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Jung Kook "Closer to You" 僕らがもっと近づくために ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.109

君の味方全てと同調しながら
調和する運命に僕たちはない

Closer to You (feat. Major Lazer)


地に足がついていない気分
何かしら噂が広まる 今夜
僕らは思いの丈をぶつけていた
決して 目を逸らさずに

どん底にいる僕を愛してくれ
君が辛うじて持ち堪えているなら
僕は暗闇を照らし出し、
君を愛するよ
心細い君の力になれる

もっと近くに
もっと君の近くに
もっと近くに
もっと君の近くに

僕は今わのきわが如く君を求める
君は無邪気な歩みで僕を求めた
シルクのドレスで近づいてくる
君の 温かい抱擁を感じている
悪魔は常に誘惑してくるけれど
誰がその囁きを終わらせるのか
君の味方全てと同調しながら、
調和する運命に僕たちはない
より一層近づくために
押しては引いて
もっと近くへと

僕らはやり直してみた
嘘はかないと言ったけど、
僕はまた嘘を吐いた
家族は君に諭したね
奴を相手にするなと
それは正しくはない
再び間違えたのは誰なのか
僕らはずっと疲弊している
もう一度再始動させろ
否定と その肯定を
僕らにもたらしながら

もっと近くに
もっと君の近くに
もっと近くに
もっと君の近くに
もっと近くに
もっと君の近くに
もっと近くに
もっと君の近くに



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221236

『Closer to You』
作曲・作詞:Gregory Aldae Hein , Jordan Douglas , Kurtis Wells , BEAM , Maesic , Jamison Baken , Diplo , DJ Tay James


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今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より、2曲目に収録されている "Closer to You" を意訳・考察していきます。

フィーチャリングの Major Lazer は、EDM界で名を馳せるDiploを中核として2008年から活動を始めた現在3人組のユニット。
→【詳しい紹介記事
バンタンとの接点の記録を遡ると、2017年7月28-30日に韓国のスキー場で開催されたロックフェス「2017 Jisan Valley Rock Music & Arts Festival」で初日のヘッドライナーを務めた Major Lazer(同日Diploは単独でも出演) をRMとジョングクが訪ねたと思われる姿が公式SNSにアップされていました。↓

当時はWINGS TOUR日本公演の中休み、アルバム「LOVE YOURSELF 承 'Her'(タイトル曲 "DNA")」発売1か月半前にあたり、グクにおいては満20歳直前の出来事でした。

その後Diplo氏は2020年の第62回グラミー賞授賞式のパフォーマンスにてバンタンと共演しており、印象的な回転式ステージの舞台裏がDiplo氏によって公開されています。

長い年月の間何度か表立った接点がありつつも、満を持して今回のコラボレーションが実現したということになるようです。




1.近くにいることの難しさ

「(収録順に)上から続けて聴くと感情の変化を自然に感じることができると思います」とアルバム収録曲を自ら総評しているジョングク。

そんなアルバム「GOLDEN」1曲目の "3D (feat. Jack Harlow)" は、「地球規模の超遠距離恋愛」の物語を下敷きにして「生身3Dで愛を伝えることの難しさ」に向き合うものとなっています。

圧倒的大多数の人にとってグク、そしてバンタンは「画面の中=2D」の存在。生きて動く生身の人間であることを時に忘れてしまう程の強い輝きを放つ彼らを、実際に人間扱いできない失礼な人間も残念ながらたくさんいるのが現実です。

彼ら自身は「人と人」の関係性をARMYと築くことを求めていると思われ、それを象徴するように「ARMYはバンタンであり、バンタンはARMYである」という言葉をナムさんが残しています
互いが互いをわが身のように感じることができさえすれば、もっと深くわかり合える、もっと互いの言いたいことを誤解なく伝え合えるのでは、という切実な願いが込められているのではないかと思います。

