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BTS "Outro : Ego" 運命の召還 ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.048

もう 僕は気にしない 全部 僕の運命の選択
だから僕らはここにいる
僕の前を見てよ 道は輝いている
さあ 前進あるのみ!

Outro:Ego


毎日立ち返ってみるのだと
あの時の自分に
諦めることを選んだ人生に
己を解き放ってみるのだと

でも、世の中にはあるよ
変わらない幾つかの真実
時間は前へと流れること
万が一はないということ

遥か彼方へと忘却する頃
思い出される あの時代
悪魔の導きと運命の召還
いまだに気になるよ
なぜ再び呼ばれたのかも
毎日自分に鞭打って
自問自答を繰り返す
変化はなくて 結局また
心配事を無理やり閉じて
鍵をかけるよ

'どれ程の愛情なのか?'
'どれ程の喜びなのか?'
癒しを与えつつ
独り冷静になれ

そう、僕は気にしない
全部 僕の運命の選択
だから僕らはここにいる
僕の前を見てよ
道は輝いている
さあ 前進あるのみ!
(準備して、始めよう!)

その道へ 道へ 道へ
どこであろうが僕の道
ひたすらに'Ego'
ただ 自分を信じよう

ふと かすめていく
j-hopeではなかった
チョン・ホソクの人生
死ぬまで希望ではなく
後悔でいっぱいだっただろうね
僕のダンスは浮き雲を掴むだけ
自分の夢のせいにして
生きていくことに疑問を持って
…そんなのあり得ない!

嗚呼 時は流れ
7年の心配が遂に口を
全て解消される限界状態
最も信じていた彼らの答えは
僕の心臓へと流れ込む

'ひとつだけの希望 ひとつだけの魂'
'ひとつだけの笑顔 ひとりだけの僕'
この世の真実に確かな答え
変化のないどんな僕であっても
正しいのだということ

もう 僕は気にしない
全部 僕の運命の選択
だから僕らはここにいる
僕の前を見てよ
道は輝いている
さあ 前進あるのみ!
(準備して、始めよう!)

その道へ 道へ 道へ
どこであろうが僕の道
ひたすらに'Ego'
ただ 自分を信じよう

信じるままに 気の向くままに
運命になって 中心になったよ
苦しむがまま 悲しむがままに
癒しになって 僕を解ってくれた
魂の地図 全てはそこにある
それが僕の'Ego'
それが僕の'Ego'

信じるままに 気の向くままに
運命になって 中心になったよ
苦しむがまま 悲しむがままに
癒しになって 僕を解ってくれた
魂の地図 全てはそこにある
それが僕の'Ego' 
それが僕の'Ego'


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/5863197

『Outro : Ego』
作曲・作詞:j-hope , Hiss noise , Supreme Boi


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今回は2020年2月にリリースされたBTS正規アルバム第4集「MAP OF THE SOUL : 7」に収録されているj-hopeのソロ曲 "Outro : Ego" を意訳・考察していきます。

この楽曲は心理学者ユングが提唱した(〈無意識〉に対する)〈意識〉の「中心」にある〈自我(Ego)〉をタイトルに掲げ、自分が自分であるという認識について掘り下げられたものになっています。(歌詞にも「中心」という言葉が登場します) 
RMの "Intro : Persona"、SUGAの "Interlude : Shadow" と並んで〈Map of the soul(魂の地図)〉を描くための重要な作品となっています。

V LIVEのビハインドエピソードでは、何度も手直しをして努力を重ねていた楽曲制作中のホビの姿がナムさんの視点で語られています。↓
(01:32:30~)

イントロ部分にはデビューシングルアルバム「2 COOL 4 SKOOL」の1曲目、"Intro : 2 Cool 4 Skool" と同じ音源が使用されており、これは1978年にK-Tel Recordsより発売された「Let's Disco!」というディスコミュージックのレコードに収録されている音声です。(出典:「Blood, Sweat & Tears-BTSのすべて」P114 "Intro : 2 Cool 4 Skool" の項)

