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Agust D "대취타(Daechwita)" 不屈の王 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.091

俺は王だ 俺はボスだ
皆わかるだろう?俺の名を
口だけ達者な野郎ども
この場で奴の首を切れ

대취타(Daechwita)



大吹打デチィタ 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打

大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
輝く 輝く 俺の王冠が輝く
忘れるな 忘れるな
過ぎし日を忘れるな
俺らはかなり ノッている
チャーター機で飛びまくる

下僕出身で王になった奴
狂ってしまった虎
光る海を流れゆく
ドブ出身で名を立てた身
それが即ち 俺の生き方
悪いが 小言はやめろってば
俺も失うものは多いんだって
過去は米びつに封じ込めて
俺のことを
全部まとめて差し上げましょう

あり得ないね 俺が犬だなんて
虎で生まれたんだ
少なくとも お前のように
弱くはないだろう?
無能な奴らのただのお遊戯
正直ありのままに言うと
くだらなくて呆れるね
スパッと皆殺しにする
俺は 礼儀も無く
野郎ども そうさ
お前も 例外無く

屈することなど
俺はないね 必要がないさ

誰が王だ? 誰がボスだ?
皆わかるだろう?俺の名を
口だけ達者な野郎ども
この場で奴の首を切れ

大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打

大吹打 大吹打

大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打

一発かまして 俺は直ちに
チャーター機で飛ぶ
俺を収めるには
この国はまだ相変わらず小さい
誰が 時はカネだと言ったのか
俺の時間はもっと高くつくのに
止まらないおしゃべり
士人気取りの野郎ども
顔面に唾をペッと吐く

誰にも折られたことがない売上
我らがパン・シヒョクPDは毎日ダンス
全くもってありがたいね
俺が 天才であることに
たかがそんな理由で
クスリをやるなんて
哀れなこと極まりないね
才能が無いんだな まあ

欲しいものは全て手に入れたよ
これから更に何を手にしてこそ
満足ができるのか?
俺が望んでいたこと
必要最低限の服 次は
幾ばくかのカネ 次は
目標 目的 この次は一体何だ
その次はそう 何だろうか
酷く感じられる現実自覚タイム
上がない現状
上だけ見ていた俺は今
ただ 下だけ見ていて
このまま 着地したい

俺は王だ 俺はボスだ
皆わかるだろう?俺の名を
口だけ達者な野郎ども
この場で奴の首を切れ

俺は王だ 俺はボスだ
皆わかるだろう?俺の名を
口だけ達者な野郎ども
この場で奴の首を切れ

大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打

大吹打 大吹打

大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打
大吹打 大吹打 さあ轟かせ 大吹打


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6195268
※上記URL掲載の歌詞は、段落分けが原本と異なっています。
原本は"대취타" MVの概要欄にあるURLからダウンロードできます。
"대취타"
作詞:Agust D , EL CAPITXN
作曲:Agust D , EL CAPITXN


*******


今回は、SUGAがAgust D名義で2020年5月にリリースしたミックステープ 「D-2」収録のタイトル曲 "대취타デチィタ" を意訳・考察していきます。

この楽曲は朝鮮時代より伝わる伝統音楽「大吹打デチィタ」の音源をサンプルとして採用しています。

【大吹打】
国楽のひとつで、管楽器と打楽器で編成された伝統的な行進曲。朝鮮時代には王の外出や軍隊の行進の際に演奏された。現代でも国賓の歓迎や式典などで演奏され、1988年ソウルオリンピックではオリンピック旗が入場する際に演奏されている。(参考

「D-2」発表時のV LIVE配信では、幼い頃音楽の時間に習ったので元々知っていた音楽だったが、王がお目見えする時/軍隊が行進する時に流れる音楽としての「大吹打デチィタ」が、バンタンとARMY(の関係)に適している、と「大吹打」をモチーフに選んだ経緯を語っています。(ただしきっかけは素直に『大吹打ってかっこいいな…』であり、『そろそろ王の気持ちで曲を書いたら格好いいだろうな』という少々不純な動機もあったそう)↓

(1:08:33あたりからが "대취타デチィタ" のターン)

「D-2」収録楽曲のほとんどは2019年9月の時点ですでに形になっていて、当初はその時期にリリースを考えていたもののレコーディングスケジュールに折り合いがつかず、公開を延期にしたことによって結果この "대취타デチィタ" が「D-2」に収録されることになった、という経緯が明かされています。

