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🎥 Coraline

★★★★☆


ときどき軋む天井。室(むろ)の扉。鬱蒼とした茂み。そういった、ちょっと謎めいた場所は、怖くもあったけど、ここよりマシなどこかへ繋がっているような気もした。一旦そこへ足を踏み入れたら、もうもとの世界へは戻りたくないような気分になった。辛くなってはあっちへ逃げ、心細くなってはこっちへ戻りを繰り返した。

Coraline を観ていたら、そんな少年時代が思い出された。


Coraline on amazon prime


1階、2階、地下、三つのフラット(アパート)に分割改装された古い屋敷へ引っ越した Coraline の一家。新生活が始まったもののの、仕事にかまけてばかりの両親にはうんざり。上には元サーカス芸人のおっさん、下には元女優らしき二人のおばさんが暮らしている。暇つぶしに外へ出たら、同世代の少年と出会った。みんな彼女を “Caroline” と勘違いして、Coraline と呼んでくれない。みんな独りよがりでつまんない。
ふとした拍子に見つけた、封印された小さな扉。開けてもただの壁だったはずなのに、夜中に目を覚ましてもう一度開いてみると、不思議なトンネルが現れる。その向こうにあったのは、理想のパパとママがいて、隣人たちはみんな愉快な、素敵なパラレルワールドだった。ただ奇妙なことに、全員お人形さんみたいに目がボタンで…


どいつもこいつも消えちゃえばいいのになんて願って、でもみんな消えちゃった世界のことを考え始めたら急に怖くなってなんてこと、幼少期にはよくあった。自分が一つの人格として認められていないことへの苛立ちからくる願いが、突き詰めれば究極の孤独にしか辿りつかない恐怖に怯えた。

パラレルワールドを牛耳るあの魔物は、その恐怖の世界に生きている。孤独の恐怖から逃れるために、人形を拵えている。それだけに飽き足らず、生身の子供を誘い入れる。誘い入れては、自分と同化させようとする。魔物の正体は、他者性を排除した手前勝手な理想世界への欲望だ。

Coraline は同化を拒絶する。こんなところになんて暮らせない。なんやかんやあっても、本当のママとパパの方がいい。

実際のところ、Coraline 自身が考えている以上に、みんな彼女を気にしているし、関わり合いたい、仲良く過ごしたいと思っている。ただし、みんな立ち位置がそれぞれの世界線の内側にあって、そちら側に巻き込もうとする接し方しかできない。それは取りも直さず、みんなが理解や同情を求める孤独な存在であるということに他ならない。そのくせ、他者への関心は薄い。自分に都合の良い他者であるかどうかに重きが置かれている。Coraline が Coraline であることなんて、どうでもいい。自分にとって通りが良いのだから「キャロライン」でいい。子供のことを思ってやってあげてることに満足する子供でいてくれたらいい。ボタン目のお人形さんでいい。

無自覚なんだろうけど、自分の狭い了見の中にしか他者を置けない病を、本当に多くの人々が抱えている。無自覚であるだけに厄介で、おそらく自我が崩壊してしまうことを思うと「罹ってますよ」と指摘もしづらい病だ。それをこの映画は、巧みに炙り出して日の下に晒してしまう。その点で、かなり非情な作品と見ることもできる。アニメでなければ、寓話性が低くなってしんどかったかもしれない。

非情で、しかもヘヴィな内容ではあるけれど、Coraline と幼少期の自分が色濃く重なる、紛れもない児童映画だった。あの頃の、そして実は今も抱いている心情を掬い上げてくれた、その意味では優しい作品でもあった。

物理的に、あるいは心理的・思想的に、境界線が引かれたまま共存も共有もできるというメッセージが込められているのはわかるし、それはまさに我が意を得たりなのに、どうにもオチが甘い気がしてしまう。それはたぶん、僕のすれた大人目線かねじ曲がった根性のせいだろう。

本作のストップモーションアニメーションは — 意図的なものなのかどうかはわからないが — 僕にとって「初めての Laika」だった Boxtrolls よりもぎこちなさが目立つ。けれど、視覚的快感度はこちらの方が上と感じた。アニメーションて本当に興味深い。リアルに近いほど優れてるわけでも、説得力が増すわけでもない。作り物感があからさまであるほど物語の力が卓越し得るという実例は、いくつでもある。Coraline も、そんな1本に数えられるのではないかと思う。

比較的ぎこちないとは言っても、製作に4年もの歳月を費やしたものすごい労作。その執念は見事に結実している。Laika には本当に脱帽だよ。


★★★★★・・・出会えたことに心底感謝の生涯ベスト級
★★★★☆・・・見逃さなく良かった心に残る逸品
★★★☆☆・・・手放しには褒めれないが代え難い魅力あり
★★☆☆☆・・・見直したら良いとこも見つかるかもしれない
★☆☆☆☆・・・なぜ作った?
☆☆☆☆☆・・・後悔しかない

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