過去と現在の融合を試みるようなこの仕掛けは、バンタンのそれまでの7年間の全てを詰め込んだ集大成でもあるとされている「MAP OF THE SOUL : 7」という記念碑的アルバムで、確かな存在感を発揮しています。

またこの楽曲は、2022年6月リリースのアンソロジー・アルバム「PROOF」CD2に、ホビ自らの選曲で "Her" と共にトラックリスト入りをしています。
("Her" も「魂の地図」に基づいて紡がれたと思われる歌詞になっていますので、ぜひ併せてご一読ください↓)



1.悪魔の手と運命の召還ターニングポイント

この歌詞は冒頭「-ㄴ다고(~だと(言う))」の〈伝聞〉の形で始まります。
※引用文につけた和訳は直訳

매일 돌아가 본다고(毎日帰ってみるのだと(言う))
그때의 나로(あの時の僕に)
포기를 선택한 삶으로(放棄を選択した人生に)
날 놓아본다고(僕を放してみるのだと(言う))

https://music.bugs.co.kr/track/5863197

ここで行われているのは意識の中心である〈自我(Ego)〉が無意識とのバランスをとって〈自己(Self)〉を安定させるためのプロセスなのではないかと思います。

抱えている自身への葛藤を解き放つためには、その原因であると思われる「過去」への思い入れを解き放つことが必要だと窺い知ったのではないかと思いますが、「~だと言う」としていることから、まだその解決法について懐疑的であると思われ、どことなく受動的な印象も受けます。

では、その「過去」とは、「あの時」とは一体いつの事なのでしょう。

악마의 손길과 운명의 Recall(悪魔の手と運命の召還)

https://music.bugs.co.kr/track/5863197

忘れたころに思い出す、という「악마의 손길(悪魔の(差し伸べた)手)」と「운명의 Recall(運命の召還)」については、デビュー前に起こったというホビの一時脱退にまつわる出来事をさしているのではないかと思われます。

この件に関しては2018年にYouTubeにて公開された「Burn The Stage」のエピソード3に収められているメンバーの会話の中で触れられています。グクが説得するも一旦は離れていったホビのことを、ナムさんが事務所を説得し皆で呼び戻した、というエピソードです。

「Recall」は工業製品の「リコール」という形でよく耳にする単語ですが、「(一度放ったものを)呼び戻す」という意味(=〇召還 ×召喚)を持ちます。

「いまだに何故呼び戻されたのかも(わからなくて)気になる」と言うこの一件が、どれほど彼の心の枷になっていたかを考えると切なくなります。その理由を何度も考えますが結局答えは出ないままその悩みをしまい込み、代わりに「'How much love? How much joy?'」と、自分の気持ちがどれ程のものなのか、モチベーションを確認し冷静になろうとしています。


2.脈打つ心臓

彼はまた「만약은 없다(万が一は無い)」としつつも「運命の召還ターニングポイント」が無かったら、というシミュレーションをしています。

もし、あの時。
事務所に戻ることなく「j-hope」ではない「チョン・ホソク」の人生を歩んでいたら…

  • 死ぬまで希望を持てない

  • ダンスを続けていたとしても魂は込められない

  • 自分の夢のせいで自分をダメにしたと後悔する

  • 生きていることに疑問をもつ

ここまで想像してみて、「…そんなのあり得ない!」と我に返ります。

そしてついに、胸の内に秘めていたものを「가장 믿던 그들(最も信じていた彼ら)=メンバー」の前で言葉にする機会を得たようです。

7년의 걱정이 드디어 입 밖으로(7年の心配がついに口の外に)
모두 해소되는 핍박(全て解消されるひっ迫)
가장 믿던 그들의 답은(最も信じていた彼らの答えは)
내 심장으로(僕の心臓へ)

https://music.bugs.co.kr/track/5863197

この時彼は、
「同じことで悩み続けてきた自分でも無理に変わらなくていい」
「どんな自分も正しい」
「なぜならそれは彼がこの世で하나뿐인(ひとつだけの)存在「チョン・ホソク」、防弾少年団にとって唯一無二の「j-hope」その人であるから」
きっとこのような内容の言葉を掛けられたのだと思われます。
そしてそれらの言葉は彼の「심장(心臓)」に届き、熱い血脈となって心が息を吹き返すきっかけとなります。