リリース以来MVの表現、歌詞の内容に対する様々な立場から意見が飛び交い続けている楽曲 "3D" ですが、アルバム「GOLDEN」の1曲目という重要なポジションに据えられたこの楽曲が何をいわんとしているのか、そこに目を向けないうちは、アルバム全体のメッセージを受け取ることもできないのではと思います。
楽曲 "3D" についての私の考察はこちらの記事、そして私個人の率直な意見はこちらのポストを読んでいただきたく思います。


2.ジョングクARMY僕ら防弾の物語

国境を越え、海を隔てた遠距離恋愛の歌が表現した圧倒的で抗えない君との間の「距離」の概念は、2曲目の収録曲 "Closer to You" に継承されていきます。

楽曲には「I(僕)」と「You(君)」そして「We(僕たち)」の3つの主語が登場し、「僕と君=僕たち」と捉え、想い合いながらも距離に隔てられたふたりの物語と受け取って読み進めることができます。

ですが私は冒頭の段落を読んだ時点で、この場面はあの・・防弾会食」なんじゃないか…?と気付きました。その角度から歌詞を読み進めていくと、「僕と君=僕たち」ではなく、「僕=グク、君=ARMY、僕たち=バンタン」という代入が成立するかもしれないと思ったのです。

Feeling like I'm floating
(漂っているような感覚)
Something's in the air tonight ※1
(何か(噂)が広まっている 今夜)
We're speaking with emotions ※2
(僕たちは感極まって話していた)
Won't look away ※3
(決して目を逸らさずに)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221236

※1 in the air…(噂などが)広まって(参考
※2 with emotion…感極まって(参考
※3 
・won't…絶対に~しない【強い意志・拒絶】(参考
・look away…視線を逸らす(参考

2022年6月14日、先のことがなかなか具体的にならない上、今後の活動に関する噂や憶測が飛び交う中で公開された「防弾会食」。ここで彼らは文字通り「with emotions」の状態で様々なことを語り、如何なる言い辛いことでもしっかりと目を逸らさず話してくれました。その姿は誠実そのものでした。


Love me at my lowest ※4
(どん底の状態の僕を愛してくれ)
I'll love you when you're barely holding on
(君が辛うじて持ち堪えているなら 僕は君を愛するだろう)
Lighting up the darkness
(暗闇を照らしながら)
I can be a shoulder when you're not strong ※5
(君が弱っている時は僕が肩になれる)

Closer
(もっと近くに)
Closer to you
(もっと君の近くに)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221236

※4 at one's lowest…~の最低の状態 at lowest=最も低い(参考
※5 be a shoulder (to cry on)…困っている時に力になる(参考

しがらみなく精力的に活動ができていたベストコンディションの時期に対して、コロナ禍、そしてメンバーや自身の兵役履行期間を含めた「思うように活動できない時期」を「どん底の状態」と表現しているのではと推測します。
ARMYがそんな自分の姿ですらも見放さずに持ち堪えてくれるならば、自分もARMYを愛していく。ARMYをとりまく暗闇を照らし、弱っている時は自分が力になることができる、と、どんな状況にあってもできる事とやるべき事を本人がしっかりと把握している様子が伝わってきます。


3.理想の距離感

以降の歌詞も同様に、「僕と君=僕たち」と「僕=グク、君=ARMY、僕たち=バンタン」の世界観の両方の視点で読み取ることができると思います。

★(I) Take you like my last breath ※6
(僕は息を死に際のように君を手に入れる)
★(You) Took me that's the first step
(君は僕を手に入れた それは始めの一歩)
Closer with the silk dress
(シルクのドレスでもっと近づいてくる)
(I'm) Feeling your warm embrace
(君の温かい抱擁を感じている)
Devil (is) always tempting
(悪魔はいつも誘惑している)
But who (is) gon' end the sentence ※7
(しかし誰がその宣告を終わらせるのか)
We're not meant to blend in ※8
(僕らは調和する運命ではない)
(Being) Blended with all your friends ※9
(君の味方の全てと調和されながら)
Push and pull to get closer, closer
(もっと近づくために押して、引いて)