時に、コロナ禍の入り口であった2020年初頭。
「MOTS:7」のリリース後計画されていたワールドツアーが中止になり精神的にかなり辛かった時、あらためてミックステープのリリースの話が具体的になったことで、難産だった歌詞の制作も無事に終え2020年3月末に楽曲の完成を迎えた、とのこと(出典)。

この配信では他にも、小道具や特殊メイクへのこだわり、カットになってしまったシーン等MVの撮影秘話をたくさん話してくれています。


1.国楽のしらべ

SoundCloud内の "대취타デチィタ" 楽曲ページには、クレジットの最後に韓国国立国楽院の名があり、サンプルとして採用された「大吹打デチィタ」の音源は、この国立国楽院の宮廷楽団による演奏であるとされています。

この国立国楽院の公式YouTubeチャンネルでは「大吹打デチィタ」の演奏風景が公開されていると共に、該当動画の概要欄で "대취타デチィタ" 歌詞には表記されていない曲冒頭の〈掛け声〉がその意味と共に紹介されています。↓

명금일하ミョングミラ 대취타デチィタ 하랍신다!ハラプシンダ!
뜻:징을 한 번 친 뒤 대취타를 명한다
(意味:銅鑼どらを一度打った後、大吹打を命じる)

https://www.youtube.com/watch?v=F9B5D7oV_Ms

前述のV LIVEで本人も少し触れていますが、「韓国民族文化大百科事典」の「大吹打」の項目によると、この掛け声は「大吹打」の開始と終了を知らせる〈執事〉役が発声をしているとのこと。↓

KBS放送のサイトでは「大吹打」解説ページにて、Agust Dの "대취타デチィタ" で執事の発声をしているのは国楽で使われる楽器피리ピリ奏者の権威である정재국チョン・ゼグクであると伝えています。

「D-2」(2020)の "대취타デチィタ" を制作していた時点で「D-DAY」(2023)の "해금ヘグム" もすでにビートとサビの全部、MVのシナリオコンテのある程度が制作済であったことが配信で明かされており、また、2023年に公開されたドキュメンタリー「SUGA: Road to D-DAY」関連のインタビューでは "대취타デチィタ" も "해금ヘグム" と共に国楽のソフトウエア(いわゆる打ち込み)を用いて制作されていることが言及されています。↓

好んで使用している国楽の音色による多彩な表現を盛り込み、満足のいくMVも撮れたと振り返る彼は、"대취타デチィタ" が「僕のソロ曲の中でも1番だと言える」と自負しています


2.朝鮮王と山中王(산중왕サンチュンワン

『そろそろ王の気持ちで曲を書いたら格好いいだろうな』というきっかけがあった "대취타デチィタ" には、歴代朝鮮王のエピソードにまつわる歌詞を見つけることができます。また、古来より朝鮮民族が大切にしてきた「虎」の姿も描かれています。

We so fly we so fly 전세기로 we so fly ※1
(俺たちはかなり格好いい チャーター機で俺たちはすごく飛ぶ)

종놈 출신에 왕된 놈
(奴隷出身で王になった奴)
미쳐버린 광해 flow ※2
(狂ってしまった 光海 流れる)
개천 출신에 용된 몸 ※3
(ドブ出身で立派になった体)
그게 내가 곧 사는 법 ※4
(それが 俺が(の) すなわち 生き方)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6195268

※1 fly…「格好いい」の意のスラング(参考
※2 ボム…漢字語「虎(호랑이ホランイ)」の純朝鮮語
   광해クァンヘ…第15代朝鮮王・光海君の名
   flow…なめらかに流れる(参考
※3 용(이) 되다…出世する、見違えるように変身する(参考1参考2
   용=龍
※4 ~는 법…~し方(参考


■虎

虎は朝鮮民族にとってたいへん馴染みの深い動物ですが、韓国に生息していた虎は1946年の捕獲を最後に絶滅したとされています。(参考

建国神話(檀君神話)にも登場する虎はその後「山の神」や「山中王サンチュンワン」として崇められていたと伝わり、仏教美術などにもその姿を多く確認することができます。また、王族や武官が権威を象徴するモチーフとして身につけていたことも知られています。↓

