見出し画像

BTS "2학년(So 4 more)" 理想と現実の狭間で ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.126

黙れよ もう俺は2年生
これは 新たな時代の始発点

2학년(So 4 more)



あっという間に2年生になる
また引き金を引く 時の流れは速いから
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
あっという間に2年生になる
夢ばかり追ってた俺が
今は舞台に火を起こす
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て

俺は特別変わったことがないよ
歌謡界 2年生
まだ 181センチの赤ん坊さ
心の背丈ばかり大きかったから
それなりに学年1位を貰ったよ
新人賞も
廊下を歩き回ってみるとされる
新しい後輩たちの挨拶も
今では少し解る気がする
リハーサルも抜かりなく
ひとつ下に後輩もできて
もう俺もイケてるようだ
あゝ畜生……でも
目の前に5、6年目の先輩たち
(こんにちは!)
その時になってやっと感じるよ
まだ 遠いばかりの現在地点を
多くの先生は去年までは寛大で
せいぜい1年生は新人だとして
大丈夫だと俺を座らせておいて
世間の目がどれだけ冷たいのか
幾つかの教科で教えてくれたね
先入観 悪質コメント
二重基準 悪態 そして無関心
先生ここも受験がありますか?
1位なら成功した歌手ですか?
そんなこともいいけど音楽がしたいです
とりあえず 俺のやりたい通りにやるよ
ちょっと 俺を放っておいて

24時間 上手くやってのけろ
燃やせ燃やせ 燃やすよ毎瞬間
あれこれ 悩みは後回しにして
1年が経っても俺たちは今日を生きる

あっという間に2年生になる
また引き金を引く 時の流れは速いから
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
あっという間に2年生になる
夢ばかり追ってた俺が
今は舞台に火を起こす
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て

あゝ
もう俺が2年生になるだなんて
瞬く間に時間は速く進む、進む
勉強も熱心に遊びも手を抜かず
まさにそんな1年が奇跡のよう
でもどうだ?無性に心配になる
肩身が狭いわけじゃないけど
贅沢なことを学んでいるけど
休み時だと望むところ
先生が銃が如く小言を繰り出す
「受験は上手くやらないと!」
受験が何だって言うんだよ
先生、俺たちも人の子です
そうだな 今日は全てを投げ出して
後輩をからかいにでも行ってみるか?
今日 俺はネットカフェで眠れない!

24時間 上手くやってのけろ
燃やせ燃やせ 燃やすよ毎瞬間
あれこれ 悩みは後回しにして
1年が経っても俺たちは今日を生きる

あっという間に2年生になる
また引き金を引く 時の流れは速いから
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
あっという間に2年生になる
夢ばかり追ってた俺が
今は舞台に火を起こす
(いまだに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(いまだに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て

2年目ラッパーを採点すれば
辛くも善戦した
未だ 若輩者でい続けて、
走ってきてやっとのことで2年生になった
理想と現実の狭間のガリバー
顔色なんかはうかがわず
込み上げる憤りのままに
無謀にも出て行くんだよ
色眼鏡掛けた年寄りども
俺の前に列を成すその姿
思い返せば全く以て超苛つく
黙れよ もう俺は2年生
これは 新たな時代の始発点
しっかり隠れろ
俺の思惑が全て見えちまうよ
先輩だろうが 後輩だろうが
先生だろうが立ち退きやがれ

あっという間に2年生になる
また引き金を引く 時の流れは速いから
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(懲りずに毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
あっという間に2年生になる
夢ばかり追ってた俺が
今は舞台に火を起こす
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て
(変わらず毎日)撃て 撃て、撃て 撃て



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

『2학년(So 4 More)』
作曲・作詞:Pdogg, Supreme Boi, Rap Monster, SUGA, j-hope:


*******


今回は2014年8月に発表されたBTS/防弾少年団の正規アルバム第1集「DARK&WILD」に収録されている "2학년(So 4 More)" を意訳・考察していきます。

タイトルの2학년イハンニョンとはすなわち2学年のこと。
デビュー2年目を迎えた彼らが自らの立ち位置を学校組織における「2年生」に例え、先輩・後輩との関係性や音楽業界の人間たちに対する本音を吐露し、2年目に入ったからと言って自分たちの志に変わりはないことを軽快なトラックに乗せて歌いあげています。

リリース当時配信サイトに掲載されたアルバムレビューにて、この楽曲のジャンルは「エレクトロ・トラップ」であると紹介されています。ハードコア・ヒップホップから派生した「トラップ」の一派で、EDMトラップ、トラップ系EDMなどと呼称されているようです。

