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BTS "ON" 狂わないための狂気 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.033

この苦痛と引き換えに 我に呼吸を許したまえ
我が身の全て 我が血、そして涙
恐るること勿れ
俺が歌っている 俺が引き受けてやる

ON


人々が言っている事が理解できない
どの意見に合わせるべきなのだろう
ひとつ離れればひとつ大きくなる影

眠りから目覚めた此処は
更にまた何処いずこ
ひょっとしてSeoul
はたまたNew York
もしくはParis
起き上がりフラついている身体

俺の足元を見てみろ
俺そっくりの影法師
揺れているのはコイツなのか
或いは俺のひ弱な爪先なのか
恐れてないはずないじゃないか
万事順調なはずないじゃないか
それでもわかってる
ぎこちなく身を任せ、
あの黒い風と共に 飛べ

Hey na na na
狂わずにいようとすれば
狂わなければならない
Hey na na na
俺の全てを投げ出すよ
この ふたつの世界に
Hey na na na
俺を押さえ込むことはできない
俺は闘士だから そうだろう?
自ら足を踏み入れた美しい監獄
己を見出し、そして
君と共に生きていくんだ

Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを
Eh oh
かかってこいよ
連れてこい 痛みを
雨降り注ぎ、空が落ち続ける毎日
Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを


我に痛みをもたらしたまえ
余す所なく我が血肉となるだろう
我に痛みをもたらしたまえ
恐れることはない
攻略法はわかるだろうから
小さく息を
それは暗闇の中の酸素と光
自分自身への活力
倒れてもまた、起き上がり叫べ
倒れてもまた、起き上がり叫べ
いつでも俺達はそうだったから
例え この膝が地に着こうとも
埋もれやしない限り
大したことないハプニングで済むんだ
何が何でも勝つ
何が何でも勝つ
何が何でも勝つ
君が何と言おうが 誰が何と言おうが
俺は気にしない
俺は気にしない
俺は気にしない

Hey na na na
狂わずにいようとすれば
狂わなければならない
Hey na na na
俺の全てを投げ出すよ
この ふたつの世界に
Hey na na na
俺を押さえ込むことはできない
俺は闘士だから そうだろう?
自ら足を踏み入れた美しい監獄
己を見出し、そして
君と共に生きていくんだ

Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを
Eh oh
かかってこいよ
連れてこい 痛みを
雨降り注ぎ、空が落ち続ける毎日
Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを

この苦痛と引き換えに
我に呼吸を許したまえ
我が身の全て
我が血、そして涙
恐るること勿れ
俺が歌っている
俺が引き受けてやる
君は知っておくべきだ
俺を押さえ込むことはできない
俺は闘士だから そうだろう?
漆黒の深みに喜んで沈むよ
己を見出し、そして
君と共に生きていくんだ

Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを
Eh oh
かかってこいよ
連れてこい 痛みを
雨降り注ぎ、空が落ち続ける毎日
Eh oh
己を見出し、そして
君と共に生きていくんだ
Eh oh
持ってこいよ
連れてこい 痛みを
Eh oh
かかってこいよ
連れてこい 痛みを
わかっているのはただ
進んで、進んで、進むことだけ
Eh oh
かかってこいよ
連れてこい 痛みを


韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/5863189

『ON』
作曲・作詞:Pdogg , RM , August Rigo , Melanie Joy Fontana , Michel Lindgren Schulz , SUGA , j-hope , Antonina Armato , Krysta Youngs , Julia Ross


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今回は、2020年2月にリリースされたフルアルバム第4集「MAP OF THE SOUL : 7」に収録されているタイトル曲 "ON" を意訳してみました。この楽曲は、2021年10月から断続的に開催されている「BTS PERMISSION TO DANCE ON STAGE」のセットリストにて栄えある最初の1曲目を担っている曲です。

当初2020年に予定されていたMAP OF THE SOULツアーは残念ながら中止となっていますが、その年の10月に開催されたオンラインコンサート「MAP OF THE SOUL O:NE」でも1曲目に選ばれており、コンサートを開催できなかった期間のインタビューでは「ARMYの前で披露したい曲」としてメンバーの口から名前が挙がっていた曲でした。

韓国でのオフラインコンサート開催のためにできることを全部してくれたメンバー始め関係者のみなさん、会場入りしたARMYのみなさん、会場に気持ちを飛ばしたARMYのみなさん、全ての方々への感謝の気持ちでいっぱいです。無事に開催出来て本当に良かったですね。

今後もツアーの追加公演が続々と決まっていくといいなぁ…。



1.N.O.から始まるONへの道のり

アルバム「MAP OF THE SOUL :7」のビハインドをナムさんが語る動画がV LIVE(Weverseに移行)に残っています。

この動画によると、デビューからの7年間の集大成である「7」制作会議で、過去作のリブートで曲タイトルをつけるという話が持ち上がった際(例えば"Boy In Luv" → "Boy With Luv")のグクの発言が "ON" という曲が生まれるきっかけとなったようです。

トラック先行の曲作りが一般的な中で、2013年発表のミニアルバム第1集「O!RUL8,2?」収録されている "N.O." を "ON" として引き継ぐ、という形でキーワード先行の曲作りが始まり、"ON" を活かすためのトラック・歌詞の制作が進んでいったとのこと。

