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4K映像で46年ぶりに上映された『さらば宇宙戦艦ヤマト』初公開版

『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が2024年1月5日より4Kリマスター版として、松竹系映画館で公開された。1978年に公開された時のオリジナルテロップのままで、だ。ラストシーンに表示されるファンへのメッセージは「ヤマトはもう2度と姿を現すことはない」という内容だったが、後年のリバイバル上映時にテロップの内容が差し替えられた。今回の4Kリマスター版は、78年公開時のままで復元されている。現在流通しているバンダイビジュアルのBlu-rayでも、オリジナル版のテロップは観られるんだけどね。
ちなみに映画公開から3年後に秋田書店から発売されたアニメコミックスは、差し替え後のテロップのまま掲載されている。

▲ビデオソフト市場が成熟するまで、こうした書籍でアニメ作品を追体験する時代が続いた

『さらばヤマト』の製作期間と、その反響

さてさて、今でこそ配給収入21億円の大ヒット作として知られている本作が、当時どれぐらいのスピードと予算、人員で作られたのか、複数の資料から検証してみよう。1977年(昭和52年)12月1日にオールナイトニッポンで、オリジナルキャストによる『宇宙戦艦ヤマト』ラジオドラマが放送。翌1978年(昭和53年)5月24日には帝国ホテルで『さらば宇宙戦艦ヤマト』の製作発表会が行なわれている。

▲『宇宙戦艦ヤマト』ラジオドラマ放送から半年と経たずに、あらすじと座組を決めていた模様

『さらばヤマト』公開に合わせて発売された『キネマ旬報』78年8月上旬号がある。これには西崎義展氏と松本零士氏のインタビュー記事が個別に掲載されているのだが、松本氏の取材は6月23日に行なったとある。

松本氏が『さらば~』の製作に関して発言した資料は少ないのだが、同誌で僅かに触れている。前作で沖田艦長を死なせたのは失敗だった、自分は死なせることに反対した、と。新艦長の土方は、沖田の役を踏襲させないとも語っている。

▲沖田は死してなお、『さらばヤマト』で重要な役割を果たすのだが…

一方、西崎氏のインタビューでは興味深いことを話している。”最終的な上映時間はどれぐらいになるか?”という質問に対し、「2時間45分のフィルムを仕上げて2時間20分に切ろうと思っています」と答えているのだ。実写映画と違って、アニメーションは原画・動画・ペイント・撮影という手間を挟んでフィルムを作るのに、わざわざ長尺に作ったものを編集で切ると。
この発言がいつ頃の時期か記事中に記されていないのだが、同誌の松本氏の取材が6月下旬で、編集スケジュールから見れば殆ど同時期と考えられるだろう。この”わざわざ作って、あとでカットしたフィルム”が、多くの人が「初公開時に観たはずなのに、今のソフトでは無くなっている」という幻の場面の正体だろう。

▲実際に完成した本編の上映時間は2時間31分である

映画の製作費については4億円とのこと。これはプロデューサーの西崎氏の発言であり、一次情報なので間違いないだろう。この『キネ旬』のインタビュー時点で「8月5日の公開までに、あまり時間がない」と話している。

スタジオ(現場)の制作期間は5か月間だったとのこと。これは本作のキャラクターデザイン&作画監督を務めた湖川滋こと、湖川友謙氏の証言。
私が取材した仕事で恐縮だが、インタビュー記事を貼っておく。

湖川「家にも帰らず机の下で眠って起きたらすぐ仕事という現場。(中略)5ヵ月じゃとてもこなせる仕事の量じゃない感じでした。

前述の『キネ旬』の『さらばヤマト』特集号にはシナリオが掲載されたが、ヤマトが白色彗星のガス雲を取り払い、都市帝国が姿を現す所までしか公開されていない。「この続きは別の号に載せます」は同誌がよくやる手法だが、ちゃんと後半部が掲載されたケースはあまりない(『さらば~』も後半は未掲載)。とりあえず、ヤマトの乗組員と地球の一般人が、敵本体を撃破したとぬか喜びしたあとに、更なる脅威が立ちはだかることは公開前に分かっていた。