「눈 깜짝할 새(=눈 깜짝할 사이에)(目を瞬かせる間に=あっという間に)」と時の流れの速さを目の当たりにしながらも、やるべきことをやると誓い闘志を燃やし続けようとする〈2年生〉の彼らはもはや新人ではなく、しかしながら一人前とも言い切れず、ましてやベテランでもない。
ある意味、最もその立ち位置の確保に苦戦するとも言えるプロ2年目を迎え、彼らは歌謡界でどう生き抜こうとしていたのか。
歌詞の言葉から感じ取ってみたいと思います。

1.So 4 more

タイトルの英語訳として直訳「2nd Grade」としているものを目にしますが、公式は「So 4 more」を採用しています。
これはアメリカで高校や大学の2年生のことを「Sophomore」と呼ぶことに由来しており、"2학년" のリリースより2か月先にSoundCloudで発表された別の楽曲 "So 4 More" との関連があるのではと思います。

デビュー1周年を祝う記念すべき初回のFESTA開催に合わせ、ARMYへの感謝の気持ちとたゆまぬ意志を込めたこの楽曲は、Rap Monsterによる以下の言葉と共に届けられています。

Sophomore, 그리고
(2年生、そして)
So 4 more. =So for more
(~だから、より多く(の○○))
이 두 말에 저희의 모든 1년이 담겨 있습니다.
(このふたつの言葉に私たちの1年の全てが込められています。)
언제나 함께 해주셔서 감사합니다.
(いつも一緒にいて下さりありがとうございます。)
We Young Forever
- Rap Monster
――BANGTAN BLOG "So 4 More by 방탄소년단" 2014. 6. 13 より抜粋

https://btsblog.ibighit.com/236

彼らのデビューシングルアルバムのタイトル「2 Cool 4 Skool」でも用いられていますが、英語を似た発音の数字に置き換えて表記する手法がここでも適用されています。
ナムさんのお家芸である言葉遊びにより、Sophomoreはその発音の類似性からSo for moreに置き換えられ、さらにSo 4 moreと表記されるに至ったのでした。

あらためて「so for more」という言葉の意味を考えるために確認すると、前の文を受けて結果を述べる接続詞 so(ので、から)に、目的や対象を表す前置詞 for と「より一層」「もっと」などと訳される副詞 more が並んでいます。

用例:There is something I couldn't write, so for more details, see the user guide.
(書けなかったことがあるので、さらなる詳細はユーザーガイドを参照してください。)

楽曲 "So 4 More" の歌詞からナムさんの意図を推し量るなら、1年目を終えても尚「完全には納得できていない現状」にあるが故に「より良い人生を送り、より良い音楽をARMYに届けたい」とする欲求や願望、目標を掲げる意図がこの「So 4 more」という言葉に込められているのではないかと思います。

彼らにとっての2年目は、より多くの成長や成果を手に入れるためのもの。
この "So 4 More" に込められた意図があってこそ「2학년」が「So 4 more」と同義に成り得たのです。

この "2학년" は後に、2018年のFESTAで行われた「2018 BTS PROM PARTY -RE;VIEW & PRE;VIEW」にて "5학년" バージョンとして歌詞を替えて披露されました。


2.トップ=成功なのか?

ナムさんのラップパートは、巧みな比喩表現で〈学校〉と〈歌謡界〉というふたつの世界をオーバーラップさせていきます。

난 별로 달라진 게 없어 baby 가요계 2학년
(俺は特に変わった事がない 歌謡界2年生)
아직 181 baby 마음의 키만 컸으 나름 학년 1등 Baby ※1
(まだ181(cm)の赤子 心の背ばかり大きかったから それなりに学年1位)
받았어 (もらったよ)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

※1 키만 컸으 → 키만 컸으니까●●
・~(으)니까…~ので、~から(参考

この「学年1位」は聡明なナムさんの学生時代の実際の成績でもあるのだと思われますが、181cmという高身長を具体的に挙げたその心は、向上心や努力とは関係のない「背/精神年齢」ばかりが生まれもって高いためにそれなりの●●●●●成績を上げることができた。つまり、学生時代の功績はたまたま天から授かった能力が功を奏したに過ぎないのだ、とへりくだることで、音楽の道を歩む現在の自分とは切り離しているのではないかと思います。