メッセージ性の強いこの楽曲はグクのひらめきから生まれたものだった。こういうのを偶然に呼び覚まされた必然とでもいうのでしょうか。たったひとつの短い言葉を作品として昇華させることができる制作陣の手腕に頭が下がります。

"N.O." は大人から抑制される10代の気持ちを代弁した反骨精神溢れる楽曲ですが、"ON" は当時に比べ自らもより大人になった彼らが示す、不条理とのひとつの闘い方であると言えるでしょう。


2.狂わないために狂う

前出の動画にて「この歌詞の中で一番言いたかった言葉」としてナムさんが挙げている部分がこちらです。※引用文中の和訳は直訳

미치지 않으려면 미쳐야 해
(狂わないでいようとするならば、狂わなければならない)

https://m.bugs.co.kr/track/5863189

動画のナムさんの話を聞いて、この短い文の中に登場する二つの「狂う」という単語は、一つ目と二つ目では役割が異なっているのだと私は受け取りました。

一つ目の「狂う」が「道理に反する」の意味で、
二つ目は「一心不乱」の意味。

理不尽な物言いに振り回されない為には、他の追随を許さない確固たる自分自身が必要だ、ということなのだと。

歌詞の一番最初の部分には、話の通じない環境で受けるストレスのことが書いてあるのではないかと思われます。※引用文中の和訳は直訳

I can't understand what people are sayin'
(人々が言っている事が理解できない)
어느 장단에 맞춰야 될지
(どのリズムに合わせなければならないのだろうか)

https://m.bugs.co.kr/track/5863189

自分自身を見失わない為に生きていく上で受ける痛み、その為に払う犠牲、その為の闘い。不条理な状況に決して屈しないと高らかに宣言しているのが "ON" の歌詞なのです。


3.神聖なる闘い

"ON" という楽曲の魅力をお話しする上で決して外せないのは、JUNG KOOKがひとりで歌い上げるブリッジですね。「な~え~」と始まると、いつもそこで金縛りにあったような感覚になります。

前出動画にてナムさんもこのグクのブリッジに触れていますが、「余りにも気に入っていて」と絶賛しています。ナムさんが「スピリチュアルな感じを出したかった」というこの超高音域のブリッジは、歌詞においても「少し深刻すぎないかな?」と懸念する程の神々しさに満ち溢れています。
※引用文中の和訳は直訳

나의 고통이 있는 곳에(俺の苦痛があるところに)
내가 솜 쉬게 하소서(俺が呼吸するようになされよ)

https://m.bugs.co.kr/track/5863189

~(으)소서という表現は「~なさいませ」「~なされませ」といった表現とのこと(参考)。位が上の人や信仰の対象などに対して使われる、時代劇などでよく聞く言い回しですね。

つまりこの部分は、苦痛を受け入れることを前提に自分の生を請うているのです。一方的な祈りというよりは、すでに心に決めた生き方に対する確固たる覚悟の顕れという印象を受けます。

ファンタジー映画のような壮大な場面設定が印象的な "ON" のMVでグクがいばらの枷をつけたままダッシュする場面がありますが、まさに痛みを引き受けながら進むことを止めない強靭な心を表現しているではないかと思います。

誰かと傷つけ合う戦いではなく、ひとり傷つきながらも自らを貫くことを選ぶ闘い。
なので私は「fighter」を「戦士」ではなく「闘士」と訳しました。


4.ふたつの世界

ここまで見てきた通り、この楽曲の歌詞は総じて前向きで好戦的です。ところが、冒頭からサビの手前までを辿ってみると少し様子が違います。

나를 다 던져 이 두 쪽 세상에 (俺を全て投げ出すよ このふたつの世界に)

https://m.bugs.co.kr/track/5863189

この「ふたつの世界」が何なのかを考えた時、私は "EPILOGUE : Young Forever" の歌詞を思い浮かべました。"EPILOGUE : Young Forever" は彼らがパフォーマンスをする間、そしてステージを降りた後に感じる不安や後悔に対する率直な気持ちが綴られた楽曲です。

要するに、人から見られている外側の自分と、様々な感情を巡らせている内側の自分。この両者を「ふたつの世界」として捉えているのではないでしょうか。

歌詞の序盤では、目覚めたその地がどこの国なのかを見失うくらい目まぐるしい日々の中で、肉体が影に支配されているのではないかと錯覚し、恐れも不安も抱えている…というように、内側の自分にフォーカスが当てられています。

それでも「제 발로 들어온(自分の足で入った)」「아름다운 감옥(美しい監獄)=今現在の生き方・生き様、社会的立ち位置=外側の自分」において、彼らは「Find me and I'm gonna live with you(自分を見つけて、君と共に生きていくつもりだ)」と決意し、「黒い風」にも「漆黒の深淵」にも自ら飛び込んでいきます。この「君」に当てはまるのはARMY、あるいは、見つけ出した自分自身であると考えてもよいかもしれません。

「ふたつの世界」に自分の全てを投げ出す、という行為は、狂わない(翻弄されない)ために必要である狂気(信念)そのものであると言えるのではないかと思います。

自分の全てを賭して、あらゆる痛みを受け入れながら暗闇にすら自ら進んでいく。余りに力強く、余りに美しい彼らの闘いを、一瞬たりとも見逃すわけにはいきません。



最後までお付き合い下さりありがとうございました。


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