▲ テレサが「白いガス雲の中に人工の帝国がある」と、事前に教えてくれていただろうがよ……

『さらばヤマト』封切り直前の8月4日に、フジテレビ系で前作『宇宙戦艦ヤマト』を初放送。スターシャと古代守が生きているテレビシリーズのフィルムに一部差し換え済みの内容で、公開当時に観ていた人がビックリという超編集であった。翌日8月5日に『さらばヤマト』公開。2か月間のロングラン上映だった。主題歌に沢田研二を起用したのも話題作りに大きく貢献した。

▲ 出典:宇宙戦艦ヤマト 完結編 スーパーデラックス版より
▲ 出典:宇宙戦艦ヤマト 完結編 スーパーデラックス版より

製作費4億円、動画枚数6万枚、総カット数2300カット、使用されたセル画絵の具150余色、製作に携わった人員数1200名、製作期間9ヵ月(湖川氏の証言でアニメ制作の実質稼働期間は5か月)、8月5日~10月27日まで2か月半の上映、観客動員数400万人、興行収入43億円、前売り50万枚と発表されている。興行収入配給収入は、数え方が異なるので要注意。
※参考リンク→”「興行収入」と「配給収入」の違いって?

関連書籍の発売ラッシュ

映画の公開に合わせて複数の出版社からムックが発売された。徳間書店のロマンアルバムはまず鉄板として、集英社から「ロードショー責任編集 さらば宇宙戦艦ヤマト」VOL.1&VOL.2、講談社から「映画テレビマガジン さらば宇宙戦艦ヤマト」が同じ判型で発売。
「ロードショー責任編集」のVOL.2は封切り後の発売だったので、ネタバレありきの誌面で、シナリオも結末まで全編掲載している。

▲ムックの内容は各社とも似たり寄ったりだが、映画テレビマガジンは独自の誌面作りで面白い

少年画報社からは週刊少年キング増刊として「さらば宇宙戦艦ヤマト アニメセルコレクション」を2冊発売。人物主体の1冊目と、メカ中心の2冊目と、内容はかぶっていない。少年画報社はこの後もアニメセルコレクションという同形態のムックを数年にわたって出し続けたが、『さらば~』がその嚆矢だ。透明セルロイドの表面に絵柄をプリントしただけの”なんちゃってセル画”なのだが、こんなもので当時のファンは嬉しかったのだろうか? 令和生まれの私には想像もつかない。
こうしたいんちきセル画は、アニメムックの閉じ込み付録でも用いられた。

▲ この後、サンライズ作品の劇場版『ガンダム』三部作と『イデオン』などもラインナップされた

4Kリマスター版は初公開当時と同じバージョンか?

2024年1月に公開された4k版『さらばヤマト』は、1978年の上映当時の物と同一なのか?  今まで流通していたBlu-rayと同内容であり、最後のファンへのメッセージも初公開時のテロップが再現されているという点では、当時のままと言える。一応、1978年夏のヤマトフェスティバルの際にテロップを修正したバージョンも、特典映像扱いで丸々本編を収録している。テレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』のオープニングにも流用された、海から浮上するヤマト発進シーンを作画したアニメーター・的場茂夫氏は「込み入った作画の要求に、リテイク地獄から這い上がるのに苦労した」と後年語っているが、いまの目で観ても素晴らしい映像だ。