その流れから新人賞の獲得について触れていますが、しかしながらこれ以降は謙遜ではなく、獲って当然という余裕のようなものも垣間見えます。
何故ならば、新人賞は彼らの向上心と努力の賜物であることが確かだからです。(防弾少年団は2013年末から2014年始にかけて発表された新人賞を総なめにし、5冠に輝いています。)

賞も獲り後輩もできて2年目の風格が備わって来たと実感する反面、先輩たちの存在により理想とはまだまだほど遠い己の現在地を実感させられる。

そして話題は上下関係だけでなく、内と外の摩擦に及びます。

대중 선생님들은 작년까진 부담 안 줘
(多くの先生たちは昨年までは負担を与えずに)
겨우 1학년 신인이라며 괜찮다며
(せいぜい1年生は新人だと言って、大丈夫だと言って)
나를 앉혀놓고 세상이 얼마나 차가운지
(俺を座らせておいて世間がどれだけ冷たいのか)
몇 가지 과목으로 알려줬지
(幾つかの種類の科目で教えてくれたね)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

たいていの先達は、新人には必要以上に負担を掛けず、せいぜいたかがデビュー1年目なんだから大人しく座っていて平気だと言った上で世間の冷たさを説く。
先入観、悪質コメント、二重基準、悪態、そして無関心……世間から向けられる他人の視線が容赦なく突き付けてくる、その温度を。

そうしてひとつの疑問にたどり着きます。

선생님 여기도 수능이 있나요 ※2
(先生 ここにも受験がありますか)
1등하면 성공한 가수인가요 ※3
(1位なら成功した歌手ですか)
그런 것도 좋지만 음악이 하고 싶어요
(そんなことも良いけど音楽がしたいです)
일단 내 하고픈 대로 할게 날 좀 냅둬여
(とりあえず俺のやりたいままにやるよ ちょっと俺を放って置いて)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

※2
・수능=大学修学能力試験(대학력시험)
・~나요?…~しますか?(参考
※3 ~(ㄴ/은) 가요?…~ですか?(参考

より多くの他人の心を掴み「1位」という誰の目からも明らかな数字的成功を収める為には、持論を譲歩して世間の冷たさのその理由にも耳を傾ける必要があるのだと、彼らは肌で感じたのではないでしょうか。
炎上しないように本音を隠したり、大衆受けする音楽のために言葉を選んだり。
まるで大学大人の要望に適い「合格」を得るために、欲求を捨て、自我を捨て、時間を捧げなければならない〈受験〉をしているみたいだと。

歌謡界にも「受験」はあるのか。
1位を獲れば「合格(成功)」なのか。
そんなやり方も悪くはないけれど、とりあえず今は、順位など二の次にしてでも思った通りの音楽をやりたいから放って置いて欲しい。

2年目の葛藤は続きます。


3.受験がなんだ

ホビのラップでは、より一層「1位獲得」を迫られるアーティストと「大学合格」を迫られる受験生との類似性が浮き彫りになっていきます。
何事にも力の限りを尽くし奇跡のような日々を過ごしたと1年目を振り返る彼は、この上ない充実感の中に一抹の不安を覚えます。

근데 어떡해? 괜시리 걱정돼
(だけどどうして? 無性に心配になる)
눈칫밥은 덜 먹겠지만 배울 과목은 진수성찬인데 ※3
(肩身が狭い訳じゃないけど 学ぶ科目はすごく贅沢だけど)

쉴 때다 싶음 선생님이 말하지 잔소린 빵빵빵 ※4
(休む時だと望むところ 先生が言ったね 小言を パンパンパン)
"수능은 잘 봐야지!" ※5
(「受験は上手くやらないと!」)
무슨 수능은 수능
(何たる受験は受験)
선생님 우리도 사람이에요 수긍해 수긍
(先生 俺たちも人ですよ 頷いて頷き)
오늘은 다 때려치고 후배들 놀리러나 가 볼까? ※6
(今日は全部投げ出して、後輩をからかいに行こうか?)
오늘 나 PC방으로 잠 못 자! ※7
(今日 俺はネットカフェで寝られない!)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行・感嘆符はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