現在韓国ではあまり使われなくなってしまっている「ボム」という表記の方が純粋な朝鮮語、「호랑이ホランイ」は漢字由来の호(虎)と랑(狼)に接尾辞이が付いたものだと各所で解説されています。↓

・韓国日報『2022年、호랑이ホランイボム』↓

・ウリ文化新聞『ボム호랑이ホランイ同じ獣か、違う動物か?』↓


光海君クァンヘグン

大君(王の嫡子)が生まれていなかった状況で起った壬申倭乱の影響により急遽14人の庶子の中から(素行が悪く人々の信頼を得られていなかった長男を差し置いて)次男の立場でありながら第15代朝鮮王に選ばれたが、在位中にクーデターに遭って廃位になった光海君。
反対勢力を抑えるために身内を殺めるなどして「暴君」であったと伝えられていますが、外交的対応を評価する動きもあり、一概には言えないという識者意見もあるようです。(参考

ちなみに、光海君の臍帯が埋められているという〈胎室〉がAgust Dゆかりの大邱テグ市内に残っており、2022年11月には大邱市の記念物に指定されたとのこと。↓

歌詞にある「奴隷出身で王になった」の部分は、光海君を描いた作品『王になった男』(映画ドラマ)の設定を彷彿とさせます。
「狂ってしまった虎」は『王になった男』の設定においても伝承においても暴君とされた光海君の姿と重なり、不利な立場に在って翻弄され続けながらも外交・内政の両面で王として立ち振る舞った姿を「flow(なめらかに流れる)」と表現したのかもしれません。

また私はこの「flow」の解釈について、が「山中王」であることを踏まえ、縄張りである山を下り、アウェイとも言える「(る)」でも己の力を信しよどみなく立ち振る舞う姿を重ねました。さしずめ〈山〉は音楽家としての彼のルーツの在り処、〈光る海〉はアイドルとして立つ華やかな表舞台、といったところでしょうか。

決して恵まれた環境から始まったわけではなかった音楽人生も、今ではチャーター機で世界中を飛び回る程のスーパースター。
底辺から這い上がり龍が如く舞い踊る。

「それ即ち 俺の生き方」

「狂わないために狂う」は "ON" で歌われた言葉ですが、あらゆる雑音に惑わされずに自分たちの音楽をやり通す、という気概が今回も「狂う」という言葉に込められているのではないかとも思います。


思悼世子サドセジャ

"대취타デチィタ" にはもうひとつ、伝承に基づいた「王」を連想させる具体的な表現が盛り込まれています。
ドラマ『イ・サン』の第1話に登場する、米びつに閉じ込められた荘献世子そうけんせいし(後の思悼世子しとうせいし사도세자サドセジャ)です。

미안 걱정은 말라고 ※5
(すまん 小言はやめろってば)
나도 잃을건 많다고 ※6
(俺も失うものは多いんだってば)
과건 뒤주에 가두고 ※7
(過去は米びつに閉じ込めて)
내걸 챙겨 다 잡수쥬 ※8
(俺のことをまとめて全て差し上げましょう)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6195268

※5
・걱정…小言参考
・말다…止める(参考
・라고…~だってば(参考)話し手の主張を聴き手に強調する
※6 다고…~だってば(参考)話し手の主張を聴き手に強調する
※7 뒤주…米びつ
※8
・챙기다…まとめる(参考
・잡수다…召し上がる(「먹다(食べる)」の敬語) 
 잡수시다(召し上がる)という単語もあるが、本来の形は잡수다(参考
 「供物を上げる」「差し上げる」の意もある(参考
・~쥬=~죠(=~지요)…話し手の意志 ~しましょう(参考
 語尾「-죠」を「-쥬」とする表現は忠清方言にもみられるが、ネット上では皮肉めいた表現としても見られることがある、とのこと(参考

父親である現王・英祖が世子(正式な世継ぎ)である息子を廃位した上に米びつに閉じ込めて死なせる、という衝撃的な〈事件〉は、朝廷内の派閥争いが生んだ軋轢が原因でした。↓

歌詞にある「미안(ごめん)」が何に対する申し訳なさなのかをずっと考えていたのですが、通常「心配」と訳される걱정に「小言」という意味があるとわかって解釈に筋道が立ちました。