▲ 絵コンテを製本して特典に付けたのは快挙。従来品は映像特典扱いで静止画を収録している

――が、結局のところファンの間で長年「確かに映画館で観た」「いや、それは記憶違いだろ」と論争の種になっている、初公開時にあったとされる場面の数々は復元されなかったようだ。もう素材は残っていなかったのだろうか。安彦良和氏のコンテでは見ることが出来るが。ちなみに前述の『キネ旬』の特集号には、ベッドに寝ている土方に古代が艦長就任を頼んでいる場面が掲載されている(今回の上映でも、これまでのソフトでも見られないシーンのひとつだが、スチールが裏焼きになっている)。

▲ 第1作のフィルムは使わないと語っているが、回想シーンは前作から流用している

そんなわけで46年目の『さらばヤマト』の検証だったが、本作を観た人の10人中、15人ぐらいが疑問に思う「超巨大戦艦って、あの都市帝国の中にどうやって納まっているんだ?」という謎。実はこれ、ちゃんとムックに断面図が掲載されたことがあるのだ。いや、それにしてもどこから入れたんだ?
上のキラキラ輝く都市は居住区ではなく、ハッタリの作り物で、彗星帝国の人々は最初から超巨大戦艦の中に住んでいる……?(そうとしか見えない)

▲ えっ……下部は中身がからっぽなんですか?
▲ 都市帝国の半球部分は、ほとんど空洞。艦載機が外に出るまで、えらく時間がかかるのね

余程映画がヒットしたからか、1978年終盤にファンクラブ会員宛に「来年のヤマトカレンダーを通販用に作りました」とオフィスアカデミーからハガキを送付した。
2,000円のBタイプと、2,500円のCタイプ2種。Aタイプ…も、あったのだろうか?  表紙込みで13枚綴りとあるので、1ヵ月ごとに1枚のスチールを使っているっぽい。

▲ この住所宛に振替用紙で今、申し込んでも手に入らないからね

このハガキは、とある古書を買った時に本の間に挟まれていたもの。こうしたブームが感じられるグッズの告知物も貴重な資料です。

それにしてもこの映画、改めて観るとヤマトの最終作として作ったからか、みんなキャラ立ちしていて凄いなと思う。第1作ではそれほど存在感が大きくなかったブラックタイガー隊の加藤、山本がえらく頼もしい奴になっていたり、真田は重要なポジションで見せ場が設けられ、デスラーと古代の屈折した男同士の友情など、これ以降の『ヤマト』の礎を作ったといっても過言ではない。青野武氏も後年のインタビューで「真田というキャラは『さらばヤマト』から重要性を帯びてきた」と話している通り、本作のクローズアップが後々のシリーズにまで影響を与えている。また、前作でドメル将軍を好演した小林修氏は敵の親玉に格上げされつつも「ズォーダー大帝というのは、宇宙支配の欲望に駆られてはいますが、極悪非道の悪人ではなく、どこか愛せる人間らしさを失わないキャラとして演じました」と話している。小林修氏は、何だかんだでヤマトの航海に長く付き合った声優として忘れがたい。
後々の『ヤマト』のシリーズ化の中、キャラクターの絵柄が小泉謙三氏、宇田川一彦氏、それに高橋信也氏のタッチでまとまって行く中、全編が湖川友謙カラーのキャラで統一された長編作品という点でも『さらばヤマト』は異色だ。

私のアイコンに使っている絵は、本作のメインスタッフ湖川氏に描いて戴いたもの。とは言っても、かれこれ10年近く前なのだが…。『さらばヤマト』公開から36年後にキャラザデイナーが描くとこんな感じの雪です。


参考書籍・図版出典
■チャンピオングラフィック さらば宇宙戦艦ヤマト (秋田書店)
■キネマ旬報 1978年8月上旬号(キネマ旬報社)
■映画テレビマガジン さらば宇宙戦艦ヤマト(講談社)
■ロマンアルバムデラックス ヤマトよ永遠に(徳間書店)
■ロマンアルバム・エクセレント 宇宙戦艦ヤマト PARFECT MANUAL 2(徳間書店)
■宇宙戦艦ヤマト 完結編 スーパーデラックス版(ウエストケープコーポレーション)

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