※3
・눈칫밥(을) 먹다…肩身が狭い(「周りの目を気にしながら飯を食べる」ことから)(参考
・진수성찬…すばらしいごちそう(参考
★「食べる」というキーワードによって紐づけられた秀逸な表現。
※4
・싶다…~と思う、~したい【補助形容詞】(参考
・~음…名詞以外の品詞から名詞を作る接尾語(参考
※5 시험을 잘 보다…試験が上手くいく(参考
★보다には「見る」以外に「(試験を)受ける」の意がある(参考
※6 때려 치다…投げ出す(参考
※7 잠을 못 자다…寝られない、眠れない(参考
★この歌詞では「ネカフェに行くから今夜は寝ない」という意思を持った行動なので、
×「(眠りたいのに)眠れない」
○「(寝ることはできるけど)寝られない」

肩身が狭い思いをしている訳でもないし、学ぶ機会を得たことは身に余る贅沢だとは思うけれど、ここらで一旦休む時ではあると思う。
「合格」を掴み取るためには受験を上手くやらなければならない。そのための勉強も欠かせない。

でも、自分も人間だから休みたくもなる。
いっそ全てを投げ出して、ピカピカの後輩たちをからかいに行ってみようか?
ネカフェで徹夜してゲームでもしよう!

受験、受験、受験。しっかりやり遂げて合格を掴まないと。
……と、一様に同じことを繰り返す先生の言葉を聞いているうちに自信は薄れ、不安になる。自分の実力は足りているのだろうかと。
そんな不安を紛らせるために、何もかも投げ出して遊びたくなる気持ちまでが正直に綴られているのがこのホビのパートです。

一体受験が何だと言うのか?
「自分も人間ですよ」と先生に物申し解放感を求める様子は、文体の滑稽さがかえって哀愁を引き寄せるものとなっています。


4.理想と現実の狭間で

ユンギパートには、前述の楽曲 "So 4 More" の歌詞と共通する、ある固有名詞が登場します。

まずは "2학년" から。

아직은 애송이 계속해서
(未だ 若輩者でい続けて、)
달려와서 고작 2학년이 됐어
(走って来てやっとのことで2年生になった)
이상과 현실 사이의 걸리버
(理想と現実の間のガリバー)
눈치 따윈 보지 않어 꼴리는 대로
(顔色なんかは見ないで、こみ上げる憤りのままに)
막 나갈 겨 ※8
(まさに出ていくんだよ)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

※8 ~ㄹ 겨=~ㄹ 거야…~するつもりだ(参考)~ㄹ 거예요のパンマル

そして "So 4 More"より。

머릿속에 수북한 성공이란 단어 두 글자
(頭の中に積み重なった成功という単語 二文字)
내가 해야할 일과 또 내가 하고 싶은 일
(俺がしなければならないことと また 俺がしたいこと)
그 사이 선 걸리버
(その間に立ったガリバー)
――BANGTAN BLOG "So 4 More by 방탄소년단" 2014. 6. 13 より抜粋

※引用文に付けた和訳は直訳
https://btsblog.ibighit.com/236

「걸리버(ガリバー)」
これはジョナサン・スウィフト著『ガリヴァー旅行記』のガリヴァーのことです。
子どもの頃読んだ絵本からなんとなく「小人の国ではりつけになる人の話」として頭の片隅で知っていた話でしたが、今回あらためてどんなお話なのかを調べてみたところ、実は〈風刺小説〉であったことを知りました。
磔になったガリヴァーの姿が衝撃すぎてその印象しかなかったこの数十年。目から鱗です。

ガリヴァーは訪れた国々でそれこそ磔に遭ったり、嘲笑われたりします。
現実世界では小人や巨人の国に行く機会はありませんが、国と国、地域と地域、人と人の間にある偏見や軋轢は大なり小なりどこにでも存在します。
見た目や文化・風習の異なる国で、自分はどういう扱いを受けるのか。
ガリヴァーの目を通して書かれたのは、決して優しい世界ではありませんでした。

今回、ユンギが "2학년" と "So 4 More" で自分をガリヴァーに例えた理由を思うに、

「理想(やりたいこと)→アングラ音楽」

「現実(やらなければならないこと)→大衆音楽」

これらの間でどちらの世界からも否定されてしまう状況を物語に重ねたのではないでしょうか。
ガリヴァーが各国で受けた仕打ちを知ってこそ、この固有名詞の採用理由と歌詞の意図に迫ることができるのではと思います。

ユンギはデビュー時のインタビューにて「大衆音楽とアンダーグラウンドヒップホップの橋渡し役をしたい」と意気込みを語っています。
(詳しくは "No More Dream" の記事を参照)
ところがふたを開けて見ると、そのどちらの世界からも拒絶されてしまうという結果が待ち受けていました。