思悼世子の一件を絡めていることから推測するに、この部分は血縁関係の軋轢に関する表現なのではないかと私は思います。

2021年にRolling Stone誌で行われたソロインタビューでは、ラップをすることを家族から反対されていたことについて触れています。↓

また、音楽の道を歩みだそうとしていた頃、「音楽なんかしたら一家が滅びる」なんて周りから言われていたというエピソードが "INTRO : 화양연화(花様年華) " リリース時のアルバムレビューで語られています。"INTRO : Never Mind" でも「音楽しようとしてふざけると家が潰れるから」という歌詞があります。「小言」とは正にそのことなのではないでしょうか。

出典があやふやなまま各所で言い伝えられている「書いた歌詞を親に破り捨てられた」件ですが、ナムさんと二人でゲスト出演したKBSのラジオ番組「Super JuniorのKiss The Radio」7月28日放送回で言及されていたことを突き止めることができました(出典 ※放送の公式アーカイブは残っていませんが、動画検索をするとヒットします。公式ではないのでリンクは貼りません)。↓

また上の記事では、2018年にBillboard誌の記事を書いたE. Alex Jung氏が個人のTwitterで明かした取材時の裏話(現在元ツイは削除済み)が取り上げられており、音楽を始めることを家族から猛反対された/自分は突然変異だと思われていた/子供の頃家で音楽を聴いたことがない/親戚は自分が間違いなく失敗するだろうと言った……等、才能の芽がまっすぐ育つにはかなり厳しい状況であったことがうかがえるエピソードが残されています。

――先のわからない職業に就こうとすることが周りの大人にとってどれだけ心配事であるかは重々承知の上だが、楽観的に音楽の道を選んだわけではなく、そこがいばらの道であり失うものも多くあることを自ら覚悟の上なのだ。
だから申し訳ないけれど、小言を言うのはやめてくれ。――

「過去は米びつに閉じ込めて」のくだりは、自分の意志と家族の希望に折り合いがつかなかったことを英祖と思悼世子の関係性に重ねたのかもしれません。期待に応えることができなかったという後ろめたさと、最愛の家族に自分の本質を認めてもらえなかったという絶望。

決して進んで話したくなるようなものではない過去すらも米びつに込めて(=糧にして)、歌手としての人生に全てを捧げてやりましょう、と、ちょっと皮肉めいた雰囲気でこのセクションをしめくくっています。

"INTRO : 화양연화" で描かれた〈周囲から肯定されなかった少年〉の姿が、この "대취타デチィタ" においても思悼世子を介して暗に描かれているのだとすれば、"사람(People) Pt.2" の「충분히 사랑받지 못한 아이(十分に愛されなかった子)」という一行は、同じ状況をかなり直接的な言葉で表現しようとしているのではないか思いました。

抱えていた疑問や憤りを表現するために比喩や皮肉、時には暴力的な言葉までをも使ってきたこれまでの自分自身を、より一層冷静で客観的に、正面から見つめることができるようになった……過去すらも糧にして真摯に音楽と向き合ってきた現在の彼にしか書けない一行なのではないかと思うのです。


3.口だけ達者な奴ら

「王」という立場で最高の権限を行使するAgust Dは、成功する彼らを引きずり堕とそうとしてくる者たちに容赦ない制裁を加えます。

한탕해먹고 곧바로 난 전세기로 날아 ※9
(一発やって 直ちに俺はチャーター機で飛ぶ)
나를 담기엔 이 나란 아직 여전히 작아
(俺を込めるにはこの国はまだ相変わらず小さい)
Woo 누가 시간은 금이래 ※10
(誰が時はカネだと言ったのか)
내 시간은 더 비싼데
(俺の時間はもっと高くつくのに)
Tic tok 선비새끼들 ※11
(止まらないおしゃべり 士人気取りの野郎ども)
면상에다 침을 칵 뱉어
(顔面に唾をペッと吐く)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6195268

※9
・한탕…ひと仕事、一発(参考
・해먹다…作って食べる、働いて暮らす(参考
※10 ~래…~と言ったのか 前に来る命令を強く否定する(参考
※11 Tic tok ≠ 'TikTok'

「Tic tok」に関しては、どう訳したものかとかなり悩みました。
発音をハングル表記にすると틱톡となり、あの「TikTok」と同じにはなりますが、英語の綴りからして全くの別物ですし、いきなり固有名詞を登場させるにしても何らかの理由があるはずだ、と。