※引用文に付けた和訳は直訳(省略されていると思われる語句を( )内に追記)
https://music.bugs.co.kr/track/6221236

※6 one's last breath…亡くなること(参考
※7 gon'=gonna=going to~…~するつもり(参考
※8 
・be meant to be…そうなる運命にある(参考
・blend in with~…~と混ざり合う(参考
※9 (後に続く歌詞「Mama told you~」の部分を鑑みて)
「Blended」は主語が省略された過去形ではなく、分詞構文「Being blended」の一部であると推測。分詞構文が表現できる「主語が同じで且つ並行して行われていること」(参考)に準じるために、主語を持つ1行前の文「We're not~」のWeを主語に取る。
つまり、【We(僕ら)】【be blended with your all friends(君の味方全員と調和され)】ながら【be not meant to blend in(調和する運命にはない)】ということになるのでは、と解釈。

ここでは、相手にもっと近づきたいと思ってはいるけれど、自分は相手の周りにいる近しい人たち全ての理解を得られるわけではないし得ようとも思わない、というひとつの結論のようなものが示されているのではないかと思います。
だからこそもっと近づくためには偽ったり誇張したりせず正直に「押したり引いたり」して、時には傷つけたり、傷つけられたりしながら理解し合う為の試行錯誤が必要なのだと。

この段落で印象に残ったのは★をつけた2行の対比です。
どちらも主語が省略されていますが、それぞれ「take」と「took」の目的語から主語を推測してみました。
【1行目=僕】死を目前にするようなギリギリの思いで君を手に入れる(現在形)
【2行目=君】歩き始めの子どものような無垢な気持ちで僕を手に入れた(過去形)
この2行だけで僕と君の間を揺るぎない何かが隔てていることが容易にわかりますし、何より詩的で美しく、精神的な距離感が放つ残酷さをたった2行で浮き彫りにしているものすごい表現だと思います。

音楽の道で身を立てる為に自分の表現を限界まで磨き上げ、まさに死に物狂いでひとりでも多くの人の心を掴もうと奮闘し続けている彼ら。
その彼らの姿を目にして心を打たれ、ただただ応援したいという無垢な気持ちで彼らの元に集まってきたARMY。

シルクドレスが連想させる肌触りの心地良さ、そして抱擁の温もりは、彼らがARMYに対して感じている幸福感とリンクしているのではないかと思います。言うなれば「天使」のような存在。

そして登場する「悪魔」は、彼らの活動を阻もうとするあらゆる事柄の総称であり、支持してくれる人(天使)がいるなら必ずその逆も常に存在するという自明の理を表現しているのではないでしょうか。

ARMYは自分たちに寄り添ってくれるけれど、ARMYの周りにいる人の全てが同じように寄り添ってくれるとは限らない。
それでも自分の表現をより多くの人に理解してもらうために、時には自分本位になることも、逆に一歩引くことも必要である。

受け入れられるための絶妙な距離感をどう保てば良いのか、試行錯誤してきた痕跡がここに刻まれています。


4.大衆と自己の狭間で

そしてこの後に続く歌詞に私は、彼がこれまでの歌手人生で感じてきた「大衆の前で自由に自己表現することの難しさ」について語られているのではないかと感じました。 "3D" に向けられた批判の声に対する彼の姿勢も、この歌詞を読めば納得がいく気がしてなりません。

We tried again
(僕らは再び試した)
(I) Said I wouldn't lie ※10
(僕なら嘘をつかないと僕は言った)
But I lied again
(でも僕は再び嘘をついた)
Mama told you
(君の母さんは言った)
Don't reply to him ※11
(彼に反応するな、と)
This ain't right
(これは正しくない)
Who's wrong again
(誰がまた間違っているのか)
We (have) been tired ※12
(僕らはずっと疲れている)
Restart again
(もう一度再始動させろ)
Negative and the positive
(否定とその肯定を)
Bringing us
(僕らにもたらしながら)