そうして1年目にして抱えることになった壮絶なうっぷんを吐き出しているのが次の歌詞です。

색안경 낀 꼰대들
(色眼鏡を掛けた年寄りども)
내 앞으로 줄 맞춰
(俺の前で列を成す)

돌이켜보면 완전 피 말려 ※9
(思い返してみれば 完全にめちゃくちゃ苛つく)
닥쳐 이제 난 2학년 이건 새 시대
(黙れ もう俺は2年生 これは新たな時代)
시발점
(始発点)

꼭꼭 숨어라 내 잔머리가 다 보일라 ※10
(しっかり隠れろ 俺の浅知恵が全て見えちゃうよ)
선배든 후배든 선생이든
(先輩であれ 後輩であれ 先生であれ)
Get the out
(ここを出ていけ)

※引用文に付けた和訳は直訳(改行はCDブックレットに準拠)
https://music.bugs.co.kr/track/3637696

※9
・돌이키다…顧みる(参考
・피(를) 말리다…ひどくイライラさせる(参考
※10 「꼭꼭 숨어라 머리카락 보일라(しっかり隠れろ 髪の毛が見えるぞ)」は、韓国で〈かくれんぼ〉の時に歌われる歌(参考
・잔머리…浅知恵参考
・~(ㄹ/을) 라…~しちゃうよ(参考

色眼鏡を掛けて(=偏見をもって)見下してくる年寄りども(=業界の先達)は、これ以上先には進ませない、少しのボロも見逃さんとばかりに列を成して自分たちの前に立ちはだかる。
そんな奴らの姿を目の当たりにして来たこの1年、思い返せば超ムカつく。だけどもう、自分たちも2年目。新人扱いされるのもおしまい。俺たちの新しい時代が始まる。

そしてここで「かくれんぼ」の歌を使っているところに、虎視眈々と静かに燃やす彼の闘志をひしひしと感じます。
批判に対しておおっぴらに反撃する訳ではなく、自分の思惑がばれてしまわないようにしっかり隠れつつ、確実に相手を仕留める策を水面下で練っている様子を表現しているのではないでしょうか。

アンチに対して直接的な応戦はしない、という「やられて嫌なことはしない」という基本の'き'を貫く泥臭さを、自分がしていることは「浅知恵」であると敢えて自虐している点も含めて、彼の人となりが良く表れている歌詞なのではないかと思います。

「アイドルとラッパーの境界で生きる」と自分の立ち位置を表現する彼はその後も狭間の景色から目を逸らすことなく、どちらか一方の世界におもねることもなく、むしろ、その立ち位置でしかできないことに注力し続け、現在に至っています。




今回この楽曲を選んだのは、うちの子たちがちょうどこの春に新2年生に進級したからです。
たった1年前に頑張って進学したばかりだと思ったのに、既に次の進路選択と受験の準備が始まっています。

一体、何のために「今」を過ごしているのか?
「今」を犠牲にして挑まなければならない「受験」とは、掴まなければならない「合格」とは何なのか?
それは本当に「今」の自分がなりたい自分なのか?

学校という整えられた学びの環境に身を置くことができるだけでも贅沢でありがたいのだとあらためて肝に銘じつつも、とにかく少しでも良い学校、良い企業から「合格」だと言われるための勉強を「しなくてはならないと思いこまされている」多くの子どもたちが不憫でなりません。

テストの点数で常に他人と自分を比較し、周りから比較されることに何の疑問も持たない子どもたちが、その後テストの無い社会に出た時どうやって自己肯定・自己評価をしていくのだろうか、と。

新入生特有の緊張感から解放され、いずれ巻き込まれる受験・就活の渦からもまだ距離がある「2年生」という貴重な時間を、他でもない自分の力で輝かせることができるよう、どっしり構えて見守りたいと肝に銘じています。


余談ですが、ここまで書いておいて我に返って気付くことがあります。
それは、この歌詞に出てくる受験の話が日本の話ではないにもかかわらず、その高い類似性が故になんの違和感もなく実感を持って読むことができるということ。
韓国の若者たちが厳しい競争社会の渦中にあるという現状を伝えるバンタンの楽曲は他にもいくつかありますが、この日本で同じような悩みを抱える世代の胸にも少なからず響くものだと思います。

最後に「夢を見て、それを追うことはどういうことなのか」を問うた楽曲をここに挙げておきます。




今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。
この春ご進学・ご進級を迎えた皆さま、おめでとうございます。
親御さんもご本人も、どうか目一杯楽しんでくださいね。
🌸