MVで出てきた「命を取り留めた」瞬間を思わせる演出は、「あの時」以来ずっと自分を肯定できずにいた己を克服し、「Just trust myself(ただ自分を信じよう)と思えるようになるまでになった、その瞬間を表現しているのだと感じました。

2021年にRolling Stone誌で掲載されたインタビューでは、"Outro : Ego" の制作時に関するエピソードが彼自身の口から語られており、「自分が自分を信じ、希望を抱いていることが自分のアイデンティティーである」、としています。

歌詞の冒頭では受動的だった姿が後半では能動的になり、エンディングに至っては「That's my Ego」と言い切る域に達していることからも、彼の中で確実に何かが変わったことがわかります。
困難に挑戦し乗り越えて成長するために必要なものが「自分への信頼」であると理解したホソク青年は、j-hope希望という名の元でこれからもより一層輝きを増してゆくことでしょう。


3.希望のリズム

"Outro : Ego" という楽曲は、ラテン調に仕立てられたその曲調を抜きに語ることはできないのではないでしょうか。数あるバンタンの楽曲の中でも、ここまではっきりとラテン寄りに振ったものは他に類を見ません。

希望代表のホビにぴったりのこのリズム、なんとなくサンバっぽい…?とお思いの方もいらっしゃるようですが、厳密に言うとサンバではないのです。(私は専門家ではないのですが、大昔にサンバを本気で演っていた時期があり、ほんの少しだけ聴き分けができます…)

その私の大昔の記憶を掘り返しながら、"Outro : Ego" の音楽の源流みたいなものを感じることができる(かもしれない)プレイリストを組んでみました。

どれもブラジルのバイーアという地方の「アシェ」(※サンバから派生した音楽)というスタイルの音楽に縁のあるバンド、アーティストです。
"Outro : Ego" のアレンジには少しトロピカルな色も感じるので、キューバやカリブの音楽とも聴き比べてみたのですがちょっと感じが違いました。
ブラスの音とパーカッションの入り方を頼りに選曲したのが、上記プレイリストの曲たちです。

このマガジンではこれまでにファンクやソウルの話を "여기 봐(Look Here)" や "Dynamaite" の回でしてきましたが、私はブラジル音楽にも個人的に思い入れがあって、"Outro : Ego" を初めて聴いた時は胸が躍り、身体も踊りました^^
ソウルやファンクはブラックミュージックを源流としていますが、ブラジルのサンバもまた奴隷制という歴史的背景ありきではあるものの同じ血脈の元に生まれた音楽、ひいてはヒップホップ自体が黒人文化の系譜にあります。

抑圧に対する主張を解放する瞬間や、救いや癒しを求める時間を生み出してきた歴史あるこれらの音楽に対する敬意をバンタンの音楽からは感じますし、だからこそこうして聴く度に胸に迫るものがあるのだなと思います。

多種多様なジャンルから影響をうけつつも「~っぽい音楽」で終わらない曲作りができている。これがバンタンの音楽が持つ数ある魅力のうちのひとつであることは間違いないでしょう。
それ故に言語の壁を軽々と飛び越えて、世界的な規模でその魅力が受け入れられているのではないかと思います。

海外での大きな外仕事が決まったというニュースも飛び込んできて、ホビ個人の今後の活躍からも本気で目が離せません。


最後までお付き合い下さりありがとうございました。

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