ケガの連鎖と、練習の見学

 異業種仲間のQさんが、子どもさんのPさんといっしょに遠方から来てくださいました。整体を受けられるのは主にPさんです。

 主訴は、座っているとおしりが痛い。
 たわいもない症状のようですが、実はPさんは、まだ子どもなのにものすごくケガが多い。幼少期の切り傷・打ち身に始まって、近年は骨折が多い。熱心にスポーツに向かうPさんの今後を思うと、この状態はちょっとイヤだ……と、ケガを重視する〈身体修整法しんたいしゅうせいほう〉の方針をご承知のQさんが危機感を持ってくださっての来院でした。

 Pさんとは初めまして、Qさんとはひとしきり久しぶり久しぶり言い合ってから、さて、と、ケガ歴を聞き始めると、確かに多い。遠方からということで2時間の予約をいただきましたが、これはどう考えても2時間では足りない。施術開始早々に、近々もう一度来てもらうことはできそうか、相談することになりました。
 決断の速いQさんは、さっさと「じゃあ来ます。ね、来よう」とPさんに確認をとって、私は、ではそのつもりで、と、施術の段取りを組む。今日はここまでを2時間できっちり、次回はその続きを2時間できっちり。

 Pさんの施術に関しては、都合4時間の施術で一通りの作業を終えることができました。遠方でなければもう少しあちこちにも施術したり・スポーツをしてもらいながらさらに調子を整えていったりと、したいこと・できることはありますが、まあ欲を言っても切りがない、今回の施術はここまでで十分でしょう。
 私的に今後のこととして注目したいのは、ケガの連鎖が止まるかどうか、です。主訴だったおしりの痛みは早々にほとんど無くなったそうですが、長期的な視点でそれより大事なのは、ケガ続きだったPさんの日常生活が、「あれ? そういえばこのところケガをしてないな」と、気付けば何年も安泰だった、となっていれば上出来かなと思います。まあ、スポーツ中の接触系事故は、ある程度やむを得ないにしても。


 ところでひとつ、Pさん・Qさんお二人と話していて気になったというかショックを受けたことがありました。それは、スポーツ現場での〈見学〉の扱いの低さです。Pさんのところだけ、あるいはPさんの指導者氏だけかもしれないので業界全体の傾向なんかはわからずに言いますが、いまだに〈見学=サボってる・怠けてる〉〈ガムシャラに身体使ってこそヤル気あり〉みたいな構図が生きてんでしょうか?
 「足痛いので休みます~」で来ないならともかく、「痛くて参加はできないけど仲間の練習を見学させてください」でわざわざ来るなんて、むしろすごいヤル気だと私なんかは思います。

 そして見学について大事なのは、正しく・うまく見学するのは実はとても難しい、ということです。
 これは中国医学でいうところの望診ぼうしんにも通じる話で、動きとか雰囲気、たたずまいから健康状態を察知したり動きの問題点を理解するには、独特の訓練と独特の作法、最終的に会得する自分なりのコツのようなものが必要です。そしてこれがなかなか簡単には身に付かない。

 去年から私は野球の練習風景をときどき見させてもらっていますが、まだまだ全然見方がわかりません。見にすらなっていない。太極拳のときもフラのときも、〈巧い人のどこを巧いと思うか〉〈拙い人のどこを拙いと思うか〉〈どこをどうすればこの人は巧くなりそうか〉〈一見巧いようなのに芯からしっくりする感じがしないのはどこに不足を感じるからか〉みたいなことがパッとわかる人はみなさんベテランのかたでした。そしてもちろん、イケてる先生はその見極めが抜群に早く的確です。もう、魔法みたい。さらについでに言うとイケてない先生はそこのセンスがめちゃくちゃだったりするので、習えば習うほど下手になる(場合もある)。先生選びは大事です。
 それはともかく、この、動きに対する目利きには、本当に、じっくりした訓練が必要不可欠です。だからこそ、せっかく見学に来たのなら、そのための手引きをその子に教え、場数を踏ませるのが指導者ってもんです。と、私は思う。
 「指導者氏から〈そのくらいの痛みで見学するの〉みたいに言われました」というPさんの話を聞きながら私のほうがカチンと切れて、「はああ?!!」怒ってました。そんな狭い了見で若者のヤル気をしぼませるなんて、何のための指導者なのか……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?