて
宇宙が初めて生まれた時から
全て決まったことだった
ただ 君を愛させて

君を 愛させて
君を 愛させて



韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/31203500

『Serendipity(Full Length Edition)』
作曲・作詞: SLOW RABBIT , Ray Michael Djan Jr , Ashton Foster , RM , "Hitman" Bang


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今回は2017年9月に発表されたBTSの5枚目のミニアルバム「LOVE YOURSELF 承 'Her'」 および2018年8月にリリースされたリパッケージアルバム「LOVE YOURSELF結 'Answer'」に収録されているJiminのソロ曲 "Serendipity" を意訳・考察してみます。

「承 'Her'」ではアルバムイントロとしてショートバージョンが収められているこの楽曲ですが、「結 'Answer'」では4分強のフルレングスバージョンが収録されています。
今回掲載した和訳歌詞は、このフルレングスバージョンでお届けしています。



1.愛が花開く時

"Serendipity" の歌詞は自分が書いた、とビハインドエピソードを語っているRM。Jiminのために自ら入れたというガイド音源を2017年10月のV LIVEで披露しています。(05:07~が "Serendipity" の話題)↓

かねてより「ジミニと作業がしてみたかった」「ジミニに何かしてあげたかった」のだと語り、今回の作業がとても嬉しいものだったことを振り返ると共に、「Serendipity」という単語が以前から好きだったとも話しています。

ジミンは「ボーカルとして一段階更に成長する」ためにこの歌詞を歌うにはどうしたら良いのかをナムさんに相談しながら歌入れをしたようです。
それまでのジミンの歌唱スタイルは高音域でシャウトしたりするなど、どちらかと言えば激しいものだったとナムさんも動画内で分析していますが、ナムさん直々の献身的なアドバイスもあり、この "Serendipity" では抑揚を抑えた中にも表情のあるジミンの伸びやかな〈声〉の新しい魅力が存分に引き出されていることがわかります。

また、「結」にフルレングスバージョンが収録された際にはナムさんが再びビハインドエピソードを残してくれています。
(20:43~が "Serendipity" の話題)↓

ここでナムさんは、この楽曲は「愛が絶頂の瞬間を迎えてぱっと花が咲いた時」の話をしているのだと解説しており、ジミンが彼独自のパフォーマンスでもって曲の良さを最大限活かしてくれたと賛辞を贈っています。

「承 'Her'」は「初恋にときめく少年たちの姿」を描き、「愛」をテーマに制作されています(出典)。
そんな作品群のイントロとして彼らが語る「愛」の姿かたち、温度、色、方向性を見事に印象付けたのがこの "Serendipity" であり、〈唄い手〉ジミンが楽曲を理解しアウトプットする力を飛躍的に成長させた記念碑的な一曲でもあるのではないかと思います。


2.偶然の産物セレンディピティ

タイトルになっている「Serendipity」という言葉を私が最初に知ったきっかけは多分、2002年日本公開のアメリカ映画です。今回あらためてその言葉の意味と、偶然とひと言で終わらせることができない結果をもたらす〈偶然〉の存在について、深く知ることとなりました。


■青いカビ

넌 내 푸른 곰팡이(君は僕の青カビ)
날 구원해 준(僕を救ってくれた) ※1

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/31203500

※1 준…주다(~してくれる)の過去連体形。前の行の「곰팡이(カビ)」にかかる。

歌詞の中に何故か唐突に現れる「カビ」という強烈な字面…しかも人を「救う」と聞いて私がとっさに思い出したのは『JIN-仁-』だったのですが、正にその青カビから作られた特効薬・ペニシリンの誕生にまつわる逸話がこの歌詞の由来となっています。
公式動画の英語訳で青カビの部分が「Penicillium(blue mold)」となっている理由です。

現代医療に欠かせない特効薬がひとりの研究者の偶然の気づきによって見出されたというエピソードを知ると、ペニシリンが「偶然の産物セレンディピティ」の代名詞とされるに値するものであることがわかります。


■オスの三毛猫

난 네 삼색 고양이(僕は君の三毛猫)
널 만나러 온(君に会いに来た) ※2

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/31203500

※2 온…오다(来る)の過去連体形。前の行の「고양이(猫)」にかかる。

この部分を「偶然の産物セレンディピティ」と結びつけるには、歌詞の主人公が生物学的なオスであることが前提となります。
「オスの三毛猫」が生まれるのは「染色体異常が起きた場合のみ」であり、その出生の確率はおよそ3万分の1(出典)とされているからです。↓

確率的に難しいチャンスをものにして「君に会うために」運命的に生まれてきた、と言っているのが、歌詞の中の「僕(三毛猫くん)」なのです。

〈偶然〉とは往々にして、今ある世界の形を一変させるほどの爆発的な力を持つことがあります。その全てが吉と出る訳ではないことを知りながらも、予期せぬ幸せな〈偶然〉が目の前で起こることを誰もが心のどこかで待ち望んでいます。〈偶然〉だと思っていたことが実はそうではなかったとわかった時、少なからずがっかりしてしまうのはそのためです。

しかし実際、自分の元に呼び寄せられた〈偶然〉は、自身が積み上げてきた選択の結果のひとつであると言えるのかもしれません。

奇跡的な偶然の出会いでさえも「少しのズレもなかった」「予定されていた」「全て決まっていた」ことだと繰り返す "Serendipity" の歌詞は、自分がこれまで「ただそこに愛が落ちてくるのを待っていただけ」ではなかったのだという密かな自負も含め、その爆発的な力を畏れずに受け入れるに足りる器であることを自身に言い聞かせているようにも聞こえます。

「出会うべき時に出会うべくして出会う」と巷でもっぱらの噂がある防弾少年団ですが、その後のARMYの人生には「Serendipity」という言葉がぴったりですね。


3.「僕たち」になる

ここでは、フルレングスバージョンとして完全体になる際に加筆された部分を見ていきます。

이젠 곁에 와줘(今は傍に来て欲しい)
우리가 되어줘(僕たちになって欲しい)
I don't wanna let go no(僕を行かせないで欲しい)

(中略)

떨지 말고 내 손을 잡아(震えないで 僕の手を握って)
이제 우리가 되는 거야(今 僕たちになるんだよ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/31203500

この「〈僕たち〉になる」というフレーズは、"Save ME" のナムさんパートを締めくくる部分でも鮮烈な印象を残していました。

Thank you '우리'가 돼 줘서
(ありがとう「僕たち」になってくれて)
ー"Save ME" RMパート

https://music.bugs.co.kr/track/4714593
※引用元記事にはCDブックレットの内容と相違(우리が「'」で囲まれていない)があります。

70億の人が暮らすこの星で僕と君がそれぞれ「ひとり」と「ひとり」として生まれ、「偶然の出会いセレンディピティ」を果たし、互いを見留め、「〈僕たち〉になる」ということに深い意味があると考えるナムさんだからこその言い回しなのではないかと感じます。

そして「〈僕たち〉になる」という結果には必ず「愛」という理由が伴うということなのだと思います。

歌詞中の「너는 나 나는 너(君は僕で 僕は君)」の言葉には、互いに同じだけの「愛」を抱き、互いを尊重し合い、自分のことのように相手を愛し、相手のことのように自分を愛するという「〈僕たち〉になる方法」のきっかけが込められているのではないでしょうか。

出会いを生み出す限りなく必然的で運命的な偶然。
"Serendipity" で掲げられたこのテーマは、トラックリスト上で次の曲となる "DNA" へと引き継がれていきます。



最後までお付き合い下さりありがとうございました。
지민아 생일 축하해!
🐱