そこで、分かち書きされている「tic」と「tok」のそれぞれで意味を探ってみた上で次のような解釈をしてみようと思います。

tic…何度も反復される特徴的な癖(参考
tok…톡(talk) 話す、言うの意(参考

今回、直後にくる「선비ソンビ」が重要な判断材料となりました。
선비ソンビとは、高い教養がある上に人徳(特に儒教理念を理解して実践できる人格・品性)をも備えた人を指すそうですが、선비を用いた知識人に対する蔑称も存在し、今回も「새끼들奴ら」と蔑称を伴っていることからも、

「Tic tok 선비새끼들」=口だけ達者な知識人気取りの奴ら

という人物像を描き出すことができるのではないかと思います。
それを裏付ける要素として、別の箇所で似た表現が登場していることにも注目したいと思います。

입만 산 새끼들 ※12
(口だけ生きた奴ら)
당장 놈의 목을 쳐 ※13
(その場で奴の首を切れ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6195268

※12 입만 산 ○○…口だけ生きた○○→口だけ達者な○○
(산は살다(生きる)の過去連体形)
※13
・당장…その場で、直ちに
・목을 치다…仕事から追い出す(参考

「Tic tok 선비새끼들/입만 산 새끼들」という表現は、兼ねてよりグループの楽曲にも度々登場する「꼰대ッコンデ(説教臭い年寄り、面倒くさい先輩)」と同じ意図で用いられていると言えるのではないでしょうか。

――業界に先に入ったというだけで才能も無いのに先輩面してくる奴の首を切れ(辞めさせろ)――

その残忍な程の潔さに、王たる威厳が垣間見えます。


4.王座を手に入れた、その次は?

才能を自負しつつも確かな努力の末に正当な方法で王の座を手に入れた彼ですが、その玉座から見える景色は決して欲が満たされた幸せなものであるとは言い難いものでした。

원하는 건 모두 가졌지
(望むものは皆手に入れたね)
이제는 뭘 더 가져야만 만족이 될지 ※14
(これから何を更に持ってこそ満足ができるのか)
내가 원했던 것 옷옷 다음은 돈돈 ※15
(俺が望んでいたこと 単衣の衣 次は 幾ばくかのカネ)
다음은 goal goal 이 다음은 도대체 뭐지 ※16
(次は目標、目的 この次は一体何だ)
그 다음은 그래 뭘까 심히 느껴지는 현타 ※17
(その次は そう 何だろうか 酷く感じられる現実自覚タイム)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6195268

※14
・~야만…~てこそ(参考
・~ㄹ지…~のか(参考
※15
옷옷…홑옷(裏地のない服)の古い表記(参考1参考2
・돈돈
…幾ばくかの少量のカネ(参考
※16 ~지…疑問を表す語尾(参考
※17 현타ヒョンタ=|임《ヒョンジャタイム》(賢者タイム)(参考1、参考2参考3
日本で生まれた言葉「賢者タイム」が韓国に伝わり、「현타」と省略されて使用されるうちに「실자각 임(現実自覚タイム)」の省略だと誤伝され市民権を得、日常会話や放送にまで使用されるようになった。

はじめは、手にしたいと望んだものは身近で些細なことだった……「質素な衣」「わずかばかりの金」はそんな慎ましやかな欲求を象徴するものたちなのでしょう。
ところが、努力が報われて成果を納め望んでいたものが全て手に入ってくるうちに、次なる目標を前にしても鬱になる、現実に引き戻されるといった深刻な「현타ヒョンタ」が発動するようになってしまう。

それがどん底から空を目指して高く飛びたいと歌い続けてきた「生き方」の代償だと片づけるには、余りにも非情な副作用ではないかと胸が痛みます。

"대취타デチィタ" の伝統楽器のしらべは、「王」の威厳、狂気、野望だけではなく、それらとは対象的な孤独、乾き、哀愁さえをも引き立てています。
王が王たる所以を理解しているからこそみなぎる〈自負〉と尽きない〈不安〉がせめぎ合う。

表も裏も曝け出し音楽をARMYに捧げる王の姿は、完全無欠というよりもむしろ、その傷を埋めるために音楽をかき鳴らし続けているようにも思えます。



今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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