Closer
(もっと近くに)
Closer to you
(もっと君の近くに)

※引用文に付けた和訳は直訳(省略されていると思われる語句を( )内に追記)
https://music.bugs.co.kr/track/6221236

※10 I would't do…私なら~しない(参考
※11 reply to…応じる(参考
※12 have been+過去分詞…ずっと~している【現在完了進行形】(参考

常に最高の表現を発信する為に彼らは試行錯誤を続けていますが、感性で語れる範囲外のことで一部の方から批判を受ける事も少なくはありません。
世界中から彼らに向けられているARMYの目が、彼らの表現を変化「させて」きたと言っても過言ではないと思います。
表現に対する批判が集まる度に謝罪を要求され、実際に謝罪をした件もあります。

表現に対する謝罪要求はバンタンの作品に限らず世界中の様々な媒体において常に見受けられる動きです。
基本的に個人の内側から出てくる主観を元に作られるのが芸術表現というものです。それが大衆の元に届けられた時、意図していなかった角度から批判を浴びるという図式は、人の数だけ正義が存在することを考えれば当然のものではあります。

前述の謝罪以降、ひとりでも多くの正義に適うため、ひとりでも多くの個を尊重するために彼らは尽力しています。
それは言い換えると、彼らが彼ら自身の正義を時には二の次にし、生まれながらの個性に蓋をし続けてきた、ということになるのではないかと私は考えます。

涙ながらに「アイドルとして活動していると人として成長ができない」と防弾会食で訴えたナムさんの真意は、多忙過ぎて自分の時間が取れないという嘆きではなく、多くの人の目を気にしながら自分の表現を変え続けなければいけない状況が果たして人として、表現者としての成長を生むのか?という疑問と、その状況を長い間続けてきたことに対する疲弊だったのではないかと思うのです。

"ON" に出てくる「どの意見に合わせるべきなのだろう」という問い、「自ら足を踏み入れた美しい監獄」という歌詞ですらも、ひとりでも多くの人に対して誠実であろうとした結果、自らの表現の自由を丸ごと捧げなくてはならなくなってしまった窮状を表現していたのではないかと私は思っています。

僕はもう嘘はつかないと言ったけど、
また嘘をついた。
そんな僕にはもう構うなと家族が君に諭した。
でもそれは正しくない。
間違っているのは誰なのか?
僕らはずっと疲れている。

誰かの正解になろうとすれば、誰かの批判を浴びる。
自分にしかできない自分だけの表現を追求すればする程、どこかの誰かの正解から遠ざかり糾弾される。
間違っているのは誰なのか?正解はどこに存在するのか?
もう、考え続けてずっと疲弊している。

…ちょっと言葉を失くしてしまいますが、少なくとも当人はこの状況を経て今後どう立ち回るべきか、既にその答えを見つけているようです。

もう一度再始動させろ
否定とその肯定

僕らにもたらしながら

「Negative and the positive」の「positive」にtheがついているのは、ただの肯定ではなく「或る特定の否定に対応する肯定」という意味合いを加味しているのではないかと思います。
肯定有るところに否定有り。否定有るところにもまた、肯定有り。
その両極を受け入れることを厭わずに、例え何度、何人に拒絶されようとも、自分の表現で以て動き出す意志を持つ。

それが彼の、ひいては彼らの、これからの表現の指針でもあるのではないかと思うのです。
自分の歌を聴いて寄り添ってくれる「誰か」に、少しでも、更に近づくために。




最後に、"Closer to You" と同じ「距離」をテーマに制作されたナムさんのソロ曲 "Closer" を参考作品として提示しておきます。

「君にもっと近づきたい」という欲求をどうすれば普遍的な物語に昇華できるか、という命題を掲げ葛藤している点において、2曲の間には共通する何かがあるのではと感じています。



久々の更新となりました。
今回も最後までお読み下さりありがとうございました。